表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.3 よくある話
46/162

よく歩く話





          †






「やべえよ。三美神に目つけられたって、俺たち」


 そばかす顔の鶴岡つるおかが言う。少年たちは箱崎を先頭に、街の中を歩いていた。


 堂々と歩く少年たちの後ろで、桜庭は猫背で歩く。陰鬱な空気を放っていた。


「うるせぇなあ。どうってことねぇよ」


 箱崎はめんどうくさそうに答えた。


「大体、三美神って暇なんだな。俺たちの遊びにわざわざつっかかってきてさ」


 箱崎は小ばかにするように笑う。その後ろで、滝田と鶴岡は微妙な表情で顔を見合わせた。


 三美神の影響力は大きい。もし相手がただの警察官であれば、二人も箱崎と同じように笑い飛ばしたかもしれない。しかし三美神であれば次元が違う。


「大丈夫だって。三美神にびびるなよ。大体、俺達は三美神に殺されるようなことしてないだろ」


 自信たっぷりな箱崎の言葉で、二人の顔に安心したような笑みが浮かんだ。三美神の処刑対象が、凶悪犯罪者であることを思い出す。


「そう……だよな」


「俺たち、人を殺してるわけじゃないもんな」


 箱崎は振り向いて、後ろを歩く桜庭に、イライラした声を放つ。


「おい、桜庭。わかってんのか」


 桜庭はびくりと震えた。怯えた目で少年たちを見つめる。


「俺が助けてやったんだから感謝しろよ。もし今度失敗してみろ?おまえも光本と同じような目にしてやるからな」


「……わ、わかってるよ」


 明の声は震えていた。


 箱崎はさもつまらなさそうに声を上げる。


「あーあ、桜庭もかわいそうだよなぁ、光本が死ななかったら、おまえがこんな立場になることはなかったのに」


 それに続いて、鶴岡が言った。


「確かに屋上から飛び降りてみろとは言ったけどさぁ。本当に飛ぶかね?」


 三人はけらけらと笑う。滝田がふざけるように言った。


「死ぬくらいなら、下半身さらして、校内歩き回ったほうがマシだっただろうになぁ」


 箱崎はうなずいた。


「やっぱりそう思うよな? あそこで飛び降りるほうを選んだあいつが悪いんだから、俺たちに責任はないだろ? 」


 下品で吐き気のするような笑い声が、三人分重なり合う。箱崎が少し残念そうに、けれどもきらきらとした瞳で言い放った。


「人間ってあんなに簡単に死ぬとは思わなかったな。けど、こんな経験、もう二度と出来ないぜ?」


 箱崎は、自分以外のことがどうなろうと知ったことではないらしい。


「三美神はさ、確かサイコパスな殺人鬼しか殺さないんだ。普通の犯罪とか、学校でいじめしてるとか、そんなんで殺したりしねぇよ。それに俺たち、いじめなんかしてないし、あいつが勝手に死んだだけだし。そうだろ?桜庭」


「……そうだね」


 桜庭はぎこちない笑みを浮かべて、うなずくしかなかった。この生活を、ただ歯をくいしばって耐えることしかできない。






          †






 哲は、外を出歩くとき、仕事だろうと仕事でなかろうと基本的にスリーピースだった。これは、人に話しかけられないようにするためだ。


 というのも、健一や和也が私服で歩いていると、話しかけてくるのがたまにいる。サインをもらうわけでも握手を求められるわけでもない。ただ「応援してます」だの「頑張ってください」だの、ただそれだけのことだ。


 三美神の活動は、まれにメディアで取り上げられ、その存在が議論されている。三人の整った容姿について注目されることもしばしばあった。そのため、三美神の名前と顔は世間に周知されており、芸能人並みに珍しがって話しかけてくる者は少なくない。


 スリーピーススーツを着込んでいれば、仕事中なのだとまわりは勝手に思ってくれる。仕事が仕事なので、よほどの馬鹿じゃなければ気を遣って話かけてくることはない。


 哲はふらふらと街を歩き、コーヒーチェーン店に入る。店員も客も、一瞬で哲の存在に気付いたようだが、やはり仕事中だと思ったのか、一切声をかけてこない。哲は、カフェラテを頼んで受け取り、そのまま店を出て行った。


 店の前で、カップ片手にスマホをいじる。画面には政治家の汚職事件に関する記事が表示されていた。カフェラテを飲みながら、流し見る。


 ここ最近報道されているのは、政治家による横領事件だ。かかわっていた政治家が次々と判明し、マスコミによる政治家叩きが過熱している。


 哲は、記事をひととおり目にして、鼻で笑った。


(権力と金は……あるだけ厄介なもんだな)


 スマホをスラックスのポケットに入れて、歩き出す。


 平日の夕方、街は人通りが多い。制服を着た高校生や、授業終わりの学生たちを多く見かけた。


(……若いな)


 と、哲は思うものの、哲の見た目は若者と並んでも遜色ない。


 とはいえ、若者の多い場所に一人で出歩くのはいたたまれないものだ。哲は大通りから石畳の小さい通りに曲がった。洒落しゃれた若者や小金を持っていそうな上品な夫婦が行き交うが、さっきの道に比べると人通りは少ない。


 目的もなくさまよっているだけだったが、この道に曲がったことを哲は後悔することになる。


 右手にある喫煙所から、タバコ臭さが漂ってくる。禁煙中の哲にとっては厳しい場所だった。


(……げっ)


 喫煙所には見知った顔がいる。表情には出さずに立ち止まり、心の中で舌打ちをした。






          †






 今日もあの喫煙所で、健一はタバコをふかす。目の前にあるビルの一階を眺めていた。本屋は人が多く、混んでいるようだった。


 先日の中学生の姿を見つける。今日は桜庭一人しかいない。先日のことを警戒した少年たちが、最初からどこかに隠れているのかもしれないし、今日は本当に彼一人なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ