高慢で自己中心的な使命 2
「和也が若いころは、ここってどんな場所だったの?」
「どんな、って?」
「今みたいに閉鎖的で、変なウワサが流れて、変な事件が起こってた?」
和也は「うーん」と記憶を思い起こしながら、いつもどおりの穏やかな声で答える。
「閉鎖的で変なウワサがあるのは変わらないかなぁ。事件が起こったっていう話は聞かなかったかも。ああ、でも、今と違って当時は短大でね。通ってる学生の数は今よりももっと少なかったよ」
「うん、それは知ってる」
その反応に、和也は苦笑する。
「瑠璃ちゃんのことだからその辺はとっくに調べてるのか」
瑠璃は自慢げに口角を上げ、腕を組む。その姿が、格好が、この場ではあまりにも強い自由の象徴になっていた。
ふと、和也は思い出したように声を出す。
「ああ、そういえば……」
門を通る学生と、派手な瑠璃の姿を交互に見すえ、続けた。
「今でこそここって、お堅いお嬢様学校っていうイメージだけど、僕が若いときは少し違ったんだよね」
「お嬢様大学じゃなかったの?」
「いや、そこそこ裕福な家庭の子が集まる場所ではあったよ。でも、なんていうか……」
周囲の学生に気を遣い、瑠璃に顔を近づけて声を潜める。
「勉強が苦手だとか商才がないだとかで、両親から期待されてないような子が行く場所でもあったんだよね。当時はまだ、男の子を跡継ぎにって考える人が多かったから」
瑠璃の顔から笑みが消え、強い視線が和也に向く。
「それってどういう……」
和也は瑠璃から離れ、正門に顔を向ける。礼拝堂からこちらに向かってくるシスターの存在に気づいた。今朝会った、二人のシスターだ。
瑠璃も和也と同じ方向を見つめた。
門の向こう側でシスターたちは立ち止まり、学生を出迎える。
「シスターごきげんよう」
「ごきげんよう」
若いシスターが笑顔であいさつを返し、年配のシスターが厳かにたたずむ。シスターたちの登場で、その場の空気が引き締まった。門を通る学生たちの表情は硬く、私語も一切聞こえない。
若いシスターは和也と目が合うと、にっこりと笑って会釈した。
「……なにあれ、和也に気があるの?」
小声で吐き捨てる瑠璃に、和也はほほ笑んで返す。
「そういうんじゃないと思うよ。シスターだからね。……あ」
礼拝堂の裏側を確認していた哲と健一が、二人の前方から戻ってきた。正門に入っていく学生たちをすり抜けながら横切り、瑠璃と和也のもとに近づく。
健一が和也たちにしか聞こえないほどの声を出した。
「ほんとうに瑠璃がおとりになるつもりか?」
「何を今さら」
健一は困惑する一方、瑠璃はいたって冷静だ。和也と二人で会話していたときよりも表情が硬く、冷ややかだった。
「普通の女性なら危ないんでしょうけど、私なら簡単にやられることもないはずよ」
「犯人が一人とも限らないんだぞ?」
「ああ、確かに。あまりにも多人数で来られたときは、勢い余って殺しちゃうかも」
「和也みたいなこと言いやがって」
眉間にしわを寄せる健一に、哲が冷静に言いのけた。
「好きにさせろ。その格好でできることは限られる。瑠璃を使うのが一番手っ取り早い」
「いや、でもさ」
「俺たちがなんと言おうと、どうせこいつは聞かん」
哲はいつもどおり、表情のない顔だ。何を考えているのか、一緒に行動する健一ですら読み取ることはできない。
結局、しぶしぶ、うなずくしかない。瑠璃の身に危険が及ぶとわかっていても。
哲の視線が和也に向く。話に入ってこなかった和也は、こぶしを口に添え、目を伏せていた。




