高慢で自己中心的な使命 1
スーザン女学院大学の正門前に、瑠璃はひとりたたずむ。柵門から礼拝堂を見すえていた。
門はまだ、厳重に閉ざされている。警官たちが撤退していった今、早朝に比べるとだいぶ静かだ。
瑠璃は髪を後ろにはらいのけた。気温の高さと湿気の多さで、うなじは常にべたついている。
「瑠璃ちゃん、喉、乾いてない?」
場を離れていた和也が戻り、冷えたペットボトルの水を差しだした。瑠璃は穏やかに笑い、受け取る。
「ありがとう。ちょうどほしかったの」
ふたを開けて水を飲み進めると、冷たさが喉と頭に染みわたる。瑠璃は口を離し、大きく息をついた。
ふと、和也の白いスリーピーススーツが視界に入り、苦笑する。
「大丈夫? 和也は飲んだの?」
「もちろん」
嫌みなほどに涼しい笑みだ。瑠璃はペットボトルのふたを閉め、何かを思い出して静かに続けた。
「そういえばさっき、女の人がここに来たよ。格好からしてシスターではなさそうだったけど」
「そうなんだ? なんか言われた?」
「私の格好が気に食わなかったみたい。ここの学生かって聞くから違うって答えたの。そうしたら、『確かにあなたみたいな下品な売春婦はうちにはいないでしょうね』って」
「あ~……そうか~……。瑠璃ちゃんも言われちゃったか」
心当たりのある人物を思い起こし、和也は頭を抱える
「刑事だって言ったら、警察の悪口を好き勝手言って、礼拝堂のほうに行っちゃった。警察の評価を下げちゃったからなんだか申し訳ないわね」
そう言いつつも、瑠璃は悪びれた様子を見せない。
和也は眉尻を下げ、ため息をついた。
「ごめんね。ぼくがそばについてたらよかった」
「大丈夫よ。和也が気にすることじゃないでしょ。むしろ、話に聞いていたとおりで笑っちゃった」
瑠璃は人懐っこく目を細め、かわいらしく笑う。
「あんなふうに人を見た目で判断しちゃうなんてね。私が正装で来ても同じようなことを言ったのかしら」
瑠璃の笑みに合わせるよう、和也もほほ笑んだ。先ほどまでとは違い、二人の間には穏やかな空気が流れている。
「ただ、ちょっと気になることもあるのよね……。あの人、私を見て驚いてたんだけど。その驚き方がなんていうか、怒りじゃなくて恐怖のほうに近かった気がするの。この格好があまり見慣れな――」
瑠璃の声はとまる。くるりと後ろを向き、車道のほうに体を向けた。視線の先は、反対車線にあるバス停だ。その奥にある茂みの中から、チカチカと何かが光っている。
「……三美神が気にしてないようだったから私も放っておいたけど、あれはなに?」
和也はほほ笑みながら首をかしげた。
「さあ? どこかの記者なんでしょ」
「でも、あの人、素人でしょ? 三美神を取材するってことがどういうことなのか、わかってないのね」
「僕たちが気にすることでもないよ。何があっても、僕たちに責任はないから」
大学の礼拝堂から、独特な鐘の音が鳴り響く。正門横の管理室から守衛が出て、正門を開け始めた。
もうしばらくすると、朝礼拝が始まる時間だ。バスから降りた学生たちが、次々と門を通っていく。相変わらず、同じような髪の色をし、同じような服を着ていた。
正門の横に立つ瑠璃と和也に、学生たちは興味深々に視線をよこす。
「やっぱり、この格好は目立つのね」
瑠璃は予定通りだと笑う。身を乗り出し、アーチ門から中をのぞきこんだ。女子大生たちが向かっていく礼拝堂を見つめる。
「……ほんと。礼拝堂はかなり立派よね」
レンガで覆われた精巧な作りの礼拝堂。歴史を感じさせ、どっしりとした威厳を放っている。大学内での権力が、そこに一点集中しているかのようだ。
ふと、門を通る女子大生と目が合った。瑠璃が挑発的な笑みを浮かべると、びくりと震え、先を急いでいく。
「びびっちゃって。かわいい」
小ばかにするように喉を鳴らし、身を引いた。
髪を耳にかけ、隣にいる和也に顔をよせる。




