知らぬ神より馴染みの鬼 3
「なんかやらかすとは思ったけど、なんだその格好は。その格好だけはダメだろ」
哲と和也も瑠璃のもとへ移動してきた。和也は困惑しながら尋ねる。
「えっと。ぼく、正装でって言わなかったっけ? いつもどおりって」
三美神がスリーピーススーツで捜査をするように、当然、瑠璃にもそういった正装が決められている。
「うん、ちゃんと言ってた」
「じゃあ」
「でもこっちのほうがいいと思ったの。……失踪した子たちの特徴を詰め合わせた格好のほうがね」
似合う? と回って見せる瑠璃をよそに、哲と健一は和也に顔を向ける。
余計な情報を漏らしたことを責める視線に、和也はいたたまれず顔を伏せた。
「ご、ごめん」
「和也は悪くないわ。私が無理やり聞き出したの」
瑠璃は平然としていた。いつもどおりの強気な態度で、冷静に続ける。
「私が中に入ったところで、他の女性刑事と扱いは一緒よ。私が目を付けられるような格好をしたほうが早いと思ったの。犯人を、あぶりだすためにもね」
和也は眉尻を下げる。
「それは、自分がおとりになるってこと?」
「そう。行方不明になった子たちの特徴を盛り込めば、相手は嫌でも私の存在を認識するはず。そこを、たたくの。……結構いい案だと思わない?」
和也はちらりと哲を見る。哲は腕を組み、珍しく眉間にしわを寄せていた。
「なるほど。和也に連絡を頼んだ俺がバカだったようだ」
「ほんとね。確かにお父さんなら私に何を聞かれても答えなかったでしょうね。私がそれで仕事を引き受けることもなかったでしょうけど」
機嫌の悪さを隠そうとしない哲に、瑠璃はいつもどおりの笑みで返す。
健一と和也が気を遣って何も話さなくなるほど、ピリピリとした空気が哲の全身を覆っていた。
「そんなに怒らなくていいじゃない。少なからず手ごたえはあったんだから。鬼が出るか蛇が出るか。それだけの違いでしょ? ……あ、スーザンだから神か悪魔かってところね」
哲は言い返そうと口を開くが、ため息しか出てこなかった。
パトカーとは違うサイレンの音がどんどん近づいてくる。サイレンをひときわ大きく響かせた救急車が、正門の前に停車した。隊員が女性警官を中にのせると、再びサイレンを鳴らして走り去っていく。
何台か停まっているパトカーの赤色灯は、静かに回り続けていた。応援に駆け付けた警官たちは、周辺の捜索をまだ続けている。
「すみません。今よろしいですか」
近付いて敬礼した警官に、それぞれが視線を向けた。女性警官を発見した警察官だ。
「本庁から連絡が来ました。どうしても令状が取れず、大学の中を捜索することは難しいようです」
哲はうなずいた。
「大学がかかわってる証拠がないからな」
「はい。礼拝の時間までに捜索を引き上げろとまで言われました。その……上層部に直接苦情が来てるみたいで」
「苦情、ね」
短く息をつく。
哲はアーチ門へ向かった。柵門の手前で立ち止まり、礼拝堂を見すえる。
相変わらず門の中だけが静かで異様だ。大学の誇りとも言える礼拝堂に向けて、吐き捨てた。
「苦情を入れるタイミングをうかがってたな。とはいえ、さすがに御三家に直接苦情を入れる勇気は持ち合わせていないらしい」
ついてきた警官に顔を向ける。
「いいだろう。警察は上の言うとおりにしたらいい。この件から手を引き、つかんでいる情報はすべてこちらに渡せ。資料や報告書やら、その他こまごまとしたものすべてだ」
「あ、すべて、ですか」
「三美神案件として完全にこちらで預かると伝えておけ。自分たちに苦情が来ないとなれば、上は喜んで引き渡すはずだ。三美神が出るほどでもないと判断したら案件を戻そう」
「は、はい! ただちに連絡いたします!」
警官は急いでパトカーに向かう。乗り込んだのを確認した哲は、礼拝堂に視線を戻した。その目は獲物を狙う鷹のように、鋭い。
その後ろで、健一が口を開く。
「三美神案件にしたからって、俺たちが動けないのには変わりないんじゃ?」
「いや。今の俺たちには瑠璃がいるだろ」
哲は振り返る。同じように後ろに来ていた瑠璃を見た。
「その格好で来たからには、思う存分使わせてもらうぞ」
三美神の視線が、瑠璃に集中する。反論を許されない圧の中には、和也が向ける同情も混ざっていた。
瑠璃は勝気に笑う。
「もちろん。そのために来たんだから」
のぼり始めた朝日が、礼拝堂を照らし始める。現場に似つかわしくない爽やかな光が徐々に広がっていった。
スーザン女学院大学の正門は、まだ開かない。




