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三美神の鎮魂歌  作者: 冷泉伽夜
EP.2 神のいるこの場所で
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存在しない利害 2




 父親の性格上、神やら天罰やらで人を縛り上げようとするのは好まない。宗教は自由であるべきとする父親と、スーザン女学院大学の考え方は大きく外れている。


「百合園はそういう話聞かないの? どんな事件があった、とか」


 学生の一人が、興味しんしんに尋ねる。


「……え?」


 周囲の学生たちは、期待に満ちた目で皐月を見つめていた。


 百合園家の人間から放たれる、おどろおどろしい事件の話を期待している。


「あ、えっと」


 皐月はほほ笑みながら、首をかしげた。


「そういうの、あんまり話さないんだよね。守秘義務もあるから、話してくれなくて」


「まあ、そうだよね。警察の捜査とは違うもんね」


 学生たちは納得したようにうんうんとうなずく。しかし期待外れといった失望感を隠せていない。


 三美神は特殊な立場の残酷な存在だ。普通の人は近づきたがらない。


 とはいえ、だからこそ彼らにまつわるエピソードに魅了される者が少なくなかった。真冬のようなオタクがいい例だ。


 表面的には三美神を敬遠していても、派手な殺人事件の話や、殺人鬼がどのように処刑されるのか興味を持つ者はいる。しょせん他人事だからこそ、だ。

 自分がそんな事件に巻き込まれるわけがないと高をくくっているからこそ、純粋に面白がることができる。


 彼らにとって皐月は、エンタメの道具でしかないのだ。


「……じゃあ小森は? おまえの姉ちゃん、三美神番の記者なんだろ? 」


 男子の一人が、テーブルのはしに座っていた女子に顔を向ける。小森ミミは不快気に眉をひそめ、ため息交じりに返した。


「はあ? 違うよ、姉はただの記者で……」


 同じテーブルに座る学生の中で、耳は異質な容姿をしていた。


 黒髪のボブヘアに、スカルが前に描かれたダボダボTシャツ。サンドイッチを持つ手の、黒いネイルが目立っている。暗めのバンド女子といった印象だ。


「いや、いいわ。それで」


 説明するのもめんどくさいとばかりに、ミミは続ける。


「…… でもあたしもよく知らないんだよね。スーザンに三美神がいることは間違いないっぽいけど」


「そっかー……」


 学生たちは、あからさまにがっかりした反応を見せた。


 ミミはサンドウィッチを食べながら、千恵美に向かって気だるげに声を出す。


「三美神や警察が来て混むのは最初だけでしょ。事件の捜査を続けるなら警察が通行整備をするだろうし、明日は大丈夫なんじゃない?」


「うん、そうだよね……! 」


 千恵美はぽわぽわとした笑みを浮かべた。


「でも一応、明日は念のために早めのバスに乗ろうかな」


「それはそれでだるくない? 」


 皐月は誰にも気づかれないように、小さくため息をついた。ただでさえ銃のことで気がめいっているというのに、さらに気疲れする。


「あ、そろそろ時間だ」


「いこいこ~」


 食べ終わった学生たちから順に立ち上がり、離れていく。数人の学生に混ざってミミが立ち上がり、千恵美も立ち上がった。


「じゃあ、あたしたちは先に行ってるからね」


 その場は、真冬と二人だけの状態に戻った。イスの背もたれにかけていたリュックの中から、バイブ音が聞こえる。


 食べ終えた食器の上に箸をおいて、リュックからスマホを取りだした。


『皐月ってば露骨すぎ~』


 真冬からのメッセージだ。隣に顔を向けると、真冬はスマホをいじっている。


 次々にメッセージが送られてきた。


『完全に坂本のことスルーしてたでしょ』


『すごく無理してたね~』


「いや、直接言えばいいじゃん。隣なんだし」


 真冬はスマホから顔を上げ、いたずらっぽく笑う。


「別に無理して付き合わなくていいんじゃん? 合わない人と一緒にいても疲れるだけでしょ」


「そうだけど……。別に害はないから」


「優しいね~、皐月は」


 真冬はカラになった食器を前に、頬づえをつく。


「そういえばさ~、さっき三美神番の話が出たじゃん」


「でたね」


 真冬は視線を皐月に向け、声量をおさえながら続ける。


「三美神番の記者って、三美神が許可してる専属の人がいるはずでしょ? その人が三美神の活動を取材して、詳細に記録してる。三美神に関する本を出してお金を稼いでいいのもその人だけ」


「そうそう。やっぱり、真冬はよく知ってるね」


 真冬は誇らしげに口角を上げる。


「俺もその人の本、何冊か持ってるんだぁ。顔出ししている人じゃないけど、少なくとも女性ではないよね」


「そうだね」


「つまり、少なくともさっきのお姉さんは、そうじゃないってことだよね」


 皐月はうなずく。


「小森さんも違うって否定してたしね」


「記者は記者、なのかな? 確かに、三美神で刺激が強い記事を書いてる人はそれなりにいるからね。……皐月も気を付けたほうがいいんじゃない?」


「記事にされないようにって?」


 ほほ笑む真冬に、皐月は首を振った。


「ないない。三美神に比べて、俺なんてなんのネタもないよ。……ほら、おれたちも行こう。そろそろ昼休み終わっちゃうから」


 二人は立ち上がり、食器がのったトレーを返却口へと持って行った。 



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