燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや
一人と一体は、採集した樹皮を担いで山を下りる。
それは別れを意味するが、そこまで悲壮ではない。
なにせ一応は面倒を見ると言ったし、そもそもここまで主体性のない危険なモンスターを、そのまま野放しにはできない。
それなりに安心して任せられる人のところまで、案内するつもりだった。
(話をしたら、一応はわかってくれたか……まあバカじゃなくてよかったな)
ホワイトに対してごねるのかとも思ったが、彼女は寂しそうにしつつも受け入れている。
これも必要なことであり、何よりもホワイトには不要なことだった。
彼女のような保護者を必要とする人がどこかにいるのであろうし、それが彼女にとってもいいことだと思える。
その一方で彼女をどう紹介したものかと考えだすと、改めて説明に困った。
彼女自身が自分のことを良く知らず、加えて世間知らずである。
はっきり言えば、能力と性格しかわかっていない。
(……こいつは、一体何のために作られたんだ?)
彼女は本能的に、人を守るべきだと思っている。
そのうえで能力は『自分が死なないこと』に特化している。
相手を倒すことよりも、相手に何もさせないことに優れたモンスターが、何から何を守るというのか。
加えて、三つの形態と三つの能力を一個体に持たせていることもわからない。
スロット使いのようにすべての能力を同時に使えるわけでもないのに、なぜ三種類の能力を与えられているのか。
ホワイトは戦闘以外では素人だが、それでも『一体に三体分の能力を持たせる』ことがどれだけ難しいのか察しはつく。
(作為はある、だが目的がわからない)
人間に近い姿をしていることもそうだが、不合理な点が多すぎる。
(たとえば軍馬だ。元から大きくて頑丈な品種を、さらに掛け合わせて屈強にしている。重い荷物を運ぶためだったり、重装備した騎士を乗せるために)
人間は、生物さえ道具に仕立てる。
ある意味では、ホワイトが自分にやっていることも、自分の体を道具として加工させている最中ともいえるだろう。
だが彼女は、不自然でありながら合理性がない。
(こいつは死ににくさだけ、攻略のしにくさだけならAランクだ。ハンターだろうが誰だろうが、どれだけいても倒せるだろう。攻略法が分かっても、そうそう対応できるもんじゃない。だが、ここまで理不尽ででたらめな能力をもったモンスターを作れるんなら……)
やはり思い返すのは、以前に狐太郎が従えていたモンスターである。
(普通に強いモンスターを多めに作ればいいだけのはずだ)
あの四体も各々が強いというだけで、特に何の連携もしていなかった。
大鬼は格闘をして、火竜は火を噴いて、氷の精霊は雪を降らせていただけだ。
一体一体は強いだけで普通であり、普通に強いモンスターを四体買って護衛にしただけなのだろうと察しはつく。
少々相性は悪いが、そんなことが問題にならない程強かった。
(例えばどこかのモンスターを倒すためだったとして……あるいはどこかの魔境に投入されるためだったとして……ここまで多彩な能力が必要になることってあるか? むしろコイツの場合……対人戦を意識していたとしか思えない)
彼女の持つ能力は、『単一の強大な敵と戦うため』という感じではない。
もしもそうなら、三種類も形態は要らない。何よりも、『アタシ』の形態が不要になる。
(そうだ。こいつはどちらかと言えば、BランクやCランクハンターみたいな、役割分担して戦う人間を相手にするための能力だ。少なくともAランクハンターなら、こいつに負けることだけはない)
彼女は『無敵』に特化している。
倒し方を知り、それを実行できる準備をしていなければ、倒すことはできない。
そして、『彼女の倒し方』なんぞ、そうそう用意できるものではない。
だが、逃げるだけなら不可能ではない。
少なくともAランクハンターなら、彼女から逃げ切ることもできるだろう。
もちろん強大を極めるAランクハンターを相手に、退散を選ばせることはすごいことだ。
しかし、費用対効果に見合わない。
Aランクハンターに殺されないことが、そこまで意味を持つとは思えない。
(試作品、とも思えない。こいつの能力はどれも防御寄りで、攻撃性はない。どうせ詰め込むのなら……殺す力にするはずだ)
彼女は悪ではない。
だが彼女を作った者は、確実に悪だ。
悪がなぜ、彼女を作ったのか。
(……もしかして、儀礼の類か? それなら合理性がないことも説明がつく。例えばどこかの金持ちが、どこかのいかれた学者に大金を握らせて、生きた宗教のご本尊でも……これが可能性が高いな。他人に献身的なのも、たくさんの姿を持っていることも説明がつく……能力が防御に寄っているのも、何よりもまず『自分』を守るため)
確実なことは、邪な望みがあったこと。
彼女が善であることは、つまり悪人の望んだ善であるということ。
(……まあ、どうでもいいことだ)
だがそれは、彼女だけではない。
人間も同じだ、必ず作為がある。
人間はキャベツ畑で収穫されるわけではないし、コウノトリが運んでくるわけでもない。
男と女がいれば、作れてしまうのだ。
その出来上がった子供に、自主性が与えられるとは限らない。
親が、子供に都合を押し付ける。悲しいことに、それは当たり前のことだ。
お前は兄の代わりだ。
父が死ねば、兄がその跡を継ぐ。
父が死ぬ前に兄が死ねば、お前がその代わりとなる。
そしてそれまでは下働きをして、兄が所帯を持てば出ていけ。
それは、どの身分でも、どの職業でもあることだ。
むしろ、相対的にはましな方だ。だが、幸福ではない。
そしてもっと言えば。
(自主性ね……俺が思うのも、馬鹿な話だ)
子供の自主性に任せることが、いい結果になるわけでもない。
才能のある子供が、いい学校にかよって、まじめに課題をこなしてさえ、立派な人間が出来上がるとも限らない。
その見本が自分だった。
彼女は悪に利用される前に逃げ出し、自分の意志でホワイトを喜ばせようとして失敗した。
だが、まだまだこれからだ。まだまだ取り返しはつく。
(そうだ、まだまだこれからだ)
何のために生み出されたのか、そんなことを彼女は最初気にしていた。
だがたいして重要ではない。それを彼は知っている。
きっと大丈夫。
そう思って山を下りていく。
降りて降りて、おかしな状況に遭遇した。
「おや、思ったより近かったね」
レッドマウンテンの途中に、集落があった。
キャンプや一階建て平屋の建物が並んでおり、小さな村となっている。
その周囲にはたくさんのハンターらしき男たちが並んでいて、そこを守っているようだった。
「ここが人里かい? 言ったらなんだけど、随分と田舎だね」
「……違う、こんなところに村はなかったはずだ」
思わぬ異常事態に、ホワイトは驚いていた。
少々長く山にこもっていたとはいえ、村が出来上がるほどではない。
そもそもこの周辺はまだ魔境、人里を作れるほど安全ではない。
安全ではない場所に、たくさんの掘っ立て小屋。
これはどう考えても、普通の事態ではない。
「街から逃げて、ここにきたんだ」
「……相手は人間かな、モンスターかな?」
「わからない。だが……絶対に碌な状況じゃない」
ホワイトはハンターであり、それゆえに多くのハンターを知っている。
周辺を警護しているハンターたちは、お世辞にも優秀には見えなかった。
それを裏付けるように、目の前で襲撃が起こっている。
燃え上がる猟犬ファイアリカオンを、ハンターたちが迎え撃っているが、戦況は芳しくない。
ファイアリカオンの数は、精々十体ほど。Cランクハンターなら、一人でもどうにかできる数だ。
にもかかわらず、同数のハンターたちは苦戦していた。それはつまり、あそこにいるのはDランク以下ということである。
「おい!」
「なんだい?! なんでも言ってくれ!」
「荷物持ってろ!」
「……うん、そうだよね」
納品する予定だった樹皮を投げ渡し、他の荷物も地面に置く。
ホワイトは腰の剣を抜き、猛然とファイアリカオンの群れへ襲い掛かった。
「おおおおおお!」
たかがCランク相手に、エフェクトなど不要。
相手の不意を衝けたこともって、ファイアリカオンたちは一刀のもとに切り伏せられる。
まさに鎧袖一触の実力差。火傷と噛み傷を負ったハンターたちは、あまりにも一瞬で状況が一変したことに茫然とする。
「……ふん」
情けない、と思う。
その一方で、ホワイトは周囲を見た。
ありあわせの材料と道具で作られたであろう、小さな家の数々。
そしてその中から出てきた、身なりのよさそうな子供や女性。
それはつまり、この状況がホワイトの察した通りということだった。
「……おお! 来てくれたのか!」
「おい、Bランクハンターが来てくれたぞ!」
「こんなに早く来てくれるなんて! 信じられない!」
「そうか、途中で会えたんだな? あいつはどうした、怪我とかしてないか?」
と、同時に、勘違いをする現場のハンターたち。
目の前でCランクモンスターを一蹴したのだから、Bランクかそれに相当するCランクハンターだと思ったのだろう。
大いに喜んで、大騒ぎを始めた。
「……ちょっと待ってくれ。どういう状況なんだ?」
「なにも聞いてないのか? 救援を受けて、ここまで来たんだろう?」
「違う、俺はここのハンターだ。ほら、アレを見てくれ」
自分が背負っていた分と、ホワイトが抱えていた大量の荷物。
それを抱えて、彼女が下りてくる。
一応は警戒をさせないように、その歩みはゆっくりとしたものだった。
「……そ、そうか、お前ホワイト・リョウトウか! 山に長く籠っていたっていう……そうか、道理で、その若さでその強さなのか……だが、そうなると……」
しばらくすれば、状況は整理される。
如何にホワイトが山にこもっていたとはいえ、この地でハンターをやっていたことは事実。
顔こそ覚えていなくても、特徴を知っていれば察するのは簡単だった。
「んん……ホワイト、お前さんは山から下りてきたんであって、他のところから応援に来たわけじゃないんだな?」
「そのとおりだ。何があったんだ? 概ね見当はつくんだが……」
「そうだろうな……この状況を見れば、一目瞭然か。とりあえず、説明を……」
やはり知っている人間なら、話は早い。
特に混乱することもなく勘違いは是正され、話し合いがもたれる。
もしも彼女が同じことをしていれば、何事かという話になって、面倒になっていただろう。
「Bランクハンターが来たとは本当ですか!」
その話し合いを遮ったのは、女性の声だった。
孫がいてもそこまで不思議ではない年齢で、落ち着いた色の服を着ている貴族の女性だった。
そうだと分かるほどいい服を着ているのだが、その一方で服そのものや肌、髪は汚れている。
おそらく、数日着替えていないのだろう。身なりを整えることができていないのだろう。
そして何よりも、表情は鬼気迫るものがあった。
「……貴方ですか」
「いいえ、俺は……」
ぱん、という音がした。
「遅い! 今まで……どこで油を売っていたのですか!」
怒り心頭の女性は、ホワイトに平手打ちを食らわせていた。
「どいつもこいつも、ハンターは役立たずばかり……! とっととあの街に行きなさい! それが貴方達の仕事でしょう!」
彼女の剣幕に、周囲の面々は手が出せなかった。
「ホワイトっ……!」
もちろん、彼女は動こうとした。
しかし、ホワイトが何もしようとしていない姿を見て、足を止める。
そのうえで、ホワイトを叩いた女性を見た。
震えている彼女は、怒っているだけではない。
その眼が赤いのは、怒っているだけではない。
彼女が攻撃的なのは、怒っているだけではない。
「貴方達がきちんと仕事をしないから……!」
「お母様! 仕事の邪魔をしてはいけません!」
そして、その女性を若い女性が抑える。
再び頬を叩こうとした手を取って、優しく留めていた。
「ほら、あの子も怯えています」
周囲には、小屋から出てきた子供や、娘や、年配の女性がいた。
その顔は、不安と期待が入り混じった、とても複雑なものだった。
一つ言えることは、誰もが憔悴しているということだろう。
「う、ううう……」
ホワイトを叩いた女性もまた、膝をついて泣き出す。
その姿を見れば、ホワイトだけではなく『彼女』もまた、反撃することができなかった。
「何が、あったんですか」
改めて、ホワイトは問う。
ここで何が起きているのかを。
※
若い貴族の女性と、現場のハンターの代表が、そろってホワイトの前で説明を始めた。
仮設置された避難所の外れで、他の者からは見えるところ、しかし話が聞こえないような場所だった。
「ごほん……貴女には、下がってほしいんだが」
「いえ、街の状況を説明できる者もいるはずです」
「そりゃあそうですけども……」
若く凛とした女性は、改めてホワイトを見た。
「貴方はDランクハンターの、ホワイト・リョウトウ。国立ハンター養成校の首席卒業生で、レッドマウンテンの危険地帯で修業をしていた。ここの方々同様に樹皮を採取しつつ、Bランクモンスターを相手に技の練習をなさっていた。そうですね?」
「ええ、そうです」
「Dランクハンターですが、Bランクモンスターを倒せるのですね?」
「ええ、倒しています」
その女性の目にも、ホワイトの強さは明らかだったのだろう。
そして実際にBランクモンスターを倒しているのだから、これほど心強い話もあるまい。
若い貴族の女性から、何かがみなぎってくるのを感じた。
「……数日前のことです。私たちは季節の外れた、人が少ない時期のこの街で観光を楽しんでいました。ですが……その街に……悪魔が現れたのです」
悪魔。
悪人に対して、悪魔だ、という表現をすることもある。
しかしこの場合は、慣用句ではなくそのままの意味なのだろう。
「多くのモンスターを従えていた悪魔は、街の防衛にあたっていたCランクハンターたちを倒し、そのまま街を荒らしたのです。私たちは命からがら逃げだしてきましたが……多くの人が犠牲になり、街を脱出できなかった方も……」
気丈にふるまっているが、明らかに平静ではない。
ほんの数日前に起きた悲劇を、淡々と語ることはとてもつらいことだった。
「街道は封鎖されていたため、私たちは山に逃げ込みました。しばらくさまよっていたところ、森で採集をなさっていたDランクハンターの方に保護していただきました」
「ああ、すげえびっくりしたよ。まあおかげで、俺達も街に戻らずに済んだんだが……」
当たり前だが、樹皮の採集をしていたハンターたちは、日中街の外にいる。
偶然難を逃れた彼らは、なんとか女子供を守ろうと奮闘したのだ。
如何に樹皮の採集しかしないような低ランクハンターでも、流石に女子供よりは力があり技術や知恵もある。
その彼らと合流できなければ、全員がとっくに死んでいただろう。
「そこからはお察しだ。俺たちは何とか家をでっち上げて、警備隊ごっこで安心してもらってたところさ。街の警備をやってた連中がどうにもできない奴らを、俺らがどう頑張ったところで倒せるわけもないしな」
「正直意外だな、見捨てなかったのか」
「あのな……流石にそこまで腐ってねぇよ。お貴族様のお嬢さんやら奥さんやらを見捨てたら、後が怖いしな」
悪魔と戦う度胸はないが、女性たちを保護する程度には義侠心もあったのだろう。
少なくとも彼らは、仕事でもないのに女性たちを守ろうとしたのだ。
「街道にゃモンスターがたむろしてるが、ここは海のど真ん中でもない。大きく迂回することになるし、道中危険だが、それでも若い衆を集めて近くに街へ行ってもらったよ。順調なら、明日には着いているはずだ」
「その助けを受けてきたのが、俺なんじゃないかって勘違いをしたと」
「その通りだ。正直アンタがこの街にいたことなんて、すっかり忘れてたよ」
貴族の若い女性は、状況の説明が終わったことを確認した。
そのうえで、ホワイトへ話しかける。
「ホワイト・リョウトウ。貴方に依頼があります」
「……なんですか」
「今でも街には、悪魔が配下を率いて占領しています。その上、多くの人質も……」
涙を見せない彼女は、意思を込めて依頼をする。
「悪魔を倒し、人質を解放してください」
「駄目だ」
当たり前すぎる依頼を、拒否したのはホワイトではない。
女性や子供を守っていた、Dランクのハンターである。
「お姉ちゃん、悪いがそりゃあ無理だ」
「……なぜ貴方が断るんですか」
「一応だが……俺はここの代表なんでな。勝手な依頼をされちゃあ困るんだよ」
その男性は、ホワイトを見た。
その眼には、余計なことを言うな、という意思が込められている。
「いいか、お姉ちゃん。そこの兄ちゃんは、俺らと同じDランクハンターだ。そんでもって、街を襲ったのはBランクのモンスターだ。これは討伐任務だぜ、Dランクの出る幕じゃねえ」
「そこの彼は、Bランクモンスターを倒せる、倒しているのでしょう!」
「そりゃあそうだが……相手が悪い。Bランクの悪魔が相手じゃあ、分が悪すぎる」
ホワイトは異論を唱えなかった。
彼は何も間違ったことを言っていない。
「はっきり言ってやるよ、もう諦めろ。あの街に残ってる連中は、もう死んだも同然だ」
「どういう意味ですか」
「素人だねえ……どうしてアンタたち、女子供だけが助かったと思ってるんだ?」
途方もなく酷な言葉だった。明らかに、言葉を選んだうえで、酷なことを言っている。
「おかしいだろう、普通なら男の一人や二人だって逃げてきてるはずだ。そうなってないってことは、街に残ってる連中は悪魔と『取引』をしたってことだよ」
街を守ろうとしたCランクハンターが、全滅したことはおかしくない。
しかしそうした義務を背負っていない男性が、一人も逃げ落ちていないことは、明らかに異常だった。
「大方『俺はどうなってもいいから、妻や子供だけは助けてくれ』とでもいったんだろ。悪魔に対して、一番言っちゃあいけないことだ。それを言った以上、悪魔はアンタらに手を出せないが、悪魔が約束を守っている限り、街に残ってる連中は悪魔の言いなりさ」
白紙の契約書にも等しい、最悪の取引。
それによって実際に子供や妻が助かっているとしても、引き換えになったものは大きすぎた。
「壁にもできるし、兵隊にもできる。殺し合いだってさせられるのさ。それどころか、もうそうなってるかもな」
「……!」
「わかるかい。そこの兄ちゃんが実際に助けに行けば、人質を殺すことになっちまう。たとえ兄ちゃんが悪魔より強かったとしても、勝算はねえよ」
仮にBランクハンターが救出部隊を編成して、この街にたどり着いたとしても、人質は諦めることになるだろう。
「それよりも、ここで救出を待った方がいい。情けない話だが、俺達じゃあCランクが相手でも厳しいんだ。兄ちゃんがいれば、ひと月でもふた月でも持ちこたえられるさ」
彼は、あえて憎まれ役を買って出ていた。
いくら強いと言っても、若手に悪魔と戦わせることはできない。
人質を助けられる可能性さえないのに、無理をさせるなどありえなかった。
「だからまあ……」
「お断りだ」
しかし、今度はホワイトが断った。
「おい、まさかお前、悪魔と戦う気か?!」
「そうだ」
「そうだじゃねえ! 人質は助けられないって言ってるだろうが! 悪魔と戦って何になる!」
ホワイトの胸倉をつかむDランクハンター。
その彼は、必死でホワイトを説得しようとする。
「お前の自己満足で、ここの連中を危険に晒すのか!」
ホワイトは、逆にDランクハンターの胸倉をつかむ。
そして、力づくでひきよせた。
「バカはお前だ! ここの人が、あとひと月もふた月も持つか!」
ホワイトも、ここで籠城して生存の目があれば迷っただろう。
だがどうみても、それは不可能だった。
「お前の人生みたいに、お先真っ暗な計画に俺を巻き込むな!」
「……ちょっと才能があるからっていい気になりやがって! お前はAランクハンターになった気か? Dランクハンターがそんなことを決めるな!」
ホワイトは、覚悟を持って断言する。
「俺と、お前を、一緒にするな! 俺はお前とは違う!」
この場のDランクハンターは、最善を尽くした。
既に倒れたCランクハンターも、職務に殉じた。
だが、ホワイトはまだ何もしていない。
そして、彼にだけできることがある。
「俺はAランクハンターになるんだよ! 相手が悪魔だからって、尻尾巻いて逃げ出すか!」
彼は覚えている。
仕事でもないのに、自分を助けたハンターのことを。
「俺は、行く! お前はここで待ってろ!」
ならば、行かなければならないのだ。
相手が悪魔だったとしても。




