モンスターパラダイス2 最高のパートナー ステージ1 廃棄区画
秘密結社シルバームーン、異空間第一号実験施設、廃棄区画。
異空間においては、ごみを捨てるということもそれなりに手間である。
よって通常の施設がそうであるように、ゴミ捨て場とされる場所が存在していた。
産業廃棄物ならぬ犯罪廃棄物の保管場所であり、しかし秘密基地の内部ということで監視は緩かった。
この廃棄区画に監視を置いているのは、単純に近接している飼育区画からの脱走を警戒しているだけのことで、それも一応念のためという程度。
であれば、リソースが割かれていないことは、ある意味当然だった。
『廃棄区画にセキュリティーとして配置されているモンスターは、全部で十体だ。これを破壊すれば、一応はこの区画を制圧したことになる。いいね?』
「……いいんですか? モンスターを破壊するって表現がまずまずいと思うんですけど」
『まず問題ないよ。なにせここのセキュリティモンスターは、ハードの性能はともかくソフト面では極めて下等だ。下手をすれば、そこいらの犬よりも頭が悪い』
馬太郎、というかこの世界の住人にとって、ゴーレムやロボットを破壊するというのは、人を殺すのと同義である。
勝利歴時代の無人兵器を祖とする彼らは、現在では製造権を含めて多くの権利を人類から譲渡されている。
その彼らを差別することは厳しく禁止されており、馬太郎もまたセキュリティーロボットを破壊することに忌避感があった。
『さっきも言ったけど、彼らは雇用された正規の市民ではない。犯罪に加担している、悪質なゴーレムでもない。魂と呼べるものを持っていない、ただの兵器だ。壊しても気にしなくていいよ』
「そうは言われても……」
見た目だけは、一般のロボットと違法ロボットの差などわからない。
見た目だけは一般人で、実際には殺人兵器だったとする。それで抵抗なく破壊できるだろうか。
『第一、戦うのは彼女たちだし』
「……」
そして、問題なのは違法兵器であるモンスター三体だった。
「……あの、これって一応隠密行動ですよね?」
『もちろんだ、今発見されれば私たちはひとたまりもない』
「だったらなんで、そこの三体は踊ってるんですか?」
ウェポンキャリアーミミック。
宝箱の蓋を帽子代わりにかぶり、箱の本体を背嚢のように背負っている少女。
軍服を着ている彼女は、なぜかバトンを振り回して小気味よく行進していた。
「1、2! 1、2! 1、2! 1、2!」
現在廊下で立ち止まっているのに、その場で高く腿を上げながら足踏みを繰り返していた。
疲れないのか、本当に疑問である。
ハイブリットエンジンジーニー。
携帯用発電機のような見た目をしている、エンジンとバッテリーの融合した『本体』を肩に担いでいる彼女。
その彼女はサングラスをかけており、自分の本体をまるで巨大なラジカセのように扱って、小刻みにリズムを取っている。
「YO-Yo-! ヘイ!」
まずエンジンがうるさい。
シーアネモネラミアオクトパス。
頭部からは大量の蛇が髪のように生えていて、下半身は大量の蛇の尾が生えている。そのサイズは、他の二体を合わせた分よりもはるかに大きかった。
その彼女は、蛇の部位を揺らめかせながら腰や腕も揺らしていた。
フラダンスのようなベリーダンスのような、情熱的なダンスである。
「ぴゅぴゅぴゅ~~ぅうううあああああああああらあらららららららら~~~~」
鼻歌を歌いながら、ノリノリで腰を振っている。
「……この三体、絶対に隠密とかできない。隣の部屋の奴にばれるどころか、隣の建物にいてもばれるレベルですって」
『そうね』
「そうねって……」
廃棄区画に隠されていた、生前のディアナによる違法改造モンスター。
実に感情表現豊かな彼女たちを前に、封印知性となったディアナは何を語るのか。
『成功のためには、失敗の積み重ねが大事よね』
「俺の人生は一回しかないんですけど……失敗したら後なんてないんですけど」
極めて単純に、失敗を認めるマッドサイエンティスト。
『大丈夫大丈夫。さっきからずっと踊ってるけど、警備のモンスターは来てないでしょう?』
「まあそうですけども……ポンコツ過ぎませんか? ゼンマイで動いているんですか?」
『太古のからくり人形じゃないんだから……でもまあ、ルーチンとしては似たような物よ。積んでいる兵器は物騒だけど、頭は悪いから大丈夫』
「……積んでいる兵器が物騒?」
馬太郎は、背後を見た。
そこにはノリノリで踊っている、まったくリズムの異なるダンスに興じているモンスターがいた。
ある意味凶器であるが、まじめに兵器で襲われればそれまでであろう。
「あの、どれぐらい強いんですか?」
『この子たちを1とすれば……500ぐらいかしら』
「それが十体って……戦力比が3対5000。質でも量でもぼろ負けじゃないですか……」
『だから、大丈夫だって。私はここの研究員だったのよ? 私と、私のモンスターを信じなさい』
犯罪者と違法モンスターの何を信じろと言うのか。
しかし他に信じられるものがないので、馬太郎は信じるしかなかった。
『とにかく……ここのロボットはバネ動力の玩具みたいに、おなじ場所をぐるぐる回ってるわ。一体ずつ潰していきましょう』
「……そうですね」
こちらの五百倍強い警備ロボット相手に、何ができるのか。
何もかもを諦めた顔の馬太郎は、ただ廊下の曲がり角で身を潜めていた。
「1、2! 1、2! 1、2! 1、2!」
「YO-Yo-! ヘイ!」
「ぴゅぴゅぴゅ~~ぅうううあああああああああらあらららららららら~~~~」
決して後ろを振り向かない。
もしも後ろを見れば、悲しみで二度と前を向けなくなるから。
『側面が見えるわ……叩きなさい!』
重量感のある足音と共に、二メートルを超える人型二足歩行のゴーレムが現れた。
ちなみにどうでもいいことだが、ゴーレムとロボット、オートマトンとガーゴイルなどは明確に区別されており混同することは批判される。
専門家以外では見分けがつかないので、初対面の相手には自分から『失礼ですが貴方はどの種族ですか』と質問をするのが良いとされている。
「シュゾク技、ベタ踏みキック!」
そして、違法モンスターが挨拶をするわけもなかった。
ハイブリットエンジンジーニーが、本体を担いだまま跳躍し、上段回し蹴りを放つ。
人型の限界か、重量がある筈の機械人形は大きく体勢を崩していた。
しかし、側面から蹴飛ばされたぐらいで、転倒するほど軟ではない。
体に仕込まれている多くのセンサーによって、自分の体勢が崩れていること、重心がずれていること、バランスを取らなければならないことを把握していた。
倒れながらも片足を動かして、バランスを取ろうとする。転倒せずに、踏みとどまろうとする。
「シュゾク技、ベタ踏みニー!」
しかし、エンジンを担いだままハイブリットエンジンジーニーが追撃する。
彼女自身は霧か霞のように存在が朧気で、重量感などなく実在性も疑わしい。
しかし担いでいる本体の重量があるのか、大いに威力を持つ打撃を打てていた。
「シュゾク技、ベタ踏みタックル!」
まるで、暴走車だった。
何かに衝突しても、止まることなく突き進む。
体勢が揺らいでいた機械人形を、施設の壁にたたきつける。
「おおお……」
馬太郎は感嘆した。
哀れ機械人形は、その重量故に通路の壁に衝突し、そのまま食い込んで固定されてしまった。
三度の攻撃でも本体へ大きな損傷は見受けられないが、その挙動は明らかにバグっている。
『いい感じね。巡回路を突き破ってしまったから、自分の現在位置がわからなくなって混乱しているのよ』
「バカすぎない?」
『だから、バカだって言ってるでしょう』
勝利歴時代に研究されていたという完全自動運転車は、最初期には車体だけではなく道路にもセンサーを設置し、双方の距離を測定することで現在位置を把握していたという。
おそらくこのポンコツも、通路に設置されている『目印』を頼りに動いていたのだろう。
その目印を見失い、人工知能内部にある現在位置も見失ってしまったのだ。
「ミミックハンドガンを使用します!」
そのモンスターへ、ウェポンキャリアーミミックが追撃を宣言した。
「ミミックウウウウウウハンドがああああああん!」
なぜか無意味に叫びつつ、背中の箱から小型の拳銃を取り出す。
「徹甲弾、リロード! 安全装置解除! 照準ヨシ! 射撃姿勢ヨシ! 後方確認ヨシ!」
両手でしっかりと構えて、狙いを定める。
「シュゾク技、ミミックハンドガン!」
最初こそその間抜けさに呆れていた馬太郎だが、発砲音で耳を傷めた。
せっかく長々と宣言してくれたのだから、発砲音に備えるべきだったのだ。
室内で至近距離の銃声は、はっきり言って耳が痛くなる。馬太郎は慌てて耳を塞ぎ、目を閉じた。
「命中、確認! 跳弾ナシ! 射撃有効! 連続発射! 弾倉が空になるまで、撃ち続ける!」
重厚であろう機械人形の装甲に、小さな穴が開いていく。
もちろん、それが静かであるわけもない。鉄板をぶち抜く銃弾の音は、まさに戦場の轟音だった。
近くで聞いているだけでも堪えられなかった。
「シュゾク技……腐食液!」
そして、今度は鼻に刺激が来た。
シーアネモネラミアオクトパスが、その頭部の蛇から腐食性の毒液を放出したのである。
どうやら機械人形の装甲、というよりも装甲の塗装に耐腐食性の処置が施されているらしく、劇薬であろう腐食液を浴びても変化はない。
しかし、体の各部位に開いていた穴から、腐食液が入り込む。
それは内部に腐食液が入り込み、さらに内側にも腐食性のガスが満ちていくことを意味していた。
加えてそのガス、人体に有害である。
耳と鼻を押さえていた馬太郎は、思わずしゃがみ込んでいた。
『……貴方の安全を考えていなかったわ』
「が、がぼぼぼ!」
ちなみに、腐食性のガスは空気より重いので、しゃがむと逆効果だった。
しかし……。
「バイタルが低下した人間を確認、モンスターが暴走しているものと思われます。至急急行し、対応します」
「同型のセキュリティーユニットを確認、番号の照合を開始。偽装区画の個体番号、よって敵の擬態と考えられます」
「同型機より攻撃を受けました。敵からのハッキングを受けているものと判断、反撃開始」
どうやら馬太郎が弱っていることや、馬太郎をここへ連れてきていたユニットが残っていたことがきっかけとなって、残るゴーレムたちは同士討ちを始めた。
その光景は、まさに大失敗である。
『……終わりよければすべてよしね』
「ご、ほごほごほふぉ!」
なお、馬太郎はまだ毒ガスに苦しんでいる模様。




