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義を見てせざるは勇無きなり

 ホワイトと彼女は、他のハンターやナタと共に漁港へ向かった。

 そこには大量の炭化した死骸と、波で壊れたであろう船や建物と、それを片付ける人たち。


 そして、のんびりくつろいでいる大男がいた。


「ん、ナタ。そっちは終わったのか?」

「はい、一旦ですが落ち着きました」

「ご苦労さん。流石はAランクハンター、なんでも一発で解決だなあ」


 彼の後ろには、木組みの箱がどっさりと置いてある。

 その中には、魚や貝などがたくさん入っているのだろう。

 彼はそれを焼いて食べてを繰り返しているようだった。


「まあ、俺もAランクハンターだったんだけどなあ!」


 自分で自分を褒めてしまった、と言わんばかりに笑っている。

 そんな彼に対して、現地のハンターたちはしり込みをしているようだった。

 ホワイトが救援に来たときは素直に礼を言えたのだが、彼には言えないようである。


(この人が……自分の故郷を滅ぼした、圧巻のアッカか……)


 この男が強いことなど、誰も疑っていない。

 だからこそハンターたちは、目の前の彼が故郷を滅ぼした男だと知ってしまっている。

 法的に許された行為だったとしても、彼が多大な功績をあげていたとしても、そうそう許容できるものではない。


 いいや、そもそも。

 合法的に故郷を滅ぼすために、Aランクハンターをやっていた男など、恐ろしくてたまらないだろう。

 道中で彼のことを聞かされていた彼女も、当然顔をしかめている。


「アッカ様。既に現役を退いておられる貴方に、こうして手を煩わせてしまい、申し訳ありません」


 だが、ナタは頭を下げた。

 元より警備隊は砂浜を守る仕事をしているのであり、ホワイト達はただ通りすがっただけである。

 しかしナタは、この漁港を含めて守る任務に就いている。

 その彼からすれば、アッカに礼をいうのは当たり前だった。


「ジョーを思い出す奴だな……ま、こっちこい、お前ら。まだどっさりあるんでな、全員で食おうぜ。あ、酒は全部俺のな」


 一同、顔を見合わせる。

 いろいろ置いておいて、ハンターにも休憩は必要である。

 加えて、昼時もかなり過ぎていた。お腹もけっこう空いている。


 恩人からの誘いを、断るわけにもいかなかった。

 なによりも、ハンターたちがここに残ることには意味がある。


 片づけを続けている漁師たちに申し訳ないが、とりあえず食事をすることにした。

 各ハンターたちは各々で焚火を用意し、金網を置いて、アッカから分けてもらった海の幸を焼き始める。

 ごく自然な流れで、ナタとホワイト、彼女はアッカと同じ焚火を囲んでいた。


「この貝やら魚やら焼いて、魚醤をかけて食うとこれが美味いんだよ。こればっかりは、カセイでも食えなくてな~~。人生を損した気分だぜ」


 巻貝をちゅるちゅると呑み込んで行くアッカ。

 その彼に倣って、三人も焼き始める。

 よく見れば、魚も貝も傷ものだった。おそらくモンスターの襲撃によって、売り物にならなくなったものを、今彼がその場で食べているのだろう。


「ナタ、お前もいいところに詰めてるなあ」

「は、はい、恐縮です。このあたりは、魚も貝もよくとれるんですよ」

「こんないい港が、モンスターの襲撃でつぶされるなんて、国家の損失だぜ、まったく」


 まさに、恐怖のない男だった。

 圧倒的強者は、勝手気ままに生きている。

 ハンターを引退したからこそ、自由を満喫している。


「ん~~、で、そっちの兄ちゃんはなにもんだ? 見た感じ、Aランク手前ってところだが」

「は、はい! 俺は……Dランクハンター、ホワイト・リョウトウです!」

「へぇ、Dランクねえ……俺もそうだったなあ」


 アッカは焼いている魚に、魚醤をかける。

 臭みの強い煙が、一気に吹き上がった。


「ほれ」

「あ、ありがとうございます……!」


 ホワイトは、窮屈そうだった。

 国家に三人しかいない現役Aランクハンターと、引退したとはいえ歴代最強と呼ばれたAランクハンター。

 その二人に囲まれると、まさに自分が雛鳥であることを再認識する。


「で、どこに就職する気なんだ? そんだけ強ければ、Aランクハンターどころか、大将軍やら斉天十二魔将だって狙えるだろう」

「そうですね、まだ伸びると思いますが、今でも十分な実力かと」


 アッカとナタは、同じようにホワイトを認めていた。

 ホワイトが二人の力量を察しているように、二人もホワイトが英雄の器だと認めているのである。


(うぅ……い、いかん、感激で前が見えない!)


 思わず、ホワイトの目から涙がこぼれた。

 既に世間から認められている強者が、おべっかでもなんでもなく自分を褒めている。

 その事実に、心が揺れていたのだ。


(ホワイト……がんばったもんねえ)


 彼が頑張ってきたことを知っている彼女は、ホワイトを慈愛の目で見ていた。

 今まで彼を褒めた者は多くいたが、彼が目指した場所にいるものから褒められたのは初めてだった。

 本当に正真正銘、自分がAランクハンターになれると保証されたことで、涙があふれていたのだ。


 彼女は彼を多少なり支えた自負があるが、彼の努力は目の前にいる二人に劣るものではあるまい。

 彼は自分で目標を立てて、それを完遂したのだ。誰に咎める権利があろうか。


「お、俺は……アッカさんと同じ、シュバルツバルトに行こうと思っています」

「へぇ~~、あそこにねぇ」


 今度は、アッカの顔が少なからず曇っていた。


「あそこはキツイぜぇ~~? 十五年ぐらいいた俺が言うんだ、間違いない」

「そ、それでも、あそこに行かないといけないんです……」

「なんだ……まさか俺の真似とか?」

「いえ、違います!」


 歴代最強のAランクハンター、圧巻のアッカ。

 彼が有名になったのは、皮肉か必然か引退した後のことである。


 合法的に、故郷を吹き飛ばした。

 如何に許可されているとはいえ、国家の安全を担うAランクハンターの一人が、国土を直接攻撃したのである。

 これでは何のためのAランクハンターなのかわからない。


(というか、この人たちってすごいドラマ性があるんだよな……)

(そうなのかい?)

(ああ、凄いエピソードが山盛りだ)


 ハンターならずとも知っている有名な英雄たちである、そのエピソードは有名だった。


 伯爵家に生まれて、従軍している間に追い出されて、復讐を誓い十五年以上も雌伏の時代を過ごしていた男、圧巻のアッカ。

 王族でありながら強大な力を持って生まれた、大志のナタ。大王の見出したゴクウや、斉天十二魔将主席のギュウマの息子コウガイ。その二人と切磋琢磨していた、三雄の一角である。


 それに対してホワイトは。

 ちょっと裕福な農家に生まれ、才能が有ったので冒険者の養成校に通って、そのままシュバルツバルトに行って天狗の鼻をへし折られて、有名な修業地を回って実力をつけたのである。


(我ながら、地味だな……)

(地味って言うか……他の人と被ってるってことかな?)

(そうなんだよな……)


 ようやく自分の比較対象になる人と巡り合えたので、その分自分の凡庸さが目立ってしまうホワイト。

 多分歴代のAランクハンターや、それに近い実力を持つ者たちの中では、同じようなエピソードを持つ者が多いのだろう。

 有名な修業地を回るということは、つまりそういうことである。


「実は、情けない話なのですが……以前の私は、Dランクハンターという身分に不満がありまして……すぐにランクを上げられる、シュバルツバルトに赴いたのです」


 ホワイトが語ることは、本当に情けない話だった。

 以前の自分であれば、絶対に隠そうとすることだろう。

 だが今の彼は、自尊心を満たせるだけの実力と実績がある。

 昔の失敗を、苦笑しながら話せるだけの度量があった。


「しかし、シュバルツバルトに行った時の私は、Bランク下位一体をなんとか倒せる程度でして、まるで力が及びませんでした」


 なお、その失敗談を聞いている他のハンターたちは、沈痛な面持ちだった。

 なにせ『Bランク下位一体をなんとか倒せる』というのは、この場のBランクハンターでさえギリギリなのである。

 ましてやCランクハンターたちにしてみれば、危ういことだった。

 もちろん一人ではなく隊単位なら話は違うのだが、それでも一人としての強さは当時の時点でも図抜けていたのだろう。


(聞きしに勝るところだな、シュバルツバルト……)

(Bランク下位を一人で倒せるのに脱落するとか……ヤバいな……)

(ああ、絶対行きたくない……)


 ホワイトの語る『謙虚』な姿勢に、他のハンターたちは自分達の生きる世界が違うことを痛感していた。


「その時は偶々、一緒に試験を受けていた魔物使い……後にアッカ様の後釜になる、虎威狐太郎様に助けてもらったのですが……危うく食い殺されるところでした」


 屈辱だった。

 ホワイトにとって、あの時に勝る恐怖はない。

 悪魔と戦う時でさえ、Aランクモンスターと戦う時でさえ、あそこまで恐れたことはない。


「あの雪辱を果たすには、あの森で戦う他ないのです」

「ん~~」

「なるほど」


 現役、引退済み。

 二人のAランクハンターは、未来のAランクハンターの話を聞いて黙った。


「なるほどな、そりゃあむかつくわな」

「ええ、やむなきことかと」


 どうやらAランクハンターにとっては、共感できることのようである。

 他のハンターたちには、いまいち共感できないことなので、だからこそ食べる手も休めて聞いていた。


「俺も経験がある話だからわかるぜ。俺達はするすると強くなるが、最初から強いわけじゃない。だから何度か苦戦を経験することもある。もちろんすぐに強くなって、簡単に倒せるようになるんだが……簡単に倒せるようになればなるほど、弱かった時のことがむかつくんだよなあ」


 今のホワイトにとって、マンイートヒヒなど物の数ではない。

 あの時の何十倍ものマンイートヒヒが襲い掛かってきても、一人で倒しきれるだろう。

 だからこそ、むかつくのだ。


「なんでこんなのに手こずったんだ、俺は、ってな」

「はい」


 ホワイトは、あれから血のにじむような努力をしてきた。

 というよりも、実際に全身から血を流してきた。

 そのうえで得た力であり、急速に強くなったわけではあるが、段階飛ばしだったわけではない。

 だがそれでも、一年ぐらい真面目に鍛えなおしたら、あっという間に強くなったのだ。

 

 あと一年、まじめに頑張っていればあんなことにはならなかった。

 まあ実際には別の相手に苦戦し続けることを繰り返していたのだから、ちょっと躓いた程度のことなのだろう。

 だが強くなればなるほど、どうしても思ってしまう。


 あんな小石に、躓いたことが許せない、と。


「そういう理由ですか……才能があっても、己を高めない者はいます。英雄に相応しい才能を持っていても、現状に甘んじればそこで成長は止まります。そこを抜けるには、戦う理由が必要なのでしょう。貴方にとってそれが戦う理由なら、止めることはできませんね」


 この場には、理解者が二人もいる。

 同等の才能を持ったうえで、同等の苦難を越えた者である。

 だからこそ蔑むこともなく、羨むこともない。

 試練を越えて強くなったものに、正当に共感できていた。


(……お、俺も、Aランクハンターから仲間扱いされてる……!)

(君はそれをしてほしかったんだね、ホワイト……)

(うん……すげえ報われた!)


 才能があるだけではなく、実績と実力を認められた。

 誰もが認めるAランクハンターから、同類として認められた。

 それが嬉しいホワイトを、彼女はやはり慰めている。


「で、どうだった? 俺が抜けた後も、ジョーやガイセイ、リゥイやシャインはいただろう。元気してたか?」

「お、俺が会ったのは、ジョーさんと狐太郎さんだけです。他の人には会えませんでした」

「ふ~~ん……そうか、ガイセイには会ってないか……」


 アッカは、Aランクになりかけているホワイトを見る。

 自分と別れたときのガイセイよりも、強いであろう若き勇者だった。

 その彼をみて、今のガイセイの強さを想像する。

 果たしてかわいい弟子は、どうしているだろうか。


「まっ、アイツは元気だろう。それよりも、狐太郎ってのには会ったらしいな。噂じゃあ、本人は亜人(がいこくじん)で、やたら強いモンスターを従えているとかなんとか」

「ええ、私もそう聞き及んでいます。あの森で、やたら強いということは、それこそ一体一体がAランク上位に匹敵する実力者ということになりますが……」


 Aランクハンターにとって、Aランク上位モンスターというのは、非常に厄介な難敵である。

 倒せる範囲だからこそ、その厄介さを知っている。それに匹敵するモンスターなど、それこそ同格でしかありえないのだ。


「……俺は、アイツらが本気になったところは見ていません。ですが……あの森でAランクハンターになったということは、あいつらは本当にそれだけ強いのでしょう」

「そうだな、弱かったらカセイは滅びてるだろうしな」

「カセイを治める大公ジューガー様は、名君で知られております。あのお方が認めているのですから、確かにそうなのでしょうね」


 元より、AランクハンターはAランクハンターを疑わない。

 BランクやCランクまでなら、他の誰かに仕事を押し付けることができるだろう。

 だがAランクの仕事ができるのは、それこそ同等の強者だけ。誰にも仕事を押し付けることはできないのだ。

 カセイが存続しているという事実がある以上、疑う余地はないのだろう。


「しかしそうなると……シュバルツバルトの戦力は些か以上に過多になりますね。多くて困ることはありませんが、各地から戦力の融通を求められるかもしれません」

「俺ん時はずっと一人だったから、それどころじゃなかったが……というか、ナタ、お前もそうなんだろう?」

「ええ、私が十二魔将を抜けたのは、今私を雇っておられる公爵様の希望ですので……」


 ホワイトの実力に、もう疑うところはない。

 シュバルツバルトで多くの強敵と戦えば、自ずとAランクハンターになれるだけの実力を持つだろう。

 そうなれば、アッカの弟子であるガイセイと合わせて、三人もAランクハンターが在籍することになってしまう。


 流石にそれは、戦力過多が過ぎるだろう。

 他の地に回してほしいと、苦情陳情が来るはずだ。


「まあ、気持ちはわからねえでもないけどな。なんだかんだ言って、お前をここに呼んだ公爵様には先見の明があったんだろうさ。お前がいなくて俺やホワイトが偶々来てなかったら、大ダメージだぞ、ここ」

「はい、おっしゃる通りですね」


 この一帯の危険度は、そこまでは高くない。

 過去に記録が残っているが、それはもうずっと昔のことで、だれもが真剣に受け止めていない。

 公爵もそれを口実に呼んだだけで、他の目的でナタを使いたかったのだろうが、結果としては大正解だった。


 ピンチであればあるほど、疑いの余地なくナタが来てくれる。

 誰もがそう信じていて、実際そうなったのだ。だからこそ、戦線は崩壊しなかったのである。

 現地のハンターたちこそが、アッカのつぶやきを全面的に肯定していた。


 ホワイトとアッカがここに来ていたのは偶然だが、ナタがここに務めているのは人事である。

 であれば、公爵の手柄と言っていい。


「現地で防衛に務めていた警備隊は当然のこと、ホワイト君やアッカ様にも、公爵様から多くの御礼があるでしょう。皆さんの尽力あればこそ、ここまで被害を抑えられたのですから」


 ナタだけでもなんとかなっただろうが、他の面々がいたからこそ被害は抑えられた。

 その事実を、誰も否定しない。

 モンスターを全滅させても、被害が甚大では意味がないのだ。


「お、おおお! ここにいたのか、我が宝刀ナタよ!」


 そんな噂をしていると、まさに公爵が現れた。

 誰もが食事の手を止めて、声のしたほうを向く。


「公爵様……」

「急報を受けて、そのまま飛び立ったと聞いていたが、流石は元十二魔将主席候補……もしも大王陛下がお前をここへ働かせてくれるようにしてくださらなければ、今頃どうなっていたか……」


 言っては何だが、小男だった。

 威厳を出すための長いひげを生やしているが、そのふくよかな体と緩んだ顔によって、威厳は大いに損なわれている。


「私だけでは、被害を抑えることはできませんでした。ここにいる警備隊は当然のこと、ここにいる二人のお方の尽力によって、ここまで迅速に納められたのでございます」


 慌てて、警備隊とホワイト、彼女は席を立って『気を付け』をした。

 直立して、動かないようにしたのである。


「……そこの者は?」


 まだ食事を続けているアッカを見て、顔をしかめる公爵。

 見るからにただものではないのだろうが、露骨に無礼なふるまいをしているので、思わずナタへ尋ねていた。


「彼こそは、カセイを長年守っておられた、元Aランクハンター、圧巻のアッカ様でございます。ご存知かとは思われますが、今は王族の方とご結婚なさり、公爵の地位を得ておられます」

「お、おう! そ、そうか、それほどのお方が骨を折ってくださったのか!」


 流石は公爵、うかつな発言はきちんと避けていた。

 有名で有力なものだと分かるや否や、露骨に態度を切り替えた。


「私めは、この地を預かるシカイ公爵と申します。アッカ公爵どの、この度はよくぞ我が領地を守ってくださいました」

「ん? ああ、気にしなくていいぜ」

「そ、そのようなわけには」

「んじゃあ、御礼に『なんでも』くれるのかい?」

「い、いえ……」


 なお、アッカは自分の悪名を利用してまで、プレッシャーをかけてくる。

 お前の娘を全員くれよ、と言われたら困るので、シカイ公爵は返事に困っていた。


「ま、まずは我が宮殿にお出で願えませんか。こうも混乱しているので、大きな催しはできませんが、まずは感謝を伝えたいのでございます」


 今海岸一帯は、混乱が収まりつつあった。

 もとよりナタのことは誰もが知っているし、モンスターの襲撃が完全に止まっているので混乱が加速することもなかった。

 だがそれでも、建物の被害は大きかったため、軍隊が出動して復興にあたっている。

 瓦礫やモンスターの死骸の撤去など、仕事は余りにも多かった。

 よって華々しいパーティーなど開けないが、それでも功労者にお礼を言わないのは無礼であろう。


「いや、いいって」

「そういわずに……」

「モンスターもまた来るしな」

「そういわずに……え? 来るんですか?」


 当たり前だが、シカイ公爵はモンスター退治の専門家ではない。

 なので今回の襲撃で、何もかもが終わったと勘違いしていた。


 だがアッカは、他でもないAランクモンスターの専門家である。

 この状況が、何がしかのモンスターによる異変だと、既に理解していたのだ。


「この辺りは、そうしょっちゅうモンスターが来るわけじゃないんだろう?」

「え、ええ、もちろん」

「だったら、なにかあったんだろうさ。沖の方にAランク上位モンスターが現れて、周囲のモンスターが逃げてきたとかな」


 今回海岸線を襲撃してきたモンスターたちは、別に人間を食べたかったわけではない。

 必死になって逃げてきて、その先に人間の街があっただけなのだ。

 ある意味、あのモンスターたちも被害者なのである。


「少なくともしばらくは続くだろうな。だからこいつらは、まだ避難してない漁港で襲撃に備えているのさ」


 他の場所では、海岸に近づくことはない。

 侵攻された陸地で、救助などが行われているからだ。

 だがここは違う。被害が抑えられたからこそ、多くの漁民が作業をしているのだ。

 被害がなかったからこそ、ここの民は危険にさらされている。


「で、では……当分の間、海岸に近づくことはできないと!」

「そうしたほうがいいぞ。ここいらを荒らしているAランク上位モンスターが、食うものがなくなってどっかに行くまではな」

「それは……」


 アッカの分析は、極めて正しかった。

 少なくとも現地のハンターやナタ、ホワイトも同じ結論に至っている。


「と、当分の間、漁にも出られない……それでは、経済的な損失が!」


 そして、それを聞いた公爵の反応を見て、ホワイトやハンターたちはやや嫌気がした。

 金の心配をするものを見て、現場の者が嫌な顔をするのは当然である。


「そうだな、ヤバいだろうな。ここいらの観光地は壊滅して、店がつぶれて、何人も首を括るだろう。漁民も子供を売ることになるだろうな」


 だがそこを、アッカがフォローした。

 公爵が「経済的損失」と言っているのは、つまり民衆が飢え死にするという意味である。

 それに比べれば公庫の現金が減ることなど、二次的な被害でしかない。


(そうか……Aランク上位モンスターが近くにいたら、商売どころじゃないもんな)


 ホワイトは、改めて自分の就く仕事の大事さを思い知った。

 命の安全を守ることに加えて、安心して仕事ができる状況を守らなければならない。

 Aランクハンターの仕事は、多くの人々の生活を支えているのである。


「な、ナタ! 今の話、どう思う?!」

「おっしゃる通りと存じます、彼の懸念は極めて正しいかと」

「そ、そんな……ではどうすれば……」


 シカイ公爵の取り乱しようと言ったら、この漁港の復興をしている者たちにも劣らない。

 彼は自分の領地の危機を、正しく自分の破滅とつなげているのだ。


「我が宝刀ナタ……なんとかできないか?!」

「申し訳ありません……この近くに現れたのであれば倒せますが、沖にいる限り手は出せないかと」

「そんな……」


 如何にナタが強くとも、どこにいるのかわからない相手を倒すことはできない。

 また、沖に出て戦うとしても、その間は海岸が無防備になる。

 それで被害が拡大すれば、倒しても意味がない。


「おら」


 ぼん、とアッカがホワイトの腰を叩いた。


「え?」

「何黙ってるんだ?」


 アッカはそれっきり黙り込む。

 しかしその時点で、ホワイトは概ねを察していた。


「あの、ナタ様、公爵様!」


 Aランクハンターの助けになること、まずそれを目指して強くなっていたホワイトは、あえて差し出がましいことを口にする。


「俺も、戦力に数えてください!」


 Aランクハンターが一人で足りないのなら、その助力を申し出る。

 ホワイトは、自分が未熟であることを踏まえたうえで、大きい声を出していた。

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― 新着の感想 ―
ササゲの力を借りることで限定的にAランクになれるブゥも含めればAランクが三人半か……確かに過多ではあるけどそれでも完全に安心ができるわけじゃないのがあの森の恐ろしさだな……
[一言] 更新お疲れ様です。 海のAランク上位モンスターは厄介ですね。海という環境が討伐と防衛の大きな邪魔となってますね。どこにいるのか分からないし、どこから襲ってくるのかも分からない。海に踏み込むの…
[一言] アッカおじじ がちょい悪イケオジ感。かっこいいなぁ。
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