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ひだまりと精霊と犬(2巻発売記念SS)

本日、2/10「異世界おもてなしご飯2〜精霊の歌と約束の杯〜」の発売日です。

それを記念して、SSを投稿しました。

時系列は夏頃、まめこと出会ったばかりのお話。まだ、ジェイドたちに精霊がいるというのを知られるまえですね。楽しんでいただけると幸いです。

 木の精霊ドライアド。


 それは、この世界に存在するあらゆる植物を司る精霊のことだ。普段は精霊界に住まい、時たま人間の前に姿を現しては、悪戯をしたり恵みを与えたりする、人ならざる別次元の存在。精霊信仰が盛んなこの国では、神聖視されている存在だ。


普段は森の奥に住まい、滅多に会えないことでも知られている。もし会えたなら、その一年は幸せが待っている……そんな言い伝えがあるドライアドなのだけれど――今、我が家の縁側で居眠りをしていたりする。



「ぷひー。ぷひー……」



 恐らく鼻息なのだろう。寝ているまめこからは、ちょっと間抜けな音が聞こえる。

まるで猫みたいに体を丸めて、温かな日差しをいっぱいに浴びて、とても気持ちが良さそうだ。時折風が吹くと、頭から生えた葉っぱが擦れて、さわさわと涼やかな葉擦れの音がする。そんな、とても平和な光景。本当ならば、思う存分寝かせてやりたいのだけれど……。



「まめこ、起きろー。もうすぐ、ジェイドさん来ちゃうよー」



 指先でつんつんしてみても、まめこは僅かに身じろぎをするばかりで、起きる気配はない。


 偶然の出会いから、我が家の庭にある桜の木に棲みついてしまったドライアド。その存在をこちらの世界の人間に知られたら、大騒ぎになるに違いない。この子と過ごす、こういうなんでもないひとときは、どちらかと言うと好きな時間だ。だから、誰にも邪魔されたくはない。


 私は寝ているまめこの隣に腰掛けると、小さくため息を零して空を見上げた。

 雲ひとつない抜けるような青空に、遥か上空を大きな鳥が飛んでいるのが見える。きっと、昼頃になれば暑くて仕方がなくなるのだろうけれど、未だ夜の冷気が残る風は心地よく、うたた寝するには絶好の日和だ。でもまめこのためにも、起きてもらわねば。



「ねえってば、起きてー」

「わん!」



 眠るまめこに声を掛けると、代わりに飼い犬のレオンが返事をしてくれた。

 笑いながらお前じゃないよと言うと、レオンはまめこの傍に近寄って、鼻をひくつかせて匂いを嗅ぎ始めた。いつもは、警戒して物陰から様子を見ているだけなのに、相手が寝ているからって随分と大胆だ。



「よし、レオン。匂いを嗅ぐついでに起こして」

「くうん」



 私の言葉に、レオンはちらりとこちらに視線を寄越した。けれど意味がわからなかったのか、また匂いを嗅ぐ作業に戻る。私が「駄目かあ」なんて言ってがっかりしている間にも、レオンの匂いチェックは続いた。そして、思う存分匂いを嗅ぎ終わったら、どうもまめこの木の肌が太陽で温くなっているのに気がついたらしい。くるくるとその場で回り始めたかと思うと、まめこのお腹の部分で自分も眠り始めてしまった。



「――ちょ、ぶっ……!! なにこれ……!!」



 ふたりが眠る様は、茶色と緑のゴツゴツしたのと、ふわふわの茶色いのが合体して、まるで変な生き物みたいだ。

 込み上げてくる笑いをなんとか堪えて時計を確認すると、もうジェイドさんが来るまで間がない。こうなったら仕方がない。要は、まめこが起きるまで、暫くジェイドさんを縁側に近づけなければいいのだ。私は大きめのブランケットを取り出すと、ふたりにそっと掛けてやった。



「……起きたら、ちゃんと桜の木に帰るんだよ」



 そう声を掛けてから、足音を立てないようにその場を後にする。

 居間から出る瞬間、ふと縁側を振り返る。爽やかな夏の日差しが注ぐ縁側で眠る、私の小さな家族たちは、微睡みの中でとても幸せそうに見えた。

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