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ハロー1216  作者: エル
23/48

その日

「シュウジ、お前、最近どこで何をしている」

 教官に呼び出されて、僕は指導室で直立の姿勢のまま尋問めいたことをされていた。

「おかしな遊びにはまり込んだんじゃないだろうな」

「そのような事実はありません」

 僕は師匠の研究室に入り浸っていることを秘密にしていた。

 ばれたら、きっと研究室への出入りは禁止される。この人は、どうしても僕を衛士にしたいようだった。

「……ハァ。シュウジ、お前には才能がある。それも首都の騎士団に入れるかも知れないほどの才能が」

「もったいないお言葉です」

 才能。僕はずっとそんなものに振り回されてきた。

 セミ・オート型の魔道人形を操れるだけの分割思考能力。それを生かせるだけの魔術師の素地に、同年代と比較して高いと言える身体能力。どれも、僕にとってはもてあますばかりのものだった。

「それは神様がお前にくれたチャンスなんだぞ。それを不意にするような」

 いつものお説教だ。信心深いこの人らしい論法に、僕は辟易とする。

「こんなことを言いたくはないが、お前は奨学金で通ってる身だ。結果を残す義務だってあるんだ」

「お言葉ですが、結果はきちんと出しているつもりです」

 それは事実だった。僕の成績は実戦訓練ではトップだったし、座学だって上の方に名を連ねている。

 本来ならば、ここに呼び出されるような身ではない。

「俺はもっとできるはずだと思っている」

 そんな風に、いつもこの人は言った。

「なぁ、シュウジ。俺とは本音で話せんか」

「なにを言っているのか、分かりかねます」

 嘘だった。本当は分かっている。

 けど、そのつもりはない。

「分かった。もう行ってよろしい」

「はい、失礼いたします」

 一つ礼をして、僕は指導室から退室する。

 

 本音を言えば、僕は衛士が嫌いだった。

 周りの人間はみんな粗野で、乱暴者で、力自慢ばかりが衛士科にいる。好戦的な連中に、僕はどうしてもなじむことが出来なかった。

 僕は殴るのも殴られるのも嫌いだし、そのための訓練だってしたいとは思わない。そんな僕が誰よりも強いというのだから、周りは面白くなかっただろう。

 本当は辞めてしまいたかったけれど、状況が僕にそれを許さなかった。

 僕は孤児だ。

 物心ついた時には教会で、大多数の一という扱いだった。

 それが、衛士としての素養を認められて、売られるようにこの学園に来た。

 僕は、戦わなくてはいけないのだ。結果を出し続けることが最低条件で、貰った以上をこの国に返す義務がある。

 僕が技師になるためには、今と同じレベルの奨学金をとれるだけの結果を残す必要があった。

 それがどれだけ絶望的なことなのか、僕には本当は分かっていた。

 けれど、僕は必死だった。あの嫌いな場所を出て、皆が僕を受け入れてくれる、あの慌ただしくも穏やかで幸福に満ちた場所に、僕も行きたかった。

 そのために努力をし続けた。

 そうして、その日が来た。

 師匠、アーガイル・D・シャフトが国家反逆の罪で指名手配されて、先生が僕にクォーツを託すその日が。


 それは、今でも国の一大事件として歴史に名を刻んでいる。

 国営の教育、研究機関の教授とその研究室のメンバー全てが国家反逆罪で指名手配されたのだ。

 彼らが成した罪状は、公にはされていない。

 ただ、国家反逆罪とだけ公布され、研究室には特別に編成された騎士団が踏み込み、その全員場にいた研究生を全て、惨殺した。

 僕はそれを、先生の口から聞くことになった。

 

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