その日
「シュウジ、お前、最近どこで何をしている」
教官に呼び出されて、僕は指導室で直立の姿勢のまま尋問めいたことをされていた。
「おかしな遊びにはまり込んだんじゃないだろうな」
「そのような事実はありません」
僕は師匠の研究室に入り浸っていることを秘密にしていた。
ばれたら、きっと研究室への出入りは禁止される。この人は、どうしても僕を衛士にしたいようだった。
「……ハァ。シュウジ、お前には才能がある。それも首都の騎士団に入れるかも知れないほどの才能が」
「もったいないお言葉です」
才能。僕はずっとそんなものに振り回されてきた。
セミ・オート型の魔道人形を操れるだけの分割思考能力。それを生かせるだけの魔術師の素地に、同年代と比較して高いと言える身体能力。どれも、僕にとってはもてあますばかりのものだった。
「それは神様がお前にくれたチャンスなんだぞ。それを不意にするような」
いつものお説教だ。信心深いこの人らしい論法に、僕は辟易とする。
「こんなことを言いたくはないが、お前は奨学金で通ってる身だ。結果を残す義務だってあるんだ」
「お言葉ですが、結果はきちんと出しているつもりです」
それは事実だった。僕の成績は実戦訓練ではトップだったし、座学だって上の方に名を連ねている。
本来ならば、ここに呼び出されるような身ではない。
「俺はもっとできるはずだと思っている」
そんな風に、いつもこの人は言った。
「なぁ、シュウジ。俺とは本音で話せんか」
「なにを言っているのか、分かりかねます」
嘘だった。本当は分かっている。
けど、そのつもりはない。
「分かった。もう行ってよろしい」
「はい、失礼いたします」
一つ礼をして、僕は指導室から退室する。
本音を言えば、僕は衛士が嫌いだった。
周りの人間はみんな粗野で、乱暴者で、力自慢ばかりが衛士科にいる。好戦的な連中に、僕はどうしてもなじむことが出来なかった。
僕は殴るのも殴られるのも嫌いだし、そのための訓練だってしたいとは思わない。そんな僕が誰よりも強いというのだから、周りは面白くなかっただろう。
本当は辞めてしまいたかったけれど、状況が僕にそれを許さなかった。
僕は孤児だ。
物心ついた時には教会で、大多数の一という扱いだった。
それが、衛士としての素養を認められて、売られるようにこの学園に来た。
僕は、戦わなくてはいけないのだ。結果を出し続けることが最低条件で、貰った以上をこの国に返す義務がある。
僕が技師になるためには、今と同じレベルの奨学金をとれるだけの結果を残す必要があった。
それがどれだけ絶望的なことなのか、僕には本当は分かっていた。
けれど、僕は必死だった。あの嫌いな場所を出て、皆が僕を受け入れてくれる、あの慌ただしくも穏やかで幸福に満ちた場所に、僕も行きたかった。
そのために努力をし続けた。
そうして、その日が来た。
師匠、アーガイル・D・シャフトが国家反逆の罪で指名手配されて、先生が僕にクォーツを託すその日が。
それは、今でも国の一大事件として歴史に名を刻んでいる。
国営の教育、研究機関の教授とその研究室のメンバー全てが国家反逆罪で指名手配されたのだ。
彼らが成した罪状は、公にはされていない。
ただ、国家反逆罪とだけ公布され、研究室には特別に編成された騎士団が踏み込み、その全員場にいた研究生を全て、惨殺した。
僕はそれを、先生の口から聞くことになった。




