逢瀬
投稿時間がブレブレですみません……!
しばらくのあいだ火曜or水曜と金曜or土曜の更新とさせていただきます。時間は未定で……
リアルのほうが落ち着いたらまた曜日・時間固定に戻せるよう頑張ります……!
やはりというかなんというか。
日が経つにつれて、山岳を越えられるプレイヤーさんの数は右肩上がりに増えていった。
ま、『ナーナ』の町は物理的に閉じてはいるけど排他的ではない──というのは私やプロミナさん、フロウさんなんかの例を見れば明らかで。なんならネネカさんのお母様だって、外から流れ着いてきた流浪の魔女の一族? ってやつだったらしいし。
そんなわけでいよいよ賑やかになってきた『ナーナ』ですけれども、幸いなことにほとんどのプレイヤーさんは夜のあいだに町に入ってくれている。まれに昼間に訪れるタイプもいるっちゃいるけど、そういう人たちも静かに町内を見て回っているだけ。非常に平和だ。
まあそもそも夜の町なので昼に来ても店の類はほとんど閉まってるし、正直あんまり見どころもないんだけれども。
ぱっと調べた感じ、主な観光スポットは触手像、商店通り、彫刻工房──そして『結わえ草』らしい。
もともとPVの……ぇあー、つまり私のせいで、ネネカさんの知名度はNPCの中でも結構高いほうだった。そのうえで、この前プ鱗隊長経由で広まった司教モードのインパクトもあってか、こう、ある種の怖いもの見たさで『結わえ草』を訪れるプレイヤーさんはかなり多い様子。
んでそのまま、ラナちゃんの熱心な営業に押されてなにか買っていくパターンが大半、と。一応、微量ながら回復効果のあるアイテムとかも取り扱ってますからね。ネネカさんはすごいので。
つまりお店は大繁盛、プラス『月光讃華』司教様視点で見ても、月の触手信仰が広く知られることは嬉しいらしい。
……しかししかし一方で。
ぇあー……どうやらそのぉー、ほらあれ、へへ……ネネカさんイチ個人としてはぁ……忙しくなりすぎて私とまったり過ごす時間が減っちゃってるのがぁ、さみしいー、的な? 感じみたいでぇ、でへへ……
「──ここは静かで、落ち着くね」
というわけで今、『結わえ草』の開店前。在庫補充のための森歩きに、私とネネカさんは二人っきりで勤しんでいるというわけです。
ラッキーと言うべきか、『ノクト』探索中の他プレイヤーさんとは遭遇しなかった。数回、遠くに気配は感じたけども。ま、意図的に人が通らなそうなルートを歩いてるんですけどもね!!
なんにせよ、ほかに誰もいないガチの二人っきりというのはひさしぶりな感じ。ガーベラは「今日は少し遅れてログインするわね〜♡」と気を遣ってくれたし、最近の忙しさをバネに急成長中のラナちゃんなんかも「開店準備は私に任せてください!!!!!」とめちゃくちゃな大声で送り出してくれた。なんならオオカミちゃんたちすら気を利かせてくれてるのか、さっきからうっすら気配はすれども姿は見えないままだ。
「今は町の周りまで賑やかになってるし、なおさら森のなかは落ち着くかも」
マルのポーズで返しつつ、ネネカさんのすぐ隣を並んで進む。
プレイヤーの皆々様が『ナーナ』へ来るようになってから、早いものでもう三週間ほどが経っている。森とのあいだの草原を中心に、結構な数のテントが町の周囲に乱立している現状は、なかなか見た目にも賑々しい。
いよいよ『来訪者』向け宿を用意せにゃってことで、空き家を改装する計画が町役場主導で動き始めてはいるけれども……実際に機能し始めるのはもう少し先だろう。
そうそうその宿建設計画に触発されてか、プロミナさんが『ナーナ』内にマイハウスを建てようとしておりまして。今日はこの場にいないのは、関係各位とそれ関連の話し合いに勤しんでいるからです。
なんならフロウさんもそっちについて行きたがってたんだけどもね……ラナちゃんに引っ張られてお店の準備に駆り出されていた。力関係が垣間見える。ラナちゃんのが五つくらい年下のはずなのにね。
「フロウさんには、ちょっと悪いことしちゃったかな……?」
どうやらネネカさんも同じことを思い浮かべていたみたいで、眉根が少しだけ寄せられている。けれども口元はさっきからずっと緩んでいて、ぇあー、そのぉー、私との時間を楽しむ気持ちのほうが勝っている様子。
そも、絶対についてきたがるであろうプロミナさんが動けないタイミングを見計らっての森デートのお誘いだったわけで、ネネカさんの強かな面というか、独占欲的なものがまったく隠せていない。
嬉しすぎかわいすぎ。触手がうねうねするのが自分でも止められない。
「──っとと、もうついちゃった」
とはいえ残念ながら、今宵も時間はそう多くは取れず。
やり取りを楽しむ少しのうちに、私たちは一直線に目的地、私の初期スポーン地点でもある泉へと到達。『結わえ草』の店主ネネカさんとしての目的は、ここに咲く白い花──プレイヤーたちがよく買う回復アイテムの素材にもなる──の採取だ。
「今後も『来訪者』さんからの需要が高まるのなら、自家栽培も考えていかないと、かもだね」
取りすぎない程度に摘みつつ、ネネカさんは先を見据えている。
時折こうやって森に入るのは、人の手で育てるのが難しかったり、森の環境のほうが育ちが良かったりする草花が一つと言わずあるからで。
「最近は魔術の腕も上がってきたし……頑張ってみようかな、なんて」
これもまた『来訪者』の流入による変化。
だからこそ、楽しそうに笑むネネカさんを見ていると安心する。町のみんなも慌ただしくも賑やかに生きていて、ある意味で一番大きな変化を町に与えてしまった存在としては、やっぱり嬉しいしほっとする。
ま、人によっては「NPCに気を遣いすぎ」って思うかもしれないけどもね。
でもさ、ほら。
「……よし、と。じゃあ戻る……前に、少しだけ」
花を摘み終えたネネカさんが、ずっとそこにあった『月輪草』に近づいていくのを見てしまえば。
あんまりにも優しい表情で、それでいて夢見心地な眼差しで、私の花へと指を伸ばすさまを見てしまえば。
「いつ見ても、ずっときれい……」
やっぱりどうしたって、気持ちが入ってしまうというもんだよ。
「……触手さんと繋がってから」
葉のようにも花びらのようにも、触手のようにも見える銀色のそれに、ネネカさんが触れる。
花の輪郭をなぞる指先の、優しい動き。それらを追っていけば、自然、手の甲の骨が連動して浮き上がるのも見える。その周囲にごくうっすらと浮かぶ血管。その通っていく先の手首。月明かりを受けて淡く輝く肌。そこから少しだけ視線を上げれば、前腕部、白い肌の中に一筋走る銀痕。
「ずっと、ずっとわたしの頭のなかにも咲いている。わかる。なんとなく見えるの」
ネネカさんがさらに手を伸ばす。そうすればほんの僅かばかり、触れるか触れないかの塩梅で、触手花の先が銀痕を撫でる。ふるりと揺れる花にも、一度だけこぼされたネネカさんの熱っぽい吐息にも、どちらにも共鳴して私の体が震える。
どうしたって想起してしまう。この森の中で、深く繋がったあの瞬間を。
「ああ、また……ううん」
能動的に開示状態に移行する方法は、いまだに分かっていない。
ただもう一度、深部思考領域で繋がれたなら。ネネカさんの内なる宙に、再び触れられたのなら。
「もっと、ルミナさんと近づけたら……」
今の時代、人と高位人工知能とが深い仲になった先の行く末はいくつかある。幸せなものも、ほろ苦いものも。頑張れば手が届くものも、うんと難しいものも。
そのどれかに、私は手を伸ばしたいのだろうか。ネネカさんは、そのどれかを求めてくれるだろうか。
その答えが知りたいから、もう一度彼女のなかに入っていきたい……のではなく。
ただ、もっと知ってもらいたい。ただただ、ネネカさんといるとドキドキするということを。このイデアの世界と、私の住む世界との本質的な隔たりを理解しつつある彼女に。きっと彼女も、同じ気持ちだと信じている。
だから私のほうからも一度だけ銀痕を撫でて──それでまたネネカさんがひくっと反応して。
それから、ゆっくりとまばたき。努めて熱を抑えるような、名残惜しむようなまぶたの震え。
そうして1秒後には、ネネカさんはしっかりと『結わえ草』店主の目に戻っていた。
◆ ◆ ◆
てなわけでちょっとしたデートでリフレッシュしました私とネネカさん。
町に戻った我々を出迎えたのは──有翼種の集うクラン『有翼連盟』は東の大陸代表者、その来訪の報せだった。




