決闘(緩め)
どんどん投稿時間が遅くなってしまっており申し訳ありません……
せめて日は跨がないようにしたい……
プ鱗隊長御一行が『ナーナ』を訪れてから、一週間と少し。
今日までで、円形山岳の踏破を成し遂げたプレイヤーさんたちは計九組。
プレイヤーが一気に『ナーナ』へなだれ込んでしまう可能性を危惧してか、プ鱗隊長たちは山岳の攻略法を事細かには公開しなかった。しかしそれでもやはり、彼らのステータスや戦闘スタイルを見れば、おおよそのアタリをつけることはできる。それこそ山岳を越えようという気概と実力を持った人たちであれば、なおのこと。
一組成し遂げてしまえば、ファーストペンギンに続けとばかりに一気に踏破者が出始めたわけだ。ほぼ一日一組ペース。なもので町は、慌ただしいとまでは言わずとも少しそわそわとした雰囲気になってしまっている。悪い感じではないけどもね。
んでんで、そんなフロンティアスピリッツ溢れるプレイヤーさんたちの中でも──
「──『ティタノ・ブロウ』ッ! ですわァ!!」
──私に決闘を挑んできたやつはこれでェ三組目ッ、てわけでさァ!!
「残念。見えてるわよ〜?」
斜め後ろから石鎚を横薙ぎに振るってきたお相手さん──見るからに似非ノブレスだと分かるですわ口調金髪縦ロールお嬢様──の一撃を、素早く転げて避ける。ガーベラの煽りとともに。
場所はお馴染み、『ナーナ』と『ノクト』とのあいだにある草原。町を訪れたプレイヤーさんたちの野営地と化しつつあるその一角で、私&ガーベラvsエセお嬢様&銀髪おかっぱメイドさんの2on2が勃発中というわけだ。
半月も過ぎ、また満月の頃合いが近づきつつある今夜、この場にはプ鱗隊長らも含めて三組が居合わせていて、彼ら彼女らが離れたキャンプ地点からこちらを見学しているのもうかがえた。軽鎧のお姉さんがまた町に来てくれて私は嬉しいよ。以前にも増して怯えてる気はするけど……
「チィッ、亡霊の気配が読めませんわ……!」
おっといやいや今は戦いに集中しまして、と。
「逃がしません」
少し離れた位置から、メイドさんが長杖をかざして追撃をしかけてくる。
彼女の頭上を起点として、いくつもの小岩を隕石に見立ててこちらへ放ってくる魔術。威力はけっこう高そう、だけども!
「くっ、奇っ怪な動きを……!」
くくく、平地での移動法たるタンブルウィード走法も日々進化しているのだよ。
高速で転がりながらも時折、あえて触手を草の根や地面の凹凸に引っかけることで、軌道に不規則なブレを生じさせる。わりと単純なことだけども、これをやるだけで被弾率は激減するのだ。ガーベラには「常人がやったら十秒保たずに吐瀉物撒き散らしマシーンになるわよ♡?」って言われたけど。さすがに十秒は盛りすぎでしょ。
まあとにかく、この改・タンブルウィード走法によって遠距離攻撃はほぼ無力化、お嬢様を置き去りにして、一気にメイドさんへと距離を詰める!
「待ちなさいなっ!」
背後からの叫びをガン無視し、メイドさんはもう目の前。狙われても臆せず杖を構え、恐らくカウンター系の魔術を構えようとするその意気や良し……ですがざぁんねんッ!
「ふふ──『排斥:絶ち奪う呪詛』」
私に寄り添うガーベラから放たれた黒霞が、メイドさんの首に絡みつく。
この技に物理的なダメージはない。ただ相手の声と、それに伴う能力の行使をほんの少しのあいだ封じるだけ。つまりクソ強デバフ。
「な、くっ……!?」
カウンターの魔術を封じられ、黒霞を引き剥がそうにも触れることすらできず、まるで自分の首を自分で締めているような格好でもがくメイドさん。さあもう目と鼻の先、魔術を封じられた魔術職に、私の猛攻は防げまい! 触手ビンタ! 触手殴打! 触手腕ひしぎ! そしてェいま必殺の『月光波』ァ!!
「が、は──」
「ごめんなさいねぇ〜」
恐らく聞こえていないだろうガーベラの言葉とともに、メイドさんは地に伏した。
「──よ……よくもォ!!」
おいおいおせぇよお嬢様ァ! もうあんたのメイドくたばっちまったぜェ!?
「んふふ、聞こえないのを良いことに……♡」
いや、あっちも楽しそうにエセお嬢様ロールプレイしてるからさ。私もね?
「我が怒りの一撃! くらいやがれですわ!! 『インドミナス・ディザスター』ァ!!」
本人も敗色濃厚だと分かっているのだろうお嬢様が選択したのは、ハイジャンプからの振り下ろしという、それだけならひどく単純な攻撃。しかし唱えられた文言によって、彼女の担ぐ石鎚は白く輝き、肥大化する。私から月を隠すほどに巨大なシルエットと化したその威容は、なるほどたしかにとてつもない威力を秘めているのだろう。
しかぁし! こっちはまだ全然、余力ありありなんだよねェ!!
「そうねぇ、なら──『耽溺:蒐黒の妙指』♡」
すぐそばで聞こえる甘い声音が、黒霞をより濃く凝縮させる。
発動したのはガーベラの基礎的な能力──私の攻撃に黒霞を纏わせ威力やらなんやらを底上げする力を、より高出力・一点化させる技だ。いくつも束ね捩じり、一つの鋭い杭と成した私の触手を、黒霞が包み強くする。硬度を持たないはずの私とガーベラが、しかし硬く鋭く結合する。
──まだ完全に解明したわけじゃないけども、つまるところガーベラの能力はバフとデバフだ。私に耽溺を、それ以外の者に排斥を、非常に分かりやすい。先日3on3で戦ったときには、うっかり黒霞に触れたプロミナさんがデバフに巻き込まれてキレ散らかしていた。
ってのは置いときまして。
「オラァァァァッ!!!」
眼前、咆哮とともに見開かれたお嬢様の両目は瞳孔が縦に伸び切っていた。剥き出しになった歯もギザギザで、ぱっと見の外見は人間だけど、恐らく本質はなにかの亜人系。なんて頭の片隅で考えつつ、しかし体と闘争心は目の前の石鎚を砕くためだけに動く。
「!!!」
正面衝突、そして。
「──発破♡」
三重『月光波』ァ!!!
満月にもほど近い今宵、『月光波』の性質は衝撃力に大きく傾いている。三重はやりよう次第であのヘラジカの波動も相殺できる威力があるし、そこにガーベラのサポートまで乗るとなれば。
「なっ!?!?」
巨大な石鎚を正面から砕くことだって可能ォ!!
「正確には一点集中による破砕だけど♡」
正面突破だろうが一点集中だろうが、とにかく杭状の触手が石鎚を破壊し、その衝撃でお嬢様がぶっ飛んでいったのは事実。私も余波を受けはしたけども、そこはそれ軟体生物、ごろごろ転がってダメージを殺す。
「……くっ……この、わたくしが……!」
相手さんよりもずっと早く体勢を立て直し、とどめを刺すべく近づいていく。砕けた石片とともに地に伏すお嬢様は、動けなくとも意思の強い眼差しは変わらず、こちらを睨めつけてきた。
「ふんっ……! たとえその触手でどんな辱めを与えようともっ、わたくしの高貴なる心まで好きにできるとは思わないことですわnいってぇ!?!?」
普通にボコボコにした。
◆ ◆ ◆
「──負けましたわ。敗者は大人しく代償を払うのみですわ……」
戦闘が終わってテンションも落ち着いたんだろう、お嬢様は肩を落として町のほうへと向かっていった。楚々と後ろにつくメイドさんが、なにやら慰めの言葉をかけている。
『ナーナ』を訪れたプレイヤーさんたちとの決闘において私が勝った際に求めるのは、“『ノクトの森』での狩りや採集をしないこと”及び“できれば『ナーナ』で買い物でもしていって欲しい”の二つだ。
挑んでくる側が欲しがるのはいろいろだけど、この条件を呑んでくれるのなら一組につき一回だけ決闘を受けている。
ほかプレイヤーさんの行動に一方的に口を出すことはできないけども、互いになにかを賭けての決闘であれば、こういうことも可能なわけで。一応は森の主なのでね? できる範囲で『ノクト』を守っていこうかなと。っても今のところ、「ヒャッハーッ森焼くぜェーー!!」みたいな人は来てないから、大丈夫ではあるけども。
「きっと触手の置き物とか買わされてしまうんですのね……」
「お労しやお嬢様……」
売っとるかんなもん。
『ナーナ』の皆さんはねぇ、私でお金取ろうとか考えてないの。信仰は広めたがってるけど。
……現状『ナーナ』へたどり着いたもしくは目指しているプレイヤーさんたちの行動原理は興味本位、つまり怖いもの見たさってのがほとんどだ。
プ鱗隊長経由で『月光讃華』の存在が明らかになったからね……というかネネカさん(司教モード)が「せっかく来ていただいたのですから、『来訪者』の皆さんにも銀色様の素晴らしさをもっと知ってもらいたいです」とか言っちゃったからね……“触手カルトの隠れ里”ってフレーズがものすごい勢いで広まっている……
いやあの、不肖ながら信仰されている身としては、気恥ずかしさと(これはたから見たらやべぇんじゃ……)という気持ちが多分にありますけれども……でもやっぱり、町の有り様は町の皆さんの意思によって形作られるべきだと思っておりまして……そうしたらばノリノリで月の触手信仰を広めようとするムーブメントにバツのポーズで水を差すなど、とてもできようはずもなく……
「あーん『腕輪の破片』欲しかったですわー」
「きっとまた別の機会もございましょう。なんでしたらほら、そこのキャンプにも所有者がいるわけですから──」
そんな中にあって明確な物欲から私の前に現れた者たち、主従二人の声が遠ざかっていく。
あのお嬢様が求めていたのは、私が持っているとあるアイテムだった。
「委細不明なものを欲しがる……まあ、その気持ちは理解できるわ〜♡」
私、ガーベラ、プロミナさん。プ鱗隊長とそのパーティーメンバーほか。大陸を跨げば、勇者パーティーさんたち。つまり『封印巨骸』を撃破し、かつ戦闘中に一定以上の貢献をした者が所有しているもの。
鈍い光沢を残すその金属片をアイテムストレージから取り出し、眺めてみる。
『ヴェグレラの腕輪の破片』
神代の巨人ヴェグレラの腕輪、その砕け散った一欠片
今やそこに、なんの力も宿ってはいない
遥か遠き神代、分け隔たることをこそ秩序とする者たちが現れた
星の原母たる汚濁より生まれ、しかしその一つであるさまを蔑如し、個たらんとした者たちが
それ自体にはまったくなんの効果も宿っていない、記念品めいたアイテムを。




