表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の触手は健全に遊びたい 〜魂の姿がアバターに表れるVRゲーム──え、私の魂って触手の化け物なの?〜  作者: にゃー
第三章 封印城攻略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/58

腕と触手と霊嬢と 6

投稿が遅れてしまって申し訳ありません……

一応、今週中で三章完結予定となっております……!


耽溺(アヴェル)解放の甘言(クフェルトムレヤ)

 知らずも内に眠りし力、知らぬはただただ当人ばかり

 なれば執する霊嬢こそが、愛で囁いては知らしめる

 その執されるはただ一人、知り得ることもないのだろう

 心からの睦言が、甘美な教唆であるなどと


 

 ちらりと見えたテキストを噛み砕く間もなく、私の中の『月光』が力を増した。

 

 ヘラジカ戦以来の顕界度Ⅱは、やはりふつふつと私の気分を高揚させる。

 開示状態・顕界度Ⅲほど露骨な多幸感ドバドバ状態ではないけれども、そのぶん、理性と享楽のバランスは比較的維持されたまま。体に合うお酒を飲んでほどよく酔っているときとかに近いかも?


「さあほら、約束通り少しだけ♡ もたもたしてると終わっちゃうわよ♡?」


 急かすように、唆すように、ガーベラが耳元で笑っている。いや耳ないけど。いやいや、耳ないけどなんか耳元って感じがすんの。ASMR!

 ともかく彼女の言葉通り、今回の顕界度上昇はことさらに短いあいだだけなのだということは、直感的にも理解できる。これは私自身に拠らない、ある意味で非正規な力の解放なのだと。ならばますますもってこの一瞬を最高のパーティーにしなければならない。


「──、──」


 ちょうどこのタイミングで、業を煮やした[ヴェグレラの左腕]が私たちを押しつぶそうと後ろに倒れ込む。そんなのはべつに、手のひら側に回り込んじゃえば簡単に回避できるんですけどもね。


「っ! 倒れ込んだっ……!」


「隊長の手本に倣え! 指か球だっ!」


「てかあの黒いのなにィ!?」


「“亡霊”!? なんで仲間になってんのォ!?!?」


「知るかァ! どうせ俺らには分からんッ!!」


 地上の皆々様もこれ好機と群がってくるけど──ああやっぱり。


「──、──」


 腕を振り、円を描いて起き上がる、その過程の薙ぎ払いでまとめて処されてしまった。一応ここまで生き残ってるんだから、これで死んじゃうって人は少ないだろうけども。


「ヒィィィッ……!!」


 その中でも運が良いのか悪いのか、中指と人指し指のあいだにハマって掬い上げられた軽鎧のお姉さんを触手で保護し、もはや「ヒ」と「ィ」しか発せなくなってしまった哀れなその人をポイと放り投げる。だいじょぶだいじょぶ、まだ壊されてないテントに向けてなるべく優しく投げたので。


「ルミナちゃんにしっかり感謝するのよ〜♡?」


 したらば次の問題は、左腕が起き上がりつつも円運動を止めず、遠心力で私を引き剥がそうとしているところだ。悪趣味な起き上がり小法師みたくぶぉんぶぉん揺れまくっている。

 さすがに吹っ飛ばされるなんてことはないけども、この巨体でやられると生じるエネルギーも並大抵ではなく、どうしたってこっちの体は浮いてしまう。


「──、──」


 いや、まさしくそれを狙っていたんだろう。

 数本の触手をどうにか親指に巻きつけたまま宙を舞う私に、左腕は狙いを定めてきた。まだぐるぐると体を揺らし続け、しかしまったく精密に、ゆるく閉じられた四本の指先が私をロックオン。


 言うまでもなく『汚濁』レーザーの第二射だ。

 さっきと比べて発射口は一つ減ったけれども、その威力は依然として脅威に変わりない。そんな攻撃の予兆が、肌身に伝わってくる。


「ルミナ♡」


 ──ま、分かってりゃ対処できるんですけどねェ! 触手ボディなめんなッッ!

 今度こそ回避──にとどまらず、利用させてもらいまァーっす!!


「──、──」


 レーザーが発射される直前、さすがにその瞬間は、ずっと揺れ動いていた[ヴェグレラの左腕]が静止した。

 その一瞬、私にかかる慣性を利用して左腕の薬指へと触手を伸ばす。親指を掴むそれは離さないまま、二本の指に触手のアーチを形成、そしたらあとは思いっきり引っ張るだけ。親指を関節に沿って曲げるように。


「よいしょぉーっ♡♡!」


 体が適応してきたのか、それとも彼女の力によって顕界度が上がっているからか。今回はうっすらとながら感じ取れた。ガーベラの両足が私とともに踏ん張り、両腕が私とともに力んだのが。私たち二人分の力、一瞬だけなら、このデカ腕モンスターの指一本を引っ張るには十分だ。


「──、ッ」


 はい、そして光線発射。


 濁った四本線のうちの一筋、親指の先から発せられたそれの軌道が歪み、当人に直撃する。

 人指し指を根本から、中指をちょうど真ん中のあたりから焼き切る形で。


「、、──、ッ」


 悲鳴はなく、けれども明確に苦しんでいるのだと分かった。

 切断された二本からは即座に照射が止まり、薬指もあらぬ方向を指している。こちらのダメージは完全にゼロ、対して相手方、これで残りの指はちょうど半分の2.5本。レーザーの脅威も半減だ。


「からのぉ〜♡?」


 ええそうさすがガーベラ分かっていらっしゃるっ、こんだけじゃあ終わらないっ。

 身悶えする左腕に張り付きながら反撃……いや追撃? とにかくそっちがレーザーならこっちもレーザーってわけよ!


 今の私が一度に撃てる『月光波』は八発。その全てを束ねて一つにする。幾筋もの触手を織り合わせ、照射口あるいは砲身を作り出し、そして『月光』を収斂させる。狙うは弱所たる『汚濁球』。


 知ってるか腕の化け物? この技の名前考えたやつはいま私と一緒にいるんだぜっ?


「収束じゃあないのよ? つまり『収斂──♡」


 ──月光波』ァ!!


「──、──ッ!」


 ほぉ〜〜〜〜っ?? 避けるかっこの距離でっ! やはり『汚濁』として情報は共有済み、そして同じレーザー使いとあらばっ! まさしく私と同じように、予兆を読み取ってからの対応ができると!


 だが甘ァい!!


 『収斂月光波』の照射時間はほぼ一瞬、おそらく二秒もない。

 二秒ありゃ、振り回せんだよ、触手ボディ! 季語は触手ゥ!!


「──、、」


 『収斂月光波』に音はない。

 だからまったく静かに、横薙ぎに振るった銀色の光波は[ヴェグレラの左腕]の手首を切り落とした。


「なぁいすぅ〜♡」


 へへ、あざっす……♡

 しかしあれだな、プロミナさんの手足を切断した経験が活きたな……光波一本の出力はあのときよりも高く、つまり振り回すのは難しいけど、でも一度できたことがもう一度できない道理などっこの『月の触手』にはないのだがはは!! ──とぉ?


[教唆の影響が失われました。顕界度が一段階低下します]


「……きっかり一分。分かりやすくて助かるわねぇ♡」

 

 アナウンス、そしてガーベラの言葉とともに、力が滾る感覚が失われる。

 ほんの少し遅れて、[ヴェグレラの左腕]の手首が地面に落ちる。へばりついたままの私とともに。

 

 切り分けた手首と前腕部では、サイズとしては前腕部のほうが当然大きいけれども……こいつの核はあくまで『汚濁球』だ。ずしんと倒れた前腕部分は、そのまま物言わぬ亡骸になった。

 んじゃここからは[ヴェグレラの左腕]ではなく[ヴェグレラの左手首]とでも名乗ってもらおうか。


「流石に撃破とまではいかなかったけど……でも、これはこれで……♡」


 ええまったく、さっすがに『汚濁球』を狙い直す余裕はなかった。

 でも悪くはない成果なんじゃないかと思う。先の指切断で、分断されたパーツそれぞれが動き出すだとか分裂再生するだとかはないって分かってたし。そのうえで、こいつは高さやリーチをほとんど失った。つまり──


「っしゃぁ囲め囲めっ!!」


「テントの仇じゃァ!!!」


「球狙え球ァ!」


「お下品ですわよ!」


「お下品って思うほうがお下品なんですのよぉ〜ッ!!」


 こんどこそ、群がってくるプレイヤーたちのいい的というわけだ。

 

 これでもまだ体力がそこそこ残ってるのがすごいけど……こうなってはそれももはや、弱った敵を囲んでボコボコにするレイド戦の楽しみの贄にしかなり得ない。

 そうら人間ども、叩け叩けぇ〜。


「あんたら誰のおかげか分かってんでしょうねェ!! トドメはルミナちゃんに譲りなさいよ!?」


「うむ。それが道理、礼儀というものだろうな」


 よく通るプロミナさんの叫びに、生真面目なプ鱗隊長の言葉。いくつも重なる、プレイヤーさんたちの……まああの、あまり品性を感じない楽しげな怒号。

 

 そして。それらよりもうんと小さく、けれどももっとも近くから聞こえる、ガーベラの声。


「ふふ、愉快ねぇ……」


 そうだねぇ。


「……ルミナ、改めてありがと♡」


 いえいえ。


「退屈から連れ出してくれて♡」


 いえいえいえいえ。

 私も、ガーベラといるほうが楽しいからねぇ。


「っ♡♡」


 静かな会話のさなかにも、ガーベラの黒霞(みぎて)は私の触手(ゆびさき)に寄り添って──二人で仲良く[ヴェグレラの左手首]をぶん殴る。


「……ねぇ、さっきから女の声? みたいなの聞こえるんだけど気のせい……?」


「女ァ?」


「うん、なに言ってるかは分かんないけど……なんか、囁き声みたいな……」


「え、なに怖い話? 今このタイミングで!?」


「ヒィィィ……!」


 近くにいたプレイヤーさんたちも、いまは『月の触手』がどうとか関係なく攻撃に参加中。いや別ベクトルで気になること言ってはいるけど……そのあたりもガーベラが検証とか考察とかしてくれるはずっ。


「勿論♡ ……でも今は、純粋な暴力に身を委ねるわ〜♡」


 えらく物騒なことを言いよるわ我が親友。まあ私もいまはそういう気分だからいいけど。おそろっち♡



 ──とまあ、ここからは長く語るものでもない。


 みんなでひたすらぺちぺちぺちぺち攻撃し続けて。 

 時折くるシケた反撃をわーきゃーいいながら回避して。

 どれくらいかな……たぶん、そんなに長い時間は経たなかったと思う。


 とにかく、まだ月も真上に昇りきらない頃合いに。



[[戴冠者:『封印巨骸』ヴェグレラの左腕]を破壊しました]

[『汚濁』関連イベント『封印城の巨骸 東』をクリアしました]


「っしゃおらァッ!!」


「ザマァ見さらせ腕野郎が!!」


「まぁオレらは囲んで叩いてただけなんですけどね〜!!」


「どっちが悪か分からんなもう……」


「んなもん決まってるよなァ!?」


「勝ったほうが正義ィ!!!」


「つまりルミナちゃんこそが大大大大大正義! あんたらもようやく理解(わか)ってきたようね!!」


「「「アッ、ハイ」」」


 

 私たちは非常に野蛮に、封印城のボスを撃破した。

 ちなみにトドメはゼロ距離四重『月光波』にガーベラの黒霞(ドロップキック)の合せ技でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
下品ですわよ! 「下品なのは球じゃなく玉のときですゥー!」「玉潰せェー!」 下品ですわよ!? 「命(タマ)とったらァー!」 さてこれから町に戻るわけだが、リアルでの理解者とゲーム内のビビッときた女性…
>この一瞬を最高のパーティーにしなければならない。 大切なメロディ(囁き系ASMR)はいつも耳元に流れてますからね……
派手な攻撃の後なまじ体力が残っていたため やられボスとしては地味な最期になった左手首 ルミナに手をだすから〜 ガーベラ救出のとばっちりだったことは知らぬが仏 ところで帰りはやっぱりプロミナ耳なんだろ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ