明 ノソラ ライブ配信 2
……案の定、リスナーどもが話題そらすの下手すぎとか煽ってきた。が、そのすべてを受け流す。さながら触手柔術のごとく。
そうする内に、こいつらも諦めて違う話題を引っ張ってきてくれるって寸法よ。はい私の勝ち。
〈──しかしあれだな。今日はイカロス静かだな〉
〈さすがのアイツもドン引きしたんちゃう? 人ならざる者の本性に〉
「違うわい! イカちゃんとは昨日の夜でお話済みですぅ〜今ちょっと静かにしてもらってるだけです〜」
〈リスナーと裏で繋がるな〉
〈裏でも繋がり触手でも繋がり……〉
「はい、もうちょうど話題に出たからこの話に移りますけどもね。そもそもイカちゃん──プロミナさんはなんで『月の触手』ことルミナに絡んできてたのかってね」
〈たしかになんでだ?〉
〈元々知ってたわけじゃないんだよな?〉
っしゃァ話題そらし成功!
これ幸いと私は、イカちゃんがなにを考えてプロミナとして行動していたのかを話す。や、この話しようと思ってたのは本当ですよ? てわけでカクカクシカジカ。
〈──月の触手を倒して名声を高めて?〉
〈太陽教団の神としてノソラを迎え入れて?〉
〈気兼ねなく遊んでもらう?〉
「ってことらしいです。本人曰く」
〈???〉
〈ちょっとよく分かんない〉
〈なんかすごい飛躍があるな〉
「ね。正直私もなに言ってんだこの子……ってなったよ」
〈てか普通に暴走迷惑行為では?〉
〈頼まれたでもなく勝手にやってるわけだしな〉
「そうなんだよねぇ〜。しかもその結果、ノソラ=『月の触手』ってバレちゃったし」
〈アイツがっつりやらかしてないか?〉
〈それこそ化け物だってバレたくなかったノソラの意思に反してるわけですが〉
〈勝手に動いて推しに迷惑をかけまくっている〉
〈ちょっと擁護できんかも〉
「ぇあー、そこは正直べつにいい……いやよくはないけど。まあ私に迷惑がかかる分には「こらっ♡」くらいの感覚なんだけどさ」
〈こらっ♡ で済ませて良いレベルか?〉
「いやね、やっぱ一番の問題は、私のためって名目で人様に迷惑かけてるところだよねぇ……その人様──『月の触手』がたまたま私自身だったから、まあこんな程度で済んでるわけで」
〈やってることは推しを理由に赤の他触手に粘着だからな〉
〈全方位迷惑行為ウーマン!〉
そう、こればっかりはさすがにいただけない。
いま内輪であーだこーだと言えてるのはひとえに、『月の触手』=明 ノソラだったという偶然、幸運、いやもう奇跡のおかげだ。
これが例えばプロミナさんが別大陸にいて、ぇあー、そう、十八刀流の人とかに突っかかっていってたら……となれば、どう考えても「めっ♡」程度じゃ済まなかっただろう。あの子も私も大炎上間違いなし。
〈正直普段からイカロスは短絡的だよなと思うことはあった〉
〈配信で見てる分には面白いんだがなぁ……〉
〈内輪の外に出すとダメなタイプだったな〉
〈話を聞く限り、今後もノソラさんのためといって他プレイヤーに迷惑をかける可能性が頭を過ってしまいますね〉
「はいもうまったく、ご新規さんの仰るとおり……ぇあー、てわけでその辺の再発防止も含めて、イカちゃんには私から罰を与えようと思います」
〈まあそうね〉
〈やったことの報いは受けないとな〉
──えっそれアレ、なんだっけ……そうっブラック企業ってやつ!? 近代史の授業とかで聞いて以来かも……実在したんだ……!
そう、かもしれないです。よく分からないです。最近、頭があんまり回らなくて
──いや絶対ヤバいやつじゃん!!
でも、ほかの人だって頑張ってますし
──べつに、他人が頑張ってるから自分も必ず頑張らなきゃいけないってわけでもないと思うけどねぇ。やまあ、そりゃある程度は頑張らないと生活できないけどもさ
生活……あたし、生きていくだけなら働かなくてもなんとかなります。その、親のおかげで
──え、じゃあいいじゃん。やめちゃえばそんなヤバい会社
良いんでしょうか。自分の力でもなんでもない、恵まれた環境に胡座をかいて生きるなんて
──いや全然良いでしょ。少なくとも私だったら全力で楽する方向に走るね! 生まれ持った幸運、恵まれた環境、サイコー! あるものは有効活用しなきゃねぇ!!
……何度思い返してみても、無責任な酔っぱらい女だ。アルコールが抜けてから肝が冷えたのを覚えている。
私と一緒に過ごすようになってイカちゃんは壊れずに済んだ──なんてのは完全に結果論であって。鬱状態の人への対応としてあれが正解だったなんて口が裂けても言えない。偶然と幸運、つまり奇跡。
アホみたいにあの子を肯定し続けてきたのは私。死ぬほど甘やかしたし、そのお返しにと死ぬほど甘やかされた。たぶんそれが行き過ぎてたんだと思う。あの子が仕事をやめて、鬱期を抜けてからの性格形成に歪みを与えてしまったのは私、明 ノソラだ。
だから。
「──今後イカちゃんはイデア内に限り、無期限に、私に従ってもらいます」
それが、私が与えられる彼女への罰。
〈???〉
〈どゆこと?〉
いつだか甘愛が言っていた「明里が生み出した化け物よ〜ちゃんと面倒見てあげなきゃねぇ〜♡」というセリフが脳裏をよぎる。
あの子という化け物には首輪が必要。ならばハンドラーの役は私が担わなければ。
「そのまんま言葉通り。んでその一環として、プレイヤーだろうとNPCだろうと、私の許可なく接触するのを全面的に禁止します。これなら他人に迷惑かける心配もない……と思います」
〈いやまあそりゃそうなんだけど〉
〈なんか……なんか変じゃね?〉
〈罰としてはちょっとズレてる気がする〉
〈自由を奪うって意味ではかなり容赦ないけども〉
これは、かつて彼女を追い詰めた良くない会社と同じなのだろうか……なんて葛藤は、昨夜イカちゃん本人が二つ返事で承諾した瞬間に吹っ飛んだ。
縛り付けるという意味では良くないことかもしれないけど、どうせ縛り付けるなら幸せな罰の中に、だ。
〈そもそもイカロスが従う義理はあるのか? いやアイツなら喜んで従いかねんけども〉
「もしこれを破って人様に迷惑かけたら、私はもうイカちゃんのことをいないものとして扱います。ノソラとしても、ルミナとしても」
〈あー……〉
〈それは効くだろうな〉
〈こっちが本命の罰か〉
〈なんなら即執行でも良いレベルの迷惑被ってると思いますけどねノソラさんは〉
正直こっちのほうの罰だって、身内でコトが収まったからこそのもの。はたから見ればきっと戯れだ。お遊びだ。でもそれで良い。私は彼女を突き放せない。だって、私はイカちゃんのことが大好きなんだから。
…………………………で。だからこそ。
「──そもそもね? 私の最初の人でありながら私以外の存在に粘着するとかマジであり得ないでしょって話でね? なに私じゃない女とよろしくやっとんじゃと。なんなら私はそこに一番キレてるからね? こんなん浮気だよ浮気」
〈え?〉
〈あ、そっちすか?〉
〈そっちが本音かよ〉
〈私じゃない女(私)〉
「ほんとに偶然奇跡的にそうだったってだけで、イカちゃん視点だと私以外と仲良くしてたのは間違いないじゃん! 許せねぇ〜!!!」
二度と私以外の存在に執着なんてさせてやるもんかよ。私たちは二人で明けの空を見た仲なんだぞ。
決闘前の彼女の言葉だって覚えている。「なんでも言うこと聞いたげる」と言ったのはイカちゃん自身だ。逃がさない。
〈こわ〉
〈もしかして:この女面倒くさい〉
「私以外に目移りした罰ですハイ決定もう逃げられませーん♡」
〈そ、そう……〉
〈これには無敵イカロスもにっこり〉
〈もしやこれ盛大にいちゃついてただけだったりするっすか?〉
「私は! 本気で!! キレてるから!!!」
〈いやでもこれで本人はイカロスより親友ネキのが大事って明言してるのかなりタチ悪いぞ〉
〈イカロスは二番目の女として大事に大事にキープしとくってことか〉
〈普通に最悪で草〉
〈この方もしかしてカスですか?〉
〈まあ触手の化け物の価値観は人間には理解できないって今しがた判明したばかりですし〉
〈なんなら月の触手としてはハーブのお姉さんのほうが距離感近く見えるっすけどね〉
!! ネネカさんの話!!!
「ぇへへ……やっぱりそ、そう見えちゃう……? へへ、ネネカさんはそのぉ……一緒にいるとドキドキする女性っていうかぁ……昨日繋がって確信したけど、ネネカさんも私のこと憎からず思ってくれてるっていうかぁ……」
〈うわなんだその乙女みたいな声〉
〈ノソラの声帯から出るなどとは一ミリも想定してなかったボイスで困惑してる〉
〈完全に恋する乙女っすね〉
〈ぎいぃぃいいいいいいい!!!!!!!〉
おわっイカちゃん。
〈うわぁ急に奇声あげるな!〉
〈出たな三番手の女〉
〈降格してて草〉
〈また負けてるよこの無敵イカロス……〉
〈こいついっつも負けてんな〉
〈無敵とは一体〉
〈無敵貫通はインフレの始まりだぞ〉
〈最初っから親友ちゃんがやってんだよなぁ……〉
〈まあ行いの迷惑ぶりを考えればこの程度の脳破壊軽い軽い〉
〈絶対服従=常にそばにいる=常に脳が破壊され続けると考えれば罰としてはそれなりか?〉
〈脳クチュ(物理)からの脳破壊(精神)〉
なんかコメント欄が大盛り上がりしている。あと私はカスではない。これほどまでに健全でどこに出しても恥ずかしくないイケ触手がいるか? いやいない。
「なんの話だっけ?……ぇあー……そうっ、今日一番伝えたかったことは伝えましたよと。ルミナとプロミナがどういう経緯で関係を持ったのか、その顛末として、これからの私とイカちゃんの関係がどうなるか、的な。うちのイカちゃんが馬鹿やってごめんなさい」
〈すみませんでした〉
最初に、あくまで身内に向けた説明だと示したのはそういうことだ。こんなの、明 ノソラという存在に興味がない人が聞いてもなんも面白くないだろうし。
〈いやまあその、俺らに謝られてもね〉
〈話聞く限り迷惑被ったの一から十までノソラだけだからな〉
〈うん、いいんじゃないですかね当人らが納得してるなら〉
〈なんだかもうよく分かりません。ありがとうございました〉
〈ようするに奴隷一匹手に入れました報告ってことでOK?〉
〈一匹て〉
〈ナチュラルボーン人権侵害〉
〈天使はねぇ! 人間じゃないんですよぉ!!〉
〈もしかしてリスナーさんもおかしい感じですかここ?〉
〈そんなことないって!〉
〈私たち超まとも!〉
〈えーあーしも超まともだよ! まとも過ぎてスネイルシミュレーター10分耐えられなかったもん〉
〈本当に超まともだな……〉
イツメンのリスナーも、今回の件でチャンネル登録してくれた人たちも、みんなたくさんコメントしてくれている。嬉しい。あとスネイルシミュレーターは神ゲーだから。
「はいまーそんな感じで、喋ることは全部喋ったのでぇ……今日はこのあたりで終わろうと思いまーす」
〈マジか〉
〈普段のノソラではあり得ない同接数だけど終わるん?〉
〈もったいなくね?〉
「ぇあー……こっからいつも通りの雑談配信ってのもなんか……なんか違うなぁと」
〈フィーリングで同接五桁捨てるな〉
〈思い切り良すぎませんこの人? あ、ごめんなさいこの触手〉
〈こ の 触 手〉
〈この触手ゥ!〉
〈ご新規さんもだいぶ馴染んできたな〉
〈ククク……実によく馴染みますよ……〉
〈強者の体乗っ取る系の敵?〉
「土壇場で乗っ取った体のスペック発揮しきれなくて負けそう」
〈さすが脳クチュが趣味の触手は乗っ取りの解像度が高いな〉
「趣味ではないが!?」
〈できるからやっただけだもんな〉
〈僕らで言うところの鼻からスパゲッティですね〉
〈ですねじゃないが?〉
〈ねぇーご新規さんの中にもバケモンいんだけどー?〉
〈一般人類は鼻からスパゲッティを食えない。覚えておけ〉
たぶん私は内輪でワイワイ馬鹿やってるのが好きで、大勢の人に見てもらいたいって気持ちはまあそこそこ程度で、そういう意味ではあんまり配信者とか向いてないのかもしれない。
でもいいのだ。
「はーいはいはいってわけで配信終わりますっ見に来てくれてありがとうねぇ〜ご新規さんもいっぱい増えて私はとっても嬉しいです。これからも仲良くしてくれるとさらに嬉しいです。あっそれから私っ毎朝おはよう配信してるから良ければ明日の朝とかもぜひぜひ見に来てねぇ〜」
〈まじで朝の支度しながら配信してるだけのやつな〉
〈独自性とか皆無〉
〈いや触手界隈ではアレが無限に擦れるバカウケ超バズりコンテンツなのかもしれん〉
「んなわけがあるかっ! こっちも名前にちなもうと頑張ってんだよ!!」
アレコレ言いながらも見に来てくれる“身内”が、私は好きなのだから。
次回で二章完結となります。




