□後編
二度も空振りするとは、吾輩としたことが、自分で自分の異能を疑いたくなる。
いったい、何が間違っていたのであろうか。
不自然に明るき色に髪を染めた親子が居り、よそ見をしていた子供が老人とぶつかり、子供は飴を落とし、老人は転倒した。
膝をさすりつつ立ち上がる老人に、子供の親は、過失と弁済を求める旨の罵詈雑言を浴びせていた。
正直、平謝りする情けない老人と、泣けば済むと思ってる子供に用が無かったので、部分的に時間を巻き戻し、落ちている飴を開封前に戻して手渡した。
すると、親は吾輩の手から飴を取り上げるやいなや、子供の手を引いて立ち去ってしまい、残った老人からは拝まれてしまった。
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このあと、老人は、車輪の付いたカゴに入れていた袋から、立方体が詰め込まれた直方体の紙箱を取り出して渡そうとして来た。
正直、そんなものは無用の長物だと思ったが、受け取らないと厄介だと察した吾輩は、貰っておいてやった。
それからも、幾度となく闇の誘惑に乗りそうなオーラを察知しては、発生源に向かった。
しかし、どれも全く当てにならないばかりか、いつの間にやら、手荷物が増えてしまった。
成功を掴むためにも、失敗例を整理していこう。
一筋縄ではいかぬように見えても、よくよく糸口へと辿れば、打開策が浮かぶやもしれぬからな。
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第一に、高層建築物の近くは、上から希死念慮に満ちた男が落ちてくるから、受け止める羽目になってしまう。
第二に、生きる屍のような女に声を掛けると、さんざん長話に付き合わされた挙句、改心させてしまうので良くない。
第三に、過重な荷役に追われる人夫が運転する車も、その前へ飛び出そうとする命知らずも、どちらも駒として使えないので、止めてはならない。
第四に、商店の前を通り過ぎると、希ガスの入った袋を渡されるので、避けねばならない。
第五に、金目の物を持って走っている黒づくめの前に立ちはだかると、追いかけてきた善良な人間に喜ばれ、個人情報を聞き出そうとしてくるので、通行の妨げにならぬようにせねばならない。
第六に、物陰から刃物を持って奇襲する輩を、黒魔術で返り討ちにして武器を捨てさせても、大した収穫にはならない。
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ここまでで、吾輩は気付いてはならぬ点に気付いてしまった。
どうやら、ヒロシ少年の身体を借りて吾輩が行った所業は、どれも地球では正義として褒めそやされる行為だったのだ。
これでは、いけない。
吾輩には、悪の総帥として、全宇宙を恐怖で支配するという目標があるのだ。
そのために、これまで辛酸を舐め、苦渋の決断をしてきたというのに。
このままでは、偉大な計画が水泡に帰してしまうではないか。
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……しかし、何故だろう。
善を憎んで来たにもかかわらず、いざ、善を積んでみると、悪い気がしないのは。