これからの未来
椿を抱いたのは彼女が18歳になった夏休みに二人で行ったカナダだった。
仕事の都合上誕生日を繰り上げて避暑地で過ごそうと思ったがなかなか会議が終わらずイライラしていた。
椿は仕方なく1人で近くを回ると言ったが僕は反対した。
それでも彼女は近くを散策するだけだからと言う。
是迄僕の言う我儘を全て叶えてくれた椿を大事にしたいと思っているのに取引先の女性部長はこの会社の社長の娘だそうだ。賢く美人だが当然それを武器にしつこく絡んでくる。
漸く会議が終わっても食事の予約を取ったから付き合えと言って来た。
如何にも『接待してあげます。』という態度が気に入らない。
僕はカイルに任せて椿の元へ戻った。
途中から連絡するとカフェに居ると言う。GPSを使って向かうとテラスで男達に囲まれていた。
「椿。」
名を呼ぶと顔を上げ男達に答えた。
《フィアンセが来たから私の勝ちね。ごきげんよう。》
どういう事だ?不審な目で見ると僕の上着の匂いを嗅いだ。
「未來君、今日の相手は女性だったでしょ・・・それも美人のクロ○が似合う素敵な人・・・・」
何故知っているんだ?
「さっきの人達ね、その綺麗な部長さんの秘書だったり部下だったりですって。
君みたいな小娘に未來・ディランは勿体無いって言われたの。
だから私は『会議が終わったら彼は必ず私の元に駆けつけます。』って言ったのよ。
彼らが言うには『今夜は部長とホテルでディナーだから君の所には帰らない』と言われ賭けをしたの。クロ○は未來君から香る女性のかおり・・・着かず離れずって位置よね。」
全く・・・椿の洞察力は瑛並・・・流石僕が選んだフィアンセだ。
「僕を信じてくれた椿に何かプレゼントしたいな・・・・」
肩を抱き寄せて言うと笑った椿は
「今は未だ要らないの・・・だけど何時かは未來君の子供が欲しい・・・」
照れながら俯く彼女をこれ以上我慢できなくてホテルに連れて帰り抱いた。
僕らの体格差からかなり無理をさせるだろうと思い時間を掛けてゆっくりじっくり溶かして一つに重なった。
それでも次の日は動けない程に負担を掛けてしまった。
椿は『嬉しい』と涙を流す。此れからも大事にしたいと思った。
アメリカに帰り梓を尋ね椿と一緒に暮らしたいと告げると、覚悟はしていたから大丈夫だと言われた。
梓は本音を言うともっと早く迎えに来ると思っていたらしい。楓がこっそり教えてくれた。
僕だって本当は婚約した時点で一緒に居たかったが仕事の事や椿の大学生活を思えばもう少し梓達の傍に居たほうが梓は喜ぶだろうと思ったから我慢した。
daddyがmomを詩音から離したのが早過ぎたから梓に気を使ってしまった。
椿とは大学を卒業後直ぐに結婚式を挙げその後は梓の事務所の事務をしていたが最初の妊娠を期に仕事を減らした。この時きっぱり辞めさせておけば良かった。
椿に嫉妬したカナダの女部長の部下に依って階段から突き落とされた椿は流産してしまい暫くは泣き暮らし落ち込んでいた。
僕は怒りでこの部長が居る会社を潰した。銀行や取引先全てに圧力を掛け二度と表に出て来れない様に追い込んだ。
階段から突き落とした部下は今でも刑務所に居るらしいがその方が彼にとっては安全だろう。
実際家の暗部の事までは深く知らないがディランの初孫を楽しみにしていたdaddyを怒らせてしまったからにはもう無理だろう・・・数々のスキャンダルをマスコミが掻き立てたからこの国で再起不能だ・・・・
今では社長ファミリーと彼女の取り巻きの消息は解っていない・・・
それから椿に余り負担を掛けたく無くて次の妊娠を楽しみにしていたが僕が30になった時等々椿は不妊治療を申し出た。彼女は永遠にアドバイスされたらしい。
治療を初めて3年後懐妊の連絡を聞いた時には涙が出た。
この頃には永遠が研修医をしていたので逐一報告してくれる。
もう直ぐ臨月という頃永遠に呼び出され病院に行くとエコーで確認した子供はとても元気で何時生まれても良い位に成長していると言う報告と椿の体型から帝王切開でないと産めない大きさだと言った。
椿は問題ないと言ったが僕はまたしても彼女に負担を掛けてしまうのかと思うと申し訳なさで一杯になった。
そんな僕に対して椿が一言『帝王切開でも未來君の子供が産めるなら何人でも欲しいわ。』と言って笑ってくれた。永遠は僕の誕生日にオペの予約を入れ帝王切開での出産に立ち会ってくれた。
オペ室の上から見守る僕に取り上げた子供を見せると降りて来いと呼んだ。腕の中で抱き上げた子供はブロンドヘアーで僕と同じ目をしていた男の子。
《グランマが喜ぶよ》
永遠に言われ僕も納得した。
待合室の両親に電話を入れて新生児室に来て貰うとdaddyはグランマに電話をかけていた。
momは《グランマの色した未來だね。》と言って愛おしそうに抱いてくれた。
僕の生まれた時の記憶なんて無いけどmomは何時だって宝物に触れるように赤ちゃんを抱く。
「Angel・・・」
momの一言で『ミカエル』と頭の中に名前が思いついた。
『マイケル』でも『ミゲル』でもなく『ミカエル』・・・・退院しグランマの部屋に連れて行くと
《私のミカエル・・・会いたかったわ・・・》
未だ両親に内緒にしていたのにグランマはそう言った。不審に思いグランマを見つめると
《夢で何度か遊んだのよ。》
ロッキングチェアーの上でそう言ってミカを抱いていた。
椿の為に自宅に看護師を入れたがナニーはmomがグランマの為に要らないと言った。
夜は僕達夫婦かパパがミカを見てそれ以外は屋敷のメイドを含めて略momとグランマが見てくれた。
誰よりも子育てが上手いパパは油断をすると直ぐ自分の部屋にミカを連れて行きdaddyが焼き餅を焼く。
僕達の子供なのに大人達に取られっ放しだけど椿は『お陰で人見知りしない子に育ったわね』と言う。
『次は女の子が欲しいわ』と言う椿に僕は中々第二子を作る気になれなかった。実際は出来なかった。
1人目も3年の不妊治療の末やっと恵まれたが出産に依って椿を失う事は避けたかった。
ミカが5歳になったある日突然永遠から連絡が来て彼の子供が居た事を知らされ両親は日本へと向かった。
永遠が日本に向かって3ヶ月を過ぎた頃彼は自分にソックリな龍と2年程前に椿の帽子を捕まえてくれた女の子を連れて来た。
永遠が愛以外の女性を気にした事なんて後にも先にも彼女だけだろう。
蓮音に紹介された店の子なんて名前すら知らないと言っていた程だ。
椿は改めてあの時のお礼を言うと彼女は謙遜していたがミカはこの日から龍と離れなくなってしまった。
ミカにとって初めての従兄弟は幼い頃の永遠ソックリで未だ二歳に成らないのにしっかり話す。
5歳のミカは英語、日本語、フランス語、ポルトガル語を理解しているが龍に対してはその時の気分で言葉を変えているらしい。
対して龍は全て日本語で返すが何故だか二人の話は会話になっている。
龍を発見して以来日本から帰って来なかった瑛の仕業かと思ったが以外にも彼女のお祖父さんの教育も有ったらしい。
永遠が言うには従兄妹の姉妹が最新版の教育プログラムで毎日龍と遊んで居たそうだ。
実に興味深い・・・今度は龍の従姉妹も連れて来て欲しい。きっと瑛は喜ぶに違いない。
毎日椿と真美は子供達を連れてグランマのお見舞いに出掛けたが永久達の結婚式の一月後穏やかな眠りに着いた。
日に日に元気を無くして言ったミカは龍の存在だけが救いだった。彼の無邪気な笑い声や囁かな会話が落ち込んだミカの気持ちを救ってくれた。
眠る時も離れたがらないので結局はdaddyとmomが孫達と休む事にしたらしい。
夜中に龍の寝息を確認するミカを心配してテキサスの空達の処に連れて行ってしまった。
お陰で僕は家に帰らず瑛と会社に泊まり込み溜まった仕事を片付けた。
一日の終わりに椿に電話を掛けると龍が空を見て大泣きして空を困らせている事やその度にミカが龍を抱きしめて慰めて居る事を聞いて笑えた。
遠い昔詩音に抱かれた永遠はこの世の終りの様に泣いていた。きっと蓮音に会った時も大泣きした筈だ・・・
想像したら笑いが止まらなかった。
瑛に不思議な顔をされて龍が空を見て泣いて居る事を伝えると思い出した様に蓮音の時も泣いたと言った。
やっぱりね・・・永遠の子だ・・・それより龍が日本に帰る時が心配だ・・・
永遠は日本で生活する為にエターナルで総合病院を買い取った。
赤字続きだった病院を買取り幼い頃からの主治医を院長に据え自分は自由に動き回る予定だろう。フューチャーの病院と交換留学させるらしい・・・
今勤めている優秀な医者を留学させ最腕を磨かせ使えない者は切るだろう・・・
永遠はある意味僕よりビジネスに掛けては非道になれる男だ。
その代わり信頼出来る者への指導も徹底している。だからこそ永遠の信者は忠誠が深い。
実際エターナルの病院で永遠が抜ける事が1番痛いが永遠がここ数年で鍛えた年上の医師達はとても優秀だお陰で病院経営も上手く回っている。
何処に行っても我が弟は自分の身分や素顔を家族以外に晒さない。
その永遠が日本で結婚式を挙げると言ったから驚いた。
それ程彼女や龍を大事にしていると解ると嬉しくて応援するしか無いだろう・・・
フューチャーの名を掛けて盛大に親戚一同で押し掛けてあげよう。きっと愛も賛成するはずだ。
式の後真美は体調不良を訴えて先に下がった。永遠はそれを見て確信する様にニヤりと笑う。
その後一枚の紙を渡して部屋に下がる。確認すると椿の生理習慣表・・・排卵日の予測表だ・・・
永遠にとって椿は完全なる姉であり恋愛対象にはなりえないが自分の嫁の排卵日迄弟に教えられる程複雑な事はない・・・だがしかしこれに沿って励んでみようと思った。
出来れば今度は椿に似た小さい女の子が良い・・・少しでも彼女の負担を減らせるように・・・
FIN




