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【12】 涙腺が壊れたのもきっとそのせい

 遊園地に行ったのが先週でよかった。


 一昨日梅雨入りしてから、毎日天気がわるい。

 部活を終え、泉子と地元の駅で別れる。

 ネオンに照らされた、たくさんの傘。

 黒か、透明か、赤が多い。こないだ王二郎にあげたような、派手な傘は見かけない。

 あの派手な傘を、本当にさして帰ったのかな。考えるとおかしい。

 自分の傘を広げる。藍色で持ち手は茶色。泉子にはおじさんくさいと言われたけど、気に入っている。


 その時、商店街の入口に、目をひく色があった。

 黄緑と蛍光ピンクの迷彩が、傘の群れからひとつだけ突き出している。

 そんな傘は、いままでそうそう見たことがない。

 本当にさしてる・・・。背が高いからよけいに目立ってるなあ。悪いことしたかも。と思いつつ、つい笑ってしまう。


 けどもその隣で、黒い傘をさして話をしているのは、ひとつにまとめた長い黒髪、はかなげな容姿。

 気付いた瞬間、迷彩の傘の位置が低くなる。腰を屈めたようだ。

 隣の黒い傘にぶつかって、2人の姿が傘で見えなくなる。

 けれどすぐに、傘は離れる。

 現れた五月の顔は耳まで赤い。もともと色白だから、よくわかる。

 なにをしたんだ王二郎。

 ないしょ話?

 それともまさか。


***


 公衆の面前で、王二郎がいちゃいちゃするとは考えにくいけど、恋をすると人は変わるというし。


 恋。

 失恋には新しい恋なのか王二郎。

 新しいというか、二度目の相手ではあるけれど。


 まあ、いいことだよね。

 落ち込んでいるよりは、浮かれていてくれる方が。

 彼女にはなれないけど、大事な趣味仲間だし。


 でもなんだろう。目の前がかすむ。

 台本の読みすぎかな。


 目に手をやろうとして、その手を掴まれた。

 熱い。


「何泣いてるの?!」


 半ば怒っているような声。見上げるとそこには切迫した様子の王二郎。

 前を見ると、迷彩の傘と五月。


 あれ?


 王二郎が2人。


「兄貴、勝手に人の傘使って・・・」


 私の目線を読んだらしく、前を見てそう言った。


「お兄さん、家を出てるんじゃなかったの?」

「最近近くに越してきたんだよ」


 なんだそっか。

 王二郎じゃないのか。

 安心したらしたで、目が痛くなってきた。


「わー、そんなに泣かないで」


 手足をばたばたさせている。


「泣いてる?」


 離された手で頬を触ると、確かに濡れていた。

 泣くのなんて何年ぶりだろう。

 子供のときは、大声を上げたし、頭が痛くなったりもした。

 だけどいまは、視界が歪んだくらいで、特に変化がない。

 でも止まらない。


「どうしよう、目が壊れた」

「馬鹿なこと言ってないで。とりあえず帰ろう。今日おばさんたちは?」

「遅くなる」

「じゃあ、俺が一緒にいるから」


 そういって手を引いていく。

 お化け屋敷のときと同じだ。

 穏やかなようで、いざとなるとてきぱきと頼りになる。


 好きだなあ。

 思っていたよりもだいぶ好きみたいだ。


 涙腺が壊れたのもきっとそのせい。


 鈍感だからって、自分の気持ちにも疎くなるなんて、なんて情けないのだろう。


「王二郎」


 足早に歩いていたのが、呼び掛けたらゆっくりになる。

 私は隣に並んで、その横顔を見上げた。


「好きだよ」


 考えるより先に、言葉が出ていた。

 ただ、言いたいだけだった。


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