第1章: 「最初の音」
本文:
俺が17歳の時、頭の中に時計が現れた。
最初は小さな音だった。
カチ。
テストの前日。机の上で鉛筆を回してた。
「消しゴム、ちゃんとあるか?」
カチ。
鞄の中を確認した。ある。
でも時計は鳴り続けた。
「本当にあるか?もう一回見ろ」
カチ。カチ。
その夜、3時間確認した。
朝、目が腫れてた。
母さんは心配そうに言った。
「大丈夫?顔色悪いよ」
俺は笑って答えた。
「徹夜しただけ」
嘘だった。
時計は毎日、大きくなる。
「鍵」
「火」
「言葉」
「死」
学校でも鳴る。
授業中、先生が話してるのに、
俺の頭の中は
「今のノート、ちゃんと取ったか?」
「隣の奴、俺のことキモいって思ってる」
「このまま死んだら親は悲しむか」
でいっぱいになる。
友達は誘ってくれる。
「ゲームしない?」
「いいよ」
でも家に帰って、4時間、ドアの鍵を確認する。
ゲームはできない。
ある日、限界が来た。
屋上の端に立った。
風が気持ちよかった。
時計が最後に言った。
「飛び降りろ。そうすれば静かになる」
俺は目を閉じた。
その時、後ろから声がした。
「何してんの?」
振り返ると、クラスメイトの佐倉がいた。
手にアイスを持って、きょとんとした顔で。
「...アイス、溶けるよ」
俺は理由も分からず笑った。
そして屋上から降りた。
時計はまだ鳴ってる。
カチ。カチ。
でも今日は、飛び降りなかった。
それが、俺と時計の長い戦いの始まりだった。
――第1章 終わり――




