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狂犬聖女  作者: 慶村莉緒
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新連載始めました。

本日は3話公開します。

よろしくお願いします!

「アイリス、来なさい。侯爵家のお嬢様を優先して治療するんだ」


司祭からの指示にアイリスが戸惑った。


「すぐに参ります、こちらの方の怪我の治療を先に…」


「優先してと言っただろう!」


怒鳴り付けられてビクリと肩をすくめ、慌てて怪我人に右手をかざした。


「これで大丈夫、三日は念のため安静にして下さい!」


「何をしてる、モタモタするな」


「はい!」


大股で歩く司祭に続き、小走りで貴賓が通される応接室へ向かう。

扉の向こうには、ソファーに腰を下ろした令嬢が、うっすらと赤くなった手の甲をさすっていた。


「神殿の支援している孤児院で、手を強く打ったのよ。すぐになんとかしてちょうだい!」


「失礼します…」


手の甲をそっと握り祈りを込めた。


ふわりと白く光る。


令嬢は美しく艶やかになった手の甲をうっとりと眺めた。


「保湿クリームなんかよりずっと美しくなるわね…」


かざすようにして滑らかになった手を確認すると、アイリスにチラリと視線を投げる。


「ちょっと、いつまでそこにいるつもりなの」


「す、すいません!」


「アイリス、何をグズグズしているんだ!」


おろおろするアイリスを汚いものを見るように眺め、令嬢は扇子を口許に当てた。


「とろ臭い子!」


「し、失礼しました!」


慌てて頭を下げて、アイリスは部屋を飛び出した。

すぐに、別の司祭に捕まる。


「アイリス、結界魔法の強化は終わってるのか!?」


「ただいま…っ」


「さっさとやっておけ!」


目の回るような忙しさに、くらくらしながら神の石像の前で祈りを捧げる。


『この国の…全ての民が安全に暮らせますように…』


アイリスの体が金色に輝く。


「ふう。これで完璧だわ!」


一国を包み込むほどの光が瞬く間に結界に溶けていった。

これで魔物からみんなを守れる。


「この加護はみんなの幸せのためにあるんだもの、頑張らなきゃ!」


本人すら気が付かない小さな痛みは着実に心に溜まる。

たが、そんなことは露知らずアイリスは急いで治療室へ走った。


「ずるいよ!なんで偉い人ばっかり治すの?僕たちのことなんてどうでも良いんだ!」


神殿にある治療室の入り口にたどり着くと、小さな男の子が大声をあげてアイリスを見上げた。


「そ、そんなことないよ?」


「嘘だ!さっきだってお母さんは適当にやって、お金持ちのお嬢様のところに行ったじゃないか!」


「て、適当にしたりはしてないのよ?」


子どもの癇癪は、大人の不満そのものだった。

誰もその子を宥めることなく、様子を窺っている。


「騒がしいぞ、何をしてるアイリス!」


司祭の怒声が響く。


「あ、あのっ…!」


大きくなる騒ぎのなかでアイリスの気持ちが少しずつ削られていく。

ギリギリを保っていた何かがついに限界を超えた。


(どうしたら良いの!?もう無理…怖い!!)


ヘナヘナとしゃがみ込む。


くん……っ!


――アイリスの明るいブラウンの髪が後ろに引かれる感じがした。


その髪が毛先から徐々に黒く染まり始める。


「アイリス、おまえ、その髪…!!」


司祭が変化に気がつき声を荒らげる。

だが、遅かった。


しゃがみこんだアイリスが、すっと立ち上がる。

優しいエメラルドのような瞳が、真っ赤なルビー色に変わり煌めいた。


「煩いわね!少し黙ることはできないの、この愚民どもは!」


バッサリと黒髪を掻き上げる。


「愚か者の集会所なのかしら、ここは」


「アイリス」が、まるで別人のように酷薄な笑みを浮かべ、ゆっくりと周囲を見渡した。



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