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【042】ルーク王、勝利の確信

空はすっかり明るくなり、日の出からすでに数刻が過ぎていた。

とはいえ、両軍とも戦える力を十分に残している。


サイサリス公国軍は、現在王都内で暴徒の鎮圧に二千を割き、ルーク王の率いる西門の軍に対しては四千を展開している。

残る予備兵力は、どこに投入するかの判断をいまだ下しかねているようだった。


その間隙を突くように、北門、南門の部隊が突入を果たせば、包囲の輪は完成する。


そして、サイサリス公国軍の戦列に綻びが生じた、その瞬間こそが勝機となる。


やがて、敵の陣にわずかな乱れが現れた。

各所で隊列がざわつき、指揮の伝達が滞っているのが見て取れる。


ルークは、その変化を見逃さなかった。

敵のざわつきと隊列の乱れ、その広がり方から、北門、南門の両部隊が突入を果たしたと即座に見抜いた。


包囲の輪が完成した。

ルークの脳裏に浮かんだのは、次に敵がどう動くかという一点だけだった。


ほどなくして、伝令が駆け寄り、息を整えながら報告する。


「サイサリス公国軍に動きがあります。退却の準備を始めた模様です」


それを聞いたルークは頷き、静かに目を細めた。

ここまでは、すべて想定どおり。

思ったよりも判断が早い。だが、それもまた織り込み済みだった。


背後に控えていたラルフ子爵が小声で告げる。

サイサリス公国軍に、名の知れた将軍は残っていないはず。

だが、それでも戦局を読み、即座に退却を選ぶ指揮官がいた。


ルークは一瞬だけ口元に笑みを浮かべ、視線を前へと向ける。


予想はできている。

東門に向かう彼らを、決して見逃すつもりはなかった。


いち早く退却の決断を下したサイサリス公国軍だったが、その撤退は決して無秩序なものではなかった。


彼らは最後まで節度を保ち、可能な限り隊列を維持しながら後退していた。

精強な軍としての矜持を失わず、指揮系統も崩さぬまま、規律を守って戦線を離脱しようとしていたのだ。


王宮からも、撤退を支援するための援軍が出てきてはいた。

だが、混乱の広がる王都の中では連携が難しく、援軍の効果は限定的だった。


そして、撤退の過程で負傷兵たちが最も過酷な現実に直面した。

動けなくなった者は容赦なく置き去りにされ、王都の民衆に捕らえられては殴打される。

やがて、その多くが、十分と経たず命を落とした。


その惨状を遠巻きに見ていた味方部隊も、すでに救援に向かう余力はなく、ただ目を背けることしかできなかった。


軍そのものは崩壊を免れた。

だが、そこには、「負傷=死」という、地獄のような現実があった。

もはや誰も、仲間をかばいながら退却する余裕すら持てなかったのである。


一方、各所から届けられる伝令の報告に対し、ルーク王はその都度、的確な指示を下していく。


的を射た判断と冷静な統率、

その姿に、傍らで見守っていたラルフ子爵とハンナは、思わず目を見張った。


ほんの少し前まで「王子」として扱われていたとは、とても思えない。

まるで、何十年も戦場を渡り歩き、長く王座に就いてきた者のような風格が、そこにはあった。


ふと気配を感じたルーク王が横を向くと、ラルフ子爵とハンナが見つめていた。

二人の視線には驚きと敬意が滲んでいたが、本人たちはその表情に気づいていないようだった。


ルークは穏やかに問いかける。


「どうしたのだ」


思わず目をそらしたラルフ子爵は、少し照れくさそうに答えるしかなかった。


あまりにも見事な指揮ぶりに、見惚れてしまいました。


それに対し、ルークは静かに微笑み、何気ない口調で語った。

伝令が近づいてくると、その報告の内容が自然と頭に浮かんでくるという。

だから、報告を聞く前から、すでに指示が準備できているのだと。


ハンナもラルフ子爵も、思わず顔を見合わせ、ただ小さく頷くことしかできなかった。


ラルフ子爵なりに理解しようと努める。


おそらくそれは、今、目の前で起こっている出来事のすべてが、すでにルーク王の中で想定済みのものだからなのだろう。


この王は、戦の流れそのものを見通し、あらかじめ描かれた勝利への道筋に従って歩を進めている。


もしかすると、どの部隊がどこでぶつかり、どこが崩れ、敵がどう退いていくのか、

その一つひとつまでも、すでにルーク王の頭の中には描かれているのかもしれない。


そう思わせるに十分な落ち着きと確信が、そこにあった。


そしてその確信を裏づけるように、戦況もまた、まさにルーク王の描いた通りに動いていた。


西門に集まっていたサイサリス公国軍は、すでに退却に転じつつある。

北門と南門から侵入した部隊も王都内の制圧を進め、各所から届く報告は勝利の気配をはっきりと伝えていた。


ルークはわずかに視線を上げ、戦場の空気を静かに見渡した。

その表情には揺るぎがなく、唇は引き締められていた。


「勝ったな」


その声は静かでありながら、確信に満ちていた。

だが、その眼差しに浮かんでいたのは、勝利の安堵ではない。

むしろ、ここから先にこそ気を緩めてはならぬと語るような、鋭く冷えた意志だった。


次の瞬間、ルークはすでに動いていた。


「ラルフ。

北門と南門から侵入した部隊には、それぞれ入ってきた門から出て、追撃戦に移るよう伝令を出せ」


語調に熱が宿る。


「サイサリス公国軍は東門に殿部隊を残し、我々の追撃を防いでくるはずだ」


言葉を途切れさせず、さらに続ける。


「決死の覚悟で殿を務めたとしても、その半分も果たさせるな。

我々は、その殿部隊を叩き潰す。陣を前に出せ!東門に向かうぞ」


追撃戦が始まった。


北門と南門から侵入したそれぞれ三千の兵は、侵入した門から再び王都を出て、退却を始めたサイサリス公国軍を背後から追撃する。


一方、ルーク王とラルフ子爵が率いる主力は、東門に殿部隊として配置されたアーロン将軍の部隊に対して、正面から攻撃を開始していた。


こうして、ルトニア王国の王都奪還は、事実上、ここに完了した。


民衆の声に迎えられ、兵の槍が勝利の風を切る中、ルーク王はその中心に立っていた。

彼の登場とともに、かつて滅びたはずの王国が、ついに蘇ったのだ。


三百年以上の歴史を持つルトニア王国は、サイサリス公国の侵攻によって一度は崩れた。

だが、わずか二か月の間に、力と意思と民衆の結束によって、その名を取り戻したのである。


この出来事は、歴史の中では一瞬の出来事にすぎないかもしれない。

けれど、そこに立ち会った者たちにとっては、生涯決して忘れ得ぬ瞬間となった。


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