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【019】ファルジュ王の真意を探して

ルーク王子は、視線をオーウェンに向けた。


「とはいえ、既に噂は広まっている。

今さら手を引いたところで、父君が簡単にそれを認めるとは思えん。

それで、丞相、父がなぜそこまでハンザに執着しているのか。何か、心当たりはあるのか?」


その問いに、オーウェンはひどく言いにくそうな表情を浮かべ、困惑したように視線を逸らした。


「待て、理由がわかっているのか?いや、想像がついているのか?

言いにくい話でも構わない。きちんと聞かせてほしい。

知っているのと知らないのとでは、大きな違いがある」


ルークの真剣なまなざしに、オーウェンは息をひとつのみ込んでから、慎重に口を開いた。


「非常に申し上げにくいのですが、理由として考えられるのは、二点ございます」


「まず第一に、新たな離宮を造営するための資金の確保です。


現在の我が国の財政では、王が望まれる規模の離宮を建てるのは困難な状況にあります。

そのため、軍事力を背景にハンザを手に入れ、そこから得られる財をもって離宮を築こうとお考えなのです。


もちろん、離宮を造るために商都ハンザを手に入れようとするのは、あまりに無理があります。

ゆえに表向きには、王国南部を農地として開拓するのだと仰っているのです」


その言葉を聞いたルークは、思わず頭を抱えた。


離宮の造営もそうだが、王国南部はベネット侯爵が治める土地である。

それを取り上げ、王国直轄にすると公言しているというのか。


ベネット侯爵がその話を耳にしたら、どう思うだろうか。

さらに、王国東部を治めるコンラッド侯爵も、この南部の件を聞けば心穏やかではいられまい。

やがて自分の領地も取り上げられるのではないかと疑念を抱くに違いない。


父上は、この国が何もしなくても永遠に続くとお考えなのか。

これまで十七代にわたり、大陸の荒波を生き抜いてきたという自負が、そう信じさせているのだろうか。


離宮が完成すれば、各地の領主を除き、王族たちは安楽な生活を享受できるだろう。

ハンザを手に入れれば、多額の金銭も転がり込むに違いない。

だが、それはほんの一時の贅沢にすぎない。

それほどの代償を払ってまで、なぜ今、ハンザを求めるのか。


ルークは、オーウェンが口にした「二点目」の内容を聞くのが恐ろしくなってきた。

しかし、知らずに済ませるわけにはいかなかった。


「一つ目の理由は理解した。だが、そのような動機で、私は到底受け入れるわけにはいかない」


ルークは深く息を吐き、目を伏せる。そしてゆっくりと顔を上げた。


「それで、二つ目の理由とは何なのだ?」


ルークは既に気力を削がれ、げんなりとした表情を浮かべていた。

その様子を見て、オーウェンはさらに言いづらそうに口を開いた。


「商都を治めている代表の娘が、たいへん美しい方だそうで」


そこまで言ったところで、ルークが顔をしかめ、オーウェンの言葉を遮った。


「娘、娘だと? そのような小娘のためにルトニア王国が内輪もめをしているというのか。

なんということだ」


ルークは言葉を詰まらせ、呆れと怒りの入り混じった表情で天を仰いだ。


「申し訳ございません。しかし、王から直接伺ったわけではありません。

我々としても、あくまで状況から推測したに過ぎぬことであります。

どうか、その点はご理解いただきたく」


オーウェンが深く頭を下げると、ルークは静かに首を振った。


「よい。それはオーウェン丞相が謝る話ではない」


オーウェンが申し訳なさそうな顔をしているのを見て、ルークはふと、自分が責め立てているように映ってしまったことに気づいた。

それではいけない。冷静にならねばと、意識して丁寧に言葉を選んだ。


離宮に娘とは、わが父ながら、なんとも言いようがない


ルークは内心で嘆息した。

とはいえ、息子である自分に知られたくないという気持ちが、まだ父に残っているのだとすれば、その分、まだつけ入る余地はあるかもしれない。


真正面から反対すれば、威厳を傷つけられたと感じて、へそを曲げるのが父という人物だ。

であれば、言い方と段取りを工夫すれば、何とか話をつけられるかもしれない。


ルークはそう考え始めていた。


「わかった。私の方でも、もう少し考えてみよう。この問題は、私が預かることにする」


ルークの言葉に、オーウェンは深く頭を下げ、そのまま静かに部屋を後にした。

その背中には、わずかながら肩の荷が下りたような安堵の気配が漂っていた。


小さい頃、よくオーウェンに学問や礼儀を叩き込まれたものだ。時には拳で殴られたこともあった。

今でも尊敬している丞相だが、年を重ねたその背中は、昔よりも少しだけ小さく見えた。


さて、明日は久しぶりに父上とゆっくり話でもしてみよう。

親子の会話など、もう何年も交わしていない。たまには、そういう時間も悪くはない。


その中で、父の本音を引き出し、どうにか思いとどまってもらえるよう、努めてみようと思った。

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