ガッコウ ショニチ 1
「よっ!授業中なのになんで屋上にいるんだ?」
「悟こそ」
学校の屋上、時刻は11時を回ろうかというところだった。
学校は授業中、しかし、悟と大輔は屋上にいた。
大輔にとっては幸運なことに、外で体育をするクラスはなかった。
だから、静かな屋上で久しぶりにゆっくりできると思ったんだけどなぁ。
そんな大輔の考えなどお構いなしと言わんばかりに、悟はいつもの通り、大輔が安全柵を背にぐったりと座り込んでいる横に、柵に背を持たれて立った。
「……なあ、大輔」
いつものように、悟が大輔に話しかけた。
「ん?」
「なんでお前が授業サボってここに来たか当ててやろうか?」
「……言わなくていいよ、別に」
「それはな、この時間は隣のクラスと合同授業の数学だからだ、そうだろ?だって隣のクラスには高島さんがいる――」
「うわああああ、言うな!もうそのことは一瞬でも忘れたい!ああ、わかったよ。悟、なんで悟が授業サボってここに来たか当ててあげようか?」
「おう」
「高島さんにフラれた俺をバカにしにきたんだろ!」
「おお、正解。なんでわかったんだ?」
白々しすぎる!
「はぁ……少し前の自分の発言を思い返してみなよ、それが答え。もうそのことに関する発言禁止ね」
大輔はぐったりとした体をさらにぐったりさせてうなだれた。
だが、そんな大輔に構わず、ニヤニヤとしながら悟は大輔に語りかける。
「でも本当に大輔は肝心なところで下手こいたよなぁ。折角、体育祭成功したのに。今更言うのもなんだけど、高島さんは結構脈ありな感じだったと思うぜ」
だから言うなって!
はぁ……もう抵抗する気も失せた。
大輔は体育祭を見事2年の勝利に導いた。
しかし、その勝利の喜びは、大輔の元から美遊の平手打ちによって一瞬で消え去った。
彼は、フラれたのだ。
「なぁ、むっつり大輔」
悟のいじらしい発言を大輔は無視していると、またも悟は大輔に畳みかけた。
「なんだよそれ」
「むっつり大輔が二年生の間でなんて呼ばれてるか知ってるか?」
「もうそれ答え言っちゃってるよね?」
「はははっ!確かに大輔は普段そういうこと全く言わないのに、いざ好きな人目の前にして……ぶっ……抱かせてくださいって!あははは!欲望が先行しすぎてもうね!」
悟は普段見せないほど爆笑し始めた。
ああああああ!思い出したくないいい!
完全に僕の黒歴史の1ページ、いや、軽く10ページは体育祭の打ち上げ関連で埋まった。
でも、僕にはこのままほとぼりが冷めることを待つことしか出来ない……
「もう……やめてくれ……風間大輔のライフはもうゼロだよ……ただでさえ教室に帰るといろんな奴にからかわれるのに、授業までサボって屋上まで来てもその話題とか飛び降り自殺しかねないレベルだよ……」
「ああ……すまん、すまん。でも、俺の予想通り、体育祭には勝てたじゃんか。二年の中じゃぁ、大輔がここまでやるとは思わなかったって噂で持ち切りだぜ。俺の目に狂いはなかったな」
悟は笑いで流した涙を拭きながら大輔に軽い称賛を浴びせた。
「悟、嘘つくな。僕の噂なんて全部打ち上げの時の話ばっかりじゃないか!」
「今度は大輔からその話題振るのかよ……」
そこで突然、静かだった学校に女性の悲鳴が響き渡った。
さらには、土嚢を勢いよく投げ込んだ時のような重い音と、何かが割れるような音が響く。
「ん?なんだ?」
本当に何だろうか。
うちは超がつくほどの進学校。
勿論曲者は非常に多いけど、授業中に悲鳴を上げるような非常識な人間はいないはずだけど……
外が一気に人の声で騒がしくなった。
屋上まで、その声が響いてくるってことは相当だろうと大輔は思った。
「声の響きからして外だろうね」
「ちょっち見てみるか、よいしょっと」
悟は軽々と、屋上の安全策をよじ登って、柵の向こうへと着地した。
「悟、危ないって」
「大丈夫、大丈夫、っておい……これはまずいんじゃないのか……」
「どうしたの?」
悟は安全柵に右手をかけながら、屋上から恐る恐る下をのぞき込んで言った。
悟のずいぶんと真剣な顔つきに、大輔もつられて柵から上体を起こして立ち上がる。
「来てみろよ、ありゃ、死んでるのか?」
死んでる?
事件か?事故か?
大輔は少し安全柵に沿って横に移動すると、柵で出来た小さな扉を開いて、安全柵の反対側へと足を踏み入れた。
そして、大輔は落っこちないように安全柵につかまりながら、恐る恐る下をのぞき込む。
「飛び降り自殺……?」
なんと校舎の下には、ぐったりと人が1人倒れていた。
よく下を見ると、各教室の窓が開けられており、そこから騒がしい声と、ところどころから手が出て下を指さしている。
「とうとう、二人目の自殺者が出てしまったか」
「……二人目?あ、そういうこと?いや、まだ僕自殺してないし。今そんな冗談言ってられる状況?」
大輔が悟の方に目を向けた瞬間に、またも外が騒がしくなった。
なんだ?
と大輔は思いつつ、また目線を大地に戻す。
そこには走って学校から抜け出す生徒が数名いた。
その生徒たちは依然として倒れている男子生徒には、目もくれていない。
「こりゃ自殺じゃないな。他殺か?」
「うん、ただの自殺なら、生徒があんなに慌てて途中下校する訳ないね。どっかの教室で誰かが錯乱して生徒一名を突き落としていまだに暴れてる、とか?あー、でも――――」
「でもそれなら下校はせずに職員室に真っ先に駆け込むはず、だろ?」
悟は大輔の言葉にかぶせるように大輔の推論の続きを予測した。
「そうだね、急いで外に出なければならないほどの大惨事が中で起こった。生徒が一人突き落とされた。立てこもり事件かな?」
いや、立てこもり事件なら犯人はよっぽどの馬鹿か、相当の大人数か。
この4階と別棟まであるこの大きい校舎を守り切れるわけがない。
四方八方から容易にこっそりと潜入できてしまう。
こう考えると、計画的犯行ではなく、衝動的に誰かがなにかをやらかしたと見るのがいいだろうね。
大輔はしっかり安全柵につかまりながらも、下の様子を眺めつつ、じっくりと思案を巡らせた。
「ちょっと冗談じゃなくなってきたな、大輔、どうする?」
「いや、僕らはここにいよう。階段降りてちょっと歩けばすぐに俺らの教室はあるし、出ようと思えばすぐ出れる。それよりはここで外の様子をじっくり観察する方が賢明だよ」
そう大輔は言うと、悟は大輔に向かって真剣な顔で反論した。
「でも、下には皆がいる、もし本当に立てこもり事件なら皆が危ない。奈々も、高島さんだって――――」
「大丈夫だよ、悟。そこの雨よけ見える?」
大輔は悟の言葉を遮って、安全柵を頼りに屋上から身を乗り出し、すぐ下を指さした。
そこには各教室の窓に取り付けてある小さな雨よけがあった。
「ああ、見える」
「そこの3階の窓の雨よけにはなにもない、だけど、そっちの雨よけ見てみて」
大輔は二階の窓の上にある雨よけを指さした。
「ああ、あれは、ガラスの破片か?」
その雨よけの上には、小さくキラキラと光るものが無数に散らばっているのが遠目でも分かった。
「おそらく。それでその真下に人は倒れてる。2階の雨よけに破片があって、3階のにはない。ってことは、ガラスの窓を突き破って人を突き落とした犯人は3階にいる。4階は無事なはずだよ。第一俺らがあっちに行ったとしても何も事態は好転しないよ。えっと確か3階のあの教室は……」
「おい……起き上がったぞ……」
悟の言葉に大輔は注意深く下をのぞき込んだ。
今まで下でぐったりと仰向けに倒れていた男子生徒が、ゆっくりと起き上がろうとしていた。
「生きてたんだ!なんで誰も助けに行かないんだ?」
悟はそう言って慌てて柵を登り始めた。
悟はどうしても下に行きたいみたいだ。
情報が欠落している僕らの今の状況に苛立ちが起こるのは分かる。
他の皆が心配なんだ。
そういう心意気は僕も買っているけど、どうやらなにか不思議なことが起こっているような気がする。
どんなことを想像してもこの状況に当てはまるような推論に思いつかない。
「まって、悟、なんか変だよ」
柵をちょうど悟が飛び越えようかという時になって、大輔が悟を呼び止める。
しかし、その時、4階に続く階段に通じる屋上の扉のノブがガチャガチャと回された。




