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今日という日  作者: 誓約者
京のおはなし
14/30

それぞれが戦う理由はそれぞれで

 王の間に入った来葉はヒディアスと対峙し、鋭い目つきで睨んでいた。

「……無礼な入り方だ」

 ヒディアスが呆れた声色で言う。

「気にするな。今から殺されるからな」

 気にせず、銃身を明かりに煌めかせる。

「なぜ殺す?」

「影による死者を増やさないため」

「ほぉ…」

 来葉の言葉に感嘆混じりのため息を漏らす。

 腕組みを解き、自由になった腕は膝の上に置かれる。

「あの子も同じかな?」

 あの子が京を示していると気付くまで、そう時間はかからなかった。

「違うな。あと二つくらい背負ってる」

 来葉は断言する。

 二人しかいない王の間を天井の白熱灯が過分に照らす。

 窓がない王の間で時間が過ぎていく。

「まず、自分と同じ存在を作らないため…」

 銃を握っていた手が、退屈そうに震える。


「そして自分自身に決着をつけるためだ」


 迷いなく来葉は、言い切った。

 影であった事実を受理し、必死に前へ進んでいる。同時に影であったことを認識し影について避けている。

 だからこそ今の彼は怒りより責任感で動いている。自分の類が殺しているなら止めるのは自分しかいない。

 だからこそ彼は過去より今に焦点が合っている。もう誰も悲しむ世界を見たくは無かったから。


 京は紛れなく人間だった。



「…くくくくっ」

 話が終わるとヒディアスは顔を垂らし、喉を鳴らして笑う。

「笑う部分はないと思うがな」

 来葉は不機嫌そうに言う。

「…汝からそんな言葉が聞けるとはな」

 一呼吸置いて笑いを止める。声だけがいまだに上ずっていた。

「…しかし、判らんなあ」

 来葉は眉を寄せ、若干身構える。ヒディアスは右に頬杖をつく。

「汝なら気付いているだろ?この国の限界を。人は増えすぎ、食糧危機に陥っているのだ。新たな土地が必要なんだよ」

「だからといって何の交流もなかった下界を侵略するのは非道徳的だ。ついでに言わせてもらえばただ問題を先延ばしにしているだけにしか思えないな」

 来葉は目を伏せて続ける。

「人口が増えたならその分減らせばいいだろ?」

「戦争すると?」

「手っ取り早くて簡単だと思うが」

 聞くとヒディアスはまたほくそ笑んだ。

「非道徳的だな」

「誰も道徳的だとは思ってない。だが今回の暴動で300人は死ぬはずだ」

 理路整然と当たり前の持論を話す。

 言い終えると無音が王の間に拡散する。ヒディアスはすぅ、と息を吸い込み静まり返った空気に一言を響かせた。


「…何が目的だ?」


 無音にヒディアスの冷徹な問いが響いていく。

 首を乗せた右手の人差し指で、自らの頬をとんとんと叩き、無感情な来葉の目の奥側を覗く。

「……」

「同じ非道徳行為にもかかわらず、汝は我の妨害をする。真の目的があるんじゃないのか?」

 答えぬ来葉にヒディアスは再度問う。

 観念したように来葉は目を閉じ、深いため息をつく。

 そして、憎しみに満ちた宿意が冷酷なる彼に宿った。


「………七年前に殺されファルスの仇を命で償ってもらう」


 自発的に脳裏に過ぎる。

 赤黒く染められた白い服。力なく横たわる四肢。手にした冷たい手。

 応答のない彼の顔。

 綺麗な顔。

 叫び声。自分の声。

 肉の腐臭。血。

 かまわず泣く。泣いて泣いて泣いて…。

 来葉は泣けなくなった。


「ああ…あの時の少年の知り合いか」

 走馬灯の場面にこの言葉もあった。

「彼のおかげで汝は影の相手をせずに助かったはずだ」

 そう。上から見下したこの目から俺は逃げ出した。

 強く手のひらに爪が突き刺さる。

 だからこそ…。


「俺は逃げない!」


 来葉の怒気が姿を表す。

「第一楽章、雨の前奏曲レイン・プレリュード!」

 向けられた銃口から無数の銃弾が王座に座るヒディアスの元に向かう。

 度重なる銃音が爆音になり来葉の鼓膜をびりびりと震わす。

「…」

 十分過ぎるほどの銃弾を撃ち込みながら、来葉は煙に紛れたヒディアスの姿を右目で凝視し、探す。

 彼は影に関する全てを体に埋め込んだ。即ち自分が倒されれば計画が破綻する。

 そうならない方法は一つ。

「…!」


 最強であること。


 煙の中に人影が見えた瞬間に、来葉は横に跳んだ。

 煙の中から腕が飛び出て跳んだ来葉の頬を掠め、壁に衝突した。

「……ふん。勘はいいようだ」

 壁に八方の亀裂を走らせると、ヒディアスは笑った。

 引き金を引くことを中断し、来葉は地面に手を着く。

 揺れる視界。剣呑な目線はヒディアスが装備していたものを捉えた。

 映像が脳内で解析され、それを連想する。

「逃げないんじゃないのか?」

 突き出した腕を脇下に戻して、来葉に言う。

 衝撃で揺らぐ明かりに来葉とは違う、くすんだ水色が煌めく。

「トンファー……」

 来葉は褪めた声色で武器の総称を呟く。

 ヒディアスの服が全く汚れてなく、傷もついていないところからトンファーで全てを弾いたと論づける。

 楽とは思ってなかったが、予想の範疇は軽く越えた強さだ。

「もう終わりか?」

 トンファーをくるくると回し、嘲笑を浮かべるヒディアス。

「…ちっ!」

 低く舌打ちして両腕を構えようと振り上げる。

「…!」

「遅いなぁ…!」

 顔を突き合わせる程至近距離に高速移動したヒディアスの口が言う。

 たじろぐ間もなく、腹部にトンファーがめり込んだ。

「ぐっ…!」

 苦渋の声を漏らし、空中を吹き飛ばされる。胃の中が浮き上がる。

 なすすべなく頭から硬い壁に叩きつけられた。

「……」

 頭を振って頭痛を和らげる。

 二重に見えていた景色が徐々に重なり、ヒディアスがまた床を蹴った姿が迫りくる。

「………」

 熱い肺に冷たい空気を取り込む。合わせて頭が冷めていくことを感じ取れる。

 幾分かヒディアスの動きが見える。目が慣れればあの高速の走法も恐怖ではない。

 立ち上がり、鋭いトンファーの一撃から身を避わす。

「…ほぉ」

 二、三歩でヒディアスとの間合いを取る来葉を感嘆の意で褒める。

 睨み合う二人の間を破片が通り過ぎる。

 来葉は着地と同時に二発の銃弾を放つ。甲高い音が二つ、トンファーを振る姿に合わせて鳴った。

「第三楽章、躍動の円舞曲ダンシング・ワルツ

 呟き、的外れな方向に銃を乱射する。

「もう、やけになったのか?」

 阿呆を見る目でヒディアスは言う。構わずに来葉は撃ちまくる。

 ヒディアスは肩を竦め、だらんと垂らした腕を胸元で構える。

 何を考えているか知らぬが隙だらけだ。

 右足がきゅっという音を立てる。

「っ!」

 -一筋の銃弾がヒディアスの頬を後ろから前に切り裂いた。

 鮮血が傷口に沿ってにじみ出る。

 何が切り裂いたかは瞬時に理解している。跳弾だ。

「…!」

 気付けば既に跳弾がヒディアスをめがけている。

 必要最低限の俊敏な動きで銃弾をかわす。

 完全に来葉は計算づくで発砲している。

 銃弾の材質をより跳ねやすく変化させ、王の間の空間を完全に把握し、角度を計算して放っている。

 恐ろしい少年だ。ヒディアスは心の中で呟く。

 ただ、この戦い方には盲点がある。

 ヒディアスは卑しく笑みを浮かべた。

 直後、床を蹴り、瞬く間に来葉の元へと迫る。

 射撃手がいる所からは直線的に銃弾は跳んでこない。これだけの速さならば空いた体に-。

「第二楽章…」

「!!」

 待っていたように右の銃口がヒディアスに向けられる。


 彼は計算づくしで戦っていた。


 もう勢いは止められない。手遅れだ。

 暗い筒の奥が蒼く閃いていく。辺りの大気が銃身に凝縮され、吸い込まれていく。大気が冷気へと変わっていく。


 そして、その銃技は口にされた。


白銀の夜想曲シルバー・ノクターン…!」


 蒼き閃光がヒディアスの胸部に命中し、背中から壁に衝突する。

 姿を閉ざす砂煙の量と亀裂音が衝撃を物語る。

「………」

 肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返す来葉は砂煙が止むのを待つ。

 瞼に垂れて来る血液を袖で拭う。

 最大限の威力では無かった。

 最初に受けた一撃が残っていた。今も手足に神経が通っておらず、四肢の末端がおぼつかない状態にある。

 姿勢の補助に魔力を回してしまい自然と威力は弱まり、手応えでは半分位の威力しかなかった。

 砂煙が落ち着くまで、傍観する。


 パリンッ!


「!?」

 来葉の耳に薄氷が割れる音が聞こえた。

 間髪入れず、砂煙が内側から切り裂かれ、煌めく水色が見えた。

「…今のは効いたなぁ」

 口の端を上げて、傲慢な口調で言う。

 白銀の夜想曲シルバー・ノクターンは高濃度の冷気魔力を銃弾に変換して、対象を氷結させる銃技だ。例え直撃した瞬間に氷結せずとも、一度氷結したならば動かせるわけない。


 片腕たりともトンファーをふるえるはずがない。


「どうした?これで終わりか?」

「!」

 ヒディアスの声に来葉は再び身構える。

 彼は無傷ではない。同じ部位にもう一度-。

「次は…ないな」

 完全に隙を突いたヒディアスのトンファーが眼前に出現する。

「しまっ…!」

 呻き声を上げる間もなく壁に叩きつけられる。

「ぐ……!」

 間髪入れずにトンファーが首を締め上げる。

 息が出来ない窒息の苦しさ。おぼろげな景色が明度を失っていく。

「っ!!!」

 もう一つのトンファーが腹部に捻り込まれる。ぶちぶちと引きちぎられる感覚がして、生暖かい何かが足に垂れてきた。

 地に着かぬ足がばたばたと暴れる。

「この程度で我を殺せるとはなあ!」

「っ…!」

 腹部の激痛が全身を貫き、湿った音で赤黒く床を濡らす。

 このままでは死ぬ。

「…痛いか?だが、民を守るためには汝の死など軽いな」

 心底からヒディアスは笑っている。

「さぁ、死んでしまえ!」

「ぐあああ…!!」

 腹に刺さったトンファーが急速に冷却していき、肉塊が氷に変換されていく。

 握り締めていた銃がするりと手のひらから滑り落ちていく。垂れていた血も凍結し固まる。

 奥歯ががたがたと震える。

 もう聞こえてはこない。もう考えられない。全神経がどこにも通ってない。

 無音と絶望の闇が遠くから来葉を引き込み、心地よく憎しみを満たしていく。


 もう…死しか、選べない。


 -来葉の腕が垂れ下がった。


読んでいただきありがとうございます。


この国の限界―人口飽和。


躍動の円舞曲ダンシング・ワルツ―第三楽章。全方位からの跳弾による連続射撃をする銃技。


白銀の夜想曲シルバー・ノクターン―第二楽章。高濃度の冷気の銃弾を撃ちこみ対象を氷結する銃技。


ヒディアス・ベルン―自国のために下界を滅ぼす人殺し。


来葉真一クルーエル・ハーツ―自国の人を殺して問題解決を臨む人殺し。


ファルス―来葉の親友。死亡。


浮刃京うきはけい―来葉に操られていると知らぬ生徒長。

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