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鉱物好物  作者: ヒロ
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7歳の洗礼式に、村の子どもたちと一緒に教会に集まって、わくわくしながら待っていた。ここで神様からスキルが貰える。生活に役立つものだといいな。

お父様は土魔法だ。お母様は剣士。1,000人ぐらいの村ひとつ任されているお父様は男爵だけど、土魔法を生かして村人と一緒に畑仕事をしている。村長さんのような役目だと思う。騎士爵だった実家から嫁いできたお母様は、スキル剣士の称号もあって、村の害獣を率先して駆除している。

山間ののどかな村は貧乏だけど、温かい。皆助け合って生きてきている。わたしもお父様やお母様のように村の役にたつためのスキルが欲しいな。


そんなこと考えながら、順番を待っていたら、先に終わった友達のミーナがわたしに気づいて笑顔で手を振ってくれる。めちゃくちゃ嬉しそうだ。

ミーナは駆けていって、ミーナのお母様と抱き合って喜んでいる。水魔法が授かったようだ。畑仕事がこれで随分楽になる。

その隣でヒューが拳を突き上げて喜んでいる。どうやら望んでいた剣術のスキルを授かったようだ。ヒューはうちのお母様に憧れていたもんね。


さぁ次はわたしの番だ。どきどきしながら司祭様の前に歩いていく。


「さぁ、ジェマさん、この水晶の上に手を乗せてください。」


司祭様の声掛けにこどもの顔の大きさぐらいある水晶の上に、そっと手を乗せた。

水晶に文字が浮かぶ。え?


『鉱物好物』


だじゃれ?え。だじゃれって何?アルミ缶の上にあるみかん。いや、違うそうじゃない・・・。何?変なだじゃれに驚いて一瞬で前世を思い出した。


「ジェマさんのスキルは『石好き』ですね。・・・ジェマさん?大丈夫?顔色がちょっと悪いよ。」


「司祭様、わたしのスキルは『石好き』ですか?」


「ええ、『石好き』と読めましたよ。確かに『石好き』とはあまり聞かないスキルです。でも、どんなスキルのでも神様は本人に合ったものを授けてくださっていると思いますよ。授与おめでとう。」


「あ、ありがとうございます。」


辛うじて司祭様にお礼を言って、教会の端っこまで歩いていく。次々と、今年7歳の村人がスキル授与されていく横で、さっき思い出した前世、そう前世って、わたし転生したの!!


んー。ちょっと待って。

前世の記憶が今の自分の記憶に重なる?ダブる?注入?脳を圧迫する?7歳の記憶を持つ現在の脳に前世40年間分の記憶が増える。あああ。止めて。7歳のわたしがパニックになる。


教会中央で、スキル授与の悲喜こもごもドラマが生まれているけど、わたし以外に前世思い出した子っているんだろうか。みんな無邪気そうだ。見ている限りわたしみたいな子はいなさそうだよね・・・。


それにしてもスキルが『石好き』とは・・・。でも、わたしの目には漢字で『鉱物好物』って読めたんだよね。この違いなんだろう。今世漢字が無いせいだろうか。漢字知らなければ『鉱物好物』だなんて読めないものね。前世の記憶が関係しているのならば、言わない方がいいかも。この世界の常識って7歳の知識の中にあまりなかったから、前世を持つ人が存在している世界なのかもわからない。これから学ばないとね。


「ジェマ大丈夫か?座り込んでいるけど、どこか痛いのか?」


お父様が心配そうに顔を覗き込んできた。前世の記憶を思い出したからこそわかる。お父様イケメンだ。柔らかいミルクティー色の髪に、優しいこげ茶の瞳。いやいやかなりカッコいい。どこぞの王子様だと思うぐらいかっこいい。いいのかうちのお父様で。ただのイケメンではなく、お父様は柔和な表情に働き者の手をしている。土魔法を持っていて、日々村で畑作業を手伝っている優しい領主様なのだ。それにまだ28歳と若いなお父様。


そんなお父様が心配そうな顔なのは、わたし教会の端っこで座り込んでへたっていたんだよね。だって動いたりしたら、記憶がこぼれそう。


「お父様、大丈夫。ちょっと人が多くて酔ったみたいだったの。」


「そうか、これだけ村の子が集まることって普段はないからな。酔ったのなら、外に出て風にでも当たるか?」


そういうと、わたしを抱きあげ、教会の外に出てくれた。え?抱き上げる?他人に抱かれている?えー。前世40歳のわたしは人に抱かれるなんて初体験で動揺してしまったが、7歳のジェマはお父様にぎゅっと抱きついた。ああ。もういいや。急に増えた記憶に7歳のジェマがギブアップした。前世40歳のわたしもイケメンの異性に抱き上げられるなんて、どぎまぎしてしまって、今は何も考えられない。


「ジェマのスキルなんだった?」


抱き上げられて、頭の中ぐるぐるだったわたしにお父様が優しく語りかけてくる。スキル?あ、そうだ。さっきスキル授与があった。前世思い出したお陰でそっちはさっぱり忘れかけていた・・・。わたしの目には『鉱物好物』だったけど、司祭さんには『石好き』だった。ここは言っていいことと悪いことがわかるまで司祭さんの言葉にのらないとね。


「えっと『石好き』だったよ。」


「え?石好き?石が好きっていうこと?」


「ええっと、石っていうのか、土や石が固まった物、鉱物全部が対象みたい。身近な物でいえば水晶や鉄と金とかかな。それらが好きだからよくわかる?使ったことがないからはっきり言えないけど・・・。」


「あああ、そうだね。スキルは最初どう使っていいのかわからないよね。なんとなく出来そうっていうのがあって、使っていくうちにわかるようになるよ。お父様も土魔法授かって、悩んだけど、畑を耕せるし、土壁も作れるようになったしね。」


「うん、なんかわかりそうっていうだけだから、いろいろ試してみるね。」


「ジェマ、水晶や鉄や金は鉱山や山奥にあるというから、ひとりで絶対行ってはダメだよ。行く時はわたしか父さんかディアに声掛けすること。約束だよ。」


お父様かお爺様かお母様の許可が必要か。んー。7歳じゃ仕方がないのか。真剣な目なお父様に頷くことしかできなかった。記憶を探っても今までのジェマの行動範囲はそれほど広くない。それに7歳の知識・記憶って少なすぎる・・・。わからないことが多すぎる。何ができるのかは、家に帰ってからよく調べてみよう。

頭の中はぐるぐるだったけど、洗礼式が終了したみたいだ。

村人全員が7歳の洗礼式が終るのを待っていた、お父様が司祭さんにお礼を言い、寄付もしていた。


「いつも村の者たちを導いてくださり、ありがとうございます。本日の洗礼式も無事に終わり感謝しています。」


「わたくしも、本日洗礼式を執り行えましたことを光栄に存じます。グラニット男爵に感謝申し上げます。」


司祭様は優しいおじいちゃんだ。特別ではない日は村の子ども達に読み書きを教えてくれている。

わたしは家で、読み書きは執事のオットーから教えてもらったけど、教会での勉強は強制ではないので、読み書きが出来ない村人も多い。


うちの村はお父様の土魔法もあって、ほぼ自給自足で、村の収穫物はお父様が一度全部買い上げているから、不当に儲けようとする人もいない。貧乏で生きていけない場所だからこそ、助け合いも当たり前だ。

そんな小さな村で今までのんびり育ててきてもらった。


男爵家の長女で、5歳と3歳の弟がいるので、家も継がなくて良い。この弟を7歳のジェマは溺愛しているようだ。弟愛が伝わってくる。

将来貴族でなくてもたぶん生きていける。お父様も畑耕しているし、お母様害獣駆除しているし、わたしたち姉弟は、村の友達と遊んでいるし、貴族らしい生活って何?っていう感じだもの。あ、お爺様はお母様と害獣駆除や鉱山の管理をしているけど、お婆様は子爵家からのお嫁入された立派なお貴族様だ。うちで唯一の貴族らしいところはお婆様かもしれない。


そんな7歳の記憶をたどりながら、お父様と手を繋ぎながら家に帰る。お父様とはいえ異性と手を繋ぐなんて前世一度も無かったなと思いつつ、7歳のジェマにとってはこれが普通なのだ。前世のわたしが動揺しているうちに、7歳のジェマが自然と動いてしまう。前世40年分の経験はたった7歳のジェマの当たり前によって上書きされてしまうのだ。7歳のジェマがお父様と一緒で嬉しいーと心の底から喜びが満ちてくると、もうわたしもそれでいいかと思ってしまう。


洗礼式は春一番が吹く頃に行われる。村の緑が一気に濃くなる季節。土の匂い。木の匂い。ぐんぐん伸びる春の薬草の匂い。芽吹きの季節が好きだという気持ちが湧いてくる。

家までの道は舗装のされていない土の道で、荷馬車が通るたびに深い轍が刻まれ、雨が降るとぬかるんでしまう。それでも、干した薬草を軒先に吊るしている薬師のミリーお婆ちゃんが笑って手を振ってくれ、遠くで薪を割る音が響き、放し飼いの鶏が土をつつき、ヤギののんびりした声が聴こえる村がジェマは好きだ。

教会から家まで広がった田園風景、まばらに建つ家々、村を流れる川に、少し目を上げると春の柔らかい黄緑色に染まった山々、少し遠くに見える白っぽい鉱山に、前世は都会暮らし緑の少ない灰色のごみごみしたところで暮らしていたから、自然の中はなんか癒される。


「お父様は、明日も畑に行くの?」


「ああ、トマさんのところ、男手が足りないから行ってくるよ。」


「西の川に遊びに行ってもいい?あそこなら足首ぐらいまでしか水が無いからいい?」


「西の水が少ないところだけだよ。上流には行ってはダメだよ。」


「わかった。上流と南側には行かないって約束するわ。」


村を流れる川は北の山から流れてきて、本流はそのまま南に流れていくが、小さな支流が西に分かれている。こっちの小さな支流は子ども達の遊び場になっている。川辺にクレソンやセリみたいな草も生えていて、子どもが遊びの後に家に持って帰るまでがセットだ。前世の京都鴨川の飛び石のある辺りっぽい風景かも。西の川はそれぐらい浅い。


前世クレソンが好きだったんだよね。記憶を探っていてクレソンらしき物を見つけて食べたくなった。以前のわたしならクレソンが好きだと思ったからといって、即動けなかったけど、今のわたしは思うとすぐに動いている。猪突猛進はジェマの得意技なのか躊躇うという言葉がジェマにはない。7歳のジェマに引きずられているのか、わたしが既にジェマなのか。クレソン=採りに行くという図式が出来上がっていた。悩まなくて済むのはいいのかもしれない。少し苦笑する。


そんな会話しながら家に向かう。

家は村の真ん中に建っている。村では一番大きい。4階建てで1階は使用人の部屋と倉庫やホールなど、2階が厨房に食堂やお風呂や執務室に図書室など、3階は8部屋の私室で、4階は客室になっている。日本でいえば豪邸だけど、王都にある貴族の家、お城のようなものが多いと聞くけど、それに比べれば質素かもしれない。

ここに、祖父母と両親、弟2人と住み込みの執事と侍女2人、子守が1人、護衛1人、御者兼お爺様の従者が1人、村から通いの料理人と洗濯をしてくれる人が数名いる。


「お母様、ただいま!」


お母様は記憶の中よりも美人だ。濃い紺色の長い髪にサファイアのように透き通った青い目をしていて、クールビーティで凛々しいな。お母様も28歳だけど、お肌もつるつるだし若く見える。騎士爵のおうちからうちにお嫁入され、うちの領地の切り込み隊長のような感じで、害獣駆除を率先して行っている。剣を持つとうちの領地でも上位の強さだ。めちゃくちゃ強いらしい。でも、笑うととたんに氷が溶けたようなお日様の笑顔だ。7歳のジェマが全力で抱き着く。お母様は、飛びついたわたしを軽々と抱き上げてくれた。前世のわたしはただただあわあわしていた。


「ジェマおかえり。スキルどうだった?」


「あのね、ちょっと変なスキルだけど、『石好き』っていうの。」


「石好き?まぁジェマは綺麗な石とか好きだったわね。」


あ、そうだ。わたし前世思い出す前、スキル授与される前、7歳のジェマは綺麗な石、好きだったみたい。


「まだ、何が出来るのかわからないからいっぱい勉強してみるね。」


「スキルは使いこなせるまで時間がかかるからゆっくり馴染むと良いわ。綺麗な石が見つかったらお母様に見せてね。」


「うん!綺麗な石が見つかったらお母様に見せるね!」


「ジェマ、楽しみにしているわ。」


抱き着いたまま、頬ずりした後、床におろしてもらった。次は可愛い弟だ。前世は一人っ子だったから、弟は初体験だ、でも、弟がいるのは嬉しい。7歳のジェマが弟たちへの愛を心の中で叫んでいる。その感情に引きずられるが、記憶の中の弟は美幼児でとても可愛いので、ひたすら共感する。


「ティオ!ネオ!姉さま帰ってきたよー!!」


「姉さま、おかえりなさい。」


5歳の弟ティオはお母様と同じ濃い紺色の髪と青い目で大人しくて真面目で超頭が良いようだ。いつも本を読んでいるのを記憶している。見た目はお父様とお母様の良いところをとったような将来イケメンになることが約束された美幼児だ。控えめな笑顔が可愛い。青い目がどこまでも透き通っていて可愛いのに綺麗な顔立ちで、将来もてもてになりそうだな。


はう。記憶より本物の方が可愛い。これは可愛いぞ。はにかんだ笑顔が最高。まだわたしより背も小さく手も小さくこじんまりしているところもいい。


「ねえたまー。」


下の弟はネオ3歳。素直で明るくて天真爛漫で何やっても可愛い。我が家の光、癒しの根源!7歳のジェマが心の中で叫んでいる。まぁ。とてとてぽてぽて歩いてくるのが超可愛い!!ほっぺはふにふに、髪の毛はほわほわ、お腹がぽよぽよ。まさに天使!7歳のジェマが叫ぶだけのことはある。可愛いー。

ティオとネオを両手に抱える、2人が縋り付いてくるのがほんとうに可愛い。両手に花!あああ、癒されるー。前世は小さい子と縁がなかったけど、7歳のジェマの大いなる愛に一緒に巻き込まれ幸せを感じることができる。


「姉さま、スキルじゅよおめでとうございます。」


「ねえたま、めでとう!」


「二人ともありがとう。『石好き』っていうスキルを授かったわ。まだ何が出来るかわからないんだけどね。」


「大丈夫ですよ、姉さま。きっと素敵なスキルです。」


「ねえたま、すてきー。」


ネオはティオの真似っこが大好きだ。可愛いー。


「スキルでまだ何ができるかわからないから、出来るようになったら二人にも教えるね。」


「はい!楽しみに待っています。」


「ぼくも!」


はぁなんて素直で可愛いんだろう。マイスイートハニー!!ネオを抱き上げて頬にキスをする。きゃあきゃあ喜ぶネオ。ああ可愛い!弟たちと触れ合いが減るのは寂しいけど、次は大好きなお爺様とお婆様にもご報告しなくては。


「お爺様とお婆様のところにもお知らせしてきます。」


「お義父様は、今日は山に行かれているわ。お義母様はお部屋で刺繍されているんじゃないかしら。」


「お爺様は後になるのね。お婆様のところへ行ってきます。」


お爺様とお婆様の部屋はこの家で一番大きくて日当たりが良いところだ。お父様に家督はお譲りされたが、実質実権はお爺様がまだ握られていると思う。頼りになるからずっといて欲しい。


「お婆様、お部屋入ります!」


ノックをすると、お婆様の返事もそこそこに部屋に入る。


「まぁジェマ、少し元気が過ぎますね。」


お婆様は苦笑されているけど、言葉は柔らかく拒まれてはいない。刺繍されていた手を止め、こちらを見て下さる。


「お婆様、洗礼式に行ってまいりました。スキルは『石好き』です。」


「『石好き』?あまり聞いたことがないスキルね。何ができるか楽しみかしら。」


「ええ、いっぱい勉強しようと思います。今からわくわくしているんです。」


「そうなの、良かったわね。」


「はい!」


「素敵な石があったら、わたくしにも見せてね。」


「はい!お婆様、素敵な石を探してきますね。」


「楽しみにしているわ。」


ふふふと微笑まれたお婆様は48歳だけど、物凄く若く見える。

子爵家からお嫁入されたという上品な淑女だと思う。田舎の男爵家にいても、そこだけぱっと光が注いているかのような煌びやかさだ。若い頃は大変もてたんじゃないだろうか。

今でもめちゃくちゃ美しい。前世40歳だったわたしより48歳のお婆様の方が若くて綺麗にみえる。田舎の村なのに、ひとりだけ王都のお貴族様並みに美しいのだ。

でも何故貧乏な田舎の男爵家なんかにっとは思わない。だって、記憶にあるお爺様がめったにないぐらいのイケオジなのだ。渋くて色気があって豪快で優しくて7歳のジェマが大好きなお爺様である。


外出中のお爺様以外の家族に一通り報告したので、やっと自分の部屋に入る。

広めの12畳ぐらいある。そう考えるとうちの家、大きいのかもしれない、お爺様とお婆様の部屋は20畳ぐらいあったと思う。さすが腐ってもお貴族様?王都のお城は何百と部屋があると聞いたことがあるけど、うちはこれぐらいでちょうどいいと思う。

女の子らしい雰囲気はあまりなく、さっぱりした部屋かもしれない。それでも自分の部屋だと落ち着く。


部屋の窓辺には7歳のジェマが集めていた綺麗な石が並んでいる。ああなんだかいいね。石が好きという点で7歳のジェマも前世のわたしも繋がっている気がする。


靴を脱いでベッドに横たわる。やっとゆっくりできる。よそいきのちょっと良い服も脱ぎたいけど、そうしたらフィーナを呼ばないといけない。フィーナはうちの子守だけど、わたしの服の脱ぎも手伝ってくれる。優しいお姉さんだけど、頭の中が少し整理できるまでしばし1人で居たい。


『鉱物好物』すべてはこのスキルからだ。

前世は40歳だった、詳細は覚えていない。日常の記憶はあるけれど、いつどこで死んだとかは思い出せない感じだ。まぁいいけど。記憶に強い感情は残っていない。誰か知らない人の記憶を映像で見ているような感じだ。

一人っ子だったけど、毒親で親に搾取され暴言や暴力でコントロールされていて、逃げるように遠くに引っ越し一人暮らししていた。


記憶にあるのは独身のままひっそり真面目に生きていた。高校生の時に掛け持ちでアルバイトをしてお金を稼ぎ、高校卒業と同時に親から逃げて、1人暮らしは食べるにも苦しいというまでの貧乏ではなかったけど余裕もなかった。

毒親のせいだったのか、友達も作らず、仕事の同僚とは普通に話してはいたけれど、私生活はずっとひとりだった。


趣味というのか、石が好きだった。冷たいけど温かい物言わない石が自分の心境に合っていると思っていた。心惹かれるのは静かな生活だった。人間関係は寂しいままだったけど、親と離れてからは1人静かに好きなことだけしていた満ちた人生だったかもしれない。


あの頃の唯一の楽しみが買った原石を窓辺に並べてきらきらしたところを見ていることだったけど、そうだよね。石好きだった。裕福じゃなかったからたくさん買えなかったし、都会暮らしだったから、道端や生活圏内で拾える石もなかったけど、手にいれた石は、心の支えだった。だからこのスキルを得たのか。なんだか納得した。


『鉱物好物』スキル集中する。半透明のウィンドウが出てくる。ゲームの世界みたいだけど、これがこっちの世界のスキル確認だ。お父様から聞いたとおりだった。集中して何が出来るか読んでみる。


鉱物の探索

鉱物の採掘

鉱物の切り出し

鉱物の抽出

鉱物の鑑定

鉱物の研磨

鉱物の加工

鉱物の硬化

鉱物の運搬

鉱物の収納


当然のように全部鉱物がらみだ、鉱物だけに限ったら万能じゃない。凄い。


『石好き』ってどれだけ地味なスキルかと、こっちの世界の人には思われているよね。前世の知識で何とかなるんだろうか。実施使ってみてみないとわからないことが多い。こっちの世界の石ではなく、鉱物と変換されていることに意味はあるのだろうか。鉱物って石や岩、固まったものすべてだものね。金属類も含まれる。石とは違って鉱物となると範囲が一気に広がる。鉱物か、鉱山行って試してみたいな。あ。玄関の方で気配がする。


ベッドからがばっと起き上がると、部屋を出て玄関まで急ぐ、お爺様がお戻りだ。鉱山の管理をしているお爺様にお願いしてみよう。


「お爺様!お疲れ様です。」


お爺様が山から戻ってきたらしい、ざわざわした空気を読んで飛んできたけど、お爺様はシブイ、今年50歳だと聞いているけど、お父様と同じ髪と目の配色なのに、色気が漂っている。未だに村のおばちゃんたちには絶大な人気があるんだよね。体も大きくてがっしりしているのに、品があって素敵なのだ。前世お爺様がいらっしゃったら絶対好きになっていた。7歳のジェマが大好きなお爺様である。


「おお、ジェマ、元気だね。今日のスキル授与はどうだったか。」


「はい。お爺様わたしのスキルは『石好き』です。」


「『石好き』?変わったスキルを貰ったな。」


「お爺様、スキル何が出来るかわからないから廃坑へ行ってみたいです。」


「ああ、廃坑か。危ないところには勝手に行かないと約束できるか?」


「はい!大丈夫です。お爺様がダメっておっしゃった場所には行きません!!」


「うむ。そうか。じゃ、今、うちの鉱山の見回りに行っている最中だから、三日後に廃坑へ行こうか。」


「え!三日後なんてそんなに早くにいいの!お爺様、ありがとう!!」


あんまり嬉しくてお爺様に抱き着いてしまった。お爺様はにこにこして抱きあげてくれた。

7歳の体と記憶に引っ張られて子どもっぽさが自然と出てしまうのは仕方がない。何にも考えていないと無意識に7歳の言動になってしまう。7歳の記憶を探ると、この子は猪突猛進で裏表が無くて素直で自己肯定力も高い。基本衝動で動いている。そうあまり何も考えていない。笑えるぐらい自由だ。前世毒親育ちで人と距離があったわたしにとって、7歳の彼女は眩しい。だから7歳だけの彼女と40年生きてきた前世のわたしは今半分ずつぐらい。40年の経験も生きた年数も、強く輝く7歳のジェマに押され気味のところがあるという感じ。嫌じゃない。前世憧れていた屈託のない言動に流れてしまうことは仕方がない。


前世を思い出したなんて気持ち悪いことかもしれないから、今は黙っているけど、7歳のわたしのお陰でわたしは今日、お父様とお母様とお爺様に抱っこされた。人の温かさを自分の身に感じることができるなんて、想像もしてなかった。わたしが抱いたティオとネオも温かくて柔らかくて甘い香りがした。幸せの香りだ。


この大家族の温かい雰囲気に、涙が出そうなぐらい幸せだ。


「ジェマ、服を着替えておいで、もうすぐ食事の時間だよ。」


わたしを床に下ろした、お爺様も山で少し埃っぽいということで、着替えに戻られた。わたしもフィーナに手伝ってもらって、外出用の服から食事用の服に着替える。貧乏だけど、貴族は食事時用の服がある。お婆様がその辺厳しい。ただ、貧乏田舎の男爵家なので、子どもも一緒にディナーを食べている。そこらへんは貴族といっても緩いのかもしれない。


夕食は、お父様が育てた野菜のスープに、お母様が仕留めたウサギのステーキと硬いパンだ。時々ステーキの代わりにベーコンになったり燻製肉が登場したりするけど、サラダとか、野菜炒めとか、食べたことはない。ハンバーグもコロッケももちろん食べたことはない。お母様が仕留めた夜は大抵このパターンだ。時々大物鹿とか仕留めた日は煮込み料理が出てくる時があり、7歳のジェマは非常に楽しみにしていたようだ。


朝はパンと豆のスープが多い。時々村で作っているチーズや卵料理も出ることはある。お昼は蒸した芋だけの時もあるし、食べない時もある。こっちの世界お昼はあまり重要視されていない。

ただし、お婆様はちゃんとお茶の時間を取っておられる。そこだけちょっとお貴族様かもしれない。


家族全員で和やかに食べる夕食の雰囲気だけで心が温かくなる中、廃坑へ許可も取ったしわくわくが高止まりだ。こんなにテンション高くなったのはいつぶりだろう。まぁ7歳のわたしはいつでも毎日テンションが高かったみたいだから、誰もわたしのことを変だとは思っていなかったみたいだけど。


ふぅ、今日はスキル授与があって、変なダジャレで前世思い出して、脳内が大変だった。スキルも試してみたいけど、7歳のわたしはもうくたくただ。おやすみなさい。



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