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48 パールホワイトの扉。

完結回です。

 新しい世界の扉が出現し、それを目撃した僕たちのその後の行動は早かった。


 まず、レイブンがツカツカと扉に近づき、ノックもしないで扉を開け中に入って行く。僕はレイブンの後を慌てて追う、その後にマッシュも続く。


 部屋の中は綺麗で他の管理人がいる部屋同様の間取りになっていた。

 全部、統一されているようだ。大きなソファが二つとテーブルが一つ。本棚と右と左に小さなグレーの扉がある。

 そして正面には観音開きの少しゴージャスな扉が存在感を出してそこにあった。

 その前に背の高い丸いテーブル、カフェテーブルのようなものがあり、その上にペンがペンスタンドに立てられ置いてある。


 当然ながら管理人は何処にもいない。

 三人は中に入り回りを見回した。

 レイブンは本棚の本を1つ取り三人がけソファにドンと腰かける。僕もそれに続き目についた本を座って読む。

 マッシュは右手の扉が気になるのか、それを開けて中に入って行った。


「面白そうな世界だな、文明もそこそこ発達しているようだ」


「できたばかりの世界なのに国とかも、幾つもあるみたいだよ!僕の本には地図と種族分布が記載されているし、土地の特色とかのってる。ただ、人族?この世界の人族にあたる種族の国だけはないみたいだけど」


 レイブンが僕の本の地図の部分を覗き込む。


「前に管理人に聞いた事があるんだが…新しい扉の出現は、その世界である程度の文明が発達したりと、ある一定の安定ないし成長が扉の出現条件になるらしい。だから、本当の生まれたての世界には無限回廊からは直接行けないんだとさ」


「えっ、じゃー、ここに記載されている国の人たちとかは何処からきたんだろう」


「さぁーな。世界の創造の話しになるから、それは俺にもわからない」


 コトリ。


 僕とレイブンの前に熱々の紅茶が置かれた。


「えっ、マッシュが入れてくれたの?」


「そこの扉の先にお茶を入れられる場所があったから、わし入れてきた」


 マッシュが余計なことをしてしまったかと少しシュンとする。ああ、そういった仕草がたんぽぽちゃんと似ているんだよ。


「あ…ありがとう。ミルクと砂糖もあれば欲しい」


 僕はレイブンと再会できたことが嬉しくて、もうマッシュを解放してあげても良いんじゃないかと、ふと思った。

 だから、今まで絶対に言わなかった感謝の言葉を初めて口にする。


「わし、直ぐに持ってくる!」


 マッシュは嬉しそうな顔をして隣の部屋に飛ぶように消えていく。

 その姿はまるで、ご褒美をもらえた犬のようだ。


 一方レイブンは、紅茶を入れてもらうのが当たり前のように、それに手をかけ飲んでいる。視線は書物から離れていない。

 あれかな、王様期間が長かったから人に何かをしてもらうのが当たり前になっちゃったのかも。


 それから大雑把に棚の本や書類に目を通すと、レイブンが僕の方を見る。


「この世界に転生するぞ」


 レイブンがおもむろ言葉を紡ぐ。


「えっ、そんなに簡単に決めていいの?」


「ああ、前回は陸地が少ない世界だったからな、ここは大陸のようだし趣向を変えたいと前から思っていたんだ」


「趣向を変える?」


 僕とマッシュはレイブンの話の続きに耳を傾ける。


「ああ、転生するたんびに羽のある種族を毎回選んでいた。羽がない時も稀にあったが無くとも浮遊スキルで飛べる世界に生まれ変わった。でも、そろそろ地に足をつけて生きることも、してみたいと思っていたんだ。陸地の多い世界、見えるものも違うだろうしな」


 彼の真剣な顔に僕も真面目に答える。


「でも、地面を歩くの好きじゃないよね?」


 レイブンが軽く笑う。


「空ばかり飛んでいたから変な称号がついたんだ!地に足をつけると力が半分になるのか体が重いんだ。だからこそ、環境を変えようと思った…今が称号を変えるタイミングなのかもしれない」


「称号を変えるタイミング?!」


「お前が俺を見つけて困っていたら助けてくれるんだろう?」


「あっ、もちろんだよ!世界が広くってもレイブンを必ず見つける!」


 僕は心の中でドキッとした。


 実は僕の称号はもう『優柔不断な頑固者』じゃない。

 この称号から解放されてから迷う心に変化があった。新(・)し(・)い(・)称(・)号(・)にそ(・)う(・)行動を取れば迷わず決められる。


 そう、この僕が迷わない、それは不思議で新鮮な感覚。


 石橋を叩いて渡る、慎重になりすぎて行動が遅い僕がそれにやや付随する称号を変えること(くだくこと)に遂に成功した。


 これを喜ばずしてどーするのか!


 でも、今は顔に出さないように細心の注意をする。まだ、転生を成し遂げてないのだから…契約もしていない。


「レイ…レイブンがこの世界でいいなら僕も、それでいい、あの~先に、先に契約をして欲しいんだけど」

 

 最後は少し小さな声になりながら、ドキドキする胸を軽くおさえて願望を発露する。


「そうだな、転生手続きの書類を書く前がいいか、サクッと終わらせるか。内容は転生先でお前が俺のいる方向を常時把握でき、常にその方向が気になる、それの対価に俺に出会って俺が困っていたら無条件で必ず助けると、期限はどちらかが死ぬまででいいな?」


「うん」


 僕は即答した。

 その後、契約に必要な質問を数個受けて、いよいよ契約が交わされる。


『俺、レックス・レイブーン・フリューゲル・クローバー・ルルリヤは、ボーク・ホウロウ・ルチルがこれから転生した後、その世界で俺のいる方向を常時感知でき、その方向が気になる。その対価にお前は、その世界で出会った俺が困っていたら無条件で俺を助けること。期限はどちらかが死ぬまでだ』


 レイブンは言霊スキルの力のこもった言葉を放つ。


『そ(・)れ(・)で(・)い(・)い(・)か(・)?(・)』


「はっ、はい!!!」


 レイブンと僕が同時に光に包まれる。

 マッシュは驚いた顔をしてはいたが邪魔にならないように、その様子を静かに見ていた。


「契約完了だな」


 僕はすぐに自分のステータスを見る。

 当たり前だがレイブンからの呪いの文字があった。何だか懐かしい文字だ。

 これで新しい世界でレイブンをじっくりと探せる。


 レイブンは僕に一枚の紙を渡す。

 彼の前にも同じ紙が置いてあった。


「これは?」


「転生希望条件をチェックする書類だな、そこの引き出しに入っていた。希望する種族、能力、生まれる環境、細かい内容にチェックを入れろ。これは、どの扉に入っても書かされる紙だ。必要ポイントは、そこの転生項目スキル事典を引いて自分で調べろ、自分のポイントは最低でも101ptは残せよ!そうしないと無限回廊から弾かれて転生が失敗する」


「わっわかった」


 レイブンは、てきぱきと僕に指示をだしながら自分自身も書類を書き始める。管理人さんがいないのに、転生の手続きをできるなんてすごいね。


「体が丈夫な強い種族がいいが鬼人族はありきたりだし、竜人は羽があるから…他の種族にするか?そうだな純血種でなければ…人族とのハーフにするか、その分ポイントも他に回せる。この世界は浮遊が封印状態になるが問題ないように他にポイントをふって、称号によるマイナス効果を補えるスキルを取得する…と」


 彼が隣で書き終わった紙を僕は覗く。


「レイブンと同じ種族にする!それじゃー僕も、それと人族とのハーフにする」


 僕はもう一度、書類のチェック項目を見直す。

 持っているポイントはジャンジャン使った。

 後で後悔しないようにと。


 ふふふっ、僕はにやける顔を静める。


 レイブンには鑑定スキルがある、でも最近の僕にそれを使った素振りが全くなかった。

 彼は僕を完全に見下しているような気がする。だから僕がいっぱい魂のポイントを持っていることも把握していないし、僕の称号が変わっていることも知らない。

 そう、取るに足らないものだと、すっかり気を許しているみたいだ。



※※※※※※※※



 レイブンと僕は今、豪華な観音開きの転生の扉の前に立っている。その前の足の高いテーブルに書類を置き、最後の署名の段階にきていた。


 署名用のペンは特殊なペンなのか1本しかない。順番に手続き完了のサインをするしかないのは仕方ないのかもしれない。多分だけど、同じ世界に同時に行くものは珍しいから用意がされていないのだろう。

 

「ボークが先に書くか?」


「いや、レイブンが先に書いて!」


 もし、僕が書いた後にレイブンがゆっくり記載したら…僕とレイブンが生まれる時間の感覚が空いてしまうかもしれない。少しでも次の世界で長くレイブンといたいから、年齢が離れすぎるのは辛い。だから僕が後に書く、彼が書いたら時間を置かずにサインする。

 これ必須、管理人用のテストに出るかもしれないよ。


 いよいよ、待ちに待った瞬間が僕の悲願が達成される。


 置いていかれず。

 望む世界に。

 迷わず転生する。


 ああ、これが幸せというものなのかもしれない。もう、決められない僕はいない。無限回廊をさ迷う放浪者は回廊を放浪しない。


 目頭が熱くなる。


 僕は幸せになる一歩をレイブンと進もうとしている。そのことを彼は気づいていない何時もの転生だと思っているに違いない。

 でも僕はもう、彼を逃さないと決めたから逃がしてあげるこは出来ないから。


 ごめんねレイブン、僕は自分の幸せの為に彼を利用する。


 レイブンは、サラサラと長い名前を綺麗に書き、ペンを僕に渡してくれた。



 ぎぃぃぃーーー。



 鈍い重厚な音と共に扉が開き始める。僕は急いでペンを握り自分の名前を記載する。緊張しすぎて手に汗をかいてしまう。

 

 よし、書けた!


 これで、もうやり直しはきかない。


 僕は、ほっとしてレイブンの顔を見つめる。彼は開ききった扉の方を見ていて僕を見てはいない。

 でも大丈夫、転生先で出会ったら僕なしでは生きていけないようにしよう。

 覚えていなくても僕なんだから、そこら辺はうまくやってくれるはず。



 二人が眩しい次元の狭間の光りに包まれ、吸い込まれる寸前に僕は大事な事を思い出した。


「性別にポイントをふるのを忘れた?!えっ、ちょと…待って…えっ、僕は男に…なっ」


 ガッチャン!!


 扉は無情にも容赦なく二人を飲み込み、きっちりと閉まった。それをマッシュは、最後まで静かに何かを考えるように、じっと二人を見送っていた。






 そう、僕とレイブンは無事に新しい世界に旅立った。



 この時の僕の称号は…。




 称号 依存を糧にするもの

  (※効果・他者に依存することで幸せになれる)



 新しい広い世界で、いつか二人が男と女の姿で出会い行動を共にすることになるのは、また別の話。




 【おしまい】

 






 

 完結しました。お付き合いありがとうございます。私の中では一番長い話なのでボークが途中で寄り道をするのを何とか止め本筋に戻すことを頑張りました。

 これから転生先で、もしかしたら魂が成長すると共にボークの称号が変わるかもしれませんし、変わらないかもしれません。

 ボーク・ホウロウ・ルチルの幸せを願って。



 ※このあとマッシュは、なけなしの魂のポイントを追跡スキルにふって恩人に恩を返すべく同じ世界に転生します。その時に使ったのはホウロウの血を拭った手拭いで、これをポイントを使い転生先に持ち込みます。匂いを嗅いで対象を見つけ無事に恩返しができるとよいです。

 ワンコの恩返しです。

 

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