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第五話『闇堕ちのチャンス到来!?』

 書斎室の扉。その一歩前でグランとシャーリーは二人揃って立っていた。


「(勢いでここまで来ちまったけど、これデネゴが使用人の待遇変えるとかいう可能性あんのか? 原作のゲーム内だとバハムート侯爵家の状況は今と何も変わってなかった。てことは、こんなにも過保護にされてるグランが言ってもデネゴは使用人の待遇を変えなかったって事じゃねえの? それじゃあ今の俺が何言ったところで無理じゃね)」


 などとグランは考えていた。しかし、ここでグランは一つ勘違いをしている。

 確かにゲーム内でもグランはシャーリーから使用人の待遇を変えるようデネゴに言ってくれと頼み込まれていたが、それでグランが首を縦に振る事はしなかったのだ。

 グランからすれば、使用人なんて元々忠誠など無くても自分のいう事を聞く奴隷であり、道具なのだ。わざわざシャーリーの言う通りにする意味はないし、そもそもグランがデネゴの息子である時点で二人の思考は似通っている。その為、グランはデネゴと同じ考え方をしており、使用人は奴隷であるという考えを既に植え付けられていたのだ。


 つまり、そもそもグランがデネゴに「使用人の待遇を変えてください!」と進言する事こそが異常事態なので、可能性を推し測れる事は出来ないのだ。

 だが、それをグランは知らなかった。


「(やるしかねえよな)よし、じゃあシャーリーは此処で待機しててくれ。父上には俺一人で対応した方が良いだろうしな」


「……はい、畏まりました」


 ここに来てシャーリーは一つ後悔をしていた。今、目に映っている一人の少年が思ったよりも大人びていて、尚且つ自分が少年を心底敬ったあの時、この少年は傑物の器なのだと感じてからずっと思っていたのだ。


――もしかすると、シャーリー達の考えていた計画は余計な不運を招くのではないか、と。


 別にシャーリー達が無理に現実を教え込もうとせずとも、少年はやがて自分で気づけたのではないか? 少年は今まで、素でこの屋敷の使用人たちを見下していたわけではなかった。今までの『グラン・フォン・バハムート』はただの演技だったのだ。

 それが分かった今、シャーリーはグランに要らぬ心労をかけようとしているのではと心配していた。


 まぁ、


「(やっと闇堕ちできるぜ! 流石に原作のストーリー始まる前には悪役になってないと後が面倒だからな。さっさと闇堕ちの伏線張って、ストーリーに備えなきゃな!)」


 当の本人は途轍もなくはしゃいでいるので、シャーリーの心配こそ要らぬ心労であるのだが。


 デネゴが領主としての任を果たしているだろうこの書斎には、領主付き執事とデネゴの専属メイドが一人居る。この三人で大抵行動しているのだが、一人を除いて今日この書斎にグランが来ることを知っていた彼等は、既に心の準備が出来ていた。


 グランのサポートに回る準備――――ではない。


 ましてやデネゴのサポートに回る準備でもない。口を挟まずにいる準備である。自分らのためを思ってこの書斎に乗り込んでくるだろう少年には、心底助けてやりたいと思っているこの二人だったが、この計画は少年を大人へと一歩成長させるためのもの。断じて自分達が楽できるようにする為のものではないのだ。


 そこを弁えていた使用人たちは、今日という日だけはグランに対して厳し目だった。ぶっちゃけ今日という日を除けばグランに対しては憐れみを持っていたのだが、それはあんな親を持って可哀そうにという憐れみだ。この屋敷の使用人は、意外にもお人好しの集まりだったのだ。


 デネゴのペンを走らせる音以外は何も音のしない静かな書斎。そんな書斎の扉が、勢いよく開かれ、その場に居た全員の視線が扉の音がした方へと引き寄せられる。

 そこには、デネゴに似た赤毛の髪と、アラネウスに似た金色の目をした少年が居た。


 デネゴは眉を上げ、走らせていたペンを机の上に置いて件の少年を見やる。


「どうかしたのかいグラン?」


「はい、実は父上にお話があって参りました」


 堂々とした態度でグランは言う。その様を一瞬訝しくに思ったものの、息子の言う事なのだからとデネゴはグランの言い始めるだろう言葉に耳を傾けていた。


「あの、我が家の使用人たちについての事なのですが……」


 おずおずと話し始めたグランの言葉に、デネゴは立ち上がる。


「あの奴隷共に不当な態度でも取られたのか!!?」


「(その奴隷共に不当な態度を取ってるのがお前だよ)」


 冷めた目でデネゴを見つめているグランとは違って、デネゴは怒っていた。

 常日頃から自身が見下している奴隷たち。そんな奴らが自身の愛しき息子を傷つけていると知れば、それはそれは激怒してしかるべきだろう。


 その様に、その場にいた二人の使用人は身震いするが、何とか耐える。


「いえ、違います。そうではなく、使用人の待遇をもう少し改善してやるべきなのでは、と思って」


「何、改善?」


 滾っていた憤怒をグランの言葉によって抑えられる。いきなり可笑しな事を言い出したグランにデネゴは首を傾げていた。これを本気で可笑しな事と言えるのだから、デネゴは根本から使用人を見下していると言えるだろう。


 そんなデネゴの心情を見事に看破したグランは、怒っていた。


「(なんなんだよコイツ!! 何、会社の社長とかって皆こんななの? っざけんなよ俺等会社員の事なんだと思ってんだよ恥を知れこの豚共がっ!)」


 使用人には一切同情しない癖に何故か自分とこの屋敷の使用人たちを重ねてしまい怒るグラン。馬鹿かコイツ。


「そうです、改善です。今のままでは、やがて使用人たちの中から過労で死んでしまう者も出てきてしまうかもしれません。そうなった時、我が家の評判が落ちる事は必須ですし、何よりそれで死んだ使用人が哀れでしょうがないでしょう?」


 あくまでも貴方の為に言っているんですよ、と暗に伝えるグラン。そして、そんなグランの思いはデネゴにも伝わっていた。だからこそ、デネゴはグランを安心させるために優しい笑みを浮かべて、言った。


「それなら、大丈夫だよグラン。そんな事が起こらないよう、過労死した使用人に関わる者たちは全て駆除している。何も問題なんて怒らないさ」


 グランの傍により、そして頭を撫でてやる。傍から見れば父親が息子を励ましているように見えなくもないが、父親の言っている内容が半端ないのでそんな光景に意味はない。


「(マジかよ。俺より悪役しとるやんこの人――――――尊敬しそう)」


 尊敬すんな。


 グランはともかく、このデネゴの話を聞いていたメイドに執事、そして扉の向こうでコッソリ話を盗み聞きしていたシャーリーは、戦慄していた。

 自分たちが考えていたよりもこの屋敷は闇が深かったのだ。そして、そんな屋敷で働いている自分が不安でしょうがない。このままでは、この屋敷で一生を終える事になるのではないか? そんな不安が、彼らの胸中を支配していた。


 そんな使用人側の狼狽えた様子を、グランは見逃さなかった。


「(そりゃ怖くなるわな。俺だって他人事だから良いけど、自分がコイツの部下だったらヤダもん)」


 一拍の沈黙の後、グランは細々と応えた。


「……そう、ですか。なら、安心ですね」


「ああ、そうだとも。だからグランは何も心配せずに、いつも通りに過ごしていて良いんだよ」


 息子が納得してくれた、と思い込んだデネゴは後ろに控えている執事にグランが出ていくまで付いていてやれと命令する。言葉を発さずに深く頭を下げ、グランの近くへと寄った彼はグランを部屋から退出するように促した。


「グラン様、デネゴ様はお仕事の最中です。これ以上のお暇は少々デネゴ様にご負担をかけてしまうかと」


「……ああ、分かってる」


 俯いたままそう応える少年に、執事は胸が苦しくなってしまう。

 まだ十にも満たない少年を誑かして、そして追い込んで。自分たちは一体何をやっているのか。これでもし、自分たちの為に絶対である父に向かって進言してくれた少年が、この屋敷に色に染まってしまったら、本当にこの屋敷は終わってしまう。それだけは、絶対に阻止せねばならない。


 この場に居る執事とメイド、そしてシャーリーはグランに絶対の忠誠を誓う事を心に決めた。でなければ、純粋な少年に心の傷を負わせた罪に償えないからだ。


 そして、そんな心の傷を負ってしまった少年は、


「(これじゃあ闇堕ちにはまだインパクト弱いよなぁ。畜生、俺はまだ悪役にはなれねえってのか)」


 そんな心の傷に不満を持っていたのだった。


 



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