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【1:その勇者、財布を失くす】

2万文字程度(20話足らず)の中短編です。

「はぁっ!? お金がない!? 無銭宿泊かよっ!」


 俺は父が経営する宿屋で働きながら、魔導師を目指している。昨夜宿泊した人物が、チェックアウトの段階になって金が無いと言い出した。財布を失くしたと言う。


「そんな言い訳、信じられるかよ! 始めから無銭宿泊するつもりだったんだろ!?」


 そいつは全身を覆う重そうな鉄製の鎧を着て、フルフェイスの兜まで被っている。だからどんな顔をしてるのかわからない。

 わかるのは、決して大柄じゃない170センチの俺よりもだいぶん低く、かなり小柄ということだけだ。


「そんなことはない。何とかしてお金は払う」

「どうやって?」

「私が君に剣術のレッスンをするというのはどうだ? レッスン代を宿代に充ててくれ」


 ──コイツ、レッスン代を取るほど、立派な剣士なのかよ?


 そう思って、改めて昨日コイツが書いた宿帳を見た。そこには『スカーレット・ネーチャー』という名前が書いてある。

 そして職業は『勇者』、年齢は19歳。それにしては子供みたいな声だ。


 マジか? こんなに小柄なのに勇者?

 あっはっは、嘘だろ?


 ステータス透視ができれば一目瞭然なのだが、残念ながら俺はまだできない。だが、どう見ても嘘くさい。


「いや、そもそも俺は剣士なんか目指していないし、レッスンを受ける意味がない」

「そうか……それは残念だ……少年は何を目指しているのだ?」

「少年って呼ぶな。俺はもう17歳だし、アッシュ・ブライアンという名前がある」

「ほう、17歳か。私と2個しか変わらないのか。すまなかったなアッシュ。それでアッシュは何を目指してるんだ? ずっと宿屋の店員か?」

「いや……俺が目指してるのは、支援魔導師だ」

「ほぉ……いいじゃないか、支援魔導師」

「まあ、俺なんてBランク魔法士で、まだまだだけどな」

「そうか。誰にでも可能性はある。Sランク目指してがんばれ」

「ああ、ありがとう」

「では私はこれで……」


 心に染みる優しい声だ。コイツ、案外いいヤツかも。





「……って、待てええええーっ!! お前、出て行こうとしてるけど、宿代はどうするんだよっ!?」

「ああ、そうだったな。すっかり忘れてた」

「嘘つけ! わかってて、バックレようとしただろ-!?」

「いや、ホントに忘れてたんだ。すまない」


 その偽(?)勇者は、突然フルフェイスの兜を両手で脱いで、そしてペコリと頭を下げた。兜の中から出てきたのは──


 ──えっ? ええっーーーっ!?


 それは、サラサラと長い金髪で、長いまつげ。目がぱっちりとした、超絶美しい女性の顔だった。いやそりゃもう、びっくりするくらいの美女だ。


「お……女?」

「ああ、そうだよ」

「お前は……ホントに勇者なのか?」


 あまりの美人! しかもそれが勇者だなんて!


「ああ、そうだよ。世界最強の勇者だ」


 ──なに?

 こりゃまた大きく出たな。

 嘘くさ過ぎて、コイツはにせ勇者確定だ。同じつくなら、もっと信憑性のある嘘をつけよ。コイツ、美人だけどバカだ。


 と言うものの……コイツ、安っぽい鉄製アーマーを着てるし、ホントに金を持ってなさそうだ。どうしようか……


「そうだ、お前。ホントに勇者だってんなら、宿代は、今から何か依頼仕事をして、その報酬で払え。この町のギルドに案内してやる」

「なるほど、それはいいアイデアだ! 助かる! アッシュは頭がいいな!」」


 ──いや、お前が抜けてるだけだろが。

 それに背中をぽんぽん叩くのはよしてくれ。美人にボディタッチされたらドキドキしてしまう。


「お前ホントに大丈夫か? 自信はあるのか?」

「ああ。『All is fin(何も問題ない)e』だ」


 ──なんだこいつ?

 なんでいきなり外国語?


「いや……わかった。そうしよう」


 もしもコイツがホントに勇者なら、一泊の宿代くらい半日で稼げるだろう。ホントに勇者なら……な。


 もしもそれが嘘なら、そのままそこで王政警察に突き出してやる。


 そう考えて俺はその提案を受け入れ、その『自称・世界最強の勇者』と共にギルドに向かった。

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[一言] 新作出てるの気づきませんでした。スミマセンm(_)m
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