表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/87

第46話 天井の先へ

「ふあぁぁぁ~。ねむい……」


 俺は大きな欠伸をしながら、『光輪の階段』を踏みしめて登る。

 もう数時間は登って来たから、セクレトの街の姿はかなり小さい。


「ちょっとひと眠りするか……」


 俺は一つの光輪の中央部分に陣取ると、荷物を枕に寝転がった。

 幸いな事に『光輪の階段』自体が多少熱を持っていて暖かく、風邪を引く心配などはなさそうだ。


 俺達はダルマール共と戦い、その後宴会に雪崩れ込み、それが一日続いた後の朝方にひっそりと出発してきた。

 丸一日続いたお祭り騒ぎの後遺症で、街中の人々は皆、泥のように眠りこけていた。

 『光輪の階段』を登って行く俺達の姿を目撃した者は、殆どいないだろう。


「やれやれ。また振出しに戻っちまったなぁ。殺風景な面子だ、華がねえ」


 俺とスケルトン親父の一人と一体だけだからな。

 『帰らずの大迷宮』に飛ばされた時と同じだ。

 走爬竜(ラプトル)の体も街に残して来ている。

 螺旋階段状の『光輪の階段』は、結構段がある。

 走爬竜(ラプトル)が登っていくには不向きな場所だ。

 それに、俺達の方も必要な量の餌を持ち運べない。

 連れて行くのは諦めるしかなかったのだ。


 あいつはこれからは、普通の走爬竜(ラプトル)として生きて行く事だろう。

 カイルにあげてきたので、きっと大事にしてくれるはずだ。


 親父は荷物に背を預けて座り込むと、瞳も何もない空洞の目をこちらに向けてくる。


「俺ぁ知らんぜ? 次に戻って来たとしても、もうレミアはお前の事なんざ眼中に無いかも知れん。人間何事にも巡り合わせってモンがあるからな。綺麗事じゃねえんだ、後でがっかりするんじゃねーぞ」

「だったら仕方ないさ。俺にはやっぱり――レミアは連れて行けないんだ」

「……」

「だって考えたらさ、もう生贄の必要も無くなったし、レミアはあの街で家族と暮らしていいんだ。ちゃんと居場所がある。コークスさんだって喜んでたろ?」


 家族で一緒に暮らせること。俺にはもう叶わない事。

 それは幸せな事だと俺は思う。

 そういうものがあるレミアを――俺は連れて行くことが出来ない。

 カイルには、レミアが俺の後を追わないようにしてくれと頼んでおいた。

 必ずまた戻って来るから――と。


「せっかく親子で暮らせるんだぞ? それをわざわざ、何があるか分からない冒険に引っ張り出す必要はないだろ? 危ない橋は俺と親父で渡ればいい」

「それがレミアのため――ってか?」

「ああ」

「ヤレヤレ。いかにも童貞が言いそうな台詞だぜ」


 親父がひょいと肩をすくめた。


「はぁ!?」

「何だよ違うのかよ? いいやぜってー違わんね。親父様の人生経験なめんじゃねえぞコラ。無駄に子沢山じゃねえんだぜ」


 ぐぐいとスケルトンの顔面が詰め寄ってくる。何かに呪われそうな気がしてくる。


「いやまあ……違わないけども」

「あーあーあーあー! 人がせっっっっかく酒だ酒だっつって、お前らが二人きりになれるようしてやってたのによぉ! このクソガキは親心ってのが分かってねーな! 何でモノにしちまわねえんだ!」

「え……!? いや、俺は親父みたいな女なら誰でも手を出すようなのとは違うんだよ!」

「はい来た童貞発言その2ー! エセ硬派気取り! 何で男の側にだけ原因があるんですかねぇ? 汚ねえ性欲の塊は男だけってのは幻想なんだよ、女だって一皮剥きゃ同じだ。レミアを見てりゃ、ありゃどう見ても抱かれたがってるメスの顔だろ。向こうが望んでるんだから、応えてやるのが甲斐性だろうが。お前だってあいつを気に入ってたろうに」

「まあそれはな……察しはまあ――ちょっとは……」


 祈りの剣のスキルを見れば――俺が鈍かろうと明文化されているのでレミアの気持ちは分かった。

 向こうからあんな事をしてくるくらいだしな……


「女ってのは、男を咥え込む魔性の生きモンよ。レミアの体の味を知ってりゃあ、お前の選択は逆だったね。離したくなくなってただろうさ。お前が本当の女を知らんから出来た選択だ。ああいうのは理屈じゃねえんだ。ましてレミアは一緒に来る気だったしな」

「それは親父の場合は――だろ。俺は……」

「いいや違わんな。何故なら俺も、初恋はお前と同じようなヤセ我慢で終わったからな。そのせいで後で反動が来て、隠し子があちこちに出来ちまったんだぞ……!」

「えぇ!? そうなのか!?」

「ああ。お前――ガキの頃の俺にそっくりだぜ。お前も今でこそエセ硬派気取りだが、将来は女にハマって隠し子量産するようになるんだよ。せいぜい暗殺で人生終わらんように気を付けろよ?」


 ぽん、と肩を叩かれた。

 止めろ縁起でもない。スケルトンになるのは俺は嫌だぞ。


「ま、冗談はともかく――だ。お前にゃレミアが必要だと俺は見てたワケよ。だがまあもう出てきちまったモンは仕方ねえ。気を引き締めて、前に進まんとな。確かにこの先何があるか分からん」


 親父は上を指さして言う。まだまだ天井は遠かった。


「ああ――そうだな」

「ったく、次はヤれるうちにヤる事ヤっとけよ? いいもんだからな。分かったか? このくそ童貞が」

「うるさいな。蹴り落とすぞ」


 そう応酬しつつ、俺は仮眠に就いた。


 ◆◇◆


 そして何日か後に、俺達は『光輪の階段』の頂点にたどり着いた。

 天井に触れられるところにまで階段が伸びており、触れると――

 天井に穴が開き、俺達はそこに吸い込まれるようにして、上層へと誘われた。


 そして、どこからかこんな声が聞こえた――


「「「ヒャッハー!」」」


 ……また、行き先にあのくそったれな生き物どもが生息しているのだろうか。

 出来ればもう見たくないのだが――全く、やれやれだな。

以上で第一部完となります。お疲れさまでした!

キリのいい所で、ここまでの評価などして頂けるとありがたいです。


相当、好き勝手やっている作品なのですが、

思ったよりも見て下さっている方が多くてびっくりです。

どうもありがとうございます。


これからもオーガ共の活躍にご期待ください。

あと、主人公とかホネにもご期待ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ