第44話 後悔しないように
俺は心配そうなレミアに、大丈夫だと応じる。
「ああ平気だ。これで、普通に歩いて登っていくしかないって分かったな」
「そうだね……あ、ちょっとボクも登ってみていい?」
俺達は今度は歩いて『光輪の階段』を登ってみる。
一つ一つの光の階段は、踏みしめると少々沈み込むような、不思議な弾力がある。
「わー。何か変な感じの歩き心地だねえ……」
家の屋根の高さまで登り、それからもう少し登って、街全体が見渡せる高さへと。
ここまで上がると、なかなかの眺めだ。
「これ座れるよね――わー。お尻が柔らかいなー」
レミアがちょっと階段に座り、感触を確かめていた。
「どれどれ……ああなるほどな。でも寝るにはいいかもな。とんでもなく高いから、途中でこの上で寝るからな」
これをベッドだと考えると、結構フカフカで弾力があり、いいかも知れない。
実際俺は寝て確かめてみる、やはり悪くはなさそうだ。それにほのかに暖かい。
「ルネス、寝相あんまりよくないから、落ちないように気をつけなきゃダメだよ? ボクの家のベッドで何回か落ちたもんね」
「ああ。落ちたら死ぬからな……気を付ける」
幸い一つ一つの光輪は大きいので、多少寝返りを打っても大丈夫だろうが――
出来るだけ真ん中で眠るようにしよう。
しかし寝心地自体はいいから、疲れた体の眠気を誘うなこれは――
俺は大きく欠伸をしてしまった。
「ルネス。ルネス」
「ん?」
「はい、ここにどうぞ」
と少々はにかんだ顔で、レミアは自分の太股の所を指差す。
「……ええと――」
そんな事、まだ子供の頃に母さんにしてもらって以来かも知れない。
「大丈夫だよ、誰も見てないし。ね?」
「あ、ああ――」
レミアに導かれるまま、俺の頭が彼女の太股の上に乗った。
や、柔らかい……
気恥ずかしいが、これは俺は――結構好きかも知れない。
女の子にこんな事をしてもらうのは初めてだった。
「眠かったらそのまま寝てもいいからね? ボクが見てるから」
レミアの手が俺の髪を撫で――その心地よさに、俺は自然と目を閉じていた。
「こんなにいい気分になれるなんて、オーガの所に連れて行かれた時は夢にも思わなかったなあ――あの時はもう、ボク死んじゃうんだって思ってたから……」
その言葉に俺は目を開いてレミアの顔を見た。
膝枕されているこの角度からだと、豊かな二つの膨らみの奥にレミアの顔が見えた。
この角度からしかありえない光景である。
なぜか妙に、艶めかしく感じる。
「ルネスには『帰らずの大迷宮』に来た事って、最悪な事だったんだろうけど……ボクにとっては天の助けだったんだね……今ここにいられるの、全部ルネスのおかげだもん。本当にありがとう」
「いいよ。俺はやりたいようにやっただけだし。まぁ……レミアを助けられたんなら、全部が全部悪い事ばっかりでも無かったって事だよな」
村を焼いて俺の家族を殺したダーヴィッツは許せないので、早く地上に戻って目に物を見せてやりたいが――
「ふふ……ボクだから?」
「そりゃ男なら助けないとは言わないけど、どうせ助けるなら可愛い女の子の方がいい」
「――ボクのこと、可愛いって言ってくれてる……?」
「ん……? まあ――そうだな」
「えへへ……ルネスが言ってくれると、凄く嬉しいな――何だか堪らなくなっちゃうよ」
レミアが俺の首をそっと持ち上げた。
そのまま向こうの顔が上から近づいて来て――
「!?」
とんでもなく柔らかいものが――
即ちレミアの唇が、俺の唇と重なっていた。
膝枕も初めてなのだから、これも初めての経験だった。
自分が初めてこういう経験をする時の事は、恐らく誰だって想像した事があるだろう。
だが俺は、女の子の方からしてくるとは想像した事が無かった……!
完全なる想定外、不意打ちである。
だが――この感触は、虜になってしまうような魅力があった。
「……ふふ、ボクからしちゃった――女の子からこうするなんて、はしたないかな?」
「……いや、まあ――レミアって意外と積極的なんだな……」
普段大人しいし、慎ましい性格をしているのだが――
「うん……一度は死んだと思った身だからね――後悔はしないように生きなきゃって、心がけるようにしたの。だからやりたい事はやろうって」
「な、なるほど……な」
「もし、またしたくなったらいつでも言ってね? ルネスならいつでも大歓迎だよ?」
「あ、ああ……」
レミアの大胆さにすっかり目が覚めてしまった俺は、暫くそのまま二人で話していた。
太陽石に光が戻り始める日の出の時間が近づくと、ようやくレミアの店に戻った。
レミアが隣のベッドで寝付くのを確認すると、俺はベッドを出、店を出た。
神子の館へ行き、宴会をしていた親父を連れ出し――
そしてそのまま『光輪の階段』へと向かった。
やはり、この先は俺と親父だけで行く。
そう決めていたからだ――
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