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白い翼のノイシュ  作者: ワルキューレ
『やっぱりゲームだったよ』
29/32

33 冒険者ですが怪獣討伐です

#33


  ──= =──

  ● ネルソン

  ● オズ

  ○ トリマン

  ● ネコジン

  ● アリア

  ● ミミガー

  ● ロット

  ● ココナ

  ● パンドラ

  ○ ライス

  ──=▼=──


 ランプの明かりを頼りに、私たちは天井の高い通路を進む。行き先は、前を歩く集団(パーティ)と同じである。

 フレンド一覧(リスト)の明示盤を見ながら、私は首をひねる。


 ……誰が誰だか分からない。


 水色ツインテールの子供は、アリアという名前だったはずだ。毛の先をくるくる巻いた縦ロールを揺らして、集団の先頭を歩いている。

 銀髪ツインテールの子と、ピンク髪の子、茶髪の子は……誰だろう?

 一番後ろの大人キャラも茶髪のボブカット。後ろ頭がまん丸な髪型である。

 全員白っぽいローブ姿で、背中に垂らしたフードが歩くたびに跳ねている。


 ……服装も変わってるし、分からなくても怒られないよね。


「あの」


 前を歩く集団(パーティ)に追いつき、私はとりあえず話しかけてみる。

 赤いラインの入った白ローブと、ヒダを留める飾り留め具(フィビュール)がヒーラーっぽい雰囲気の大人キャラが振り返る。


「なに?」


 大人のキャラと子供のキャラは、頭二つ分ほど身長差がある。彼女は見下ろし気味に私を見つめ、首を傾げる。

 ナチュラルに下ろした栗色の髪が揺れる。


「《杖スキル》のロマンって、何ですか?」


「あーそれはね……」


 言葉を続けようとした時、一発の銃声が響いた。

 振り返ると、短筒(たんづつ)を構えたオズさんが上を見ていた。

 つられて上を見る。


「……ぎゃあああ!」


 思わず変な声が出た。

 まるまると太った大蜘蛛がこっちを見ていた。ランプの光を反射して、蜘蛛の糸が天井いっぱいに鋭く光っていた。


「ロト、ココ用意! 撃てー!」


「「《杖Ⅰ=マジックカノン》!」」


 圧縮ラブPT(パーティ)が即応し、ピンク髪と茶髪の子供が杖を上に向ける。身長ほどもある長杖の先に、光の魔法陣が(とも)る。

 真っ赤に燃える砲弾が残像を残して蜘蛛に突き刺さる。ぷくっと膨れた蜘蛛の腹が爆発し、「323 323」「275 275」と数字が踊った。

 蜘蛛のバラバラ死体が降ってきた。

 私たちもバラバラになって逃げた。


「……いまのが、ロマンらしいよ」


 大人キャラの人が、話の続きを教えてくれる。タオルで頭を拭き拭き、泣きそうな顔になっている。

 移動・回避系スキルはとても重要である。決してスロットから外さないようにしようと、私は心に誓った。


「パンさん《整髪》しよっか?」


「うん……」


 銀髪の子供が寄ってきて、中腰になったパンさん……パンドラさんの髪の毛を綺麗にした。

 私も生活系スキルで綺麗にする手伝いをした。


「どうやら、始まってるな」


 ネルソン君は、壁の向こうを見渡すような仕草をしている。

 戦技レーダーというやつだろうか。

 私の耳には何も聞こえないが、ワイバーンとの戦闘が始まっているらしい。

 ずいぶん要塞の奥まで来たようだ。風の音はもう聞こえない。


「む、出遅れたか」


 ネルソン君のつぶやきに、拳王さんが応える。

 拳王さんは、水色のスポーツ刈りに青い甚平(じんべえ)とサーフパンツという格好である。腰から下は人魚なので厳密にはパンツではないが。

 車輪のついたサーフボードに乗り、両腕でガンガン床を押して漕いでいる。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……。


 視線を感じたのか、拳王さんがこっちを見る。


「いま祝福なくなっとるよな?」


「うん」


「おお! 違いが分かるぞ! 移動速度アップも付いとったようだな」


 《祝福Ⅱ=交通安全(ブロードウェイ)》の効果だろうか。

 私は《祝福スキル》が評価されて、気を良くした。そろそろスキル効果の検証などにも手をつけるべきか。

 しかし、それより今はワイバーン討伐である。




【マイ・キャラクター】

◆メインアーム:〈革の本〉〈桜の鈴〉

 アトリビュート・スロット1《飛行Ⅰ=夢幻航路(ディープストライク)

     コモン・スロット2《飛行Ⅴ=螺旋回避(バレルロール)

     コモン・スロット3《飛行Ⅵ=臨界推進バーチカルキューピッド

     コモン・スロット4《風纏Ⅱ=行雲(ブースト)

     コモン・スロット5《疾走Ⅱ=疾駆(ターボ)

     コモン・スロット6《魔眼Ⅲ=無我印(エンプティ)


◆メインアーム:〈革の本〉〈桜の鈴〉

 アトリビュート・スロット1《軽装Ⅰ=マナリアクター》

     コモン・スロット2《軽装Ⅳ=メディテーション》

     コモン・スロット3《本Ⅱ=ファンレッスン》

     コモン・スロット4《深淵Ⅲ=鉄砲水(アクアボム)

     コモン・スロット5《深淵Ⅳ=間欠泉(ゲイザー)

     コモン・スロット6《鈴Ⅴ=マナコンバージョン》


◆メインアーム:〈革の本〉〈桜の鈴〉

 アトリビュート・スロット1《鈴Ⅰ=リカバリー》

     コモン・スロット2《鈴Ⅱ=キュアウェーブ》

     コモン・スロット3《鈴Ⅲ=バリアブルフィールド》

     コモン・スロット4《鈴Ⅳ=ブレイクマジック》

     コモン・スロット5《鈴Ⅵ=ファンタズマルヒール》

     コモン・スロット6《軽装Ⅴ=アルケミースタンス》




 私は【武器パレット】を整える。

 一段目は空中戦に対応した移動・回避系アイコンが並べてある。

 ニ段目はMP回復用アイコン。水泳用の名残で人魚の魔法もセットしてある。

 三段目は回復魔法のフルセット。《鈴スキル》は割とすぐにⅥまで覚えた。

 三つとも裏パレットは祝福セットなので、戦闘中に使うことは無いだろう。

 武器は、本も鈴もまだまだ使えそうである。

 学校の制服はおニューなので汚したくないが、着替えを持ってきていない。水着でダンジョンを徘徊するよりはマシか。


「ねね、わたし薬ぜんぜん無いけど。オズさん余裕ある?」


 イモスナさんとお喋りしていたオズさんを捕まえて薬をねだる。


「トリちゃんに売るほど持たされたんだけどネ。売り切れちゃった」


「え?」


「てへ」


 薬は売り切れだった。


 ……ヤバかったらオズさん置いて逃げるか。


 私がそう決意を固めていると、ネコジンさんが手持ちの薬を分けてくれた。

 防御薬。飲んだらしばらく固くなる。

 回復薬。飲んだら徐々にHPが回復する。回復効果中は、何もせずにじっとしている必要があるらしい。回復魔法があれば要らない気もするが、保険で一個くらい持っておいてもいいだろう。

 色物パーティと圧縮ラブパーティは、石壁の迷路を進んだ。




 私の耳にも、怒号や叫声(きょうせい)が聞こえてきた。

 開け放たれた門扉(もんぴ)の向こうに、山羊の角を生やした気味の悪いドラゴンが皮翼(ひよく)を震わせているのが見える。


「あれ……ワイバーンは?」


 額には二本の(ねじ)れ角。(わに)のような長い口。四つ足は紫黒(しこく)の外骨格だが、胴体は汚れた毛で覆われている。背中には小ぶりな羽が生えている。

 なんというか、邪悪なモンスターである。


「ドラゴンタイプか……支援バフをたのむ」


「あ、はい。おっけー。《鈴Ⅲ=バリアブルフィールド》!」


 ネルソン君の頼みでバリア魔法を張りなおす。

 少し離れた場所でパンさんが《杯Ⅲ=バリアブルベール》という魔法を使う。小さなイルカの幻像が、口に(くわ)えたリボンをふりふり空中を泳ぎ回っている。なにあれかわいい。

 ネルソン君は防御薬を取り出して飲んだ。私も飲んでおこう。


「よし、次の範囲が来たら走るか」


「うし、準備完了」「(おう)!」「了解」


 ネルソン君の指示に、色物パーティの面々が次々と応答する。


「なになに? 範囲トカあるんだ? 範囲攻撃?」


 オズさんはボス戦闘に不慣れのようだ。

 私は右手の本を《収納術(アイテムボックス)》に放り込み、後ろからオズさんを抱きかかえた。子供キャラより一回り小さいので、こうして持つとぬいぐるみみたいな感じである。


「おけ」


 抱き心地を確かめる。斧より重いが、飛ぶのに支障は無い。

 物理法則どうなっているんだろう。

 門扉(もんぴ)の向こうを見やると、ドラゴンの正面に陣形を敷いているようだ。

 ドラゴンは眠そうな目を半開きにさせたまま、鼻先にいるプレイヤーたちを追い払う。鬱陶(うっとう)しそうに尻尾を振り回す。大盾を構える戦士に向かって鼻息を噴く。背中の羽を震わせる。


「くるぞ」


 ドラゴンを中心に竜巻のような風の流れが生まれた。

 ボス部屋全体の空気がかき混ぜられ、緑の光の粉が乱舞する。光の粉の軌跡に沿って、地面が切り刻まれていく。


「走るぞ」


 色物パーティと圧縮ラブパーティは、本隊に合流した。

 数十人のプレイヤーが一塊になって、ドラゴンの斜め前に並んでいる。

 不慣れなオズさんを抱えていることもあって、私は陣形の真ん中あたりに割り込ませてもらった。

 ドラゴンの真正面ではないが、顔と羽を同時に観察できる絶妙の位置である。


「初参加の人。羽を破壊するまでは、口から斜めに【雁行陣(スラント)】で。あまり離れず、ブレスの射線に入らないで」


 噴水広場で金貨がどうとか喋っていたおじさんキャラが、ドラゴンの鼻先で大盾を構えている。ドラゴンが鼻先で突き飛ばそうとするが、《盾スキル》を駆使して持ちこたえる。

 意外と余裕そうである。


「暴走モードになったら、各自逃げながら遊撃で。暴走モードが終わったら今みたいに集まって。尻尾で打たれたらまず即死だから注意で」


 ……暴走モード?


 ドラゴンがまた背中の羽を振るわせた。

 空気の渦が衝撃波を生み、ボス部屋全体を切り刻む。

 【万能緩衝盾】が攻撃を受け止め、「リーン」と澄んだ音を響かせた。

 圧縮ラブパーティを守っていた小さなイルカの幻像が、「きゅーん」と鳴いて消滅した。なにあれかわいい。


「《杯Ⅲ=バリアブルベール》」「《杯Ⅲ=バリアブルベール》」「《杯Ⅲ=バリアブルベール》」


 そこかしこで、バリア魔法の音がする。

 ドラゴンの正面に立つ大盾の戦士は、数人がかりで回復魔法を飛ばしているようだ。

 私も一発回復してみよう。


「《鈴Ⅰ=リカバリー》」


 光の魔法陣が戦士の足元に展開し、「1699」と数字が踊った。


『【システム通知】:ノイシュの《鈴Ⅰ=リカバリー》! ルーファスは回復した!』


 ドラゴンの目が動いて私を見た。

 半透明のまぶたが横向きに動き、縦長の瞳孔が「カッ」と開いた。

 むちゃくちゃ見られて怖い。


「こっち見ろ! 《盾Ⅲ=シールドアタック》!」


 金貨トレーダーさん(仮名)改め、ルーファスさんがドラゴンの鼻先を殴る。

 主人公みたいな名前である。

 ドラゴンは苛立たしげに戦士を睨み、牙だらけの口を開けた。チロチロと喉の奥に赤い炎が見えた。


「《盾Ⅳ=シールドバッシュ》!」


 大盾の戦士は同じように盾で殴る。ドラゴンは一瞬硬直(スタン)して、鼻と口から煙を漏らす。不完全燃焼で嫌な感じの黒煙である。

 ドラゴンは鼻を殴られると同時に、飛び道具で羽を攻められ続ける。弓矢やクロスボウでチクチク刺され、《杖Ⅰ=マジックミサイル》の光弾で焼かれる。

 圧縮ラブパーティの《杖Ⅰ=マジックカノン》は、まだ炸裂していないようだ。


「《銃=シルバーブレット》」


 オズさんの銃が火を吹いた。私は反動でよろめいた。

 ドラゴンの目が再び動いて、私を見た。


 ……いや、私じゃないから。

 こっち見るな。


 ドラゴンが後足で立ち上がり、怒りに任せて咆哮(ほうこう)した。


「暴走くるぞォォォォ!」


 誰かが遠くで叫ぶ。


「アリ、ミミ、ロト、ココ用意! 撃てー! 《杖Ⅰ=マジックカノン》!」


「「「《杖Ⅰ=マジックカノン》!」」」


 長杖から発射された幾筋(いくすじ)もの砲弾が、ドラゴンの片羽を吹き飛ばした。

 杖の先で燃え残った魔法陣が、床に落ちて硬質な音を立てた。

 その間、私は逃げの一手である。


「《風纏Ⅱ=行雲(ブースト)》!」


「《戦技Ⅴ=守護剣(リーデイングエッジ)》!」


『【システム通知】:

 ノイシュの《風纏Ⅱ=行雲(ブースト)》! ノイシュに順風加速の魔法効果!

 ネルソンの《戦技Ⅴ=守護剣(リーデイングエッジ)》! 色物パーティに、反応装甲の魔法効果!』


 私は一目散に逃げ出した。

 オズさんを抱えてボス部屋をぐるぐる逃げ回った。

 ドラゴンはぴったり付いてくる。


 助けて!


「……ねね、ボクの《荷役スキル》の中に、とっておきがあるんだよね。ちょっと一緒に爆撃してみない?」


 オズさんがニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「……どうすればいいの?」


「いったん距離をとって、あいつの頭に向かって真っ直ぐ飛べばいいんだよ?」


「簡単に言うけど!」


 喋ってる隙に、ドラゴンに距離を詰められる。

 ヤバイ! ヤバイ! 食われる!


「ぎゃああああ! 《飛行Ⅵ=臨界推進バーチカルキューピッド》!」


 野外なら軽く音速で振り切れるのだが、百メートル程度のボス部屋ではスピードが出せない。

 私は地面スレスレを飛びながら、【武器パレット】を見直した。

 《魔眼スキル》を外し、《飛行スキル》をセットする。


「よし、これだ! オズさんいくよ! 《飛行Ⅳ=下方旋回(スライスターン)》!」


 私は《飛行スキル》を駆使して、慣性を無視した百八十度ターンを行った。

 瞬時にドラゴンとの距離が詰まる。


「《荷役Ⅰ=仏龕開帳(ビルトインガレージ)》!」


 オズさんがとっておきの能力(アビリティ)を使うと、目の前の空中に倉庫が口を開けた。

 「ゴトン!」と音がして、木製の巨大な杭が転がり落ちてきた。

 自由落下する丸太のようなものに手を添えて、オズさんが叫ぶ。


「【破城槌】(バッタリングラム)、勝利を!」


 巨大な杭がドラゴンの頭にぶつかり、光に包まれた。



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