40. 撤収
正面入り口の大広間にて。
弾丸と魔法の嵐が、第三十一代学徒会会長・神代輝雷刀を襲うが何事もない。
衣服に傷すらつかない。
まさに最強。
竜理教の信者達はここ一時間近く攻撃を続けているが、一向に倒れないどころか傷一つつかない輝雷刀へ諦めムードが漂い始めていた。
「おい、コイツ本当に無敵なんじゃないのか?」
「どうすんだよ、倒れないぞ。なんとかして追い出さないと」
「魔法も銃も効かないんだぞ! どうしろってんだよ!」
信者達は口々に無駄口を零しつつただ立ち尽くす輝雷刀に魔法と銃弾の連続攻撃を続ける。
「……まだかなぁ」
囮役の輝雷刀は漆紀達が目的達成をするまで囮としてここに立っている予定であった。
するとふいに後ろのポケットに入れたスマホが着信音を発する。恐らくは漆紀達が目的を達成したことを告げる連絡だろう。
「おっと、ようやくか。さてと、それじゃあ立ち去るとするか」
輝雷刀は大きく足を振り上げると地面を踏みつける。
瞬間、地面で大きな爆発が起こって粉塵と煙が辺り一帯にまき散らされる。
「ゲホ、ゲホっ! ど、どうなってる!」
「くそ、煙で見えないぞ……」
やがて煙が晴れて来ると、先程までの場所から輝雷刀の姿が消えていた。
「ヤツが居なくなったぞ!」
「逃げたのか? 追うか?」
「探して見つけたところで倒せないだろ。そもそもヤツが竜王様を狙ったから迎撃しただけだ。去ったなら追う必要も戦う必要もないだろ。とりあえず司教様に……」
信者達が各々様々な反応を見せるが、ふいに奥の扉が開き一人の信者が息を荒らげて出る。
「はあ……はぁ……大変だ! 古河様が死んでた! それに司教様が竜院にいない! 竜王様も居なくなってる!」
「なにっ!?」
「おいおい、他の奴らはなにしてたんだよ!」
「仕方ないだろ、さっきのヤツのために全員で打って出たんだから!」
「竜王様がいない……どうすれば……司教様も居ないだなんて、どうすれば……」
竜理教の信者達は困惑するばかりで、行動に出れなかった。
コインパーキングに戻り、何事もなかったかのような涼しい顔で輝雷刀は車に戻る。
後部座席のドアを開けて、輝雷刀は乗車する。
「おっと、もうみんな揃って……ないね。あの忍者君は?」
輝雷刀は車内に小太郎が居ない事に気付いて全員に問いかける。
「アイツなら敵とイチャコラしてるよ。馬鹿野郎が……」
漆紀がそう吐き捨てていると、彩那が窓から周囲を見渡して気付く。
「あっ、キモオタさん来ましたよ」
彩那が指差す方を一同は注視する。コインパーキングの入口から小太郎が歩いて来ているのが確認できた。その足取りはどこか重そうで、彼は車まで来るとゆっくりとドアを開けた。
「おい、なんか言う事あんだろ小太郎」
漆紀が若干の怒りを含んだ問いを投げかけるが、夜巳が首を横に振る。
「漆紀、やめなさい。今終わった事を糾弾するのは無益よ」
「すまぬでござる。あんな方さえいなければ拙者は……」
「もういい……帰ろう、夜巳さん。夜野田さん、全員揃ったんだ。夜通しの運転になって辛いだろうけど出してくれよ」
「ええ。早く離れた方が良いでしょうし」
六香はエンジンを点け、シフトをドライブに入れてフットブレーキを外す。発車し、コインパーキングから出て一般道をしばし走ると高速道路に乗る。
「さて、高速道路に乗ったし雑談を……って、そんな空気でもないわね」
夜巳が気を利かせて何か気を紛らわせる事をしようと口走るが、車内の空気は重かった。
輝雷刀は何の重さも肩に乗せていないが、復讐を終えたばかりの漆紀はまだ肩が重かった。彩那はいつもとは違う漆紀の顔を見てどこか曇った表情をし、小太郎はネルの件で居づらそうにしていた。世理架は放心状態のまま。
とても雑談など出来る空気感ではない。
しかし重苦しい顔のままの漆紀が再び口を開く。
「なあ夜巳さん……あのブラッドなんとかってヤツは何者なんだ。一瞬で現れて醍醐を殺して、一瞬で消えた」
漆紀が「醍醐を殺した」と口走ると、世理架は「あぁっ」と震え声を上げて自身の肩を抱き締める。その様子を見て漆紀は「やっちまった」と思う。
「ブラッド・E・ブラッツね。漆紀、あなた異界には行った事がないのよね?」
「ああ。異界には魔法使いの組織が色々いて、魔法使いが住んでる事だけは知ってる」
「今度異界に連れてってわげるわ。本題に話を戻すと……ブラッド・E・ブラッツとは、約千年前に人の身から神になった男の名よ。方法は分かってないけど、彼は人間として一度死んでいた。だけど、死んだ状態から生き返ったことで神格を得て神の力を手にしたそうよ」
「神様ってか……なんなんだよアイツ……いきなり現れて、勝手に殺して勝手に帰って……アイツは、敵なのか?」
「神出鬼没なのよ、あの神は。異界ではヤツが現れるのはもっぱら気まぐれと言われてるわ。何を考えているかわからない、どこにいるか分からない。そんな神」
「なんだよそれ、意味わかんねぇ……」
漆紀は頭を抱えて醍醐を殺した陰影を思い返す。
「あの神が現れるなんて想定外だけど、どうやら醍醐は神様をこの世界に降ろそうとしてたみたいだからね。それが原因で殺されたんだと思うわ」
醍醐がやろうとしていたのは、太陽神ケツァルコアトルの完全顕現。
危険極まりない神を呼び出そうとしたから醍醐はブラッドに殺されたのではないかと夜巳は整理する。
「そうか……あいつは、神様すら扱おうとした魔法使いだったんだな……今までで一番やばい魔法使いだったな、醍醐……」
漆紀は醍醐の事を思い返すが、真っ先に来るのは太陽神を操る強敵としてのイメージだった。あれほどの力も、全て世理架の為に身に付けたのだろう。
「ブラッドの事は忘れなさい漆紀。あれは忌むべき存在よ」
漆紀は夜巳の助言に素直に従う事にして、ブラッドの事を考えないことにした。とはいえ心の隅だけには置いておくことにした。
「はぁ……疲れた」
そう言って漆紀は両手で顔を覆った。




