38. 小太郎とネル
「そろそろわかっていただけましたかな?」
小太郎はネルが繰り出してくるダイノニクェスを何度も封魔の小太刀で斬って退け続けていた。その攻防はキリが無く決着が着かない。
部屋の通路で二人は互いを見据える。
「しつこいっての! 頭おかしいんじゃないの? 好みのタイプ? そんな理由で……」
「拙者はマジでござるよ! 一目惚れでござる、それのどこが悪いでござるか!」
「私は竜理教! で、あんたは私達の目的の邪魔をする敵! なんでわかんない!?」
ネルは困惑していた。今までも宮田との行動で戦闘になった事は何度かあるが、今まで対峙してきた中で小太郎のようなタイプはいなかった。
こんな戦闘中に好意を向けて明らかにするなど、明らかに普通ではない。
普通に考えればある種の罠としか思わない。
「なら趣味の話でもして相互理解を深めるでござるよ。拙者の趣味はフィギュア集めやプラモデルにネットサーフィン、ゲーム、動画、その他諸々でござる。ネル嬢は?」
「普通に雑談しようとするな! 私の趣味だって? 趣味……んなものない!」
ネルはダイノニクェスを傍らに構えさせて叫ぶ。
「それにあんたどうせキモオタでしょ! 私であれやこれやとか、気持ち悪いこと考えてるんでしょうが! こっちに来るな!」
ネルが再び半透明の肉食恐竜ダイノニクェスを繰り出すが、小太郎はその頭部を一撃で斬り落とし消滅させる。
「ネル嬢、男にトラウマでもあるのですかな?」
「黙れ! 私の心の中を覗こうとするな!」
「我々が戦う必要などないかもしれないのですよネル嬢」
「必要ならある! 竜理教の敵は宮田先生の敵! あんたは敵!」
ネルは激しく首を横に振って小太郎の言葉は世迷言と切り捨てる。
「あなたにとっては敵に見えているが、拙者にとってネル嬢は敵ではござらんよ」
「なら黙ってくたばってよ!」
ダイノニクェスを再び精霊術で呼び出したネルは小太郎へとダイノニクェスをけしかける。小太郎は一歩前に出ると、封魔の小太刀で襲い来るダイノニクェスの前足を斬り上げる。
そのまま流れる様にダイノニクェスの首を斬ると、ネルへと直進する。
「くっ、ダイノニクェス!」
ダイノニクェスは小太郎に首を斬られて消滅現象の最中であり新たには呼び出せない。
この隙を突かれてネルは小太郎に急接近される。
(まずいっ、殺られる!)
ネルは小太郎に斬られると思わず目を閉じる。
しかし襲い掛かって来たのは冷たい殺刃ではなく、計り知れぬ熱の籠った抱擁と。
「んん~っ!?」
力強く、けれど柔らかい接吻だった。
「はぁっ! あ、あんたなにを」
「言ったでござろう、一目惚れでござる。拙者とて無茶言ってるのは承知でござるが、そんな無茶よりも今あなたに対して溢れる好意の方がデカいでござるよ!」
そう言って小太郎は尚も力強くネルを抱き締める。
「私の事を知りもしないで……何が一目惚れだ!」
ダイノニクェスを呼び出して蹴りを繰り出させ、小太郎を無理矢理引きはがす。
「なら教えて欲しいでござる。あなたを! あなたにどんな過去があろうが、拙者はただ受け止めるでござるよ」
「ぐっ……」
その時、竜院へ続く階段のあった広間の方から叫びが聞こえてくる。
『宮田、父さんを殺したお前を俺は絶対許さない! お前はここで死ぬ!』
その声にネルも小太郎も聞き覚えがあった。声の主は恐らく漆紀である。ネルはその言葉を聞くと小太郎の方を無視して部屋の扉の方へと走り扉を開けて広間に出る。
広間の階段の始め辺りには竜脈の力で宮田を押さえつける彩那と、大きく村雨を振りかぶった漆紀が居た。漆紀は今にも宮古を殺さんとしていたのだ。
「ダメ!」
ネルはダイノニクェスを漆紀へと繰り出した。ダイノニクェスは漆紀へと飛び掛かり、そして――




