32. 会敵、宮田とネル!!
大寺院の裏手。裏手というが、実際は大寺院の側面に当たる。
決して大きくない勝手口から漆紀と彩那、小太郎、夜巳は大寺院へと侵入する。
「ここが裏手よ。最奥の竜院まではそう遠くないわ」
「この部屋は何なんだよ夜巳さん」
「見ての通り書斎よ」
部屋を囲う様に本棚がびっしりと並んでおり、隙間は一切なく本が詰め込まれていた。
漆紀達は書斎を出る。書斎を出ると、中央に大きな階段のある広間に着く。漆紀達のいた書斎は階段の脇にある部屋だったようだ。
竜理教の信者は見渡す限りおらず、漆紀達は階段の前へと出る。
「会長、ちゃんと囮をやってるみたいだな」
正面入り口の方面から怒号や魔法と発砲による激しい音が響いて来る。
「そのようですな。さて、辰上嬢、ご案内を」
小太郎が夜巳に案内を促すと、夜巳は案内を再開すべく階段の一段目に足をかける。
その瞬間、階段左側にある扉が突如として開かれる。
「宮田先生、正面入り口の方で何か異変が起こっているのでは?」
扉からは竜理教の教服を着た金髪ポニーテールの少女が出て来る。少女の顔立ちを見るに外国人と日本人のハーフであるのは明らかであった。その少女に漆紀と彩那は見覚えがある。
「そうですねぇ。随分と騒がしい、これは拙僧らの出番かもしれませんねぇネル」
決定的な見た目であった。その男は四十代ほどの見た目の男で金髪の少女同様に竜理教の教服を着ていた。髪は銀髪、人の好さそうな印象を受ける顔付きだが彼の顔とやったことを漆紀は忘れていない。
この男こそ、漆紀の父・宗一を殺した男だ。
その名は、宮田。
「み……宮田あああああぁぁぁぁぁぁ!」
漆紀は感情より、叫びが迸った。遅れて激高という感情が湧き上がって来る。
体を大きく仰け反り村雨を右手に取り出すと逆手に持ち、柄から勢いよく水を放出したまま村雨を槍投げの要領で宮田へとぶん投げる。
「あなたはっ」
「ダイノニクェス!」
金髪の少女が漆紀の投げた村雨を半透明の竜の手を呼び出して掴み取り止める。半透
明な獣脚類の小さくも肉厚な足が村雨をがっちりと掴んでいた。
先手を取った漆紀だったが、それは金髪の少女によって阻止されてしまった。
「てめぇも覚えてるぞ……ネルとか呼ばれてたな……邪魔すんな」
その金髪の少女の名は、漆紀の記憶している限りではネルと呼ばれていた。漆紀は宮田とネル、双方を激しい怒りと共に睨む。
「まさか……まさかこんな所で竜王様が来られるとは!」
宮田は目の色を変えて漆紀を見て歓喜する。
「ふざけるな、殺してやる!!」
漆紀が村雨を呼び戻してもう一度宮田へと投げようとした瞬間、夜巳が漆紀の右手を止めた。
「漆紀、目的を忘れたの? あなたの目的は、世理架さんという人を助けることでしょう?」
夜巳に諭されると漆紀の怒りは僅かながら沸点から下がって遠のく。すると漆紀は世理架の事を考える余裕が生まれ、宮田の方と夜巳の方を交互に見る。
「クソっ……先を急ごう夜巳さん」
小太郎、彩那は身構え、いつ宮田とネルと戦闘になってもおかしくない空気感が漂う。
「あれ? もしや竜王様、目的はもう一柱の竜王様ですかな?」
「まずいですよ宮田先生、ここで止めなきゃ!」
宮田とネルは漆紀達の目的に予想がついた様子だった。
「早く行って下さい竜王様、夜巳さん!」
彩那は竜脈の力を解放し、両手に竜脈のエネルギーを剣のように纏わせる。
「さあ、とっとと行って下され。拙者らが足止めします」
小太郎は右手に小太刀を、左手に拳銃を持って構える。漆紀の怒り様から、宮田とネルが敵だと小太郎は認識し理解したようだ。
「わかった。夜巳さん、案内頼む」
「ええ」
夜巳は階段を駆け上がり、漆紀も夜巳に続いて階段を上がっていく。彩那と小太郎は宮田とネルと相対し一歩一歩距離を取りながら牽制し合う。
「宮田先生、こいつら早く始末して竜王様を追いますよ」
「ええ。ここで竜王様の感情を殺しきれれば、完璧な竜王様として奉れるというもの」
宮田とネルはいつ、どう仕掛けようかと機を伺いながら彩那と小太郎をじっと見る。
彩那と小太郎もどこからどう攻撃を仕掛けるかと宮田とネルを睨み捉える。
「キモオタさん、銀髪は私がやります。あなたは金髪を」
「承知しました」
彩那と小太郎は各々駆け出し、宮田とネルへと襲い掛かる。
彩那が宮田へと竜脈の剣を振るい、小太郎は封魔の力を持つ小太刀をネルへと振るった。
宮田は斜め後ろに回避するが、ネルは半透明の竜の足で小太郎の小太刀を掴む。
「てやぁ!」
ネルは小太刀ごと小太郎をぶん回し、扉へと叩きつける。扉はそのまま開き、小太郎は部屋の中へと転がってしまう。
「ダイノニクェス、追撃!」
半透明の獣脚類の恐竜が姿を現し、部屋の中へ飛び込み小太郎に攻撃を加えんと動き出す。
「くっ」
小太郎はすぐさま立ち上がって立て直し、小太刀を構えて迫り来る竜を睨んだ。
一方、彩那は両手に持った二刀の竜脈の刃を交互に宮田へと振るうが、宮田は人の好さそうな顔に似合わず飄々と避け続ける。
「動きがてんで素人。巫女殿、いつまで続ける気ですかな」
敵意を込めて宮田へと竜脈の剣を突き出すが、これも横へと避けられる。
「扇!」
剣の形をしていた竜脈のエネルギーが瞬時に横に広がって扇の形になる。
そのまま彩那は横に薙いで、竜脈の扇を宮田の脇腹へと直撃させる。
「ぐおおぉぉっ!?」
(このまま仕留める!)
彩那は自身に宿る竜脈のエネルギーを一気に引き出して扇に注ぎ込む。
「アンキロサウルス!」
「はっ!?」
彩那の頭上に、半透明の巨大なハンマーのような竜の尾が現れた。竜の尾が頭上から真っ逆さまに落ちて来るが、彩那は即座に後方へと飛び退きこれを避ける。
「精霊術ですね、それ」
「いやあ、竜脈の力は堪える堪え……ゴボッ! うっ……うぅぅおええぇぇっ」
竜脈のエネルギーは攻撃に転用すると、敵に様々な不調を与える毒となる。今回の場合宮田には嘔吐という形で悪影響を与えたようだ。
人の好さそうな顔を歪めて、苦しそうに宮田はその場で胃の内容物を吐き出す。
嘔吐している今こそ隙だと考えた彩那は右手を前に出し、竜脈の力を真っ直ぐ宮田へと向かって解き放つ。
「竜脈全開!」
竜脈のエネルギーが形を成さずただ一直線に迸り、宮田を襲う。
「おえぇぇええああががががががっ!」
彩那が放った竜脈の奔流に飲まれた宮田は嘔吐しながら痺れた様に身を震わし悶絶する。
(あっけないものですね。このまま動けなくなるまで竜脈の力をぶつけて無力化すれば……トドメは竜王様にあげることが出来る)
彩那は容赦なく、敵意を持って宮田へと竜脈のエネルギーを当て続けた。
彩那が宮田を圧倒してる間、本棚が多く並ぶ部屋で小太郎はネルと戦っていた。
本棚は部屋の楯六列に並んでおり、小太郎は本棚の陰に隠れる事が出来ている。
(さて、どうやって倒しますかな……というかあの方……佐渡島でも居ましたが……)
小太郎は先程見たネルの姿を頭に思い浮かると、敵意とは全く別の感情が湧いて来る。
(モロ拙者のタイプの女性でござるよ! ど、どうすればいいでござろう……)
それは好意だった。
ネルの金髪、外国人とのハーフの顔立ち、竜理教の教服の上からでもわかるスタイルの良さ、彼女の見た目が小太郎の好みに刺さりまくっていた。
男・平野小太郎、十六歳、青春の真っただ中にある現代忍者である。
そんな彼はネルの名を知らないものの、好み故になんとか説得したくて仕方が無かった。
それどころか今心に迸る思いの丈をぶちまけたくて仕方が無かった。
(ダメだ、殺せないでござる。なんとかして近付いて無力化出来ればそれで解決したいでござるが……)
「どこに隠れた! ダイノニクェス! 探して!」
(あの半透明の恐竜が別で動くのか? どうしようものか、うーん)
小太郎は作戦を考える。半透明の恐竜に嗅覚はあるのだろうか。そもそも嗅覚があれば即座に見つかっているはずではないだろうか。
憶測が憶測を呼び、解決しない。
(ここは忍者らしく気配取りの戦場を作り出すでござるか)
小太郎は小さな玉を取り出すと、導火線にライターで火を着けてあちらこちらの通路に転がす。
小さな玉からは即座に煙が噴き出し、この部屋全体を煙で包む。
「ゲホっ、ゴホっ! 煙幕? そんなものでダイノニクェスは止まらないから!」
獣脚類の恐竜がのっしのっしと歩く音が聞こえてくる。恐らくは一番右の通路を歩いているのだろう。対してネルの足音は小さく、現代忍者の小太郎でなければ聞き取れないほどに小さかった。
(ここは一か八か、賭けるでござるよ!)
小太郎はネルのものと思わしき足音を聞くと通路を裏回って、ネルの背後を取る。
(あの金髪美少女殿の首筋に小太刀を宛がえばチェックメイトでござる!)
小太郎は足音を消して忍びらしく通路を忍び歩きしていき、ネルの背後まで来ると彼女の喉元に小太刀を宛がう。
「なっ!? お前!」
「チェックメイトでござる。恐竜をけしかけるのはナシでござるよ」
小太刀の刃をネルの首に押し付けると、彼女はため息と共に両手を上げる。
「あんた、魔法使えないでしょ」
「だからなんでござるか」
「魔法も使えないただの人間に遅れを取ってしまうだなんて……で、殺すの?」
「いや……拙者にあなたは殺せぬでござるよ。拙者は……あなたの事がメッチャタイプで
ござるよ」
「はぁ!?」
小太郎の信じられぬ言葉にネルは素っ頓狂な声を上げる。
「そもそも拙者らはロクに話し合いをしてないでござる。お互いの名すら知らない……拙者は平野小太郎、風魔忍者の末系でござるよ」
「へえ、忍者が素性を明かすんだ……バカな男。私はネル・クリーストロス。あんたの敵だよ!」
そう言った瞬間、小太郎の背後に半透明の獣脚類の恐竜が現れ襲い掛かる。
「くっ!」
小太郎は小太刀で恐竜の爪を受け止めると、そのまま弾いて小太刀で切りつける。
切りつけた瞬間、半透明の恐竜は霧散して消え去る。その間にネルは小太郎から離れて、距離を五メートルほど取る。
「なに、なんなのそれ……」
「魔を封ずる小太刀……封魔の小太刀でござるよ。拙者はあなたを斬りたくない」
「いつでも斬れるみたいな言い方するけど……こっちは何度でも呼び出せるから!」
再びネルは半透明の獣脚類の恐竜を呼び出すが、小太郎は構える。
「ならばネル殿、その恐竜を何度でも斬って拙者の想いを伝えるでござるよ」
小太郎とネルの長い攻防が始まった。




