50.焔と水と―15
なにか無いか。今のこの手詰まりを解く、なにか良い方法をすぐにも思いつかないものか……。
ヴォトル少尉は考えつづけた。
と、
「敵機が離水しました! 空襲注意!」
湖畔に忍ばせた観測班から報告があったのだろう――ヴィンテージ中尉が、怒鳴るようにしてそう告げてきた。
有効弾はおろか至近弾さえ得られていないが、それでも、湖面のあちらこちらに正体不明の水柱が連続して立ちあがることから、自分たちが砲撃されていると悟ったのだろう――敵が禍根を断つべく動いたのだ。
ヴォトル少尉は、コマンダーハッチから伸び上がるように上半身をさらすと、大音声で叫ぶ。
「敵機がくるぞぉ! 空襲だ! 対応行動をとれぇ!」
〈ブラウヴェイス〉は動けない。
いま動けば、これまでの全ては台なしで、これから先の望みが霧散する。
逃げることは出来なかった。
エルフの山岳歩兵――軍用バギーの全数が戦車壕ちかくに集結した。
車列を組み、機関銃は空を指向して簡易的だが対空陣地を形成した。
機銃手以外の兵は車座になって地面に座り、互いに互いが手を繋ぐ。
全員が瞑目すると、囁く声をそろえて一心に呪文を詠唱しはじめる。
防御の魔法――結界を〈ブラウヴェイス〉の周囲に構築しはじめた。
「これって、内側からの射撃は通るんですかね……?」
自車のまわりの空気が、淡く、ぼぅ……とした燐光をはなっているのに目をまるくしていたネク二等兵が、〈ブラウヴェイス〉天蓋上の機銃把を握りながら、誰に問うでなく呟いた。
水上機が迫る。
稜線の彼方にゴマ粒のような点が見えたと思ったら、またたく間にそれは飛行機の姿となった。
機体の下に爆弾を吊り下げているのが確認できる。
あれで〈ブラウヴェイス〉をやるつもりだ。幸いなのはフロート付き故、運動性はそこまで高くない筈。
装甲車両の天敵ともいうべき急降下爆撃を喰らう心配はしなくてよさそうという事くらいか。
ぐんぐんその姿を大きくしていく水上機の主翼前縁が、チカチカチカッと断続的に赤く光った。
同時にキャンディバーのようなかたちの輝線が無数に押し寄せ、地上にあたってバチバチ! と弾けた。
銃撃されている。
こちらも応戦。
軍用バギー、ネク二等兵のあやつる重機関銃、それぞれが猛然と吼え、空中に焔の線を振りまいた。
ぐおん! と轟音をたてて水上機が頭上を航過。
集落地跡を通り抜け、彼方の空でUターンした。
姿勢を立て直すと、再びこちらに接近してくる。
爆撃コースを確認したのだろう――次が本命だ。
またも事前の銃撃。
射線上の軍用バギーが体を躱しながら応戦。しかし、その分、狙いが不正確になった。
「ぅをおおおぉおおッ!!」
まるで自分ひとりを殺しにきているかのように巨大化し、のしかかってくる水上機にネク二等兵が吼える。
だが足りない。
水上機が爆弾を投下。
恐怖をあおる風切り音とともに狙い澄ました殺意が〈ブラウヴェイス〉に突き刺さる……、その直前に四散した。




