49.焔と水と―14
「一〇発目!」
シールズ軍曹の声と同時に発砲音が轟く。
ずしん! と衝撃がきて、震動とともに〈ブラウヴェイス〉の車体がズズズッ……と後じさった。
「とっとっとっ……と」
けたたましい音をたてて砲尾から吐きだされた薬莢が、傾斜した床の上を転がっていく。
それを軽妙な声と動作で危うげなく避けながら、リド上等兵は砲弾ラックに手を伸ばす。
その傍らでは、ヴィンテージ中尉が、腕時計をストップウォッチ代わりに凝視していた。
通信機のマイクを口許に寄せる。
「弾着、いま」
通信回線の向こうにいる部下に向かって、そう告げた。
『命中せず』
しかし、セクレの泉を望む湖畔から届く返事は無情なものだ。
砲撃の修正値が送られてくるが、有り体に言って意味がない。
旋回砲塔を持たず、足りない仰角を車体を傾けることで補う。
その上でおこなう砲撃に精密な修正射など出来よう筈がない。
「駄目か……」
ヴィンテージ中尉の呟きが、ヴォトル少尉の耳にはいった。
微かな声、しかし、そこに含まれる苦さにグッと唇を噛む。
現状、〈ブラウヴェイス〉の車内にあって、ヴォトル少尉はただ一人、するべき事が何もなかった。
砲撃も通信もヴィンテージ中尉や部下たちの仕事であり、全体状況を見きわめる車長の出番はない。
だから、
(なにかないか……。この状況を打破するような、メクラ撃ちに等しい砲撃が命中するような、なにかウマい手が……)
唯一手空きの人間として、必死で頭をめぐらせ考えた。
まず、こちら――〈ブラウヴェイス〉側は、残念ながら今以上に砲撃精度を高めることはムリだろう。
であるならば、湖畔側にいるネクター――結論的に言ってしまえば、精霊の加護に期待するしかない。
危険なことは重々承知で、『敵』も間近な場所まで随行してもらったネクターに事前に頼みこんだ事。
精霊に願って、空から降ってくる砲弾が標的と狙う筏に命中するよう、その弾道を制御してほしい事。
滅茶苦茶な願いだったが、手持ちのリソースすべてをブチ込んでも、これが自分たちの精一杯だった。
広大な湖面に浮かぶ、たかだか一〇〇メートル四方ほどの小さな筏――それを目がけて概略位置に砲弾を送りこみ、最終的な微調整を精霊にゆだねる。
当然うまくいこう筈がない。
砲側でほんの一度、ただの数ミリの照準の狂い……、いや、甘さが、弾着側では数十メートル、場合によっては数百メートルのズレとなるのだ。
そのズレを精霊に修正してもらいたいのだが、しかし、精霊も魔法も万能ではない。
音速を遙かに超えた速度で飛来するちっぽけな鉄の塊をただしく導く――それは、いかな精霊にとっても不可能事にちかい困難だったのだ。




