48.焔と水と―13
状況は急速に動きはじめた。
上空にやってきた敵機は、先にセクレの泉から飛来し、カロンの三叉路の方へ去っていった水上機だった。
往路をそのまま逆に辿って引き返すことで、集落の状況に変化が有るか無しかを確認しようとしたものらしい。
それをエルフの山岳歩兵が軍用バギー車載機銃で狙い撃つと、驚いたものか、それとも燃料に不安があったか、慌てた様子で逃げていった。
そこから先の展開が、まるでコマ落としのように急なものだったのだ。
まず、〈ブラウヴェイス〉車体前面に取り付けられてあるドーザーブレードが唸りをあげ、突貫作業で変形の戦車壕が掘られた。
通常の、上から見て長方形、深さは砲が見える程の壕ではない。
上から見ると前方にひらいた扇形。深さは車体を完全に隠す程。
しかも、壕の底面が、水平ではなく『V』字型に屈曲している。
壕内に入った〈ブラウヴェイス〉が急坂を登るようにも見えた。
壕の外にいる者からすると、砲身だけが斜めに突き出た格好だ。
その向けられた方向もおかしい。カロンの三叉路に通じる集落の出入り口ではなく、セクレの泉の方を睨んでいる。
つまり、
「理屈はわかるし、砲は砲だが……、こんなのがウマくいったら、そりゃ『奇跡』だぜ」 車体を繊細に操作し、小刻みに動かしながらシールズ軍曹が呟く――なんと、この集落跡地からセクレの泉に浮かぶ筏を砲撃、ロケットを破壊しようとしていたのだった。
「なに弱気になってんだ。『魔弾の射手』だろ? 神様なんかに頼らなくったって、奇跡くらいおこせるとも」
「いや、やっぱ、奇跡って言ってンじゃないスか……」
耳聡く独り言を聞きとめたヴォトル少尉が言葉をかけるが、シールズ軍曹の言う通り、慰めにも励ましにもなっていない。
当然ではあった。
垂直方向、水平方向――それぞれ二つの向きに対して砲を指向する角度。
砲撃を命中させるに必要な要素は、言ってしまえばただそれだけである。
どちらの方向に向かって、どれくらい砲身をもちあげるのか――そういう事だ。
が、シールズ軍曹の言う通り大砲にも種類があって、照準方法は異なっている。
カノン砲――〈ブラウヴェイス〉が主砲とする類の砲は、その弾道は直線的で、したがって照準は目標を直接視認しておこなう。
榴弾砲――戦場の王とも呼ばれる主に重砲たちは、大威力の砲弾を遠距離まで送りこむ必要性から、その弾道は放物線状となる。
照準は、ほとんどの場合、視認ではなく計算でおこない、砲撃結果――命中したか否かについては観測班の報告により確かめる。
『砲は砲だが』これら二種類の砲は、その照準方法がまったくちがうのだ。
しかし、どうしようもなかった。
ネクターたち、集落からの避難民に変事を報され、現地へ赴き、その正体を知った。
もう時間が無い。差し迫った危機に対して対処できるのが自分たちだけである事も。
ムチャでもムリでも常識をねじ曲げてでも、やり遂げてみせねばならなかったのだ。
〈ブラウヴェイス〉の主砲を使い榴弾砲の真似をする――つまりはそういう事だった。
(いちばん大変なのはヴィンテージ中尉だ)
ヴォトル少尉は思う。
仕様も、ろくに熟知していない砲、
そもそもの用途にそぐわぬ射撃方、
迫る刻限と、いつ襲いかかってくるか知れない敵。
他にもあげれば際限がないが悪条件にも程がある。
それをおしても、必中することが絶対条件だった。
(ネクターの……、いや、精霊の加護を願うといっても、計算だけで成し遂げようっていうんだから……)
自分には絶対ムリだ――そう考えていた。




