王都へ
王都へは、辺境伯さま夫妻と同じ馬車に乗り、向かうこととなった。
護衛にはイールーの騎士たちや辺境伯領の騎士たち、ユラ、ロダさまたちが付いている。今回はユラも馬に乗っている。やっぱカッコいいなぁ、ユラ。
「本当にあり得ないわねぇ。王太子からは少し聞いてたけど、目の上のたん瘤って言ってたわ」
と、ミラさま。当然ながら辺境伯さまの妻であるミラさまもご存じのようだった。
「最近は際立って悪目立ちしているようだな。本当に君がシュラの嫁に来てくれてよかったよ。そんな王子になんて、君はもったいないよ」
と、辺境伯さまが言うと、照れたようにシュラさまが咳払いしていた。
「本当よね。こんなかわいい妹なんてステキ!」
「いや、従姉だろ。ミラ姉」
と、シュラさまがすかさず返すと。
「別にちょっとやそっとのことは関係ないでしょー?」
「いや、ちょっとやそっとのことじゃないだろうが」
そんなミラさまとシュラさまのやり取りを見ていて苦笑していれば、辺境伯さまと視線が合った。
「いつもこうなんだ」
と、辺境伯さまが告げると、ミラさまがぷくーっと頬を膨らませていた。
「んもぅっ」
「はははっ」
何だかとっても微笑ましくって。
王都に着くまではとても楽しい時間を過ごせた。
***
―――が。
「王都に、着いてしまった」
どよーんとしながら、シュラさまにエスコートされながら馬車から降りる。
「相当嫌なのね」
「そりゃぁなぁ」
辺境伯さまとミラさまも心配してくださって。あぁ、でも何だか力が抜けていくぅ―――。王都の、この空気にもう既に、アレルギー反応を起こしている。
私、今までよく平気でこの空気吸ってたな。
※別に王都の空気が汚れているわけじゃない。
「ほら、イェディカ。大丈夫だ」
「シュラさま」
シュラさまが身体を支えてくださって。滞在先の王都の辺境伯邸にお邪魔することになった。
公爵邸にも顔を出したいが、行儀見習いに出したとはいえ万が一にも妹と鉢合わせしたらまずいので、お父さまとは王城の夜会会場で会う予定だ。
「とにかく今日はゆっくり休みましょ。夕食は美味しいもの作ってもらうから」
そう、ミラさまに頭をなでなでされると、シュラさまもその後撫でてくれた。
「え、ヤキモチ?」
「見てて面白いな」
先輩夫婦たちのコメントはよくわからなかったが。今夜はお言葉に甘えてゆっくりと過ごさせてもらった。王都での食事は、久々の魔獣ではないお肉だった。
***
―――翌朝。夜会は夕方からだが、王城での夜会と言うこともあって、ミラさまと一緒に気合を入れて磨かれた。
「こういう時はー、磨かれて着せ替え人形になっていれば自然と気がまぎれるのよ」
「え、は、はい?」
そして、辺境伯邸のメイドたちと一緒にユラが張り切って私も磨いてくれて、あっという間に辺境伯領で流行っている折衷ドレスを着せられる。
「こうやって王都でもアピールするのよ~、広告塔、広告塔!」
ミラさまは相変わらずで。ジャガイモの前にまずはドレスを流行らせる気らしい。私もこのデザインは好きなので、王都でも流行ってくれると嬉しい。
いつもは下ろしている髪をアップにしてもらい、無事ヘアメイクも終えれば。先に準備を終えていた旦那さまコンビが迎えてくれた。思えばもう出発の時間だ。辺境伯さまはスーツで、シュラさまはイールーの礼装だ。今日も今日とて、私が刺繍した帯を身に着けてくれるところは嬉しい限りである。
先輩夫婦が先に馬車に乗り込み、少し緊張しつつも、私もシュラさまにエスコートされて馬車に乗り込んだ。
「大丈夫だよ、イェディカ」
「は、はぃ、シュラさまっ」
緊張しながら答えれば、私の手にシュラさまが優しく手を重ねてくれる。逆にドキドキする~。いや、これはこれで気がまぎれるかもしれない。何だかそう思うと自然と口元が緩んだ。それを見てシュラさまも微笑んでくれて。この時間が、空間が何だか幸せだなぁと感じる。
「若いっていいわね~」
「あぁ、初々しいな」
―――正面に座っている夫婦に、熟練夫婦みたいなコメントをいただいたんだけども。
フーちゃん「ふゅるるー」(訳:わても行きたかったー)