王都での夜会
―――王城での夜会。
「やっぱり王城のパーティー会場は慣れない」
※これでも元公爵令嬢。
茶会にも足を運んだけれど。大勢の貴族が集まり社交を深める場所。
「壁の華、壁の華。はっ!!」
「どうした?イェディカ」
「う、ううん。なんでもない」
今日はシュラさまが付いているから大丈夫。深呼吸、深呼吸。
「今日も美味しそうなもの、探すか?」
「あはは、それもいいですよね」
けど、もう少しでファーストダンスが始まるのか。きっとシュラさまも気を遣ってくれているのだろう。
「あの、実は踊れるのもあるんですよ。おばあさまが教えてくれた、イールーの踊りです。―――そう言えば、昔イールーのお兄さんとお城のお庭で踊ったことがあって」
「城で、か」
「はい。だから、それは大切な思い出ですから。貴族のパーティーでのダンスとは違ってたまにひとりで、ステップを踏んだりもしていたんです。でも、ここでは無理ですよね」
「いや、いいんじゃないか?幸い、ここは端の方だし。どうせ見ないだろ。みんな、ホールの方に夢中だ」
「そ、そうかも、ですが」
「ほら、何が踊りたい?一番好きなのは?」
シュラさまが私の手をそっととってくれる。
「えっと、その、雪の踊りが」
おばあさまに教えてもらって、昔から好きだった。
「それじゃぁ、それにしようか」
「は、はい!」
貴族の優雅なダンスとは違い、手を繋ぎながら軽やかなステップを2人で踏んでいく。冬の訪れを告げるイールーの季節を表す民族舞踊だった。
「上手だな、昔と同じだ」
「あ、ありがとうございます!」
あれ、昔?昔、私はシュラさまと踊ったことがあるのだろうか?
「あの、あの時のお兄ちゃん?」
王城のお茶会で塞ぎこんでいた時に、気晴らしに足を踏み入れた王城の庭でおばあさまに教えてもらった踊りのステップを踏んでいたら、年上の男の子に出会ったのだ。
はしたないところを見られて嫌われてしまうかと思ったけれど、意外にも踊りに誘われて、2人で踊ったことがある。
季節は春だったはずだけど、私は冬に習ったその雪の踊りが好きで、春になっても踊っていた。だからその子は冬の踊りを踊ってくれたのだ。
「“お兄ちゃん”はやめてくれ」
そう、シュラさまが苦笑する。
「はは、そうでした」
そう言えば前にも“お兄ちゃんみたい”だと言ったことがあった気が。
「“旦那さま”」
「あぁ、俺の嫁さん」
かつてのステキな出会いを思い出し、思い出に酔いしれるようにステップを踏んだ。そして踊り終わって互いに向かい合って礼をする。
―――すると、
パチパチと拍手が上がり、歓声が上がる。
え、何!?一体何が!?そう思って周りを見れば、何故か私たちは参加者たちに囲まれ、拍手と歓声を贈られていた。
え、えええぇぇぇっ!?いつの間に!?
「あ、夢中で。悪かった」
「い、いえ、そんなことは!」
私も夢中になっていたから、気が付かなかったぁ―――っ!
「すっごい良かったわよ、イェディカちゃん!ドレスの宣伝にもなったし」
「お前も隅に置けないな、シュラ」
どうやら辺境伯さまとミラさま夫妻にも見られていたらしい。でも、ミラさまのドレスの広告塔になれたのは嬉しいかも?
いや、恥ずかしさの方が勝りそうだけど!
シュラさまが腰を引き寄せて支えてくれているので何とか立っていられるけど。
「いいじゃないか。すごい良かった。たまにはいいんじゃないかな?」
そう言って、辺境伯さまの陰からひょっこり現れたのは、さらさらの金色の髪に緑の瞳を持つ年上の青年だった。とても顔立ちが整っていて、あちこちの令嬢からハートが飛んでいるが、彼は既婚者だったりする。
「お、おぅっ、王太子殿下!?」
「やぁ、イェディカちゃん」
このひともそう言えば、“ちゃん”付けにしてくるんだよなぁ。いいんだけど。ミラさまのとは違い、子ども扱いされているような気がする。
「弟が済まないことをしたね」
「いえ、ウチの妹の方こそすみません」
「いやいや。それにしても、夫婦仲良さそうで良かったよ~」
そう、へらへらと告げる王太子殿下だが。
「いえ、す、すみません。勝手にここで踊ってしまって」
「いいよいいよ。貴族のダンスみたいに、ホールが必要になるほど動くものじゃないし、なかなかにいいものを見させてもらった。ドレスも踊りも素晴らしかったよ。ぼくも妻のために注文しようかな」
「あら、ではいつでも注文承りますわ」
「ははは、君は相変わらずだね。お願いするよ。ミラ殿」
すかさずミラさまがデザイナーの顔になり、王太子殿下も自分の瞳の色を使って、こんな感じがいいなぁと依頼をしていた。
「そうだ、聞いていると思うけどイェディカちゃん」
「は、はい!」
オーダーが終わったのか、再び王太子殿下が私の方を向く。
「弟が謝りたいと言う話なんだが」
「あぁ、聞いています。その気があるなら、聞くだけは聞きます」
「我が愚弟のことで、重ね重ねすまないね」
そう、王太子殿下が苦笑気味に微笑んだ時だった。
「おい!イェディカ・ローゼライト!」
聞きたくなかった、聞き覚えのある声が私を呼びつけたのだ。
そしてみなの視線がその人物に向いた。




