修行②
いつの間にか寝てしまっていたようだ。まぁ、疲れもとれているので問題は無いけど、一段落ついたし『複製』で称号と体質のコピーをしてみたかったな。
アマルテイアの称号で『アイギスの盾』というものがあった。俺の記憶が正しければそれは邪悪.厄災をはらう神器だった筈だ。鑑定結果も全てを弾くと出てたし基本的には合っているのだろう。
コピーした時に、そのまま能力が変化せずに使えるのか自分の体に合った能力に変わるのか分からない。安全にできる時にやっておきたいしな。
アマルテイアと会ったら試してみるか。今日から魔法の修行が始まるし、新しいスキルの新しい能力を試せそうだしで今日は楽しそうだな。
「何をブツブツと言っているのですか?それと、周りへの注意が疎かですよ。」
びっくりした。考え事に集中していたのもあるが、音も気配もなく後ろから急に声をかけられれば誰でも驚くとおもう。
「すみません。周囲への注意が疎かだったのは認めますが、殺気か敵意があれば気付きますよ。」
「そうですか。それでは昨日の場所へと来てください。今日もそこで修行していきます。」
俺は言われた通りにあのドーム状の広い空間へと向かった。昨日とは違い、魔素も普通で特に特徴のない広い空間へと変わっていた。
というか、『複製』使えてないな。この修行が終わったら今度こそ使っていかないとな。
「それでは魔法の修行をやっていきます。初めにあなたの使える属性を教えてください」
「分かりました。えぇと、火、雷、闇、即死、神聖魔法ですね」
……今考えると俺って意外と魔法を使えるんだな。
「闇と即死ですか……。癪ですが、今度鹿の悪魔に頼んでみますか。……分かりました。それでは私からは火、雷、神聖魔法を教えていきます」
あれ?アマルテイアの使える属性って雷と神聖魔法だけだったよな?なんで火魔法までおしえるんだ?
「何故私が火を教えるのか不思議そうな顔をしてますね。理由は簡単です。闇と即死、神聖魔法を除いた属性魔法の発動条件が、全て同じだからです。それぞれの特徴などは違いますが、空気中の魔素を操作し魔方陣を作り魔法を発動させる。この一連の流れは全ての魔法が同じなのです。闇と即死、神聖魔法だけはその過程に特別な行動が必要になってきます。例として、神聖魔法では神への関心または信仰が必要です。」
そうだったのか……。今までスキルに発現した魔法しか使ってこなかったけど、魔法を創れるのならこれからの戦術が変わってくるな。
「それで、その……今から魔法を創るのですか?」
「いいえ。これも体術と同じように、まずは魔力感知と魔力操作の精度を上げていきます。最終的には人のいる場所がわかる程に、そして空気中の魔素だけで、つまり魔力の消費なしに魔法陣を作れるようになってもらいます。」
うーわ。俺は真似するのは得意だけど、精密作業などの精神がすり減るやつは苦手なんだよなぁ。人化のスキルで約4ヶ月かかってるしな。
「あなたは特に精密な操作が苦手なようです。アドバイスをすれば直ぐにできるようですが、今回は自分の力だけでやってください。」
バレてる。ちくしょう、早くコツを掴むしかないか。
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結局、修行し始めて約3ヶ月経ってしまった。元々、スキルのレベルが高くて精度がある程度高かったし、途中でレベルがMAXになったので前回ほど時間がかからなかったが、それでも3ヶ月経った。
修行した甲斐はあり、空気中の魔素の動きでどんな形の生物が、どのように動いているのかまで分かるようになった。それに魔法陣の方も同時に3個まで扱えるようになった。
元々魔法の同時発動自体は出来ていたが、同じ魔法を同じ場所にしか使えなかった。なので今回の修行は今までで1番変化のあった修行だったのかもしれない。
自分で考えてコツを探したし今後教えてもらえない時には今回のことを思い出せば早くコツを掴めそうだ。
「それでは次に属性別に修行していきましょう。初めに属性ごとの特徴を教えていくので、スキルに頼らずに魔法を使ってください。」
やっと魔法の修行に入るのか。自作の魔法を使えるようになるのは実用的だし、ちょっとワクワクしていた。なので、今から始める修行はとても楽しみだ。
「初めは雷魔法からやっていきましょう。雷は速さを意識してください。発動したら一瞬で目標へと届くぐらいの速さです。」
速さか……。とりあえず地球での雷は光速なのでそれを意識していくか。
俺は光をイメージしながら魔法陣を作り雷魔法を発動させた。
ちゃんと俺のイメージした矢のような形で発動したが、身体強化してない状態の俺の目でも見えるくらい遅く地面に当たると同時に消えていった。
「違います。電気の性質の方が強くイメージされてしまっています。魔法の威力は気にしないでください。元々雷魔法は威力が低く牽制用か隙を作る時にしか使いません。とにかく、速さだけを重視してください。」
牽制用だったのかよ。確かに強いやつか耐性があるやつは少し体が痺れるだけかもしれないが、水中にいるやつとかには効きそうじゃん。
まぁ、速さを意識してもう一度放ってみるか。
俺はイメージを改めて雷魔法を再度発動させた。すると、少しだが速く地面へと着弾した。
「流石ですね。まだ、他の魔法よりも少し速いくらいですが先程よりも早くなりました。何度も発動させてこれぐらい速くしていきましょう。」
アマルテイアはそう言うと、魔法を発動させた。アマルテイアが魔法を発動させた瞬間、近くの地面が吹き飛んだ。そこには小さなクレーターができており、煙が立ち上っている。
魔法陣はみえた。けれども魔法自体は全く見えなかった。魔力感知に感知されたのは雷魔法だったので、知覚出来ない速度で撃たれたのだろう。
牽制用と言っていた割にはクレーターができるくらい威力がある。もしも俺に撃たれていたら即死だったのではないだろうか?
ともかく、アマルテイアの魔法陣の構成は理解出来たのでそれを参考にして修行していこう。
それにしても、アマルテイアとの実力の差を事実として突きつけられたな。今まではステータスでの漠然とした差だったが、魔法の威力や完成度で理解した。
今の俺では絶対に勝てない。牽制用と言っている魔法でも即死するかもと思う程だ。普通の火力の魔法を撃たれたら体が残っているかも怪しいかもしれない。いつか、同レベルか負けないくらいになれるように修行していかなきゃな。
俺はアマルテイアの使っていた魔法陣をそのまま使わずに俺風にアレンジして作った。俺の知覚出来ない速度の魔法を使っても意味がないので威力と速度を落とし、精度をめちゃくちゃ上げて魔法を放った。
予想よりも速度があり狙った所に放てなかったが、無事に威力も速度も上がったので良いだろう。少しだけだが何処ら辺を変えれば速度が上がるのかも分かった。
今まではイメージで変更していたが、意図的に変えればより自分の思い通りに魔法を使えるようになるだろう。構成を理解することを優先して速さ、威力、精度を上げていこう。
それからは永遠と、それはもうたくさん魔法を撃った。具体的には魔力切れ3回起こし、その度に死にかけたぐらいだ。その際に『魔力回復速度』というスキルを獲得した。レベルも1上がってい気がする。
魔法の方はアマルテイアのよりも弱いが速度と精度は同じ位まで改良できた。
魔法陣の構造も理解し、何処をどのように変更したらどう変わるのかまで把握することができた。威力はこれ以上効率良く上げることができなくなってしまったので、アマルテイアには届かなかったが他の面では最大限まで上げることができた。
何か別の技術があるのか単に実力の問題なのかは分からないが、まだ威力は上げることができるようだ。今後上げていければいいな。
これは予想だが、属性ごとに威力や速度の限度が違うのではないのだろうか。この後の修行で分かるだろうけどそうかもしれないと考えておくだけでも効率良く改良できるだろう。
「よく頑張りました。最初に魔力切れになった者はその恐怖からやる気が無くなったり、魔法を二度と使わなくなる者もいます。やる気がなくなるどころか、その後に2回も魔力切れを起こす程修行するとは思いませんでした。努力をし続けるということはあなたの良い個性です。今後も続けて行くようにしてください。」
魔力切れにより死にかける恐怖はめちゃくちゃ怖かった。だけど俺は既に一度死んでいるからなんか「あぁ、また俺は死ぬのか?」みたいなことを余裕で考えていたな。
これは良いことなのだろうか?危機感がないことは緊急時には冷静な判断ができるようになるかもしれないし、楽観してしまうかもしれない。
これは難しいところだな。まぁ、状況によってメリハリをつけていくか。
「それで次は火属性の修行をしていくのですか?」
「次は神聖魔法と火属性の修行をしていくのですが、同時に魔法の同時発動もしていきます。タイムラグ無しで使えるようにするのですが、こちらは精神がすり減るので休み休みにしていきます。それと『並列演算』のスキルを獲得できたら報告してください。」
『並列演算』?同時に計算できるようになるとかか?まぁ、獲得できたら鑑定してみるか。
魔法の同時発動か。出来そうだが、1回見本を見たいな。
「その、見本を見せて頂けますか?」
「……分かりました。一度だけ見せますなので、参考程度に見てください。」
アマルテイアがそう言うと周囲に4つの魔法陣が出来上がり、神聖魔法と火魔法が1つと雷魔法が2つ発動した。
よくあんな操作ができるな。体で例えるのならば両手両足全て別の動作をしているようなものだ。
以前ステータスを見た時には『並列演算』のようなスキルはなかったので素で発動させたのだろう。物凄い情報処理能力だと思う。
「今は4つでしたが、あなたは3つ発動することができたら終了とします。」
3つか……。火と雷と神聖魔法を使えということだろうな。1回アマルテイアの真似をして出来そうならばそのまま挑戦し、出来なければ2つから始めていくか。
「それで火属性の特徴は威力です。火力でも構いません。放った相手へのダメージが大きくなるように魔法を構築してください。
神聖魔法の特徴は支援です。大雑把ですが、これしか言えないのです。細かい例を上げるなら味方に自分の力をのせたり、相手の能力を自分の力で抑えたりしますね。例外はリフレクションのようにいくつか存在しますが今回は考えないでください。」
あ、同時にやるんですね。威力と支援ねぇ。威力の方はなんとかなるが、支援の方は対象がいないと分からない。構築でも違いがありそうだし、後でアマルテイアにバフのようなものをかけてみるか?
「神聖魔法は師匠にかけてもいいですか?」
「あぁ、そうですね。……はい、いいですよ。」
それじゃあ後で練習するか。まずは火魔法から始めていこう。えぇと、魔法陣を作り、威力が最もつよくなるように改変させて……よし、できた。球状にしたので操作も楽だろう。
他のことは何もいじっていないから威力だけの強いファイアーボールだな。
俺は魔法を地面に向かって発動させた。雷魔法を見続けていたので、遅く感じたが着弾した瞬間小規模な爆発が起こり2mぐらい地面が窪んだ。
本当に雷魔法とは比べるまでもなく威力に特化しているようだ。次は全ての能力を最大にして発動させるか。予想以上に威力があったので少し離れたところに着弾させようかな。
火魔法をもう一度改良し、先程とは違うところに放った。何故か威力が上がったようで、一度目よりも深く窪んでいる。精度も上げていたので、火魔法についても把握することができた。
火魔法って中の気体を爆発させてたんだな。それで火を飛び散らせて、持続的なダメージを与える魔法か。攻撃以外に使用用途が肉を焼くしか思いつかないぐらい能力が攻撃的だ。
雷魔法は電磁加速できるようだし、今度『物質創造』でライフルでも作って試してみたいな。
「もう、魔法陣の最適化が終わったのですか。コツを掴むのが速いですね。普通は1属性ではコツを掴むことは出来ないはずなのですが……。まぁ、次は神聖魔法をやってみてください。」
言われた通りに次は神聖魔法をやっていくか。先に魔法陣を見ておかないとな。じゃないと改変しても発動出来なくなってしまうかもしれない。
神聖魔法の魔法陣は予想通り他の属性とは違った作りだった。威力や速度、精度の他に別の作りが2つあった。バフをかけるイメージにしてもう一度魔法陣を作ると片方が上がり、もう片方が0になった。
どうやら、こちらが支援のようだ。とりあえず、最大にしてアマルテイアにかけてみるか。
バフを最大にして魔法をアマルテイアへと発動させた。すると魔力がごっそりともってかれて膝から崩れ落ちた。かろうじて意識を失うギリギリのところで踏みとどまることができた。
「やっぱりそうなりましたか。なんでも最大にすれば良いと言う訳ではありません。支援は自分の魔力そのものを対象へと注ぐ魔法です。本能で切断できたようですが、継続していたら死んでいましたよ?
まぁ、そうなる前に私から切断していましたが。」
アマルテイアはそう言いながら俺に魔力を注いでくる。どうやら、失敗してしまったようだ。調子にのり試さずにやった結果だな。もっと慎重にやっていかないといけないな。
戦闘中に調整を失敗して動けなくなりましたじゃあ、死んでしまう。戦闘中でも正確な支援ができるように感覚をしっかりと掴んでいかないとな。