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複製

 なんでこのタイミングでスキルに変化が?原因は、まぁ分かるけど……。兎にも角にも鑑定するか。


『複製』

 対象の技術、能力、称号、体質をコピーすることが出来る。レベルによって質が異なる。


 あー、めちゃくちゃチート性能だな。『模倣』はスキルだけだったが、これはそれ以外も可能なのか。確かに複製だけど……例えば水中で生きる奴の体質をコピーしたら俺が水中で呼吸出来るようになるということだろう?身体改造かな?


 つまり、だ。新しい奴に会えば会うほど強くなれるということになる。で、今回はアマルテイアの躱し方を理解して再現したから複製したのか。スキルとしては獲得していないが、やり方は頭の中で具体的にイメージ出来るようになった。スキルになる1歩直前みたいな感じといえばいいのか?


 このスキルを使ってアマルテイアの技を獲得していこう。その後、自分のものとして技を使っていけばいい。今は多くの技術をアマルテイアから引き出さないとな。補助が増えただけで、最初は大変だけど。


 手始めに俺は現在受けている攻撃方法を知るためにアマルテイアを観察した。


 拳を連続して打ち込むときにはしっかりと踏み込まないと威力が出ない。しかし、目の前で繰り出される拳は威力が下がるどころか上がっている。


 見るだけじゃ分からないな。というか、既に何十回と受けている訳だが、防御してる腕が痛い。痛みで集中が乱れるし、その状態で何度か真似しようとしているのだが威力が落ちてしまうのだ。


 先程の回避方法のように、分かりやすい仕草もない。いや、あるな。連撃の合間に身体を少しだけだが捻っている……気がする。この動作のお陰で威力が落ちないのか?次に攻撃する機会があったら試してみるか。


 拳を流し、蹴りを躱して、掴まれた腕を強引に振りほどいて距離をとる――その繰り返しの末に、一動作挟み込む隙を生み出すことに成功した。


「――っ!!」


 瞬時に手の人化を解除。そのまま腕を振るう。容易に流されたが、その流れに逆らうことなく反転――踵で追撃をする。その威力はさがることなく――


《スキル『複製(コピー)』の能力により、技術を習得しました》


 できた。できたできたできた!こんな、こんな些細な動きだけで繋げやすくなるなんて!


 スキルが発動してやり方が次々と頭に入っくる。偶然再現できていたことも、『複製』によって理解し、何度でもできるようになった。


「終了です」

「はぇ?」

「今の攻防だけで攻撃方法と回避方法の2つを習得しますか……。では、次のステップへと移りましょうか」


 修行の終わりを告げる声と同時、俺はまた転がされていた。だが今度はアマルテイアに失望の色は見えず、むしろ嬉しそうだった。


 組手は本当にただの修行で、俺に技術を教えるための最低限の力しか出していなかったんだな……。いつか、このぐらい強くなれるかな?なりたいなぁ。


「次はあなたが習得した技術を応用し、実戦に使えていけるように体に叩き込んでいきます。まずは回避する時の技術の説明からしましょう」


 アマルテイアは複製獲得のキッカケになった、回避の技術を腕のみで再現した。視覚と感知スキルとの情報のずれに、頭が混乱した。


「分かりましたか?この技術は本来、回避ではなく攻撃用の技術だったのですよ。それが次第に変化していき、回避だけに使用されるようになっていきました。このように気配をずらして残すことで、相手の防御の隙をついて攻撃することができます。この一連の動作が速いほど、相手の隙をつけます。……まぁ貴方のように感知スキルを解くことで容易に対処できてしまいますが」


 残念そうな声とともに、アマルテイアは肩を竦めた。まるで、ただ一つの欠点がなかったら最高な素材を憂う声音に、何故か既視感があった。


 んー?なんだろうなぁ?表面上は優れているけど、一度中身を知れば、そのギャップに初対面での印象を消しさられるような残念さ……あ。


「早紀だ!」

「サキ、ですか?」

「あ、いえ。なんでもないです……」


 思わず声に出してしまった。しかし早紀みたいな技術か。信用はできるが、信頼したら足元を掬われるな。気をつけてかないと。


「そうですか。実践していきましょう。時間は待ってくれないのですから」


 簡潔にそれだけ述べて、アマルテイアは背を向けて歩き始める。修行場所を変えるようだ。


 どうやら休ませてはくれないみたいだ。さっきの組手、時間的にはそれほど経っていないけど、既に体は悲鳴を上げてるんだよな。だけど、アマルテイアに従って、ここまで成長できたんだし、口答えするのもなぁ。


 俺は疲れきった体に鞭を打って動かし、アマルテイアに着いて行った。案内されたのは、二人が動くのに十分な広さの、ドーム状の空間だ。まるで計算されて作られたような綺麗な構造は、人の手の加わった痕跡のない壁や床によって否定される。


 魔素が濃いな。その影響か空気も重く感じるし、魔力感知も難しくなってる。特に動きに直接関係してこないけど、魔法関連はやりにくくなってそうだな。


「今からここで修行していきます。初めは気配を残すまでの工程を速めていきましょう」


 中央に誘導されると、アマルテイアは来た方に立って修行の開始を宣言した。


「最も単純な騙し方は気配の差を利用することです。大きかった気配を小さく、その差によって相手の感知を錯覚させます」


 俺は言われた通りに気配を大きくしながら腕を振る。スキルで習得したことによって、自分の意のままに扱えるようになったので、言われたことの再現は余裕だ。


「素晴らしい。既に自らのものにしていたのですね。あなたにはいつも驚かされてばかりです」

「そんなことはありませんよ。師匠の教え方が上手なことが大前提としてあり、俺は言われた通り、見た通りにやっているだけですから」


 そうだ、俺は凄くなんかない。アマルテイアが褒めてるのは世界神に与えられた力だ。俺が自力で獲得してきた力は全てアマルテイアの足元にすら届いていなかった。


「そう謙遜しないでください。今まで育ててきた者の中には、挫折し、去っていった者達もいました。最後まで見れた者でもここまでの努力はしていません。私は、あなたのそういう所を評価しているのですよ」

「そ、そうでしたか。ありがとうございます……」


 『複製』の成果の補正も入ってるんだろうけど、力じゃなくて姿勢で評価されるのはむず痒いな。


「まぁ、それはそれ。これはこれです。修行の手は抜きませんからね」


 スパルタだなぁ。汗なんか、異常なくらいかいていないけど、体はとても疲れているのだ。『スタミナ回復速度』のお陰で前世よりも十数倍は疲れがとれるのは早いけど、ドラゴンになったことで動ける量が増えた分、結局は全快に時間はかかる。


「一番簡単な方法と言いましたが、直前に気配を大きくする方法では一瞬しか騙せません。なので、気配を消すのではなく周囲とほぼ同じ大きさにして、自分の位置を誤魔化す方法をやっていきましょうか」


 アマルテイアが説明し終わった途端、アマルテイアの気配が確認しにくくなり、遂に見失ってしまった。目の前に姿が見えるのに、今にでも見失ってしまいそうな――見失った。


「このように、周囲に溶け込むことが出来ます。完全に気配を消してしまうと、そこだけ穴の空いたようになり、逆に感知しやすくなります。消しきらずに周囲と同一の大きさにすることで感知しづらくすることができるのです」


 頭を振って見回すも、見つからない。声で探してるみるが、反響して発生源が分からないし、感知スキルからも何も情報がない。


「水に溶ける染料のように、極限まで薄くするのです。環境に染まり、相手の魔力を隠れ蓑に利用して。これができれば、後ろに立っても気づかれることはないでしょう」


 背後から突然聞こえた声より、体が硬直してしまった。ゆっくりと首を回して振り返ると、背後にはアマルテイアが立っていた。


「お、驚かさないでください。えっと、今からその気配を周囲と同じ大きさにする修行をしていくのですか?」

「そうです。それではやってみて下さい。見本はゆっくりと目の前で見せたでしょう?」


 俺はアマルテイアのように魔力を周囲と同じくらいの大きさにした。


「大きすぎます。先程分かったと思いますが、視覚情報すら欺ける技術ですよ?」

「この……くらい、ですか?」


 俺は魔力を少しだけ抑えてみた。人化の制御と違って、全体で細かい制御だからか、客観的に調整するのが難しい。


「乱れすぎです。一つ助言をしましょうか。目を閉じ、力を抜いてください。自然な体制で、魔力と魔素の境界を認識するのです」


 魔素と魔力の境界か。そういえばこの二つの違いってよく分からないんだよな。魔力と同じだけど微妙に違うというか……。やめよう。今集中すべきことは修行だ。境界……境界ぃ……!


「良くなりましたが、小さくしすぎです。大きさを調節するイメージではなく、境界をぼかして混ぜるのです」


 良くなったのか。大きさじゃなくて、混ぜる……。うーん、やっぱり境界が分からないな。混ぜる、混ぜる……魔力で渦でも作ってみようかな。


 その後何度も繰り返し、その度にアマルテイアに指摘されて調整していくことで、アマルテイア程ではないが、周囲の魔素に魔力を溶け込ませることができた。成功したときに、


《スキル『複製(コピー)』の能力により、技術を習得しました》


《熟練度が一定に達しました。スキル『複製(コピー)』のレベルが上がります》


という声が聞こえた。まだ不完全なのか、別の技術なのか、スキルで理解した部分に視認が難しくなる方法はなかった。


 そういえば、同じクラスにデフォルトでそんな奴がいた気がするんだけど、誰だっけ?……名前も姿も思い出せないし、気のせい、かな?


―――――

―――


「はぁ、もうあなたの成長速度には驚きませんよ」


 疲れたようなため息と、呆れた半目をいただいた。そんな熱い視線を送られると照れるな。


「一旦休憩を挟みましょう。十分な時間をおいて、威力を落とさない動き方に移ります」


 やっと休めるのか。組手で肉体的に、気配の操作で精神的に絞られたな。この後、また組手みたいなことをするだろうけど、スキルの効果で急速に体力が回復しちゃってる。この調子なら十数分程度で完全回復しちゃうだろう。……ちょっと億劫。


 予想通り十分と少しで疲労はとれ、アマルテイアが見逃すはずもなく、修行は再開された。


 まぁ、体は問題ないし、精神面も全力で休んだからいい感じにリフレッシュできてる。モチベーションなんてフルフルへの熱い想い(復讐心)で無限に湧いてくるしな。


「それでは連撃の修行をしていきましょう。……これまでの技術にも言えることですが、技術というのは目的を達成する道の一つに過ぎません。道はいくつもある、ということをゆめゆめ忘れないように」

「はい」


 つまり、アマルテイアから教わったことを応用していけということか?……これが終わってから考えていけばいいか。


「それでは私にひたすら攻撃を打ち込んでください」

「師匠に、ですか?」

「はい。同じ威力、又はそれ以上の威力で攻撃出来るようになるまでは休ませません。また、私に一撃通すまでは、次の修行へ進みません」


 しかし、自分の恩人に一方的に攻撃するのもなぁ。これが一番効率がいいんだろうけど、無理を承知で他の方法にしてくれないかなぁ。してくれなさそうだなぁ。


「……分かりました。それじゃあ、本気で打ち込ませていただきます」


 手初めに、アマルテイアへと爪を振ってみた。余裕で逸らされたが、逸らす勢いを殺さず、頭部への蹴りを放った。


「ほう……」


 蹴りは掴まれてしまったが、無理矢理跳んで、捻じることで、拘束を外し、一旦距離をとった。


「既に自分のものにしているのは素晴らしいですが、狙いが悪いです。予備動作、視線、魔力などなど、何でどこを狙っているのか隠せていません。相手に悟られないように工夫しなさい」


 予備動作と視線は分かるけど、魔力?。視線は頑張れば改善できそうだけど、他二つが……。視線だけでも隠してみるか。


 身を屈め、足に魔力を集中。地面を蹴ることでアマルテイアとの距離を一気に埋める。


 視線を向けない。いや、本命の防御が薄くなるように誘導?ブラフで惑わすのも面白そう。初撃は爪撃で逸らされたけど、敢えてもっかい狙ってみるか。えっと、視線は顔に向けといて――


「左脚!」


 付け焼き刃の工夫も虚しく、難なく躱された。続く首元へのかかと落としも、腹への突きも、未来が見えるかのように、放つ直前には当たらない体勢になっていた。


 次の行動への間隔を短くしても駄目か。やっぱり予備動作と魔力をどうにかしないと先読みさらて当たる距離にならないな。


「加速に意識が割かれすぎて、威力が減衰しています。最低限の威力がなければ受け止められますよ?このように」


 アマルテイアは証明するかのように俺の攻撃を片手で受け止めた。


「視線は誤魔化せています。しかし予備動作が大きくなっていますね。次は予備動作は最小限にしてみてください」


 予備動作を小さくしたら、威力が落ちてしまうんじゃないのか?……アドバイスに従って、大振りはやめてみるか。


 アマルテイアに腕を離してもらって、もう一度距離をとる。同じように踏み込むが、今度はギリギリまで振りかぶらずに殴った。案の定威力は落ちたが、振ったあとの姿勢が驚くほど綺麗だった。そのまま淀みなく次の攻撃に移れた。


 なんだろう、今の感覚。例えるなら、今までは説明書を見ながら体を操縦していたのが、説明書を見ながら直接動かしてる感じだ。それに、威力もちょっと上がってる?


《スキル『複製(コピー)』の能力により、技術を習得しました》


 威力が上がるのは別の技術なのか。ん、逸らしてる技術も理解できてる?……体を捻って攻撃を加速させるのを応用してるのか。

 しかし、この技術は凄いな。動きを繋げるほど速度が上がり、体勢も崩れないから反撃がきてもすぐに反応することができる。切り返しも容易で、掴まれることも回避できる、と。今は腕だけでしか続けられないけど、慣れていけば足でもできるはずだ。フェイントを混ぜれば防御を乱せるし……一気に幅が広がったな。


「あの程度の助言で習得しただけでなく、独自で応用までし始めましたか。今度スカアハやケイローンに紹介ましょうか……」

「ん、何か言いましたか?」

「いえ、独り言です。これで体術の修行を終わりですが、次は魔法の修行に入って行きます。そうですね、明日から始めましょうか」


 これで終わり……確かに攻撃と回避の技術を教わったし、この二つを応用できれば、アマルテイアみたいになれるはずだ。……なれるかな?比較対象がアマルテイアしかいないから分かんないな。


 それより次は魔法の修行か。やっと異世界の醍醐味でもある、魔法に本格的に触れ合える。これは明日が楽しみだ。明日のためにも、今日はしっかりと休んで疲れをとらないとな。


「ありがとうございました。これからもお願いします。では、お休みなさい」

「はい。お休みなさい」


 俺はアマルテイアへとお礼を言い、寝床へと向かった。横になった俺は余程疲れていたのか直ぐに眠ってしまった。

空気中に漂っている魔力が魔素です

どちらも魔法のエネルギーとして使えますが、魔素の方が制御が難しくなります

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