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人の進化

 アマルテイアに再び弟子入りした俺は、あの魔力濃度の高いドーム状の場所に来ていた。ウカノミタマと一緒に来ていたのに懐かしく感じる。


「先程は眷属のようなと言いましたが、正確には眷属化の一歩手前なのですよ」


 アマルテイアは昔と同じように俺と対面して、そう教えてくれた。


「……一歩手前?」


 俺は気になったところをオウムのように繰り返した。口にするつもりは無かったが、アマルテイアと2人きりという状況に安心して盛れてしまった。


「はい。山羊の悪魔に教わったでしょうが、眷属化というのは魂と魂との繋がりです。神聖魔法はこれを利用しているのですよ」


 ……どうしよう、フルフルからそんな事聞いたことないんだが。……一応闇魔法を教えてもらったんだし黙っておくか。


「……つまり神聖魔法とは、擬似的な眷属ですか?」

「その認識で大丈夫です。上位の者の眷属になった場合、状況によってはそれだけで灰になりますからね。貴方が世界神の眷属にだと聞いた時、存在が消えないかと心配したのですよ?」


 何それ怖い!えっ、俺ってそんなに危ないことしてたの?もしかして世界神が力の流入を防いでくれてなかったら既に死んでたってこと?……今度お礼言おう。


「それが原因で貴方と私では教皇とやらを眷属に出来ません。貴方のアンデッドのような強力な肉体ならば別ですが人間では無理でしょう」


 今普通にアンデッドと言ってたけど嫌悪しないのか?ケイローンは矢で木に縫い付けてたけど。


「私は考えました。人間を使徒にするにはどうすれば良いかと。そこで神聖魔法の特性を思い出したのです」

「……擬似的な繋がりをしようした力の貸与、ですか?」

「はい、その通りです。初め、私はあの子に神性を分け与え、体を内面から作り変えさせました。眷属化に耐えられるように、体の強度を高めたのですよ」


 な、なんか興奮して来てないか?冷静な顔だし敬語なんだけど、ちょっとずつ口調が崩れていってるような……。


「そして、私は遂に使徒化に成功しました。それがあの子――ブラッドなのです。以前やんちゃだと言ったのは覚えていますか?私の用いた方法では気分が高揚するのですよ」


 まるで人格が変わったかのように口調が元に戻ったアマルテイア。根はルルやシルビアと似た感じなのだろうか?よく言うと、深淵に迫ろうとする者。悪く言うと、魔法オタクだ。


「ここまでは理解出来ましたか?」

「……大丈夫です。つまり、私の神性を譲渡すれば宜しいのですね?」

「問題ありません。この方法ならば、灰になることもありません。貴方ならば数日とかからずに使徒に出来るでしょう。恐らくは一日で不死にはなります」


 早いな。いや、実際には神性の譲渡のやり方や、使徒化の方法等で時間はもっと掛かるけど、実行の時間が短いのは良い事だ。


「そして人間の神への進化にはもう一つあります」


 ま、そうだよな。というか、多分それは予想していたし、目星も着いている。今回は神聖魔法の利用の方が楽で早いけど。


「それは進化です。人間にもレベルがあるのには気付いているでしょう」

「……はい。いつ進化するのかは不明でしたが……」

「人間は最大レベル――つまり100レベルで神人類(ハイヒューマン)へと進化するのです。同時に複数の称号も獲得します。これが聖人や仙人と呼ばれるものです」


 人の進化……。全く想像つかないけど、どれ程の強さになるんだろう。ブラッドはまだステータスが上がるみたいだしなぁ。


「人が神へと至る方法はこの二つのみです。今一度問います。貴方はどちらを望みますか?」


 微かに神性を解放させたアマルテイアが俺に向けて聞く。勿論俺の答えは決まっている。


「……神性魔法の利用で神にします」

「分かりました。では昔のように教えていきましょうか」

「はい!」


 俺は満面の笑みで返事をした。……仮面で顔隠してて見えないのを失念して。


 ―――――

 ―――

 ―


 その後アマルテイアから神性魔法の奥義とやらを教えてもらった。信仰と加護の秘技と言うらしい。

 原理は神性魔法の使用時に発生する繋がりを利用した力の操作だ。これは対象の魔法を利用したものなので力の許容限界以上は流入しない。要するに擬似眷属化だ。


「貴方に師事していた頃から思っていたのですが、『叡智』で調べればないのですか?いえ、私としては貴方に師事するのは楽しいので一向に構わないのですが」


 遂に聞かれてしまったか。5年前、ニーズヘッグに進化して獲得した『叡智』の称号。使用すると視界にグー〇ルさんが出てくる能力。シルビア達は使うのに俺は使わない理由。それは単に俺が調べても意味が分からないからだ。


 だって俺、術式の構築とか感覚でやってるんだもん。専門用語のような単語が沢山出てくるから読めても理解出来ないし、しょうがないじゃん。


「……師匠に教えてもらう方が楽しいからです」

「そう、ですか……。直接そう言われたのは初めてですが……嬉しいものですね」


 俺の返事を聞いたアマルテイアが微笑む。美貌と相まって女神のような笑みだった。ちょっと見惚れてしまったのは内緒だ。


「……それじゃあ俺は教皇を亜神にしてきます」


 俺は早口でそう言う。別に照れ隠しとかではないので誤解しないように。


「はい。貴方がまたここ(迷宮)に来るのを待ってます」


 アマルテイアの別れの言葉を聞き、俺は転移する。


「あ、ニールちゃんだ!無事に教えて貰えた?」

「ジャックさん。知識は共有されているので、それで分かりますよ」


 俺が転移したのに気付いた2人が近寄ってくる。なんかこの短時間で凄く仲良くなってる気がするな、この2人。


「……しっかりと教わった。これで教皇を亜神に出来ると思う」

「おぉ、深く、深く感謝します。私のこの汚れた身でさえも貴方様のお慈悲を頂けることを」

「お、おう」


 教皇はまるで神にでも祈るように手を組んで目を閉じる。いや、祈ってるのか。祈りの対象が俺なのか世界神なのかは知らんが、僅かに神聖魔法の気配がするし。


「……それで、秘技の為に必要なことなんだが。……そ、その、だな」


 どんどん顔が熱くなる。仮面をつけたままで良かったかもしれない。


「服を…………脱いでくれ」

「了解しました」

「……そうだよな。突然服を……え?」


 俺は目を丸くする。なんの恥じらいもなく、教皇は服を脱ぐ。妙に手際よく、残すは下着だ。


「わっ、ニールちゃん大胆だね!」

「は、はわわわわ」

「ニールさん!ニールさーん!慌ててないで早く認識阻害を!……あぁ、もう!【潜伏(ハイド)】」


 間一髪。最後の一枚を脱ぐ前にルルが闇魔法を発動させた。教皇の姿が霧でもかかったように見えなくなる。


「た、助かった……」

「助かってませんし、さっきのは何なんですか!頼むなら心の準備をしてからにしてください!」

「これが神の奇跡……!」

「慌ててるニールちゃん可愛かったよ!」


 怒りからだろうか、赤面したルルが俺を叱責する。


 うっ……。だって、断ると思ったんだもん。それに、俺があんなに心を乱すとは思わなかったし……。


「だってもヘチマもありません!ニールさんは私達の代表なのですからしっかりしてください」

「まさか私に使用してもらえる時がくるなんて」

「ルルちゃんお母さんみたい!」

「ジャックさんは静かにしてて下さい」


 ……いつから俺が代表になったのだろう。あれ。というか、今俺言い訳を口にしてたっけ?


「……これからは気をつける」

「本当ですね?……はぁ、ニールさんが慌てる姿は新鮮でしたが、もう見たくは無いですね」

「神よ。この巡り合わせに感謝を」


 さっきからちょくちょく聞こえていた教皇の声が止まる。と、同時。教皇から光が発せられ闇魔法が弱まった。


「ルルちゃん。これが信仰と加護の秘技だよ!いふぁふぁふぁ」


 ニュっと顔を出したジャックが笑顔で説明する。それを聞いたルルがジャックの頬を摘んで伸ばした。


「そんな悠長な事を言ってる場合ではないです。早くしないと半裸の教皇さんが出てきてしまいますよ!」

「……それは困る。【視界遮蔽(ダークネスカーテン)】」


 教皇の姿を霧に加えて黒いオーロラが隠す。魔法名にカーテンとあるが、光を通さない膜がカーテンに見えたからそう名付けただけだったりする。


「……これで大丈夫だろう。探知で視えるし儀式自体は問題ないからな」

「はい。それにしても、その信仰と加護の秘技というのは凄い力ですね。教皇さんだけでしょうけど神聖魔法で私達の闇魔法に対抗するなんて……」


 宗教集団のトップで、世界神が気にかける程の信仰心を持つ教皇だからこそのこの力だな。裏を返せば教皇と同じレベルの信仰心があれば俺達の闇魔法に対抗出来るわけだ。……恐ろしい。


「これは……まさか加護の重ねがけ!?神よ!一生分の幸運を使い切ってしまった愚かな私をお許しください」


 神聖魔法の奥義の恐ろしさについて語っていると、認識阻害の奥から懺悔する教皇の声が聞こえる。というか、泣いてないか、これ?


「……落ち着け教皇。今からお前の体に触れるが大丈夫だな?」

「問題ございません。そして神よ、私などに許可など必要ありません」

「……そんな事はない。それにこれからやることを考えると許可は必要だ」


 俺は一つの魔法を教皇にかける。名前はまだない。まだ改善の余地があるので能力が変わるからだ。

 因みにこれがブラッドにも話した死ななくなる魔法だったりする。何故今そんな魔法を使うのかって?それはだな――


「ゴフッ!」


 心臓を抜き取るためだよ。


「ああ、神に命を捧げることが出来るとは……。天にも昇るような気分です」


 教皇は笑う。それはもう本当に召されそうな笑顔だ。というか、天に昇りそうじゃくてこのままだと昇るけどな。


 こ、こいつ……!神だったら何されても喜ぶのかよ。それともあれか?酷い扱い受けると気持ちよくなる奴か?


「……と、とにかくお前を亜神にするからな?」

「ありがたき幸ごばっ」

「む、無理して喋らなくても大丈夫ですよ?」


 見かねたようにルルが吐血する教皇を心配する。見た目少女なのにとても母性に溢れた横顔だった。


「……2人は少し離れててくれ。服も頼む」


 俺は教皇の心臓にアマルテイアから教わった術式を刻む。そこに魔力を込めると心臓が淡く光始めた。


「……それじゃあいくぞ!」


 俺は勢いよく心臓を教皇へと戻す。同時に神聖魔法で傷を癒した。


「ッ!こ、これが神の力……!」


 教皇を中心にして魔力が乱れ荒れ狂う。それは次第に台風のように渦をまき収束していく。


 ――その日、ダンジョンを一本の光の柱が貫いた。




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