表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/86

王都へ②

 キャシュを連れていくことが決まってから数日が経ち、その間俺はウカノミタマに協力してもらって空間を喰らうトカゲ達の扱いを上達させていた。ちなみに今は庵のコタツで寛いでる。


「やはりそのトカゲは殲滅の苦手な妾とは相性が悪いようじゃな。妾に有利な空間の筈なのじゃが、どんどん空間を侵食されてしまうのじゃ」


「……そうだな、俺もここまでとは思ってなかった。……それで、本当に修行の報酬がキャシュの同行で良かったの?」


「構わないのじゃ。キャシュにはもっと強くなって欲しいからの。今のままではそこら辺の神にすら殺されるのじゃ」


 ウカノミタマのその言葉にはまるで自分の子供に向けるような、そんな深い慈しみの念が含まれていた。


 やっぱり昔からの友の情けない姿は見たくないのか?そう言えば二人ってどれくらいの付き合いなんだろうな。……空狐って1000年以上生きた妖狐の事だよな?つまりウカノミタマの年齢は1000歳以上……。


「お主、今妾の年齢について考えておるじゃろ」


「……全く」


「む、確かにお主から失礼な気配を感じたのじゃが……。気のせいじゃったか?」


 ……鋭い。スキルの気配とかは全くなかったし、普通に勘で気づいたんだよな。女の勘と言うやつか?でも今は俺も女なのに、そういうのはないんだよなぁ。


「そういえば、今日が最終日じゃったな。キャシュも無事に説得出来たようじゃし、これで彼奴も昔のように戻るじゃろうな」


 自分の身体について考えていると、ウカノミタマが思い出したようにそう言った。ウカノミタマの言う通り、今日で妖狐の里とはお別れだ。


「……そうだな。自分よりも強い奴が身近に居れば大丈夫だろ。……それよりもあいつ言動が幼いぞ」


「彼奴は外見に反して中が少々幼いからの。そこが良いところなのじゃが、同時に短所でもあるのじゃ。猫又というのも原因じゃな」


「……ちなみに、あいつ今は発情期じゃないんだよな?」


「その通りじゃ、次の周期はまだ数十年先じゃな。それがどうかしたのかの?」


「……ブラッドを見せたら頬を赤くして息が荒くしてて、発情してるみたいだったから」


 そう、数日前キャシュの同行が決まり他の皆と顔合わせしたところブラッドを見たキャシュが今言った感じになったのだ。その姿からは何故か艶かしい雰囲気が漂ってた。「強い人間の雄」とか言って飢えた獣みたいな目で見つめてたし。


「ふむ、妾にも分からぬのじゃ。例え発情していたとしても実害はないのじゃし、放置で良いじゃろうな。その人間の男とやらに夜に警戒するよう言っておくといいのじゃ」


「……分かった。一応言っておく」


「うむ。さて、そろそろ彼奴も起きた頃合いじゃろ」


 ウカノミタマがそう言うとタイミング良く【転移門】が開き、そこからキャシュが欠伸をしながら出てきた。


「ふニャ〜、二人ともおはようニャ。……朝から何の話をしてるのニャ?」


 その声は寝起きの為か通常時よりも勢いはなく静かだ。いつもこれなら外見と相まって可愛いのに……。


「お主について話しておったのじゃ。一つ問うが、お主は現在発情期じゃないじゃろ?」


「当たり前ニャ。突然何を言い出すのニャ。次の周期はまだ数十年先ニャ」


「そうじゃな……。妾達の気のせいじゃったようじゃ。お主があの人間に発情しておるように見えたから聞いてみただけなのじゃ」


 ウカノミタマがそう言うと、キャシュの動きが止まった、かと思うと目をクワッと開いて騒ぎ始めた。


「そうニャ!あの人間の雄は良かったニャ!神の使徒とは言え、人間にゃのにあのステータスで、性格も良くて、更に顔もタイプなのニャ!あれより更に強くにゃるみたいだし楽しみニャ!」


 ……うるせぇ。せっかく静かだったのにキャシュが来た途端に騒がしくなったな。同じタイプの早紀ですらもう少し静かだったぞ?長年生きてるんだから自重して欲しいな。


「お主の言いたい事は分かったから落ち着くのじゃ。再度問うがお主は発情してはおらぬのじゃな?」


「何度聞かれても答えは変わらないニャ!私は発情してはいないニャ!ただ、良い雄を見つけて興奮してるだけニャ!」


 それを発情と言うんじゃないのか?猫にとっては違うのか?……分からん。


 ウカノミタマに宥められて騒ぐのを止めたキャシュはコタツに潜り込んで冬の猫みたいに丸まった。実際猫だけど。


「やっぱりコタツでの二度寝は最高ニャ。最近はダンジョンでの下層で雑魚狩りしててご無沙汰だったからより気持ち良いニャ」


「……寝るな、起きろ」


「嫌ニャ……。ここでまた寝るのニャ。なんびとたりとも邪魔することは許さないのニャ」


 ……めんどくさいな。ウカノミタマの願いじゃなかったらここに置いていくんだけどなぁ……。ブラッドをここに呼んでみるか。キャシュ、アイツのこと好きみたいだし。


 俺はブラッドの足元に【転移門】を開いて、強制的に呼び出した。 突然足元に開いたからか、受け身を取らずに尻から落ちてきた。


「いてて、やっぱり俺の扱い雑だよなぁ。もう少しだけでいいから丁寧に扱ってくれないかぁ?ヒューマノイドと言っても元は人間だからなぁ」


「……善処するからこいつを説得しろ」


「頼むぞぉ。猫の嬢ちゃん、そんな所にいないで外に出ようなぁ。俺もそろそろ王都に行きたいしなぁ」


 ブラッドが話しかけるとコタツの中にいるキャシュが顔だけ覗かせた。反対側から出てるしっぽは左右にユラユラと揺れている。


「ほら、早く出ようなぁ。そしたら沢山遊んでやるぞぉ。陛下に報告したい事も出来たからなぁ」


「むぅ、お主がそこまで言うなら出るニャ。……そうニャ!私を運ぶ栄誉を与えてやるのニャ!」


 キャシュはそう言うと『人化』を解除して、尾が二つに分かれた猫になって、ブラッドの胸へと飛び込んだ。ブラッドはそれを傷付けないように抱えて、困った顔でこちらを見てきた。


「……頼んだぞ。お前でご指名だからな」


「はぁ、やっぱりそうなるよなぁ。少しだけだからなぁ?」


「分かってるニャ!里を出るまでにするニャ!」


「それなら別に良いぞぉ。触り心地も良いしなぁ」


 ブラッドはそう言ってキャシュの毛を撫でた。背中を撫でられたキャシュは気持ちよさそうに目を細めた。


 正直に言ってブラッドが羨ましい。人化したキャシュは騒がしいだけだけど猫形態のキャシュは静かだし、毛並みが良いから撫で心地が良さそうなんだよな……。前世から犬や猫等の動物は好きだし、この身体になってからは可愛いものには惹かれやすくなったから、表情に出ないようにするのに結構苦戦するんだよ……。


「……それじゃあ、そろそろ出発する。この数日間迷惑をかけた」


 俺はコタツから立ち上がりながら、ウカノミタマにここ数日世話になったお礼を言った。


「別に構わないのじゃ。最初に呼んだのは妾じゃしの。確かお主らは人間の王都に向かっておるのじゃったか?」


「……そのつもりだ。ブラッドの言う話には勇者達がいるらしいし」


「それならば、妾が【転移門】を繋いでもよいのじゃ」


 ふむ、かなりありがたい提案だな。今から転移すれば誤差はあるけど、丁度リビスから歩いて到着する頃かな?


「……ブラッド、ここから王都までに何かあるか?」


「俺は知らないぞぉ。道中の特殊地形もこの山くらいかなぁ」


 俺がこの妖狐の里のような場所がないか、という意図で聞くと、ブラッドは俺の質問の意味を理解してキャシュを撫でながら答えた。


「……それじゃあ、ウカノミタマ頼む」


「構わないのじゃ。全員集まり次第人目のないところに繋げるのじゃ」


「……助かる」


 ウカノミタマに再度お礼を言い、ラプラスと並列思考達に『念話』で庵に集まるように伝えた。するとすぐに3つの【転移門】が開き、全員集まった。真ん中の門からは何故か黒色のオーラを纏った荘厳な門になっている。


「君に会うのも久し振りだね。数日間会えなくてとても寂しかったよ」


「ニールちゃん。このスキル凄いね。妖狐の人達に妖術を教えてもらったんだけど、それも追加されてたよ」


「はい、本当にこの『魔導書』は素晴らしいです。全ての魔法が最適化された状態で保存され、私とシルビアさんが作り出した魔法まで載っているんです」


 右の門から出てきたルルは、集まるなり興奮した様子で俺が作り出したスキルを褒めてきた。どうやら無事に妖術を習得できて喜んでるみたいだ。


「ニール、知ってるか?妖狐って意外と脳筋だったんだぞ!面白いよな」


「まぁ、あたし達は楽しめたし良かったんだけどね。シロナとクロナの二人が特別冷静だっただけみたいだね」


 左の門から出てきたコア達は俺の興味を引く事を言ってきた。非常に気になるが、今は我慢して後で聞くことにしよう。


「フッ、我が運命共同体よ。新たなる力を手に入れたようだな。貴様から我と同じ深淵の気配がするぞ」


 真ん中の無駄に演出が凝った門からは理解できない者が出てきた。辛うじて意味が理解できるのが救いだ。これで会話も出来なかったら、致命的だからな。


「それでは開くのじゃ。人間の街付近にある森に繋げるから魔物がいる可能性があるのじゃ」


「……ここにいる奴らなら大丈夫だ」


「確かにそうじゃな。……また会えるのを楽しみに待つのじゃ」


 ウカノミタマがそう言うと、空中に金色の渦が発生した。この数日で何度も見たウカノミタマの【転移門】だ。

 そこを全員躊躇いもなく、通って行き俺とウカノミタマだけが残った。


「……近くを通ったら寄る。その時はまた模擬戦をしてくれ」


「分かったのじゃ。それまで気長に待つのじゃ」


 俺はウカノミタマに頷きかけ、【転移門】を潜った。すると周りの景色がガラリと変わり、森の中に移動した。振り向いてみるとそこには既に【転移門】はなかった。


「あ、ニールちゃん。あそこに大きな門があるよ。あれが入口じゃないかな?」


 声の聞こえた方へ視線を動かすとシルビアがすぐそこにあるリビスの砦よりも巨大な門を指さしていた。


「……そうだな。行ってみようか」


 俺は王都の入口と思われる門へと歩き始めた。数年振りに会う前世でのクラスメイト達への期待で胸を膨らませて。


 __________________


 妖狐の里。【転移門】で俺たちを送り出したウカノミタマがいた。


「「よろしかったのですか?」」


 後ろにいる双子がウカノミタマへと主語の含まれていない質問をした。


「何がじゃ?」


「あの者達はこの里の場所を知りました」


「人間共に情報が漏れる危険がございます」


 どうやら俺たちが妖狐の里の事を言いふらす事を心配しているらしい。


「構わないのじゃ。異空間での戦い方を教え王都に送り出す、これが彼奴からのお願いじゃからの。それに、妾も個人的にあのドラゴンに興味が湧いたのじゃ」


 ウカノミタマはそう言って口元にかすかに笑みを浮かべた。


「「左様でございますか」」


「分かってくれて何よりじゃ。それでは先に庵に戻っておくのじゃ」


「「承知しました」」


 双子はウカノミタマからの命令に従い、高速で庵へと移動した。


「さて、妾も行くとするかの。それにしてもあのドラゴンが妾が今までやってきたことを知ったらどう思うかの?表情を歪めて怒るかの?それとも単純に殺しにくるかの?……くふふ、次に会うのが楽しみじゃな」


 ウカノミタマはそう言うと、転移せずに歩いて庵へと向かい始めた。その表情はとろけそうなほど甘い笑顔で満たされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ