猫又
最近通ることが多い気がする【転移門】を通ると、ウカノミタマがコタツで寛いでミカンに似た果物を食べていた。
「……寛ぐの早いな」
「妾が早いのではなく、お主が遅いのじゃ。……いつまでもそこで立っておらず、お主もコタツに座るのじゃ」
いや、十分早いと思うんだが……。ウカノミタマが通ってから全く時間を開けずにとおったんだけどな。ここの空間の歪みの影響で時間の進みが異なるのか?……今は別に考えなくても良いか。
俺は言われた通りにウカノミタマの正面に座った。俺が座ったのを確認したウカノミタマにミカンに似た果物を渡されたので、その皮を剥きつつ話の要件について聞いてみた。
「……それで話ってなんだ?修行してくれたお礼なら今すぐ用意出来るけど?」
「そう焦るでない。同時に話をしておきたい者がおるので来るまで待つのじゃ」
……ウカノミタマが待つほどの人物ねぇ。あの双子……は違うな。あの二人はウカノミタマを待たせる事なんてしないな。同様の理由で他の妖狐も無し。並列思考は論外で、ブラッドは関わりの薄さから除外。
他に居るとしたらラプラスかな……?あいつならいつの間にかそういうのに関わってそうだけど違うと思う。……確証はないけど。消去法で俺の知らない人物、あるいは龍神などの大物かな?……後は多分ないだろうけど、アイツか?いや、でも種族と場所的にも全く関係ないし……。
ウカノミタマが待ってる奴について考えていると庵の外に転移してくる気配があった。
「ふむ、来たようじゃな。む?それ程警戒せんでも良いぞ?敵意があったとしても今の彼奴の強さでは妾達にはかすり傷一つ付けれぬからの」
「……警戒じゃない。知ってる奴と似てる気配だから探ってるだけだ」
「当たり前じゃ。お主を最初にここに呼んだのは彼奴じゃからな。何でも、お主に助けられたらしいのじゃ」
……俺に助けられた奴か。心当たりがあるのは一匹しかいないけどこんな気配じゃないしなぁ。変わったのか?
気配の主に疑問を持っていると、気配が庵の中に入ってきてその姿を顕にした。俺と同じくらいの身長、存在の主張の激しい大きな胸、背後で揺れる2本の尻尾、亜麻色の髪は肩まで伸ばしたストレート、そしてーー頭部で揺れる髪と同色の耳。……つまり猫耳の生えた美少女だ。
「……それで、誰だこいつ」
「ニャ!?この美しい私を見て思い出せないのかニャ!?ダンジョンで危うく魔物に殺されかけたところをお主に殺されかけて、結果的に助けられた猫ニャ!」
あぁ、やっぱりそうなのか……。レベルを上げるため魔物を殲滅してた時に、何故か猫が魔物に追いかけられてたんだよな。それで助けてみたら用があったら妖狐の里に来い、と言ってたのはそういう事だったのか。あの時は意味が分からず聞き流してたけど、こいつがここでそれなりの地位にいたから言えたのか。確かステータスは低かったかな?かなり弱かったけど今はどうなんだろう……。
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種族:猫又
名前:キャシュ
年齢:152
レベル:48
HP:23000/23000
MP:24000/24000
SP:18000/18000
スキル: 『鑑定LvMAX』『超速再生LvMAX』『並列演算LvMAX』『思考超加速LvMAX』『念話LvMAX』『千里眼LvMAX』『魔力操作LvMAX』『身体強化魔法LvMAX』『森羅万象LvMAX』『闇魔法LvMAX』『死霊魔法LvMAX』『空間魔法LvMAX』『精神攻撃無効LvMAX』『痛覚耐性LvMAX』『未来予測LvMAX』『人化LvMAX』『色欲LvMAX』『忍耐LvMAX』『縮地LvMAX』
称号:『猫又』『多命』『神殺し』『殺人鬼』『虐殺者』『死神』『不老』『賢者』『色欲の罪』
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『猫又』
長年生きて、魔物に変化した猫。生きた命の数が多い程高い知能を持ち、体内の魔力操作の精度が向上する。尾が二つに分かれている。
『多命』
複数の命を持つ者。消費した命は条件を満たすと戻すことが可能。死亡すると数年弱体化。
『神殺し』
神を殺した者。魔力に僅かな神気が含まれる。殺した神の権能を一部使用可。
へぇ、大体3倍くらいかな?さっきウカノミタマがかすり傷一つ付けれぬないとか言ってたけど無警戒の無防備なら骨折くらい出来るだろ。
「うむ、互いに知っておるようなので紹介は必要ないの。それで全員集まった事じゃし、本題に入るとするかの」
ウカノミタマはキャシュが座ったのを確認し、今までの何処か抜けてるような顔を引き締めて真面目な雰囲気で話し始めた。
「今回、お主達に集まって貰ったのはお主達には一緒に行動してもらいたいからじゃ」
「え……?」
「……俺は別にかまーー」
「にゃ、にゃにを言ってるニャ!?私がこんにゃちっこい貧乳と一緒に行動にゃんて有り得ないニャ!確かに今世の恩人だけどそれだけニャ!」
……黙ってたらボロクソに言われたな。ちっこいのも胸がないのもまだ生後5年なんだから仕方ないだろ。長命種は体の成長が遅いと言うしな。
「そ、れ、に、ニャ!今の私じゃ、道路の石と大差ないけど後2年かそこらで龍神くらいには強くにゃるんだからニャ!」
「……それでも俺には敵わない。それに2年も経ってれば俺も成長する。そのデカい胸ばかりに栄養がいって頭は疎か何じゃないか?」
「ふふん、羨ましいか?嫉妬してしまうか?ニャにも気にする事はないニャ。貧乳が巨乳を羨むのはこの世の摂理なのニャ!」
いつまでも貶されているだけだと俺が舐められる原因になるので敵意を全く隠していない言葉で返すとキャシュは嫌味に気付かずな褒められたと勘違いした馬鹿のようにドヤ顔になって俺を煽った。
……本当に気づいてないのか?それとも気づいた上で俺を煽ってきてるのか?……イマイチ分からないな。もう一回言ってみるか。
「……本当に羨ましいよ。その中身がお花畑な頭がね」
「素直にゃのは良い事にゃ!素直な者はきっと大きくなるニャ!ま、私程には大きくにゃらないのニャ!」
いや、シルビアとかシェリーと同じくらいじゃないか?それに、すぐ隣にいるウカノミタマよりも小さいのによくそこまで言えるな。……あれ?なんで俺はこんなくだらない質問にムキになって答えてるんだよ。これは久々に体に引っ張られてないか?
俺達が口論してるのを完全にスルーして、満足そうに果物を食べていたウカノミタマに視線を送ってみると、さっきからずっと俺のことを先輩面してアドバイスーーとてもそうとは思えないが、キャシュにとってはアドバイスらしいーーしていたキャシュもつられてウカノミタマの方を見た。
「あ、あれは例外ニャ……。あんにゃのには誰も勝てないニャ」
「む?どうしたのじゃ、それ程落ち込んで。お主は妾と会うと時々そのように落ち込むの。何が原因じゃ?」
俺たちの視線に気づいたウカノミタマが食べるのをやめて、心底不思議そうにそう質問してきた。その声を聞いて隣からビキィッ、と音がなった気がしたのは気のせいじゃないだろう。
「そのコタツに形を変えられてる大きな胸が原因なのニャ!何を食べたらそんにゃに大きくなるのニャ!胸ばかりに栄養がいって頭に入ってにゃいニャ!」
断言してるし……。しかもそれ俺がさっき使ったやつじゃん。一応悪口としては認識していたのかよ。……それよりもウカノミタマだよなぁ。今までは興味がなくて詳しく見てなかったけど、こうしてみると本当に大きいよな。
「むぅ、そうかのぅ……。別に妾は大きさは気にしないのじゃ。寧ろ小さくして欲しいぐらいじゃな。戦闘中に邪魔になる時があって迷惑してるのじゃ」
……そうだよなぁ。いつもシェリーがコアと組手をしてる時に思うんだけど、あんなに大きくて下が見えるのか?ビキニアーマーな分服の厚みが無いけど、それでもあれは邪魔になるだろ。
「そ、それは必要にゃ犠牲ニャ。それに雄共を誘惑するのに大きい方が便利ニャ!」
「では、男に興味の無い妾には不要じゃな。それにしても一度切り取って見たのじゃが、勝手に再生したのじゃ。まるで世界が拒むようにの」
……うわぁ。ウカノミタマって凄い美人でスタイルも良くて、尻尾の毛並みも良いのに中身が勿体ないよな。所謂早紀タイプだ。それと男の誘惑か……。うん、考えただけでも鳥肌が立つな。前世の頃から性欲とかは乏しかったし、結婚とかは有り得ないかな。
「それよりもニャ!こいつと一緒に行動するのは断固拒否ニャ!」
「ふむ、拒否すると言うからには勿論理由があるのじゃろう?」
キャシュが無理矢理話題を戻し、俺との同行を拒否すると、ウカノミタマが心底不思議そうな顔で首を傾げて問いかけた。
「勿論あるのニャ。まず私とこいつとじゃ力量の差が開きすぎニャ!ただの足でまといにしかにゃらないニャ!」
「それならば大丈夫じゃ。お主よりも弱い人間がおるからの。それに、お主が戦闘参加する前に片付くのじゃ」
「他にも種族による生活の違いがあるニャ!」
「お主は人間とそれ程変わらんじゃろ……。強いて言うならば発情期があるくらいかの?しかし、今は違うみたいじゃな」
「そ、それに私はこいつの事を知らないニャ。そんにゃ奴とは一緒に行動出来ないニャ!」
「お主の命の一つを救ったのであろう?ならば信用するには充分じゃな」
本当に嫌そうなキャシュが次々に問題点を上げるが、それをウカノミタマは即行で論破していった。
別にこいつの同行についてはどうでも良いんだけどウカノミタマの思惑について知りたいな。なんでいきなりこんな事を言い出したんだ?
「……そもそも、なんでそこまでしてこいつを俺に連れてかせたいんだ?」
「ふむ、お主には話しておいても良いかの。お主にこやつを連れて行って欲しいのは最近こやつが怠けてばかりだからじゃ」
「……具体的には?」
「ニャ!?それは言わにゃい約束なのニャ!乙女の私生活は秘密なのニャ!」
ウカノミタマの抽象的な答えに対して詳細を尋ねると、ウカノミタマに問題点を全部解決させられて不貞腐れてたキャシュが今までにない迫力で阻止してきた。
「静かにするのじゃ。でないと今週のクロナのおやつ抜きじゃ」
「それは嫌ニャ。でも私生活を話されるのも嫌ニャ……。うぅ、迷うのニャ〜」
キャシュはその場で頭を抱えて丸くなり、左右に転がり始めた。どうやら本気で悩んでいるらしい。その姿は滑稽で元強者としての威厳は全くなかった。
「こんな風にシロナとクロナのいる生活に完全に堕落しておるのじゃ。向上心のないキャシュは嫌いじゃからな。お主と一緒に行動しておれば以前のように戻る筈じゃ」
……成程。あの双子の活動を詳しくは知らないけどウカノミタマの専属ということは世話係としてのレベルはかなり高いんだろうな。そんな二人に世話された結果がこれか。
「……確かにこれは酷いな」
「理解してくれたようで何よりじゃ。それではこの里を発つ時はこやつを連れて行って貰えるかの?」
「……分かった。俺もこいつには興味があるし」
こうしてキャシュがしょうもない事で悩んでいる間に俺とキャシュが同行することが決まった。後でそれを聞いたキャシュがニャーニャー騒ぐのだが、クロナが焼き菓子を渡すことで静かになった。やはりその姿に威厳は全くなかった。




