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空間支配

 ウカノミタマの【転移門】を潜ると、昨日と同じくダンジョンにあるドーム状の空間に繋がっていた。見渡してみると昨日のクレーターは消えていた。


「さて、勢いで言ってみたがお主なら本当に今日で習得してしまいそうじゃの。昨日の時点で妾の空間転移を妨害しておるからの」


 前にいたウカノミタマはこちらを振り向くと、先程の愉快そうな表情ではなく初めて会った時と同じ真剣な顔でそう言った。


「……俺も本気で言った訳ではない。今日中に習得したいとは思ってるのは本当だけどな」


「うむ、お主の気合も十分のようじゃし、早速始めるのじゃ。基本は昨日と同じなのじゃが、今日は趣向を変えてみるのじゃ」


 ウカノミタマはそう言うなり周囲の空間を支配し、支配した空間ごとウカノミタマが作り出した異界へと引きずり込んだ。


「以前世界神の奴から聞いたのじゃが、本来神々は自ら作り出した異界に引きずり込んで戦うらしいのじゃ。神々のその強力過ぎる力で周囲の環境を破壊しない為らしいのじゃ」


 あぁ、だから急にこんな事をしたのか。……あれ、でも何で昨日はやらなかったんだ?異界では空間支配が難しいのかな?


「後は自らが作り出した異界ならば相手の能力を下げたり、自分を強化したり出来るとも言っておったの。妾の庵と似たような感じじゃな。お主は既に神化出来るようじゃし、こういうのを経験しておいた方が良かろう」


「……助かる。世界神が言うには邪神も神化してるらしいしな」


「それは昨日彼奴から聞いたのじゃ。それとこうも言っておったかの。空間を支配するなら分体を沢山出して喰らう方が早い、とのことじゃ」


 ウカノミタマは世界神の声を真似して俺に世界神からの伝言を伝えてくれた。世界神を信じていないのかウカノミタマの声は疑惑に満ちていた。


 どうでもいいけど世界神の声真似意外と似てたな。どうやったらあんな子供っぽい声が出せるんだよ。『身体操作』とかで声帯を変えたのか?

 ……少し話が逸れたな。えぇと、確か世界神からの伝言で空間支配は分体で喰らった方が早い、だったかな。分体というのは十中八九『並列存在』の事で間違いないだろ。喰らうというのは『暴食』のことなのか?

 そういえばまだ魔力しか食べた事がないな。空間とか触れることが出来ないものでも喰えるのか?……とりあえず試してみるか。


 俺は『暴食』を発動させて空間に干渉してみた。すると、ウカノミタマに完全支配されていた空間の支配権を一瞬で奪うことができた。


「むぅ、もう成功させてしまったのか。お主とは少し違うが妾が他のスキルと並列起動させて空間を支配するのに何ヶ月もかかったのじゃが……」


「……俺は元々スキルを同時に使うのに慣れてたからな。後は空間に干渉できるスキルと同時に使うだけで良かっただけだ」


「それが難しいのじゃがな。まぁよい。それで、分体とやらは出来そうなのか?妾は未だに出来ぬのじゃ」


 ウカノミタマは分身系のスキルを持ってないのか?それとも苦手なだかとか?俺の場合は『並列存在』だから各々にある程度自由意志を持たせられるけど、『分身』は完全に自分が操らないといけないからなぁ。あまり多く出せないし。


「……イメージは出来てる。空間を喰らう能力だけ持たせれば良いだけだし。だけどその形状が難しい」


「別に外見など何でも良いと思うのじゃが……。お主は細かい事を気にするの」


 俺の言ったことを少し勘違いしてるウカノミタマに説明するために真横に大きさの違う二つの並列存在を作った


「……こんな感じに大きい程攻撃が当たりやすいからな。戦闘能力を持たせないなら小さい方が良いんだよ」


「ふむ、それならばトカゲとかどうじゃ?湿地におるリザードマンの先祖はドラゴンと聞いたことがあるのじゃ。お主のスキルならばトカゲにするのも可能だと思うのじゃ」


 トカゲか……。有りなんじゃないか?機動力もあり、ドラゴンとの類似点もあり、何より小さい。割と形状を自由に変化させられる並列存在ならウカノミタマの言う通り、トカゲに出来るかもな。……試してみるか。まずは並列存在に人化を解かせないとな。


 俺は新しく小さめの並列存在を生み出して形状を変化させた。最初にドラゴンの姿にし、次に限りなく小さくして大体手のひらサイズまで縮めた。後は邪魔な翼を収納させて、体のフォルムを細長くしてみた。


「……出来た」


 ふむ、地球のトカゲのアルビノと似てるけど少し違うな。全体的にはトカゲなんだけど何処と無くベビっぽい気がする。……機能面的には体を小さくさせた影響で知能も下がってるみたいだな。だけど空間を喰らう程度にはあるみたいだし、そのままでも大丈夫か。


「少しお主が羨ましいのじゃ。お主は完全には理解しておるぬようじゃが、強力なスキルが豊富にあり、それを十全に使うことの出来る技術まで持っておるのは片手で数えられる程にしかおらぬのじゃぞ……」


 俺が並列存在で作ったトカゲを観察していると隣で納得いかない顔で眺めていたウカノミタマがそう言い出した。


「……俺からしたらウカノミタマも十分強いんだけどな。一人でそこまで強くなってるんだし。……それに、俺は偶然他人の真似が得意で、偶然師に恵まれていただけだ。俺自身は何もしていない」


「むぅ、あまりそう言う事を言うでは無いぞ。思うなとは言わぬが、口に出すのはやめた方が良いのじゃ。今までお主に教えていた者達はそのように思っておらぬぞ。少なくとも妾はそうは思っておらぬのじゃ!」


 俺が弱気な言葉を口にするとウカノミタマがちょっと怒気が含まれた声音で俺の言葉を否定した。最後にはドヤ顔で胸を張って励ましてくれた。


「……そうか。すまなかった、今後は気をつけるよ。……それと、その、俺の言葉を否定してくれて嬉しかった」


 俺はウカノミタマを直視出来ず、顔を俯けて謝罪した。その後顔を消え入りそうな声でお礼を言った。きっと今の俺の顔は嬉しさやら恥ずかしさやらで真っ赤なんだろうな。


「うむ、うむ。お主にも素直な面があるのじゃな」


「……か、からかうな。それよりも俺の準備も整ったし、早く始めよう」


 俺は顔を隠すために最近、少しズラしてかけている笑っている道化(ピエロ)の面を被った。


「むぅ、もう少しお主の顔を眺めていたかったが仕方ないのぅ。さて、少々名残惜しいのじゃが再開するのじゃ。ルールの基本は昨日と同じでお主は周囲の空間を妾の妨害を切り抜けて支配するだけなのじゃ」


「……昨日との違いって何だ?場所が異界というだけではないんだろ?」


「ふふん、ちゃんと用意してあるので慌てるでない。なんと!今日はお主が妾の魔法攻撃を防御するのを許可するのじゃ!流石に昨日の魔力に分解するのは禁止じゃがな。勿論、お主の防御を許可した分妾の魔法攻撃の威力も上げさせてもらうのじゃ。頑張って死ぬ気で防ぐのじゃな」


 ……昨日のでも結構威力があったと思うけど、まだ上がるのか。けど、これは良い実験になるかもな。新しく手に入れた『龍鱗鎧』がどれ位通じるのか知れるだろうし。


「……分かった。始めるタイミングはそっちに任せる」


「うむ、それでは狐火を爆発させるのじゃ。それを始めの合図にするのじゃ」


 俺はウカノミタマに頷き距離を取った。ウカノミタマから離れるた俺が振り向くと、ウカノミタマが掌に青い狐火を出現させ爆発させた。

 ウカノミタマが狐火を爆発させたと同時に俺は『龍鱗鎧』を発動させ黒の全身鎧を装備した。ウカノミタマは俺が鎧を着たのを確認すると、一瞬で数十もの魔法を発動させ撃ってきた。


 最初はトカゲを量産して空間を喰ってもらおうかな……。そうだな、空間を喰ったことで得た魔力を使って新しく作って貰うか。そうすれば鼠算式に増えていくだろ。


 俺はウカノミタマの魔法を回避しながら次々とトカゲを作り、周囲の空間を支配し始めた。勿論ウカノミタマは妨害の為にトカゲ達を魔法で減らすけど、それよりも早くトカゲ達が増えるため少しずつ空間を支配出来ている。……ちょっと数が多すぎて気持ち悪いけど。色が白で良かったな。黒色だったらアレを連想させる光景だ。


「少々数が多いのじゃ。妾は殲滅は苦手じゃからのぅ。少しばかり相性が悪いのじゃ」


「……正直ここまで増えるとは思ってなかった。けどこれならウカノミタマから空間の支配権を奪える」


「むぅ、これ以上妨害して仕方ないの。後は抵抗して侵食を遅くするだけにするのじゃ。完全に侵食される前にお主を戦闘不能にすれば妾の勝ちなのじゃ!」


 ウカノミタマは突然トカゲ達への攻撃を止めたかと思うと標的を俺に変えた。ウカノミタマが俺を追いかけながら発動した数十の魔法を鎧で受けつつ俺は高速で後退してウカノミタマから距離を取る。

 移動速度は俺の方が速いが時々ウカノミタマが転移することで距離はそこまで開いていないが縮んでもいない。俺はひたすら魔法を処理しながら後退し、ウカノミタマは魔法を撃ちながら時々転移して俺を追う。そんな事を暫く繰り返していると空間の支配が進みウカノミタマの魔法の発動を妨害することに成功するようになった。


「もう魔法を妨害出来るほどに侵食しておったのか。ふむ、もう少し転移を使っても良いかもしれんの」


 ウカノミタマは俺に聞こえない声でそう呟くと俺の背後へと一瞬で転移し超近距離で魔法を放った。


「……ッ!」


 突然背後にウカノミタマが出現した事で体勢を崩したせいで防御も出来ずにウカノミタマの魔法をマトモにくらってしまった。その影響で背中の鎧が吹き飛び脇腹を欠損した。


「ふふん、妾を甘く見るでないぞ。妾が得意なのは魔法だけではないのじゃ!」


 俺に魔法をウカノミタマはそのまま俺に殴りかかってきた。俺はなんとか体勢を整え、篭手で逸らすことに成功したがその直後にきた回し蹴りはギリギリ腕を挟めたが、上手く対処出来ずに吹き飛ばされた。


 ……ちょっと不味いなぁ。予想以上にウカノミタマの体術が強かったし。でもまぁ、体勢を整えれば対処は簡単かな。吹き飛ばされたのを利用してこの間に整えるか。


 俺は勢いを殺さないように空中で一回転して体勢を整えた。そのまま地面を強く踏みしめウカノミタマの転移予想位置へと突っ込んだ。


「何じゃと!?割と強く蹴ったのじゃがもう回復しておるのか」


 ウカノミタマは驚いたのか声を裏返らせて俺の攻撃を防いでいた。体と一緒に尻尾まで揺れてたのがちょっとかわいかった。


「……これぐらいなら大丈夫だ。あまり魔力も込められていなかったから回復は簡単だった」


「む、お主物理攻撃無効まで所持しておったのか。本当にお主には驚かされてばかりじゃな」


 ……割と普通に話してるけど傍から見たらヤバいんだけどな。異界だから周りに影響はほとんどないけど地上でやったら余裕で森が消し飛ぶ力で組み合ってるんだからな。声音がおかしいと思う。


「……そろそろ50%いきそうだな。もうすぐで転移を完全に封じれると思う」


 見渡してみると、今まで真っ黒だった異界が俺のトカゲに侵食されて半分白で塗り尽くされていた。


「む、もうそこまで進んでおるのか。早くお主を倒さねば妾の威厳が保てないのじゃ」


「……威厳?そんなのは最初から無いと思うけど」


 ウカノミタマの言葉に思わず本音を漏らしてしまうと見るからにウカノミタマが落ち込んだ。


「そうか、妾には威厳がないのか。それならば何故妾はここまで必死になっていたのじゃ?これではまるで馬鹿ではないか」


「……いや、別にそういう意味で言った訳では無いんだけどな。……というか、そろそろ終わりにしないか?」


「う、うむ。そうじゃな。一応試しに空間魔法を発動させようとしてみたが即効で妨害されたからの」


 俺はウカノミタマに頼んで戦闘を止めた。大丈夫だとは思うけどもう一度空間魔法を妨害を実践してみせた。


「……それで、これで修行は終わりなのか?」


「その認識で構わないのじゃ。しかし、妾から一つ話したいことがえるので庵に一旦戻るのじゃ」


 俺は生み出したトカゲ達を【虚無空間】に入れてウカノミタマの後を追って【転移門】を潜った。

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