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人間の街

 全身甲冑の騎士から解放された後に地上での行動について話し合った俺たちはダンジョンの入口にあった建物から出た。今出てきた建物を外から見てみると、小さな砦のような構造だった。冒険者のような人間が絶えず出入りしておりとても賑やかでとても楽しそうだ。……まぁ、割と頻繁に魔物や人間の死体を抱えていなければの話だけどな。

 砦……というかダンジョンは街から少し離れているところにあるらしい。この賑わいなら近場に集落のようなものが出来そうだけど、定期的にダンジョンから魔物が溢れ出す時期があるためそんなことはないようだ。それを近くにいた杖を持った青髪の女冒険者から聞いた俺たちは現在その一番近くにある街に向かっている。


「……暇だな。話によると歩いて二時間かかるらしいんだよなぁ。……【転移門】を使いたい」


「ニールちゃん、さ、さっき問題を起こさないように決めたのに早速問題を起こすの?」


「……分かってる。本気でやるつもりはないぞ?」


 俺が駄目元で呟いてみるとすぐに隣を歩いていたシルビアから注意された。ちなみにシルビアの服装は現在甲冑の男に下卑た声を出されてからは胸元の大胆な秘書服ではなく、胸を完全に隠しており下もスカートからスラックスに変えている。……スーツなのは変わらないけど。


「しっかりしてくれよ。まぁ、シルビアには悪いけどあたしも身体強化してさっさと移動しちゃいたい気持ちはあるね」


 俺とシルビアが親と子供のように話しているとコアと右後ろで技について話していたシェリーが自分の気持ちを素直に暴露した。シェリーの服装は変わっていない。上半身がビキニのようなものでほとんど半裸なのですれ違う冒険者からじろじろ見られていたのに変わっていない。一応認識阻害はしているがあくまでこれは認識されにくくなるだけなのでシェリーの服装のせいで意味がなくなっている。


「俺もさんせ~い。姉貴と話すのも楽しいけど歩くだけなのは飽きてきたぞ」


「フッ、深淵なる審判を実行し、神技を磨く純粋な闇の意思が楽しいのではないか。それが分からぬとは『神殺し』など到底なしえぬぞ?」


 ボロスはコアの意見に対して進行速度は落とさずに無駄に綺麗で無駄のないいつでも迎撃できる体勢でターンを行って訳の分からないことを言い出した。


「おい、俺が喧嘩に弱いって言ってるのか?もしそうなら絶対に許さないぞ」


「深淵と融合し、深淵に染まることで更なる力を解放し新たなる能力を貴様の手中に収めることが出来るぞ?さぁ、すぐにでも消し飛ばすことが容易い貴様でも神を殺しうる能力を手に入れようではないか」


「なぁ、ニール。ボロスは何を言ってるんだ?」


「……俺に聞くな、俺も分からん。……ボロスの言うことは適当に流しとけば良いんだよ。相手にするだけ疲れるだけだ」


「それもそうだな。分かった、姉貴にも伝えてくる」


「……そうか」


 それから俺たちは自分たちの好きなことをして歩き続けた。シェリーとコアはまた戦闘のことを話し始め、ルルとシルビアは各々で術式の改良をしている。ボロスはブツブツと何かを呟いたと思えば急に香ばしいポーズを取ったり、魔法を発動させたりしている。俺とラプラスは仮面を被ってる者同士で人間に関する情報や仮面について意見交換している。


「……なぁ、お前って仮面に何も能力をつけてないけど何で仮面を付けてるんだ?」


「私は君と違って表情を隠すためだけに付けているからね。後は縛りを作って能力の向上かな」


「縛り……?」


「君のことだから知ってると思ってたけど……。縛りっていうのは自分に不利な状態を作って能力を底上げすることだよ。私の場合は仮面で視界をゼロにしてるんだけど、『探知』があるから本当にデメリット無しで能力を向上させてるんだよね」


「……なるほど。でも俺は特に能力が向上したりはしてないぞ。いや、修行でかなり向上してるんだけどな……」


 向上してないよな……?もし、縛ってから時間が経たないと能力が向上しないならもしかしたら4年間の修行中に上がってるかもしれないんだろ?修行中は常に能力が上がってたから分からないんだが……。


「あぁ、それは君が仮面に能力を付けているからね。視界をゼロにしてはいるけど認識阻害の効果があるせいで実際には自分に不利な状態を作れていないんだよね」


「……そうか。まぁ、既にステータスが表示されないくらい強くなってるし必要な時がくればやってみる」


「そうだね。縛り自体はすぐにできるから君はそんな感じでいいんじゃないのかい?」


 まぁ、そんな場面は邪神と戦う時ぐらいにしか来ないんだろうなぁ。その邪神と戦う時だって今よりもっと強くなってそうだし……。覚えておくだけでもいいから知識として頭の隅に置いておくか。ラプラスが言うには縛りによる能力の向上はすぐらしいからな。俺にも『探知』や『物質掌握』のスキルがあるから周りの地形は把握出来るんだしな。


「……それで、本題なんだがお前今から向かう人間の街に行ったことがあるか?」


「一度だけね。でも、その時もあまり詳しく見なかったし20年くらい前だから変わってるんじゃないかな。君が知りたいと言うなら私が見た頃の状態は教えるよ?」


「……大雑把で構わないから教えてくれ。特に詳しく知りたいのは住人の様子と街の構造だけだ」


 それ以外は現地で知っても問題はないだろ。……ないよな?何か不安だけど重要なのはその二つだろ。住人のことを事前に把握しておくことは意外と大事だ。習慣や服装、話し方などを知っておけば色々とその場所で過ごしやすくなる。例えば沖縄の方言をある程度知らないと何を言ってるのか分からないことがあるだろう?それと同じような感じだ。

 街の構造を知りたいのも似たような理由だな。まぁ、こっちは別の理由がある訳でもないけど、大体同じような理由だ。構造を知ってた方が動きやすいしな。


「私が見た時は君がいた世界とは特に違いはなかったかな。もちろん服とかは文明レベルが低いから少し質素だけどね。素材は綿や亜麻が主流だったよ。貴族とかが絹を着ていたりしたかな」


 へぇ、それじゃあ大して気を使う必要はなさそうだな。服が今のままだとまずいかもしれないけどそこは認識阻害で一般人相手ならなんとかなるかな。並列思考達に服を変えろと言っても多分聞かないだろうし……。


「君がいた世界とは違って宗教は熱心で教会が多くあったよ。神聖教っていう人間至上主義の宗教だったかな。一部例外があるけど基本的に魔物や魔族は殲滅対象だったね。でも人間の力なんかでは到底叶わないけどね」


「……そうだな」


「うん。私が知ってるのはこのくらいかな。構造は念話でイメージとして教えるけど他に私に聞きたいことはあるかい?あれば遠慮なく言ってくれ。君の言うことなら力の及ぶ範囲でなんでもするからね?」


「……他はない。街について聞きたいことができれば聞く……いや、一つだけあった。【転移門】を使って移動してもいいか?」


「いいんじゃないかい?」


「二、ニールちゃん、分かってるよね?」


 ラプラスから人間の街について聞き終わった俺は未だに着かないことに少し面倒くさくなり、ラプラスに魔法を使って良いか聞くと顔は笑っているけど目だけが笑ってないシルビアが横から話しかけてきた。


「……はい、分かってます。分かってますのでその顔をやめて頂けないでしょうか」


「わ、分かってるなら大丈夫だよ」


 ……なんでこんなにこの弱そうな喋り方であんなに怖い顔が出来るんだよ。あの迫力があればさっきの全身甲冑の奴に怯える必要ないだろ。……シルビアってたまに怖くなるよな、色んな意味で。


 そこからはまた無言で歩き続けた。しばらくそうしていると何かを守るように配置された壁を確認することができた。近づいてみると馬車の行列ができている砦がありどうやらそこ以外に街を出入りできるところがないようだ。女冒険者から聞いた時間よりも早く、砦を出発してからおよそ1時間半で街に到着した。


「……思ってたよりも早く着いたな」


「そ、そうだね。でも今私の中で道中何も問題が起きなかったことに一番安心しちゃってるのがふ、複雑なんだよね……」


「シルビア君が言う通り君たちは見ていて面白いけれど問題を起こすのは少し不安だね。特にボロス君は色々な意味で」


「フッ、我が深淵は全てを飲み込むのだ。たとえ邪神であろうとも深淵の化身である我には勝てん」


 ボロスはラプラスの言葉に対してどこからそんなに出てくるのか分からない自信を持って訳の分からないことを言い、サングラスをクイッした後にターンをしてそのまま流れるように香ばしいポーズをとった。


「……ボロスは気にせず並ぼう。……なぁ、お前がこの前来た時って何か必要なものがあったか?」


「あぁ、そういえば通行料が必要だったね。……大丈夫だよ。私の空間魔法にしまってあるからね」


「……助かる」


 俺たちは街へ入るために砦へと続く列に並んだ。全員手ぶらだとかなり不自然なので俺は【虚無空間(アイテムボックス)】から『創造』で用意していた衣服などが入った籠を取り出した。ちなみにこの魔法、元は【異空間(アイテムボックス)】という魔法でシルビアとルルが改良したものだ。改良前は容量が狭く生き物が入らなかったが、改良後は生き物は当然、魔力や星すら入るようになった。容量は実質無制限まで拡張されており一度ヴェノムに入ってもらったら一面闇が広がっており入れたものは何一つ見当たらなかったそうだ。他にもあり、この魔法で作り出された空間は現実とは時間が異なる。というか、ほとんど止まっている。お陰で魔物の死体を入れても腐らなくなった。生き物を入れても心臓が止まったりとかはせずステータスも普通に変化するので何処ぞの精神と〇の部屋よりも高性能だったりする。だって中にいても外の時間が進まないんだもん。


 列は進んでいき、現在俺たちの二つ前の奴が何か手続きをしている。俺はそれを確認し後ろを振り向いてもう一度並列思考たちに注意をした。


「……俺とラプラスだけで話すから何を言われても喋るなよ。分かったな?」


「あたしもそこまで馬鹿ではないよ」


「何も喋っちゃ駄目なんだな」


「……私もですか?」


「そ、そうなんじゃない?この中で人間と話したことがあるのニールちゃんとラプラスさんだけだし……」


「フッ、深淵は全てをーー」


「次が俺たちの番だから静かにしてくれ」


 それからしばらく待っていると前の奴が進み俺たちの番になった。


「通行証は持っていますか?持っていなければここに通行料を出してください」


 俺たちが進むと横の受付窓口ようなところから女性が話しかけてきた。


「……持っていません。これで大丈夫ですか?」


 俺はラプラスから貰っていたこの世界での通貨を手渡した。


「……はい、大丈夫です。それではお通りください。……問題は起こさないようにしてくださいね」


「……分かりました」


 街に入る許可をもらい一度広場まで進みそこでこれからの予定についてみんなで話し合うことにした。


「……街についた訳だが、一度自由行動にしようと思う。街の構造は念話で伝えるから好きなように行動してくれ」


「で、でも私たちお金とか持ってないよ?」


「……それは大丈夫だ。ラプラスが持ってるのを分けてくれるみたいだからな」


「君たちで楽しませて貰っている代価だとでも思うさ。それに、渡した方が面白いことが起こりそうだしね」


 ラプラスは【虚無空間】から銀貨の入った小袋を全員に配った。この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨がある。それぞれ10枚ごとに換金できる。つまり銅貨10枚で銀貨1枚に交換できるということだ。大体日本円で表すと銅貨が100円くらいだと考えてくれれば分かりやすい筈だ。

 ……で、今ラプラスは銀貨が20枚くらい入った袋を渡したわけだが、日本円に換算すると約20万で十分に大金だ。それを5人に気軽に渡しているとかやばいと思う。


「……もらったな?それじゃあ、自由にしてくれ。……何気に大金だから余り中身を見られないようにしろよ。絡まれても大丈夫だと思うけど……」


 ラプラスが全員に小袋を渡したのを確認し、自由に行動することを許可した。俺は気分が浮ついている並列存在たちを見て少し不安になり一応小袋の中身を見られないよう忠告した。


「流石に俺でも分かるぞ。なぁ、姉貴!武器屋に行ってみないか?」


「いいんじゃないかい?その後は闘技場にでも行って人間の強さを見てみようじゃないか」


「いいなそれ!」


 コアは遊園地に来た子供のようにはしゃいで武器屋のある方向へシェリーと一緒に走って行った。


「コ、コア君のあんな姿久しぶりに見た。内容がおかしいけど見た目と同じようにた、楽しんでくれて良かったね」


「そうですね。シェリーさんの服装のせいであまりそのように見えませんがまるで親子見たいですね。シルビアさん、私たちは図書館に行きませんか?」


「そ、そうだね。新しい知識を得られると良いな……」


 シルビアとルルはコアたちが向かって行った方角を見て目を和らげると図書館の方へと歩いていった。


「フッ、では我は人間共の作ったアーティファクトを見てこようではないか。さて、我が深淵に相応しい神器は売られているのか?」


 ボロスは1人で何事か呟くとまだ昼間なのに真っ黒の外套を羽織って様々な物が売られている商業区の方へと消えていった。


「……俺は冒険者ギルドに行く。そこで登録して魔物の死体を換金するつもりだ」


「もちろん私も行くよ?ちょっと久しぶりに会いたいやつもいるしね」


「……分かった」


 俺はダンジョンにいた頃から少しだけ憧れていた冒険者ギルドのある方向へと向かった。

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