地上
地上に繋げた【転移門】を潜るとそこにはダンジョンでは見れなかった5年ぶりの青々とした空、美しい空気、小鳥や動物達の鳴き声……ではなく、石レンガの様なもので閉鎖された天井、魔物の死体と血で汚れた生臭さ、オーガのような筋肉をつけたゴリゴリのマッチョ集団の鳴き声(?)が広がっていた。
俺が期待外れによるショックから棒立ちになっていると並列思考とラプラスが【転移門】を潜り終わり俺と同じように周りを見渡した。
「あぁ、言うのを忘れていたよ。このダンジョンが王国の中にあるため入口が完全に管理されているんだよね」
「……それを早く言って欲しかった」
俺とラプラスがそんなやり取りをしていると並列思考たちがそれぞれ思ったことを口に出し始めた。
「あまり強そうなのはいないね。あたしの能力を下げようかね?」
「違うよ姉貴。俺達が強いんじゃなくてこいつらが弱いんだよ。もっと探そうぜ」
コアとシェリーはやはりと言うべきか、戦いのことを考えており、
「凄い不潔です。どうしてこの方達はこんな空間にいられるのでしょう」
ルルは珍しく顔を顰めて強めな言葉を吐き、
「うぅ、人がたくさん。二、ニールちゃん……助けて」
シルビアは冒険者と思われるマッチョ達の筋肉の迫力に負けたのか涙目で助けをこい、
「フッ、我が深淵を見よ!神魔両方の力を持つ我が深淵が貴様らを蹂躙しようと暴れ回っているぞ。さぁ、血湧き肉躍る狂気の踊りを始めようではないか!」
ボロスはサングラスをクイッとした後にターンしてジョジ〇立ちのような香ばしいポーズを取った。
そんな並列思考の言動を見ていたマッチョ達と美少女は急にこの場に現れた俺達に驚いているのか、全く隠す気のないボロスの魔力に驚愕しているのか、それとも並列思考達の自分勝手な物言いに憤りを感じているのか分からないがこちらを凝視していた。
「君達!一体どこから出てきた。冒険者カードは持っているのか?それとそこの君!少しは魔力を抑えないか!」
しばらく冒険者達と見つめあっていると冒険者の列を掻き分けて甲冑を来た奴が出てきた。そいつは俺たちの方へ歩いてくるなり大声で質問を投げつけ、最後にボロスの方を向いて魔力を抑えるように忠告をした。
周りの冒険者達はその甲冑の男の行動を見ると目を見開いて驚愕を顕にし、金髪のマッチョからは「あいつ死んだぞ」とか子供みたいな体で大人3人くらい入りそうな鞄をもってる男の子から「命知らずな馬鹿がいたもんだ」とか杖を持った青髪の女の子から「なにあの魔力……」とかが聞こえるのは気のせいだと思いたい。
なんだこいつ……?いきなり出てきてこっちに来るなり偉そうなことを言うとか常識を知らないのか?初対面には礼節を弁えるのが普通だろ。……久しぶりに『鑑定』を使ってみるか。人間のステータスも見てみたいしな。
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種族:ヒューマン
名前:エイン・ベリルンド
年齢:32
レベル:22
HP:500/500
MP:300/300
SP:600/600
スキル『気配感知Lv4』『スタミナ回復速度Lv5』『魔力感知Lv3』『魔力操作Lv3』『身体強化魔法Lv4』『痛覚耐性Lv2』『剣術Lv4』
称号:『騎士』『変質者』
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……おい、騎士なのに変質者ってどういう事だよ。いや、それよりもステータスが低すぎないか?このダンジョンに挑んでいるやつらを見張ってるんだろ?この強さだと10階層も行けないんじゃないか?それともこれが人間の平均なのか?……それは後でたくさんの人間を鑑定して調べてみるか。というか、久しぶりに新しいスキルを見たな。もう手に入らないと思ってたけど思わぬ収穫だ。……槍とか弓バージョンもあったりさるのか?
『剣術』
剣技を習得し、剣で与える傷に補正がかかる。レベルが上がると剣技が上達する。
《スキル『複製』の能力により、スキル『剣術』を獲得しました》
「なんとか言ったらどうだ!もしも冒険者カードを持たずにダンジョンに入っていたのなら……少し話さなければならないな」
「ひっ」
今まで真面目そうな声で話していた甲冑の男は一度言葉を区切るとシルビアの方を向いて下卑た声を出した。
……こういうことね。称号に変質者があるわけだよな。
「……冒険者カードは持ってない。……魔物に襲われた時に落としてしまったんだ」
ここでしっかりと怒りを抑えて会話をした俺を褒めて欲しい。というか、シルビアの眼鏡には認識阻害の効果がありその美貌と体型は隠されているのに何でこいつはシルビアにむかってあんなキモイ声を出すんだよ。せめて、認識阻害をしても意味がない程肌を露出しているシェリーだったらまだ多少は納得できたんだけどな……。
「チッ……、そうか。それじゃあ、ステータスプレートを見せてくれ。誰か代表のものだけで構わん」
……今絶対舌打ちしたな。甲冑のせいで顔が見えないけど、俺のドラゴンの聴覚が完全に捉えたぞ。……下衆が。というか、ステータスプレートって何だよ。初めてラプラスと会った時にも聞いたけど名前通ステータスを表示する板なのか?そんなの持ってないしどうすれば良いんだよ。……一旦みんなと話し合うか。
俺は周りの動きが止まって見える程に意識を加速させて並列思考達とラプラスに念話を繋いで話しかけた。
『……どうすればいいと思う?』
『もう、全員ぶっ飛ばせばいいんじゃない?』
『俺も姉貴の意見に賛成』
『も、もっと穏便な解決方法にしよ?』
『やはりここは『創造』で偽造する方法が良いと思います。恐らく人間には識別出来ないでしょうし』
『フッ、我が深淵を解き放てば済む話だ』
俺が意見を求めるとルルとシルビア以外まともな意見が出てこなかった。確かにこの3人には期待していなかったが、予想通りに見当違いな意見が出てきた。
『私かシルビア君が叡智で調べればいい話じゃないか。昔は私が持ってたんだけど割れてしまって今は持ってないんだよね』
『……じゃあ、シルビア。調べてくれ。魔力は俺が補完する』
『う、うん。任せて』
シルビアが叡智を発動させた途端俺の魔力が穴の空いたバケツのように消費されていく。ちなみに叡智はGoo〇le先生のようなものだと考えてくれて構わない。……調べる内容によって対価がかなり要求されるけど。
『わ、分かったよニールちゃん。素材には鑑定石って言う硝子みたいな鉱石が使われてるんだって』
『……分かった。……どうやって創れば良い?隠せるものがないんだけど』
『フッ、我の出番だな』
何故かボロスが出しゃばってきた。そして、念話を通してサングラスをクイッしてターンしているボロスのイメージが送られてきた。
……こいつ、こんなに細かい芸当ができるならもっと言動に気を配れよ。本当にボロスはどこから生まれた意識なんだ?……もしかして俺か?俺なのか?完全な黒歴史だったあの頃の俺から来てるのかぁ?……いや、やめよう。思い出すだけで辛い。今のことだけに集中しよう。
『……なにがだよ』
『分かっているのだろう?我が深淵は何者も観測することを許さない。深淵は他者の意識を容易に操ることが出来るのだ!』
『……そういえばお前のコートの下で創れば誰から見ても死角だな。……ステータスプレートはお前が創ってくれ』
『フッ、神さえも退ける我が深淵の魔力を見せようではないか』
『……そうだね』
俺が普通にボロスにステータスプレートを創るよう頼むとボロスは自分がターンするイメージと一緒に関係のないことを含めた返事を返してきた。少しだけボロスの言ってる事が理解できるようになってきた俺はボロスが了承してくれたのだと理解し、念話と思考加速を解除した。
「……それならこちらの者が持ってます。出してくれ」
「フッ、了解だ。いでよ!我が深淵に封印されし森羅万象を見透かすアーティファクトよ!はあああぁぁぁっ」
ボロスは魔力に物理的影響力を持たせて自分の周囲に僅かな風を吹かせ、最低出力の【真紅の電雷】で周りに赤い雷を出現させてコートの下で創造したステータスプレートを取り出した。
「フッ、お望み物はこれだ。我が深淵に封印しておかねば全てを見透かされてしまうぞ?」
「……そうだね」
ボロスはステータスプレートを、人差し指と中指で挟んだままその場でターンしたあと、俺に差し出してきた。俺は一見何事もなく(仮面の下では目が死んでおり、端になにか光るものが溜まっている)受け取り、それに闇魔法で偽のステータスを表示させて全身甲冑の男に手渡した。
「か、変わったパーティーメンバーだな。外見もこの辺では見ないし、極東の島国出身なのか?」
俺がボロスから受け取ったステータスプレートを渡す際にそんな声が聞こえてきた。……目の前から。周りからも「すげぇ、無駄な魔法の使い方」や「深淵だってよ」とか声が聞こえる。
「……気にしなくていい。それで、もういいだろ?通してくれないか?」
「……いいだろう。次ここを通る時には冒険者カードを持ってこよ」
「……分かった」
ふぅ、やっと通れたな。ボロスが魔力を抑えなかったり、ボロスが無駄に魔法を発動させたりしたけどうまくいったな。……問題起こしてるのボロスばっかだな。
「……これからはダンジョンの中じゃなくて地上を行動していく訳だけど、少し力を抑えてくれ。特にボロス」
「フッ、深淵は力を抑えても意味はない。深淵を見た者は否応なくそれが深淵だと理解させてしまうのでな」
「……いいからやれ」
「フッ、よかろう。深淵に不可能はないのだ。存在そのものを完全隠蔽しーー」
「それで力を抑えてもらいたい理由なんだが、俺もさっき見て知ったんだけど人間のステータスが異常なほど低いんだよ。それも俺達がちょっと威圧したら死ぬくらいに……」
俺らボロスの言葉を遮ってみんなに魔力を抑えるように頼む理解を話し始めた。
「う、うん。私もさっき見たよ。ニールちゃんがこの世界に生まれた時よりはつ、強かったけど、それでもこのダンジョンの中ではか、かなり弱いと思う」
「……シルビアが言う通り人間のステータスが俺達の予想よりも低い可能性がある。だから、しばらく魔力は街の人間ぐらいまで抑えていて欲しい」
「……あたしはそういうの苦手だけど頑張ってみるよ」
「俺は姉貴の真似をするぞ」
「分かりました。善処してみます」
「フッ、深淵にーー」
「私は君の願いはなんでも聞くよ」
俺が改めてお願いすると少し考えた後にみんな承諾してくれた。ラプラスが怖いことを言ってるけどスルーしておいた。
「……ということでお前らもしばらく出すことができなくなった。まぁ、人化を持ってたり元々人型の悪魔たちは出せるんだけど……」
『俺は構わない。お前の影のなかは心地いいしな』
『てめぇの力は本当に狂ってんな。なんでこんな異空間を作れるんだよ』
『以前は主殿に勝てる気がしないだけだったが、今は存在ごと消されてしまいそうだな……』
『私たちは大丈夫よ。多分影の中の方が過ごしやすいし』
『我らは人間には興味がない』
『わ、私はあまり人と会いたくないし大好きかな』
『……ニールの言うことはなんでも聞く』
『流石マスターです。数年間会わないだけでここまで成長するとは……。私が死ぬまでマスターについていきます』
影の中にいる眷属達に話しかけるとみんな一応承諾してくれた。……そんなに影の中って居心地が良いのか?ちょっと入ってみたいんだけど……。
「わかっているだろうけど、もちろん君は君の影の中に入れないよ?もし中を知りたいならさっきのボロス君みたいにイメージをおくってもらえばいいじゃないか」
「……そうだな。今度やってもらう。よし、それじゃあ移動するか。ここは地上だから本当に問題は起こさないでくれよ?」
俺は並列思考と眷属達に向かって忠告し、地上での生活に対する不安と期待を含めた第一歩を踏み出した。




