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オーガの村

 現在俺たちはゴブリンの頃の面影が全くないオーガに村へ案内してもらっている。


「……なぁ、お前ってゴブリンだったんだよな?」


「そうです」


「あの貧弱そうな体で小さかったゴブリンだよな」


「はい、そうです。しかし先程も申し上げたように現在は貴方様のお力により村の者全員進化しております」


「……そうか」


 その後、しばらく無言で歩いていると前方にかなりの数の気配が感知された。


「既に気付いておられるようですが、前方にあるのが私共の村です。以前貴方様が訪れた村は人間の手により壊滅させられてしまいました」


 今まで黙っていたボロスはオーガが説明している途中なのにサングラスをクイッとした後にオーガに話しかけた。


「ふむ、かつて我が観測した他人を罵ることしか頭に無い愚者どもに襲われた時よりも人口が恒久的膨張を遂げているな」


「……その通りです。ニール様の進化の影響により我々も進化して寿命が延び、人口が急増しました。つまり、ニール様のお力により私共は生き延びたのです」


「……あれ、もしかしお前ってボロスの言ってる事が分かるのか?」


「……?はい、少々解読に時間がかかりますが分かります。しかし、流石賢神であるニール様から生まれた意識です。私にはボロス様の考えていることが全く読むこと出来ませんでした」


 ……いや、それは単にボロスが特殊なだけだろ。だって並列存在の中で一番頭が良いシルビアが分からないんだもん。しかも俺は賢神じゃないしな。

 でも、言ってる事が分かるのはかなりいいな。できれば地上に連れて行きたいんだが、こいつの見た目だと難しいだろうなぁ。連れて行ければこいつにボロスのことを押し付けられるんだけどなぁ。……もどかしい。


「見えてきました。あれが現在の私共の村です」


 オーガは前方を指さしてそう言った。指の先には村よりも町にあった方がしっくりくる程の大きな木造建築が並んでいた。以前は縄文時代の竪穴式住居みたいだったが、現在は二階建てで扉まであり、しかも道まで整備されている。


「……よくここまで発展したな」


 俺は建てられている家を見て独り言のように呟いた。


「何を仰っているのですか?ニール様が私共に知恵をさずけてくれたのでしょう?」


「……そんなことしてないぞ」


「しかし、そちらの方が以前ニール様の意思だと仰っていましたよ」


 オーガは俺の後ろの人物を示して言った。そう、俺とオーガの会話を聞いて微妙に目が泳いでいるシルビアの方を見て言った。


「……おい」


 俺が声をかけるとシルビアはビクリと体を揺らした。


「な、何?」


「……話せ」


「な、何を?」


「……分かってるだろ?」


「……そ、その。最初は実験だったんだよ?で、でもちょっとずつ楽しくなっちゃってニールちゃんに言えなくなっちゃって……」


 その後シルビアはぽつりぽつりと白状し始めた。曰く、最初は異世界の知識をこの世界の住人が理解出来るかの実験だったこと。曰く、次第にエスカレートして俺に話せなくなってしまったこと。曰く、実験自体は成功したが事態が大きくなりすぎたこと。


「……なにやってんだよ」


「ご、ごめん」


「……というか、建築技術はシルビアが教えたんだろ?なんで橋のことで驚いてるんだよ」


「だ、だって、あの崖にかけるとは思わなかったんだもん。た、確かに橋に関する知識も渡したけどさ……」


「はぁ……。とりあえずシルビアがやらかしたことは分かった」


「うぅ、恥ずかしい」


 シルビアの方を向いていた俺はオーガの方へ振り返った。


「……俺たちは現在地上を目指して移動している。一度ここに滞在するつもりだが、直ぐに出発するつもりだ」


「承知しました。それでは現在できる最高のもてなしをさせていただきます。どうぞそれまではみすぼらしいですがこの村で寛いでください」


「……助かる」


 オーガは村に着くともてなしの準備の為に一度俺たちと別れた。並列思考達もこの村のことを見学するために一旦解散することになった。


「あたしたちは適当に回ってみる。ま、時間が余ったらコアと修行してるよ」


「今度こそ姉貴に勝つ!」


 コアとシェリーはそう言ってオーガの村へと入って行った。


「我は己が欲望のおもむくままに所作す。呼び戻す際は『念話』で召び戻せ」


 ボロスは訳の分からないことを言ったあと背中の人化を解除し、翼を生やして飛んでった。


「【転移門】で繋いでくれれば合流できますから、私達は魔法の試し打ちをしてきます。……ほら、シルビアさん。そこでうずくまってないであちらに行きますよ」


 ルルはやらかしてしまった羞恥から縮こまっていたシルビアを引きずって村の外の森へ向かって行った。

 それを見送った俺は普通に忘れていたラプラスを回収するために一度村を出て【転移門】を発動させた。


「いつまで待っても誰も来ないから戻ってみたら、誰も居なかったからね。私は君に棄てられたのかと思いとても寂しかったよ」


「……すまん」


「まぁ、それはもう良いよ。それで、この気配の数はなんだい?また君が何かしたのかい?」


 ラプラスは仮面をしてて顔が見えないのに何故かジト目で見られているような気がするんだよな……。というか、こいつと出会ってからずっと居るけど一度も顔を見たことが無いな。俺も仮面をつけっぱだから人のことは言えないけど一回くらい外せよ。……ちなみに俺が今つけてる仮面は強化されており認識阻害の効果は顕在で仮面自体の素材がヒヒイロカネになっている。これはこの世界最硬の鉱物らしい。


「……俺は何もしてない。今回は珍しくシルビアがやらかした。何でも実験がエスカレートした結果らしい」


「君とボロス君以外がやらかすなんて珍しいね。まぁ、それでも君たちほど規格外でもないけど」


「……心外だ」


「別に君たちが迷惑だとは言ってないよ。ただ、私にとってはそう表現するしかないんだよね」


「……そうか。続きは村に戻りながら話してくれ」


 村に戻るまでの間ラプラスの事を本当に忘れてしまっていた気まずさからラプラスに強くものを言えなかった。村に戻った後は特にやることが無かったのでラプラスと村を回ることにした。


 ……やっぱりここ村じゃないだろ。規模もそうだけど村にしては文明レベルが高すぎる。建物はさっきも言ったが木造建築の二階建てだ。それだけなら特に問題はないんだけど、

 日本でもなかなか見ない大きさだから驚きだ。道まで整備出来てるということはこの村に余裕があるということだろ。

 次に服装、以前はほとんど腐っていた何かの皮だったが、現在は麻のようなもので編まれた服を着ている。染色までされていて色鮮やかだ。しかもオーガ達のセンスが良いのでめちゃくちゃ似合ってる。

 で、最後にオーガ達の外見。俺たちをここに案内してくれたオーガもそうだが、道行く人々全員美男美女だ。以前ゴブリンだった頃の面影が全く見当たらない。いや、あるにはあるんだよな……。肌が緑色なところはゴブリンと同じだけど、顔や体つきが似ても似つかないから分からない。本来変わりにくい気配までも変わっているため言われないと気づけないかもな。……鑑定すれば分かるかな?


「へぇ、この階層の魔物がこんな町を作れるんだね。いくらシルビア君の助言があっても知能が足りないと思うけど、ここまで出来たのはやっぱり君の影響があるじゃないか」


「……俺の影響?今回は何もしてないぞ」


「……本当に自覚がないのかい?ほら、眷属は君の影響を受けるだろ?それでオーガに進化した訳だけど、進化によって知能が上がったんだよ。だからシルビア君の言ってる事が理解出来たのさ」


「……じゃあ、俺はシルビアと共犯なのか?」


「そういうことになるね。……やっぱり君と一緒にいると面白いね」


「……面白くない」


 俺はラプラスの言い方に少しだけイラッとしてそっぽを向いた。そしてお返しにラプラスに影響はないけど意識に引っかかるくらいの強さで精神攻撃魔法を使った。


「き、君のことを貶したわけではないから拗ねないでくれないか?それとこの精神攻撃をやめてくれないかい?」


「……やだ」


「若干幼児退行してないかい?そんなに傷つくとは思って無かったんだよ。今後君には言わないから許してくれないか?」


「……オーガの準備が終わるまでそのまま」


「わ、分かったよ」


 オーガの準備が終わるまでの間ずっとラプラスに魔法をかけ続けて村を回った。丁度全体を見て周り並列思考を集め終わった時にオーガの準備が終わり村の中心にあった石造りの大きな屋敷に招かれた。

 屋敷に入ってすぐに大広間があり、そこには昔食べた鹿の魔物や見たことがない角の生えたウサギの頭、唐辛子のような辛みのある人参など異世界ならではの様々な料理が並べられていた。


「ニール様、現在この村でできる最高の準備をさせて頂きました。どうぞお楽しみください」


「……こんな準備をしてくれてたのか。お礼になるか分からないがこの村を出る時には認識阻害の効果がある結界を張って出発する」


「おぉ、ありがたき幸せ」


 もてなしてくれたお礼に村がまた発見されて襲われるのを防ぐために認識阻害の結界を張ることを伝えると初めに会ったオーガは大袈裟に喜び跪いた。


 ……ちょっと大袈裟過ぎないか?別に見つかりにくくなるだけで見つからなくなる訳では無いのにな。まぁ、できなくはないんだけどな。そらの維持が面倒くさいだけで。というか、凄いな。料理の知識まで渡すとかシルビアはどんだけ幅広く実験してるんだよ……。そのお陰で今食べられてるわけだけどやり過ぎな気がするんだよなぁ。……俺も人のこと言えないか。


 その後は料理を食べたりオーガ達と俺がいなくなった後のことで話し合ったりしてたのしんだ。途中ボロスが暴走して俺のSAN値が尽きそうになったり、シェリーが村の格闘家と試合をして圧勝したりしたけどそれ以外は何も問題は起きなかった。

 そんな風に騒がしい時間は圧倒いう間に過ぎ、オーガの村を出発し地上目指して移動することになった。村を離れる時に村中のオーガが集まり見送ってくれた。もちろん、認識阻害の結界を張ってから移動した。


「……それじゃあ、最初から色々あったけど地上を目指して行くぞ」


「う、うん。あまり問題を起こさないようにしようね……」


「なぁ、ニール。地上には喧嘩が強いやつがいるのか?」


「あたしも強いやつと闘ってみたいね」


「コアさんとシェリーさんは本当に戦うことばかり考えているんですな……」


「フッ。聖なる審判を実行し、一万年の夢の終わりにパルスを到達せしめるのか。愚民共に我がアビスを白日の下に捧ぐのが楽しみだ」


「私も地上は数回しか行ったことがないからね。君と行くのはもちろんだけど普通に楽しみだよ」


 並列思考とラプラスがそれぞれの意気込みを言いそれを聞いた俺は地上へと繋がる【転移門(ゲート)】を開いた。


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