人(魔物)は見かけによらない
そこにいたのは魔物と言っていいのか迷うほど可愛いジェル状の生物がいた。
「どうしたの?あ、スライムがいたのか。この階層にいるなんて珍しいというか、ありえないんだけど。ここ下層だよ?」
可愛い……。はっ!何で俺はこんな生物に見とれてんるだ。そんなことよりもなんかスカアハが大事なことを言ってるだろ。
「この可愛らしい魔物がここにいるのが珍しいんですか?」
また可愛いと言ったな……。これ今度は性別の方に引っ張られてないか?最近コピーしまくってステータスを変化させまくってたからな。女の感性に近づいているんじゃないか?
「ん?あぁ、それはそうだよ。スライムの生息域は中層でここは下層。降りてきたとしても中層に行くには30階層ぐらいは降りてこないと行けないからね。」
ん?スライムなのに中層なのか?ラノベやゲームだと序盤の雑魚キャラだけどこの世界では違うのか。
その事も確かめられるし一旦ステータスを確認してみるか。
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種族:グレーターポイズンスライム
名前:ヴェノム(寒河江孝臣)
年齢:1
レベル:18
HP:930/930
MP:860/860
SP:1100/1100
スキル:『鑑定LvMAX』『超速再生Lv8』『気配感知LvMAX』『危険察知Lv8』『スタミナ回復速度LvMAX』『魔力回復速度Lv7』『念話Lv3』『魔力感知LvMAX』『魔力操作LvMAX』『身体強化魔法Lv7』『闇魔法Lv9』『猛毒生成Lv3』『痛覚無効LvMAX』『予測Lv7』『身体変形LvMAX』
称号:『粘性体』『邪神の眷属』『調合者』
体質:物理攻撃無効
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なんだこのステータス。まず名前が2つあるのがおかしい。スキルの量も今まで見た魔物のどれよりも多い。
邪神の眷属という称号もありえない。だって邪神て俺らが召喚される原因を作ったやつだろ?その眷属がここにいるのはおかしいと思う。
『ついに会っちゃったか。その子は邪神に召喚された君たちとは違う世界の日本人なんだ。』
その声が聞こえた瞬間周りの動きが止まった。
『……世界神か。というか日本人?じゃあ、何でこいつは魔物なんだよ。俺みたいに召喚を妨害された訳でもないんだろ?』
『それはね、邪神が魔人や魔物にしか干渉することが出来ないからだよ。しかも、神の力の行使も未熟だから魔人か魔物に転生させるのかも運次第なんだ。』
え、そんな奴に世界神は隙をつかれてこいつらを召喚させられたのかよ。そんな理由で俺たちは召喚されたのかよ。
『いや、あの邪神は騙すのが得意なんだよ。今までは許してたから調子にのって今回こんなことをしたんだと思う。で、僕を騙して世界に干渉したから邪神認定されたの。』
『……お前、俺が魔力を漏らさなくても心を読んでるだろ。それで、何で今俺に話しかけて来たんだ。』
今話しかけてきたからにはこいつに関する何かしらの理由が無くちゃおかしい。
『その事なんだけど、その子別に殺さなくても良いよ。闇魔法を使って君の眷属にするか、神聖魔法で邪神との繋がりを封印か断ってくれればなんでも良いよ。』
『そんなことの為に話かけてきたのかよ。別に言われなくても殺すし伝えなくても良かったぞ。』
『え?いやいや、君その子のこと殺せないでしょ。以前の君なら殺してたと思うけど多分今だと意思に関係なく殺せないよ?だってかなり、性格が変化してるし。』
は?意思に関係なく殺せない?性格がかなり変化してるのは知ってるがそんなことありえないだろ。せめて、殺したらとても心が痛むとかなら分かるけど。
『いや〜、君の体と精神がズレてるせいで若干本能みたいになってるんだよね。無意識に変な言動をしているのもそれが関係してるんだ。』
つまりどういうことだ?俺は以前のように考えられるが体はその通りに動かない?それとも、考えすらも体に引っ張られてしまうのか?
『……難しいな。簡単に言ってくれ。』
『つまり、今の君は体が勝手に動く、情緒不安定な奴ということだよ。』
ひでぇ。そうなったのも世界神が悪いところがあるのに、何も悪びれずに言いやがった。
『そうなったのもお前のせいだろ。それで、対策とかはできるのか?』
『……思ったよりも話が長くなっちゃったけど、言いたかったのはその子と邪神との繋がりを殺すでも、眷属にするでもなんでも良いから断ってくれればいいよ。それだけが言いたかっんだ。バイバイ』
『おい、俺の質問に答えr』
俺が質問すると世界神は逃げるように早口で喋り始め、強制的に俺との繋がりを断ち、周囲の動きも普通になった。
あいつ、答えることが出来ないから逃げただろ。とりあえず世界神の言っていた事が本当なのか確かめてみるか。
……いきなり殺すのもあれだし、念話で会話出来ないか試してから殺すか。
『おい、お前喋ることができるか?』
俺はスライムに向けて念話を発動させ、話しかけた。
『な、なんなんだよお前。レベルが低いのにステータスもスキルの量も質も俺より上じゃねえか。名前も日本人っぽいし、何者なんだよ。』
お、意外と流暢に話すな。念話のレベルも低かったし、体的に喋れなそうだからもっと聞き取りにくいと思ってたのにな。
まぁ、会話出来そうだし闇魔法の精神誘導を混ぜながら話していくか。
『鑑定で見たらしいな。お前の想像通り俺も元日本人で、現在世界神から召喚された勇者だ。つまり、お前の敵ということだな。』
俺は気づかれないように闇魔法を発動させながら、質問に答えると同時に世界神から召喚されたと言い、威圧をした。
『お、俺を殺すのかよ。良いよ、やれるものならやってみろ。』
念話で話している内容は可愛くないけど、見た目はプルプルしててビビってるのが丸出しで可愛いなぁ。ペットにしたいくらい。
……何を考えてるんだ俺は。本当に情緒不安定になってきてる気がするな。
「ねぇねぇ、2人で見つめ合って何してるの?殺さないの?」
スカアハが横から顔を除いてきて、何をしているのかを問いかけてきた。第三者から見ると確かに見つめ合ってるだけなので不思議に思うのは当然だ。
「あぁ、このスライム一応知能があるらしいので念話で会話しているのですよ。許可してくれれば繋げることも出来ますよ。」
「おぉ、面白そうなことしてたんだね。急に黙って大丈夫かなこの子とか思ってごめんね。それじゃあ、頼むよ。」
そんなこと思ってたのか。いやまぁ、何も言わずに黙ってたのは俺だけども。
「分かりました。それじゃあ、繋げますので抵抗しないでくださいね。」
スカアハから許可を貰った俺は念話を発動させ、スライムとスカアハを繋げた。
『へぇー、こんな感じなんだ。何か普通に喋るのと大して変わらないんだ。むしろ、こっちの方が簡単に会話出来そうだね。』
『はい。それではまだこのスライムと話すことがあるので、待っていてください。』
『ひいっ。なんだよこいつのステータス。何でお前はこんなやつと一緒に居るんだよぉ。』
ん?もしかして、スカアハのことを鑑定したのか。そう言えば俺もスカアハのステータスは見てなかったな。1回鑑定しておくか。
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種族:女神
名前:スカアハ
年齢:274
レベル:52
HP:4200/4200
MP:3800/3800
SP:3900/3900
スキル:『スタミナ回復速度LvMAX』『魔法感知LvMAX』『魔力操作LvMAX』『神聖魔法LvMAX』『身体強化魔法LvMAX』『痛覚耐性LvMAX』『未来予測LvMAX』
称号:『神霊』『預言者』『影の国の女王』『育成者』
体質:操影
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おぉ。ステータスやスキルはアマルテイアと似ているな。若干ステータスが高いがそれくらいだ。
知らないスキルや称号があるし、鑑定してからコピー出来るやつはしていくか。……スライムのやつも世界神が話しかけてコピーしてないしついでにするか。
『超速再生』
魔力を消費して傷を高速で再生することができる。部位欠損も修復可能。レベルによって速度が異なる。
『猛毒生成』
猛毒を生成することが可能となる。レベルによって毒の致死性が異なる。
『痛覚無効』
痛覚を遮断することができる。痛覚の調整も可能。
『粘性体』
液体の体を持つ者。衝撃を緩和し、物理攻撃を無効化するが火属性攻撃への耐性が激減する。
『邪神の眷属』
邪神に異世界から召喚された者。経験値と熟練度の取得量が1.5倍になる。
『調合者』
薬や毒の作成時に補正がかかる。作った薬や毒の性能が向上する。
スライムのスキルや称号は俺の持ってるものの上位互換と劣化版が多いな。とりあえずコピーしておくか。
《スキル『複製』の能力により、スキル『超速再生』『猛毒生成』『痛覚無効』、称号『調合者』、体質『物理攻撃無効』を獲得しました。》
《スキル『自己再生』『毒生成』『痛覚耐性』がスキル『超速再生』『猛毒生成』『痛覚無効』に統合されました。》
《条件を満たしました。スキル『物理攻撃無効』を獲得しました。》
ふぅ。一気にステータスが変わったな。レベルも全て1になったし、また上げていかないとな。
スカアハのスキルや称号も鑑定してコピーするか。
『神霊』
元の種族の限界を超えた者。成長限界が無くなる。
『預言者』
未来を予言する者。予言時に補正がかかる。自分のことは予言できない。
『影の国の女王』
影の国の女王。影を操り、支配する夜の支配者。
へぇ、名前通りの説明と能力だな。というか、女王なのか。夜の支配者とあるけど、このダンジョンの中でもその効果は発揮されるのか?
……まぁ、コピー出来ないし確かめる機会があれば確認しておくか。
《スキル『複製』の能力により、称号『預言者』、体質『操影』を獲得しました。》
《条件を満たしました。スキル『操影』、称号『影の国の民』を獲得しました。》
うん。コピーできたな。体質をコピーしてスキルと称号のどっちも手に入ったのは予想外だったが、成功して良かった。
スライムの質問に答えていないし、早く答えないとな。
『遅くなったけど、俺はこの人に槍の使い方を教えて貰うんだよ。まぁ、俺とこの人との関係は師弟ということだ。』
『そ、そうか。そんなお方に師事してもらえるなんてお前羨ましいな。』
おぉ。簡単に信じたな。やっぱり闇魔法ってしっかりとデメリットに対策しておけば凄いよな。とりあえず本題に入っていくか。
『それでスカアハさん。今からこいつと大事な話をするので念話を切りますね。』
『分かったよ。それで、名前じゃなくて先生と呼んでね。皆そうやって呼んでるから。』
確かにスカアハは師匠とか、硬苦しい感じじゃないよな。もっと身近な存在の緩い呼び名の方が合いそうだしな。
『分かりました。それでは先生、念話を解除しますね。』
俺は宣言通りにスカアハとの念話を切断した。
邪神との話をスカアハに聞かせる訳にはいかないからな。聞かせてもいいのかもしれないけど、不安だしな。
『それじゃあ、本題に入っていく。お前邪神側じゃなくて、俺たち世界神側にこないか?』
なんか魔王が勇者に持ちかける勧誘みたいになってしまったな。……まぁ、そんなことはいいか。
『どこぞの竜の王様みたいなことを言うな……。それで、嫌と言ったらどうするんだ?』
『ん?もちろん殺すぞ。わざわざ敵になるやつを生かしておく必要はないからな。それに、お前にとってもいい提案だと思うぞ。邪神を倒せば元の世界に帰れるし。』
もちろん嘘は言っていない。ここで嘘をついても勧誘の障害になるからな。……人間の体になるかは分からないけど。
『おっ、おいそれ本当かよ。そっち側になって邪神を倒せば帰れるんだな!?嘘はついてないんだな!?』
急に元気になったな。でもやっぱり言ってる事は真剣なのに、体がぽよん、ぽよんはねてて可愛いせいで全然真剣な内容に聞こえないな。
『もちろん嘘はついていない。だけどこっち側に来る為に、お前のステータスの一部が封印されるか、俺の眷属になってしまうけどいいのか?』
『べ、別に良いぞ。それで、本当に帰れるのなら。それに、お前みたいな美少女の下僕になるのも何かこ、興奮するしな。』
うわぁ。この可愛い見た目でそんなこと言うなよ。全部台無しに鳴ったぞ。こいつ、ケルベロスに食わせて新しいスライムでも探そっかな。
『そ、そんな蔑むような目で見るなよ。謝るから。ごめんよ、だって生前オタクだったから異世界美少女とかに憧れてたんだよ。』
……俺も元オタクで確かにその気持ちは分かるが、自分に向けられると鳥肌がたつな。
『……とりあえず、眷属になるかステータスを封印されるか選べ。どちらも嫌ならどんな手段を使ってでも殺す。それと、眷属になるのなら今後今回のようなことは喋るな。』
可愛い見た目なのに、あんなことを言われたら余計台無しだ。ぷにぷにで冷たそうだし、喋らなければパーフェクトだしな。
『け、眷属になるよ。その、さっき言ったことは本当に謝るからそんなに怒らないでくれよぉ。』
『分かった。今からお前に魔法を使う。不快感を感じるかもしれないがそれも一瞬だ。抵抗するなよ。……それと俺はお前の気持ち悪い発言なんかには全然、これっぽっちも怒っていない。』
なんだ今のツンデレのような反応は。これは本当にやばいのでは?いつか本当に女の感性になってしまうかもしれないな。……何がなんでも世界神に対処方を聞かないと。
俺はスライムに闇魔法の『テイム』を発動させて、眷属化させた。結局スライム(……これからはヴェノムって呼んでいくか。)は抵抗し、少し時間がかかった。
「よし、終わりましたよ先生。なんだかんだあって魔物は殺せていないので探して、殺してきますね。それと、構ってもらえなくて壁際で縮こまるのはやめてください。」
「……分かったよ。それじゃあ、すぐに戻って来てね。」
スカアハにそう言った俺は、動きの遅いヴェノムを抱えて魔物を探し始めた。




