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卒業式

 ついに『審判の日』がやって来た。


 「おはよう、アヤカちゃん」

 「おはよう……エミちゃん……」


 いつもより少し寂しそうなエミに起こされ、アヤカはいつも通り制服に着替える。

 もう戻ってくることのない自分の部屋を簡単に片づける。


 「今までありがとう……行ってきます」


 アヤカは自室を後にした。

 食堂で朝食を食べる。最後の朝食には、購買部で売っているような豪華なメニューもあった。

 アヤカはうな丼を、エミは海鮮丼とパフェを選んだ。


 「ああ……最期にパフェが食べられて、幸せ……」

 「私も、うな丼を最期に食べられて幸せ……」


 最期の朝食を味わい、アヤカとエミは教室に向かう。


 「オリコちゃん達、来てるね」

 「本当だ。昨日まで来なかったのに……」


 『特別補習』を受けて昨日まで授業に参加していなかったオリコたち8人の『不良』達も席に着いていた。しかし、様子がおかしい。まるで魂が抜けたような表情をしている。


 「アヤカさん、オリコさん達には話しかけないで」

 

 オリコに話しかけようとしたアヤカだったが、学級委員長のイオナに止められた。

 

 「イオナちゃん……なんで?」

 「話しかけると、暗示が解けてしまうかもしれないから」

 

 ――暗示……?


 「暗示って……なにがあったの? 特別補習で何をしたの?」

 「あなたたちは知らない方が良いわ……世界を救うためにはしょうがないの」


 アヤカの質問には明確に答えず、イオナはどこか悲しそうに言った。

 アヤカは無表情で前を見つめるオリコを見る。


 ――私たちは、何をさせられようとしているの……?


 アヤカは改めて考える。

 私たちは『救世の巫女』である。

 救世の巫女は、世界を滅ぼそうとする『邪神』を『儀式』によって滅する。

 そして世界を救う。

 その際に、私たちは全ての霊力を消費し、命まで燃やし尽くして消滅する……


 ――もしそれを拒んだら……?


 オリコちゃん達は、普段から「消えたくない」と言っていた。

 そして、何度も導きの腕輪による制裁を受けていた。


 ――もしかして、この暗示は……!


 いや、ダメだ……

 アヤカは考えるのを止めた。

 地獄のような生活が終わるのだ。

 今は、『卒業』を受け入れないと……

 エミちゃんと一緒に、笑って卒業するんだ……

 アヤカは自分にそう言い聞かせた。


 そうして、アヤカはオリコとイオナから目を背けた。




 「――これから、『救世の巫女』の認定式が行われる。巫女装束を支給するので、それに着替えて体育館に移動する」


 いつものスーツとは違う、巫女装束に着替えた担任が朝の会でそう告げる。

 巫女認定式――かねてより『卒業式』と呼ばれていた、最後の行事が行われようとしていた。アヤカはエミに手伝ってもらいながら、制服から巫女装束に着替え、10年近くに及ぶ長い時間を共にしたクラスメイト達と体育館に向かった。


 「ただ今より、巫女認定式を執り行います」


 担任同様、巫女装束に着替えた教頭先生の言葉で、『卒業式』が始まった。厳かな雰囲気の中、普段から巫女装束の校長先生から1人ずつ認定証を受け取っていく。


 「5組、アヤカ」

 「はい」


 自分の名前を呼ばれ、アヤカも壇上に上がり、認定証を受け取る。そしてパイプ椅子に戻る。

 その後、10組の最後の人まで名前が読み上げられる。

 こうして、学園の『生徒』たちは『救世の巫女』となった。



 

 「救世の巫女の皆様、こちらになります」


 卒業式が終わった途端、先生たちの態度が急にうやうやしくなった。まるで偉い人を案内するかのように、『祭壇』へ向かう大型バスにアヤカ達救世の巫女を誘導する。


 「アヤカちゃん、これがVIP待遇ってやつかな?」

 「多分違うと思うよ? でも先生たちに敬語使われるのはなんか変な感じ……」


 私語をしても、もう誰も注意しない。制裁もない。

 アヤカもエミと話しながらバスに乗り込む。

 5台の大型バスに分乗した200人の救世の巫女は、学園の中を通り抜け、無数の石柱が並ぶ祭壇へと向かった。

 バスは石柱の間を通り抜け、中央の大きな広場にたどり着く。アヤカ達はそこで下ろされた。

 バスの乗降口には先生が立ち、無言で「戻らないように」と言っている。

 アヤカ達も不思議と、戻る気にはならなかった。


 「私は引き寄せ班だから……最期までアヤカちゃんと一緒だね」

 「私は浄化班だから……もしかしたらエミちゃんを置いていくことになるかもだけど……」

 「大丈夫! 先に天国で待っているね!」


 最期の会話を終えて、アヤカとエミも自分の配置につく。

 何をすればいいのか、頭の中にこれからの行動予定が流れ込んでくる。

 テレパシーで情報共有をおこなう指導班が動き出したのだろうか。


 ――ああ、これで終わりか……


 地獄のような、それでいてちょっとの楽しみがあった日々は終わりをつげ、やっと全てから解放される。

 祭壇がゆっくりと動き出した。

 天井が割れ、地下にある祭壇は地上に上がる。


 ――まぶしい……


 天井の割れ目から、太陽の光が差し込んでくる。アヤカにとっては10年ぶりの太陽、そして青空だ。エミにとっては初めての太陽になるのだろうか。

 巨大な祭壇は完全にその姿を地上に現した。

 祭壇の上がった周囲は森になっていた。邪神をこの場に引き寄せ、都市への被害を減らすためだ。 


 ――消える前に、太陽と青空が見れて良かったかな?


 アヤカがそう思った次の瞬間、予想されていた異変が起こる。

 青空に亀裂が走り、その隙間から『亜空間』が覗く。

 亀裂の中から、邪神の眷属である無数の『影虫』が姿を現す。

 

 『影虫』は出現が予想された邪神の眷属の1つだ。その名の通り巨大な虫のような姿を持ち、無数の大群で襲い掛かり、街や人を襲う。


 ――頼むよ、イオナちゃんたち……


 まずは、壁班であるイオナたちが、祭壇に結界を張る。そしてエミたち引き寄せ班が12体の邪神本体を引き寄せ、アヤカたち浄化班が邪神を消滅させる。そういう手はずになっていた。

 影虫の出現を確認し、イオナたち壁班が結界を張ろうとする。

 その時だった。


 『こちら魔神艦隊センジンフリート、キャプテン・センジン! 救世の巫女の諸君、儀式は中止だ!』


 何者かが、指導班のテレパシーの中に介入してきた。

 男の人の声だ。久しぶりに聞いた。

 想定外の事態に、救世の巫女たちの間に混乱が生じる。


 「あ、あれ見て!」

 

 誰かが空を見上げて叫んだ。アヤカも釣られてその方向を見上げる。


 「なに……あれ……?」


 空間の亀裂がもう一つ。邪神のものではない。

 なぜならその亀裂の中から出てきたのは……見たことのない11隻の空飛ぶ紺色の戦艦だったからだ。

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