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最後の一週間

 審判の日――『卒業』まであと一週間。


 「アヤカちゃん、パフェ食べに行こ!」

 「うん」


 放課後。

 いつもより快活なエミに手を引かれ、アヤカは購買部に向かう。

 購買部はとても大きく、ショッピングモール並みの大きさがある。食堂では扱っていない嗜好品はここで買える。地下にある学園で、200人の生徒と300人の先生が生活していけるだけの物資はほぼすべてここで調達できる。


 「これ、食べたかったんだよねえ。いただきます!」


 エミはベンチに座って、楽しそうに大きなパフェをほおばる。

 アヤカも隣に座って自分のパフェを食べる。

  

 ――おいしい


 意外においしくて、ついつい早食いしてしまう。

 こんなにおいしいのは、うな丼を食べた時以来だ。

 隣のエミは本当に楽しそうだ。


 「はあ……こんな日がずっと続けばいいのに……」

 

 エミはため息を漏らした。


 「エミちゃんは、卒業が怖いの?」

 「怖いよ……アヤカちゃんは?」

 「私は考えないようにしている」

 「……そうだね、それが一番いいかもしれない。でも……」


 アヤカの問いかけに、エミは悲しそうな顔で答える。

 

 「最後だからさ、思いっきり楽しみたいじゃない!」

 「そうだね……そうだね!」


 アヤカは無理やり明るい表情を浮かべた。

 卒業すれば、消える。ならば、今を楽しんだ方が良い。


 「エミちゃん、これからどうする?」

 「よーし! それじゃあ今日は図書室に映画見に行こう!」


 ――こんな日が、ずっと続けばいいのに……


 アヤカはエミと同じことを思った。


 「アヤカちゃんは卒業前にやりたいこと、ないの?」

 「ないかなあ……だから私は、審判の日までエミちゃんに付き合うよ」

 「ありがとう! アヤカちゃんも楽しめるように、私がんばってプロデュースするね!」


 エミちゃんと過ごせる放課後は、楽しい。

 でも、ここでの生活は息苦しい。

 規則を破れば、学級委員長や先生によって激痛を伴う制裁を受ける。

 欲しいものもなかなか手に入らない。

 そんな生活、早く終わってしまえばいい。


 だからアヤカは、早く卒業したかった。




 ――いつもより、人が少ない?


 次の日、アヤカとエミが登校すると、クラスの3分の1の席――8人分の席が空いていた。もうすぐ朝の会が始まるというのに、おかしい。


 「オリコちゃん、ユキちゃん、アイカちゃん……いつもの騒がしいメンバーがいない……」

 「風邪かな? アヤカちゃんも気を付けないと」

 「それにしては多すぎない?」


 話をしていると、担任が入ってきた。アヤカとエミは急いで席に着く。

 

 「……審判の日が間近に迫っているが、特別補習が始まった。お前たちの実技の成績は十分だが、それでも意欲の無いものたちは、生徒指導室に送られる」

 

 担任が説明を始めた。普段から意欲のない者、つまり審判の日に行われる儀式に対して消極的な者を対象に特別補習を行うらしい。

 言われてみると、今日休みの子たちは普段からあまり授業に真面目に取り組まない『不良』ばかりだ。

 学級委員長のイオナが前に出て来る。


 「それでは、今日の段階で特別補習の対象になった生徒を言います」


 イオナがここにいないオリコたちの……普段から儀式に対して消極的な者たちの名前を読み上げる。


 ――漏れて良かった……


 それがアヤカの正直な気持ちだった。アヤカも11歳のころに生徒指導室に送られたことがあるが、あそこは地獄だった。もう思い出したくもない。アヤカは生徒指導室に送られてから、先生たちに反抗する気力が失せた。

 オリコなんかは生徒指導室の常連と言われているが、なんであそこまで先生たちに反抗できるのだろう?


 「審判の日はもうすぐだ。最後に向けて授業も厳しくしていく。十分覚悟しておけ」


 朝の会が終わり、また普段通りの……普段より厳しい授業が始まった。




 「……つかれた」

 「もう……先生厳しすぎ……」


 購買部のベンチでパフェをほおばりながら、アヤカとエミは呟く。

 放課後に遊びまくった怒涛の一週間が間もなく終わり、審判の日が明後日にせまる。今日が最後の授業だった。明日は1日休みで、明後日はいよいよ審判の日――『卒業』の日だ。

 

 「いよいよ、終わるんだね……」

 「そう。邪神から世界を守って、私たちは消える……なんか信じられない。まるで漫画のヒロインみたい」


 エミが笑いながら言う。

 エミの言う通り、まるで現実味がない。

 本当に終わるのだろうか?

 この地獄のような環境から、解放されるのだろうか?

 そして……消えることができるのだろうか?


 「アヤカちゃん、明日に備えて今日は早めに帰ろう。明日は朝から遊びまくるよ!」

 「そうだね……エミちゃん!」


 考えてもしょうがない。

 とりあえず地獄のような授業はもう終わったのだ。

 あとは明日の休日を楽しんで、『卒業』を迎えるだけだ。


 ――もうちょっと、エミちゃんと遊んでいたかったな……

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